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正義と武と吸血鬼
第十二章第30話 託された希望
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「フィーネちゃん。あの子のことを気に病む必要はないわ」
「え?」
あのハゲが元からだったことに幾ばくかの憐れみを覚えていると、何を勘違いしたのか精霊神様はそう慰めてきた。どうも精霊神様は七割抜けてしまったことを本気でかわいそうだと思っているように見えるのだが……。
「あの子も代理とはいえ人の神でもあるの。この試練だってきっともう乗り越えているはずよ」
「はぁ」
ええと、なんだか前にものすごく怒っていたような気もするが……。
私が返答に窮していると、精霊神様は話題を変えてきた。
「それとね。フィーネちゃん、あなたは自由なのよ」
「ええと?」
「フィーネちゃんは、あの子が異界の魂をコピーして作り出した存在だけれど、吸血鬼の真祖とは元来そのようなものなの。あの子の決めた使命に縛られる必要もないわ。何をするのもフィーネちゃん次第よ」
「はぁ」
なんだかよくわからないが、自分がどのような存在だろうと私は私だ。今となってはそのコピー元となった人間の顔すら思い出せないのだ。気にするような話でもあるまい。
「私はこの世界に愛着があります。クリスさんやルーちゃん、シズクさん、それにシャルや親方、あと多くのお世話になった人たちが瘴気に怯えず、笑って暮らして欲しいと思っています」
「そう」
精霊神様はそう言って目を細めた。
「フィーネちゃんならそう言うだろうと思っていたわ」
「え?」
「私はフィーネちゃんをずっと見守っていたもの」
「はい」
すると精霊神様は真剣な表情で私を見てきた。
「残念ですが、この世界を救うには、今のフィーネちゃんでは力不足です」
「っ! ……では、どうすればいいんですか?」
「フィーネちゃんにはリーチェというとても心強い家族がいますね」
「え? はい」
私の力不足という話とどう関係があるんだろうか?
「いいですか? 人の神ですら、瘴気の問題を解決することができませんでした」
「はい」
「ですが花の精霊の種による浄化は一つの解決策を与えてくれていると言えます」
「ええと?」
「深淵の秘術と花の精霊による浄化。この二つを組み合わせることができれば、もしかすると解決することができるかもしれません」
「それは……そうですけど精霊界の光では足りないんですよね?」
「はい。そのとおりです。ですからそれには勇者と魔王の協力も必要となるでしょう。そのためには、フィーネちゃんはもっともっと力を付ける必要があります。更なる存在進化をし、より高みへと登るのです」
「……ですが、どうやって?」
「フィーネちゃんの存在進化にはリーチェちゃんの成長が欠かせません」
「でも【魔力操作】を最大まで上げてもまだ中級精霊にはなれていないんです」
すると精霊神様はクスリと笑い、穏やかな表情に戻った。
「もう少しよ。このままリーチェちゃんとの絆を深め、多くの力を引き出してあげなさい」
「はぁ」
まあ、精霊神様がそう言うのだからそうなのだろう。
精霊神様は再び真剣な面持ちとなった。
「そうして力をつけ、過去の瘴気を消し去るだけの力を付けてください。そして瘴気に苦しみ続けている水龍王、地龍王、嵐龍王、そして大魔王となってしまった人の神を解放してあげてください」
「でも、精霊界にある光でも足りないんですよね? 一体どうやって?」
私だってできることならそうしたい。だが、精霊神様がその口で足りないと言っていたではないか。
「そのとおりです。人間が正に偏り、自ら光り輝くことが必要です」
「でもどうやって?」
私の問いに精霊神様は無言のまま、小さく首を横に振った。
「私たち神は、直接力を行使することはできません。人々にヒントを与え、導くだけです」
「それはつまり、私たちが自身で考える必要があるってことですか?」
すると精霊神様はしっかりと頷いた。
「神に言われるがままに動いて問題が解決したとしても、人間が自らの意志で変わることが出来なければいずれまた同じことが繰り返されるでしょう」
「それは……そうですね」
納得した私に満足したのか、精霊神様は話題を変えてきた。
「あとは、そうですね。フィーネちゃん、あなたにホーリードラゴンの卵を託しましょう」
「え? ホーリードラゴン?」
「ええ。聖なる力を持つ竜です。かつて瘴気によって滅んだ聖龍王が存在進化する前の竜種です。今のフィーネちゃんであればあの子を孵化させることもできるでしょうし、正しく育ててあげることもできるでしょう。きっと力になってくれますよ」
「わかりました」
精霊神様の頼みだ。それにドラゴンを育てるのもなんだか面白いかもしれない。
あれ? 食事は何を与えればいいんだ?
