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正義と武と吸血鬼
第十二章第21話 シンエイ流道場の日常
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前回来たときに観光をしてしまっているため、ミヤコで新たに見るものはあまりない。大量に買い込んだ食料品も残っているため、今回はシンエイ流道場で稽古をすることにした。
ちなみに私は見学だ。今のステータスで振った木刀がすっぽ抜けて誰かに当たってしまった場合、もし当たり所が悪いと死んでしまうかもしれない。
では前のように掃除や洗濯などをすればいいということもあるが、この道場にはおヨネさんがいるのだ。ずっと居つくならまだしも、ふらっとやってきただけの私が彼女の仕事を取り上げるのもよろしくないだろう。
というわけで、今回は完全なお客様扱いだ。
縁側に座り、みんなの稽古をじっくりと観察する。
うん。当然と言えば当然だが、シズクさんとクリスさんの素振りが一番きれいだ。ルーちゃんもステータスの暴力もあってか振るスピードは早いが、シズクさんたちのようには安定していない。
ソウジさんも長いこと弟子をしているだけあってフォームは安定しているが、このステータス差は如何ともしがたい。
この二年とちょっとの間に入門した門下生たちの中では、昨日無謀にもシズクさんに挑んで軽くあしらわれたナガヨシくんとシゲマサくんが頭一つ抜けている。二人とも十五歳だそうで、これからが楽しみな逸材だ。
一方でまだ十四歳のジロウ・ミシマという少年がいるのだが、彼を見ているとなんだか少し親近感を覚える。入門して一年経っているそうだが、なんというか、まだ木刀の扱いが様になっていないのだ。
毎日稽古しているはずなのにあの状態ということは、きっと私と同じなのだろう。ただ、それでもめげずに頑張っている姿は、彼のまるで小動物のような可愛らしい外見と相まって応援してあげたくなる。
まあ、私のように木刀がすっぽ抜けて飛んでいくことはないけれど……。
そんなことを思いつつ眺めていると、稽古は実戦形式の試合へと移る。
「ふむ、そうじゃのぅ。ルミアちゃんや。せっかくだからそのこのジロウと試合をしてみてはどうじゃ?」
「えっ? いいんですかっ?」
「もちろんじゃ。ジロウ、レベルでは格上じゃが、剣はお主のほうが長くやっておるのじゃ。決して勝てぬ相手ではないぞ?」
「はっはいっ!」
ジロウくんは緊張した面持ちで返事をした。
うーん、無理じゃないかなぁ?
ルーちゃんは前衛型ではないが、レベルはかなり高い。視力一つをとっても勝ち目はないと思うのだが……。
「お願いしますっ!」
「お、お願いします」
ルーちゃんは元気に、ジロウくんは緊張した様子で中には中央で木刀を構えて睨み合う。
「始め!」
「えいっ!」
ルーちゃんが元気のいい掛け声と共に上から木刀を振り下ろした。
「えっ? わわっ」
ゴチン!
痛そうな音と共にジロウくんの額にルーちゃんの木刀が突き刺さった。
「えっ? ちょっとっ! どうなってるんですかっ?」
「ジロウさん!」
おヨネさんが手拭いを持ち、大慌てで駆け寄ってきた。よく見るとジロウくんの額が割れている。
「ああ、これは……」
私はすぐにジロウくんを治療してあげた。
「う、いてて……」
「ジロウさん、大丈夫ですかぁ?」
「は、はい。おヨネさん……」
ジロウくんはおヨネさんに心配されながら、縁側のほうへと戻っていく。
「う、うむ……。勝負あり」
テッサイさんはルーちゃんに勝ち名乗りを上げるが、その表情は複雑だ。
他の門下生たちも微妙な表情をしており、ナガヨシくんに至っては隣にいるシゲマサくんに「だせぇな」などと小声で囁いている。
うーん。あまりそういうのは感心しないけれど……。
「次は無駄口を叩いておるナガヨシ、お主じゃ」
「げっ」
テッサイさんは聞き逃していなかったようで、ナガヨシくんを指名した。
「ルミアちゃん、もう一回やるかのぅ?」
「はいっ!」
ルーちゃんは元気よくそう答えた。すると不敵な笑みを浮かべたナガヨシくんが中庭の中央にやってきた。
「へっ。ルミアちゃん、俺はジロウみてぇな雑魚とは違ぇからな」
「……」
ルーちゃんはそれを聞き、不機嫌になったのだろう。すっと無表情になる。
だがその表情の変化に気付いていないのか、ナガヨシくんは常人では聞こえないほど小さな声で「俺のほうがイケてるってところをおヨネさんに見せてやる」と呟いた。
うーん。多分そんなことを考えている間は振り向いてもらえないと思うけどなぁ……。
「始め!」
ナガヨシくんは先手必勝とばかりに居合を放った。だがそこにはすでにルーちゃんの姿はない。
「なっ!?」
ゴチン!
