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正義と武と吸血鬼
第十二章第19話 シンエイ流道場
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ミサキを後にした私たちはユカワ温泉のタカイソ亭で温泉を満喫した。そしてそのままミヤコに向かい、久しぶりにシンエイ流道場へとやってきた。
道場の中からは門下生たちの元気な声が聞こえてくる。子供らしき声も聞こえるので、きっと弟子が増えているのだろう。
そんな道場の扉をシズクさんは開けて中に入る。
「ただいま戻ったでござる」
そう言いながら勝手知ったる道場の中をすたすたと歩いていくので、私たちもそれについていく。
そのまま中庭に行くと十数人ほどの門下生たちが木刀を振って汗を流しており、彼らの視線は突然やってきた私たちに集まる。
その中でテッサイさんとソウジさんが目を見開いて驚いている。
ああ、良かった。テッサイさんもまだまだ元気そうだ。
「師匠、ソウジ殿、久しぶりでござる」
「シズク? おぉ、よく戻ったのぅ。クリスも、元気にしておったか? フィーネちゃんとルミアちゃんも、元気そうで何よりじゃのう」
「お師匠様、ご無沙汰しています」
「お久しぶりです」
私たちもそれぞれ挨拶する。
「師匠、その方たちは……?」
門下生の男性の一人が不思議な表情で私たちのことをテッサイさんに尋ねる。
「うむ。シズクは門下生じゃよ。免許皆伝の」
「ええっ!? この人が!?」
その声に門下生たちがざわつく。
「そしてこちらはホワイトムーン王国のクリスティーナ殿じゃ。以前、剣を教えたことがあってのぅ。そしてその二人の主であるフィーネちゃん、こっちはその友人のルミアちゃんじゃ」
続いて私たちに視線が集まったので、私はニッコリと営業スマイルで応えてあげた。すると門下生たちは赤くなって顔を背ける。
「ほ、本当にその女が師匠より強いんですか? あんなに細身なのに……」
「耳と尻尾が生えてるぞ? あんなんで剣を振れるのか?」
私たちが出発したあとに入門したらしい二人の少年がシズクさんの姿を見て、その実力に疑問を投げかける。
するとテッサイさんは大きなため息をついた。
「まったく、お主らはそのような心根じゃから才能があるのに伸びぬのじゃ」
その言葉に彼らは顔を赤くして俯いた。
「やれやれ、すまんのぅ。彼らは序列一位のシズクがずっと道場を空けていることが気に入らないようでのぅ」
「師匠、構わないでござるよ。模擬戦でもすればすぐに分かってもらえるはずでござる」
「すまぬのぅ」
こうしてシズクさんはシンエイ流道場に変えるや否や試合をすることとなり、新弟子たちを一瞬のうちに叩きのめしたのだった。
え? 試合の様子はどうだったかって?
いやいや。あまりにも一方的過ぎて特に感想は無いよ。だって、シズクさんは向かってくる新弟子たちの剣を一撃で弾き、そのまま首元に剣を突きつけて終わりだったのだ。
あのルゥー・フェイ将軍だってシズクさんに手も足も出なかったのだから、いくら同門とはいえ勝てるはずもない。
◆◇◆
「先ほどは失礼なことを言ってすみませんでした」
そう言ってシズクさんに土下座をして謝罪しているのは先ほどシズクさんに一瞬で負けた少年の一人だ。
彼の名前はナガヨシ・オオイズミ。ややあどけなさが残るものの、細身ながらも袴から覗く筋肉がしっかりと鍛えていることを窺わせる。
「く……すみません……でした……」
もう一人の少年もシズクさんに土下座しているが、彼は言われて仕方なしにというのがありありと窺える。
彼の名前はシゲマサ・ヤマザキ。かなりの巨漢でしっかりと筋肉もついているが、謝るならばきちんと謝らないないと意味がないと思う。
「もういいでござるよ。元気のいい弟弟子が入って何よりでござるな」
当然だが、シズクさんはまるで気にしていない様子だ。
「皆さーん、お昼の準備ができましたよ~」
そう言いながら一人の少女が中庭にやってきた。
「おお、おヨネちゃん。いつもすまんのぅ。急じゃが、四人増えても大丈夫かのぅ?」
「あら? お師匠さん? まあ! お客さんですねぇ。どうぞどうぞぉ。お米は余分に炊いてありますからぁ」
その柔らかな言葉とやや気の抜けそうな雰囲気に、先ほどまでのピリピリした空気は一瞬で吹き飛んだ。
「いいでござるか?」
「構わんよ。さあ、たっぷりお上がりなさい」
こうして私たちは久しぶりにシンエイ流道場でお昼をいただくことになったのだった。
◆◇◆
「いただきます」
私たちは一人ずつちゃぶ台の前に座り、食事をいただく。相変わらずの粗食で、大量の玄米に豆腐の味噌汁、そして梅干しだけだ。
私はまずお味噌汁をいただく。
うん。出汁がしっかり出ていて、お味噌も濃すぎずいい感じだ。毎日食べるにはこういった安心できる味のほうがいいのだろう。
続いて玄米をいただく。
これも普通の玄米だ。白米に比べてちょっとパサパサしているが、よく噛んでいるとじんわりと甘みが広がってくる。このじんわりとした甘みが白米と違った玄米独特の良さと言えるだろう。
そして最後は梅干しだ。うん。しっかり酸っぱくて、しっかりしょっぱい。やっぱり梅干しはご飯に合う。それが玄米であっても、やっぱり梅干しは美味しいよね。
って、おや? クリスさんが悶絶している。
どうやら梅干しをまるごと口に入れてしまい、その洗礼を受けたようだ。
果たしてクリスさんは梅干しを好きになるのだろうか?