「ホーリードラゴンは聖属性の魔力と肉、それからフルーツなども食べるわ。それと卵から孵すには聖属性の魔力をたっぷり注ぎ込んであげて」
「わかりました」
私がそう答えると、精霊神様はニッコリと微笑んだ。
「それじゃあフィーネちゃん、がんばりなさい」
「はい! ありがとうございます」
すると私の視界が唐突にホワイトアウトした。だがその瞬間、どこか辛そうな表情を浮かべた精霊神様の姿が目に映ったのは気のせいだろうか?
そして気付けば私は小さな部屋に立っていた。足元には私の頭ほどの大きさの白い卵が藁の上に置かれている。
きっとこれがホーリードラゴンの卵なのだろう。
そう考えた私は両手で卵を持ち上げた。
ひんやりしているはずなのに、なんだか卵の内部に熱がある気がする。きっとこの熱が命なのだろう。多分。
さて、それよりこの卵をどうしようか?
卵と言えば親鳥が抱いて温めるというイメージだが、うーん?
私は少し考えた末に、卵をお腹に入れてローブの腰ひもで落ちないように止めることにした。
うん。これなら卵が冷えることもないし、間違えてぶつけてしまうこともそうそうないだろう。
まるで妊婦さんにでもなったみたいにお腹がぽっこりと膨らんでいるが、まあ卵を抱いているのだからあながち間違いでもないだろう。
あれ? でももしこの卵が二つあれば私の胸も……。
おかしなことを考えて虚しい気分になった私は頭を小さく振ると、部屋を出て歩きだすのだった。
◆◇◆
精霊神は先ほどまでフィーネが座っていた席を辛そうな表情でじっと見つめていた。そして精霊神は小さな声で何かを呟くのだった。
「え?」
あのハゲが元からだったことに幾ばくかの憐れみを覚えていると、何を勘違いしたのか精霊神様はそう慰めてきた。どうも精霊神様は七割抜けてしまったことを本気でかわいそうだと思っているように見えるのだが……。
「あの子も代理とはいえ人の神でもあるの。この試練だってきっともう乗り越えているはずよ」
「はぁ」
ええと、なんだか前にものすごく怒っていたような気もするが……。
私が返答に窮していると、精霊神様は話題を変えてきた。
「それとね。フィーネちゃん、あなたは自由なのよ」
「ええと?」
「フィーネちゃんは、あの子が異界の魂をコピーして作り出した存在だけれど、吸血鬼の真祖とは元来そのようなものなの。あの子の決めた使命に縛られる必要もないわ。何をするのもフィーネちゃん次第よ」
「はぁ」
なんだかよくわからないが、自分がどのような存在だろうと私は私だ。今となってはそのコピー元となった人間の顔すら思い出せないのだ。気にするような話でもあるまい。
「私はこの世界に愛着があります。クリスさんやルーちゃん、シズクさん、それにシャルや親方、あと多くのお世話になった人たちが瘴気に怯えず、笑って暮らして欲しいと思っています」
「そう」
精霊神様はそう言って目を細めた。
「フィーネちゃんならそう言うだろうと思っていたわ」
「え?」
「私はフィーネちゃんをずっと見守っていたもの」
「はい」
すると精霊神様は真剣な表情で私を見てきた。
「残念ですが、この世界を救うには、今のフィーネちゃんでは力不足です」
「っ! ……では、どうすればいいんですか?」
「フィーネちゃんにはリーチェというとても心強い家族がいますね」
「え? はい」
私の力不足という話とどう関係があるんだろうか?