ナガヨシくんの脳天にルーちゃんの木刀が叩き込まれ、鈍い音を立てた。
ああ、うん。まあ、こうなるよね。それに頑張っている人を貶すのはよろしくない。
それにしても同じ道場で汗を流す少年たちが一人の女性を巡ってライバル関係になるだなんて、なんとも青春しているね。
それから他の門下生たちはクリスさんやシズクさんとも試合を行い、最後にクリスさんとシズクさんが試合をして今日の稽古は終了となったのだった。
あ、ちなみに後から聞こえてきた話によると恋のライバル関係にあるのはあの二人だけではなく、他五人の門下生も入っているようだ。
道場にたった一人の女の子なうえに器量よしで可愛らしいということもあり、かなりモテているようだ。
そうだね。おヨネさんが誰を選ぶかは知らないが、とりあえず全員平等に爆発すればいいと思うな。
ちなみに私は見学だ。今のステータスで振った木刀がすっぽ抜けて誰かに当たってしまった場合、もし当たり所が悪いと死んでしまうかもしれない。
では前のように掃除や洗濯などをすればいいということもあるが、この道場にはおヨネさんがいるのだ。ずっと居つくならまだしも、ふらっとやってきただけの私が彼女の仕事を取り上げるのもよろしくないだろう。
というわけで、今回は完全なお客様扱いだ。
縁側に座り、みんなの稽古をじっくりと観察する。
うん。当然と言えば当然だが、シズクさんとクリスさんの素振りが一番きれいだ。ルーちゃんもステータスの暴力もあってか振るスピードは早いが、シズクさんたちのようには安定していない。
ソウジさんも長いこと弟子をしているだけあってフォームは安定しているが、このステータス差は如何ともしがたい。
この二年とちょっとの間に入門した門下生たちの中では、昨日無謀にもシズクさんに挑んで軽くあしらわれたナガヨシくんとシゲマサくんが頭一つ抜けている。二人とも十五歳だそうで、これからが楽しみな逸材だ。
一方でまだ十四歳のジロウ・ミシマという少年がいるのだが、彼を見ているとなんだか少し親近感を覚える。入門して一年経っているそうだが、なんというか、まだ木刀の扱いが様になっていないのだ。
毎日稽古しているはずなのにあの状態ということは、きっと私と同じなのだろう。ただ、それでもめげずに頑張っている姿は、彼のまるで小動物のような可愛らしい外見と相まって応援してあげたくなる。
まあ、私のように木刀がすっぽ抜けて飛んでいくことはないけれど……。
そんなことを思いつつ眺めていると、稽古は実戦形式の試合へと移る。
「ふむ、そうじゃのぅ。ルミアちゃんや。せっかくだからそのこのジロウと試合をしてみてはどうじゃ?」
「えっ? いいんですかっ?」
「もちろんじゃ。ジロウ、レベルでは格上じゃが、剣はお主のほうが長くやっておるのじゃ。決して勝てぬ相手ではないぞ?」
「はっはいっ!」
ジロウくんは緊張した面持ちで返事をした。
うーん、無理じゃないかなぁ?
ルーちゃんは前衛型ではないが、レベルはかなり高い。視力一つをとっても勝ち目はないと思うのだが……。
「お願いしますっ!」
「お、お願いします」
ルーちゃんは元気に、ジロウくんは緊張した様子で中には中央で木刀を構えて睨み合う。
「始め!」
「えいっ!」
ルーちゃんが元気のいい掛け声と共に上から木刀を振り下ろした。
「えっ? わわっ」
ゴチン!
痛そうな音と共にジロウくんの額にルーちゃんの木刀が突き刺さった。
「えっ? ちょっとっ! どうなってるんですかっ?」
「ジロウさん!」
おヨネさんが手拭いを持ち、大慌てで駆け寄ってきた。よく見るとジロウくんの額が割れている。
「ああ、これは……」
私はすぐにジロウくんを治療してあげた。
「う、いてて……」
「ジロウさん、大丈夫ですかぁ?」
「は、はい。おヨネさん……」
ジロウくんはおヨネさんに心配されながら、縁側のほうへと戻っていく。
「う、うむ……。勝負あり」
テッサイさんはルーちゃんに勝ち名乗りを上げるが、その表情は複雑だ。
他の門下生たちも微妙な表情をしており、ナガヨシくんに至っては隣にいるシゲマサくんに「だせぇな」などと小声で囁いている。
うーん。あまりそういうのは感心しないけれど……。
「次は無駄口を叩いておるナガヨシ、お主じゃ」
「げっ」
テッサイさんは聞き逃していなかったようで、ナガヨシくんを指名した。
「ルミアちゃん、もう一回やるかのぅ?」
「はいっ!」
ルーちゃんは元気よくそう答えた。すると不敵な笑みを浮かべたナガヨシくんが中庭の中央にやってきた。
「へっ。ルミアちゃん、俺はジロウみてぇな雑魚とは違ぇからな」
「……」
ルーちゃんはそれを聞き、不機嫌になったのだろう。すっと無表情になる。
だがその表情の変化に気付いていないのか、ナガヨシくんは常人では聞こえないほど小さな声で「俺のほうがイケてるってところをおヨネさんに見せてやる」と呟いた。
うーん。多分そんなことを考えている間は振り向いてもらえないと思うけどなぁ……。
「始め!」
ナガヨシくんは先手必勝とばかりに居合を放った。だがそこにはすでにルーちゃんの姿はない。
「なっ!?」
ゴチン!
ナガヨシくんの脳天にルーちゃんの木刀が叩き込まれ、鈍い音を立てた。
ああ、うん。まあ、こうなるよね。それに頑張っている人を貶すのはよろしくない。
それにしても同じ道場で汗を流す少年たちが一人の女性を巡ってライバル関係になるだなんて、なんとも青春しているね。
それから他の門下生たちはクリスさんやシズクさんとも試合を行い、最後にクリスさんとシズクさんが試合をして今日の稽古は終了となったのだった。
あ、ちなみに後から聞こえてきた話によると恋のライバル関係にあるのはあの二人だけではなく、他五人の門下生も入っているようだ。
道場にたった一人の女の子なうえに器量よしで可愛らしいということもあり、かなりモテているようだ。
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