私は玄米をもう一口頬張りながら、そんなことを考えていたのだった。
道場の中からは門下生たちの元気な声が聞こえてくる。子供らしき声も聞こえるので、きっと弟子が増えているのだろう。
そんな道場の扉をシズクさんは開けて中に入る。
「ただいま戻ったでござる」
そう言いながら勝手知ったる道場の中をすたすたと歩いていくので、私たちもそれについていく。
そのまま中庭に行くと十数人ほどの門下生たちが木刀を振って汗を流しており、彼らの視線は突然やってきた私たちに集まる。
その中でテッサイさんとソウジさんが目を見開いて驚いている。
ああ、良かった。テッサイさんもまだまだ元気そうだ。
「師匠、ソウジ殿、久しぶりでござる」
「シズク? おぉ、よく戻ったのぅ。クリスも、元気にしておったか? フィーネちゃんとルミアちゃんも、元気そうで何よりじゃのう」
「お師匠様、ご無沙汰しています」
「お久しぶりです」
私たちもそれぞれ挨拶する。
「師匠、その方たちは……?」
門下生の男性の一人が不思議な表情で私たちのことをテッサイさんに尋ねる。
「うむ。シズクは門下生じゃよ。免許皆伝の」
「ええっ!? この人が!?」
その声に門下生たちがざわつく。
「そしてこちらはホワイトムーン王国のクリスティーナ殿じゃ。以前、剣を教えたことがあってのぅ。そしてその二人の主であるフィーネちゃん、こっちはその友人のルミアちゃんじゃ」
続いて私たちに視線が集まったので、私はニッコリと営業スマイルで応えてあげた。すると門下生たちは赤くなって顔を背ける。
「ほ、本当にその女が師匠より強いんですか? あんなに細身なのに……」
「耳と尻尾が生えてるぞ? あんなんで剣を振れるのか?」
私たちが出発したあとに入門したらしい二人の少年がシズクさんの姿を見て、その実力に疑問を投げかける。
するとテッサイさんは大きなため息をついた。
「まったく、お主らはそのような心根じゃから才能があるのに伸びぬのじゃ」
その言葉に彼らは顔を赤くして俯いた。
「やれやれ、すまんのぅ。彼らは序列一位のシズクがずっと道場を空けていることが気に入らないようでのぅ」
「師匠、構わないでござるよ。模擬戦でもすればすぐに分かってもらえるはずでござる」
「すまぬのぅ」
こうしてシズクさんはシンエイ流道場に変えるや否や試合をすることとなり、新弟子たちを一瞬のうちに叩きのめしたのだった。
え? 試合の様子はどうだったかって?
いやいや。あまりにも一方的過ぎて特に感想は無いよ。だって、シズクさんは向かってくる新弟子たちの剣を一撃で弾き、そのまま首元に剣を突きつけて終わりだったのだ。
あのルゥー・フェイ将軍だってシズクさんに手も足も出なかったのだから、いくら同門とはいえ勝てるはずもない。
◆◇◆
「先ほどは失礼なことを言ってすみませんでした」
そう言ってシズクさんに土下座をして謝罪しているのは先ほどシズクさんに一瞬で負けた少年の一人だ。
彼の名前はナガヨシ・オオイズミ。ややあどけなさが残るものの、細身ながらも袴から覗く筋肉がしっかりと鍛えていることを窺わせる。
「く……すみません……でした……」
もう一人の少年もシズクさんに土下座しているが、彼は言われて仕方なしにというのがありありと窺える。
彼の名前はシゲマサ・ヤマザキ。かなりの巨漢でしっかりと筋肉もついているが、謝るならばきちんと謝らないないと意味がないと思う。
「もういいでござるよ。元気のいい弟弟子が入って何よりでござるな」
当然だが、シズクさんはまるで気にしていない様子だ。
「皆さーん、お昼の準備ができましたよ~」
そう言いながら一人の少女が中庭にやってきた。
「おお、おヨネちゃん。いつもすまんのぅ。急じゃが、四人増えても大丈夫かのぅ?」
「あら? お師匠さん? まあ! お客さんですねぇ。どうぞどうぞぉ。お米は余分に炊いてありますからぁ」
その柔らかな言葉とやや気の抜けそうな雰囲気に、先ほどまでのピリピリした空気は一瞬で吹き飛んだ。
「いいでござるか?」
「構わんよ。さあ、たっぷりお上がりなさい」
こうして私たちは久しぶりにシンエイ流道場でお昼をいただくことになったのだった。
◆◇◆
「いただきます」
私たちは一人ずつちゃぶ台の前に座り、食事をいただく。相変わらずの粗食で、大量の玄米に豆腐の味噌汁、そして梅干しだけだ。
私はまずお味噌汁をいただく。
うん。出汁がしっかり出ていて、お味噌も濃すぎずいい感じだ。毎日食べるにはこういった安心できる味のほうがいいのだろう。
続いて玄米をいただく。
これも普通の玄米だ。白米に比べてちょっとパサパサしているが、よく噛んでいるとじんわりと甘みが広がってくる。このじんわりとした甘みが白米と違った玄米独特の良さと言えるだろう。
そして最後は梅干しだ。うん。しっかり酸っぱくて、しっかりしょっぱい。やっぱり梅干しはご飯に合う。それが玄米であっても、やっぱり梅干しは美味しいよね。
って、おや? クリスさんが悶絶している。
どうやら梅干しをまるごと口に入れてしまい、その洗礼を受けたようだ。
果たしてクリスさんは梅干しを好きになるのだろうか?
私は玄米をもう一口頬張りながら、そんなことを考えていたのだった。
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