「いいですか? 人の神ですら、瘴気の問題を解決することができませんでした」
「はい」
「ですが花の精霊の種による浄化は一つの解決策を与えてくれていると言えます」
「ええと?」
「深淵の秘術と花の精霊による浄化。この二つを組み合わせることができれば、もしかすると解決することができるかもしれません」
「それは……そうですけど精霊界の光では足りないんですよね?」
「はい。そのとおりです。ですからそれには勇者と魔王の協力も必要となるでしょう。そのためには、フィーネちゃんはもっともっと力を付ける必要があります。更なる存在進化をし、より高みへと登るのです」
「……ですが、どうやって?」
「フィーネちゃんの存在進化にはリーチェちゃんの成長が欠かせません」
「でも【魔力操作】を最大まで上げてもまだ中級精霊にはなれていないんです」
すると精霊神様はクスリと笑い、穏やかな表情に戻った。
「もう少しよ。このままリーチェちゃんとの絆を深め、多くの力を引き出してあげなさい」
「はぁ」
まあ、精霊神様がそう言うのだからそうなのだろう。
精霊神様は再び真剣な面持ちとなった。
「そうして力をつけ、過去の瘴気を消し去るだけの力を付けてください。そして瘴気に苦しみ続けている水龍王、地龍王、嵐龍王、そして大魔王となってしまった人の神を解放してあげてください」
「でも、精霊界にある光でも足りないんですよね? 一体どうやって?」
私だってできることならそうしたい。だが、精霊神様がその口で足りないと言っていたではないか。
「そのとおりです。人間が正に偏り、自ら光り輝くことが必要です」
「でもどうやって?」
私の問いに精霊神様は無言のまま、小さく首を横に振った。
「私たち神は、直接力を行使することはできません。人々にヒントを与え、導くだけです」
「それはつまり、私たちが自身で考える必要があるってことですか?」
すると精霊神様はしっかりと頷いた。
「神に言われるがままに動いて問題が解決したとしても、人間が自らの意志で変わることが出来なければいずれまた同じことが繰り返されるでしょう」
「それは……そうですね」
納得した私に満足したのか、精霊神様は話題を変えてきた。
「あとは、そうですね。フィーネちゃん、あなたにホーリードラゴンの卵を託しましょう」
「え? ホーリードラゴン?」
「ええ。聖なる力を持つ竜です。かつて瘴気によって滅んだ聖龍王が存在進化する前の竜種です。今のフィーネちゃんであればあの子を孵化させることもできるでしょうし、正しく育ててあげることもできるでしょう。きっと力になってくれますよ」
「わかりました」
精霊神様の頼みだ。それにドラゴンを育てるのもなんだか面白いかもしれない。
あれ? 食事は何を与えればいいんだ?
「ホーリードラゴンは聖属性の魔力と肉、それからフルーツなども食べるわ。それと卵から孵すには聖属性の魔力をたっぷり注ぎ込んであげて」
「わかりました」
私がそう答えると、精霊神様はニッコリと微笑んだ。
「それじゃあフィーネちゃん、がんばりなさい」
「はい! ありがとうございます」
すると私の視界が唐突にホワイトアウトした。だがその瞬間、どこか辛そうな表情を浮かべた精霊神様の姿が目に映ったのは気のせいだろうか?
そして気付けば私は小さな部屋に立っていた。足元には私の頭ほどの大きさの白い卵が藁の上に置かれている。
きっとこれがホーリードラゴンの卵なのだろう。
そう考えた私は両手で卵を持ち上げた。
ひんやりしているはずなのに、なんだか卵の内部に熱がある気がする。きっとこの熱が命なのだろう。多分。
さて、それよりこの卵をどうしようか?
卵と言えば親鳥が抱いて温めるというイメージだが、うーん?
私は少し考えた末に、卵をお腹に入れてローブの腰ひもで落ちないように止めることにした。
うん。これなら卵が冷えることもないし、間違えてぶつけてしまうこともそうそうないだろう。
まるで妊婦さんにでもなったみたいにお腹がぽっこりと膨らんでいるが、まあ卵を抱いているのだからあながち間違いでもないだろう。
あれ? でももしこの卵が二つあれば私の胸も……。
おかしなことを考えて虚しい気分になった私は頭を小さく振ると、部屋を出て歩きだすのだった。
◆◇◆
精霊神は先ほどまでフィーネが座っていた席を辛そうな表情でじっと見つめていた。そして精霊神は小さな声で何かを呟くのだった。
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