勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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正義と武と吸血鬼

第十二章第5話 チェンツァン山の鶏(前編)

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 翌日、私たちは鶏の魔物が出るようになったというチェンツァン山の山頂へとやってきた。

 いくら襲ってこないとはいえ、進化の秘術で衝動を抑えたのでない限り魔物には衝動がある。

 共存できる魔物ならいいが、そうでなかった場合はいつチェンツァンの町に襲い掛かってきてもおかしくない。

 というわけで、そのことを確かめるためにやって来たというわけだ。

 さて、山頂に建てられた塔は外から見るだけで十三段になっており、高さ五十メートル以上はありそうだ。

 なるほど。たしかにこの塔の一番上から見る景色はさぞかし素晴らしいことだろう。観光名所というのも頷ける話だ。

 ところで噂の魔物はどこにいるのだろう?

 私たちは周囲をぐるりと歩いて回ってみたのだが、特に足跡のようなものは見当たらない。

「フィーネ様、やはり中ではないでしょうか?」
「そうですね」

 私たちはそっと入口の扉を開けた。

 すると塔の一階はかなり大きなホールになっており、その中央には一羽の巨大な鶏がデンと座っていた。しかも尻尾の部分には大蛇が生えている。

「コカトリス!」
「でござるな」
「コカトリス?」
「はい。コカトリスとはご覧のとおり、鶏の体と大蛇の尻尾を持つ凶悪な魔物です。鶏の口からは火を吐き、大蛇の口からは石化の毒液を吐いてきます。石化の毒液に触れると石となってしまいますので、お気を付けください」
「なるほど」

 私に石化の毒液は効かないと思うが、普通に戦えばかなり厄介な敵になりそうだ。

 私たちは慎重に塔の中へと足を踏み入れる。

 すると私たちの侵入を確認したコカトリスは鶏の口から巨大な火の玉を放つ。私はそれを防壁で防ぐと、すぐさまコカトリスの周囲に脱出できないように結界を張った。

 どうやら話し合いができるような相手ではなさそうだ。

 コカトリスは立ち上がると私たちのほうへと向かって走りだし、結界に顔面から激突した。

「ゴゲェーッ!?」

 やたらと野太い声でそう鳴くと、必死に結界を太い足で蹴って壊そうとし始めた。

 だが、当然のことながら結界はビクともしない。

 私はちらりとコカトリスが座っていた場所を確認するが、特に何があるというわけではなかった。

「フィーネ様?」
「いえ、念のため卵を温めていたのではないかを確認したんです」
「ああ、そういうことでしたか」
「でも違いました。どういう理由でこの塔に居座っているのかは分かりませんが、人を襲うなら解放してあげましょう」
「はい!」
「結界を解きますよ。せーの!」

 結界を解除したタイミングに合わせてクリスさんとシズクさんが突撃する。

 シズクさんがまず厄介な大蛇の尻尾を切り落とした。

「クェェェェェ!」
「もらった!」

 悲鳴を上げたコカトリスの首をクリスさんが一撃でねた。すると大量の血が噴き出しながらコカトリスは力なくと床に崩れ落ちた。

 うん。どうやらコカトリスは相手ではなかったようだ。

 そう考えた次の瞬間だった。

 なんとコカトリスが座っていた場所に新たなコカトリスが突然現れた。

「えっ!?」
「クリス殿! 危ない!」
「なっ!?」

 クリスさんの建っていた場所の目と鼻の先に、出現したコカトリスの大蛇の頭がちょうどあったのだ。

 大蛇の頭はすぐさま口を開くと白い液体をクリスさんに向けて吹き付ける!

 防壁の展開は間に合わなかった。

 クリスさんはなんとか飛び退ったものの、白い液体をまともに浴びてしまった。

「クリスさん!」

 私はすぐさま結界でコカトリスを閉じ込めると、クリスさんのもとへと駆け寄る。

「あ、ぐ……」

 よかった! まだ息はある!

 私はすぐさま解毒、浄化と続けてかけたが、クリスさんの左の頬が石のようになっている。

 なるほど。これが石化するということか。

 ならば!

 私は石化が治るように念じてクリスさんの治療を行う。

 するとすぐにクリスさんの左頬はもとのきれいな皮膚に戻ってくれた。

 触って確認するが、しこりのようなものも残っていない。

 私は念のため治癒魔法をかけ、クリスさんの治療を終えた。

「クリスさん、大丈夫ですか?」
「は、はい。申し訳ございません。油断しました」
「いえ、まさか何もないところから突然現れるなんて……」
「フィーネ殿! もう一羽現れたでござるよ!」
「え!?」

 シズクさんに言われて確認すると、なんと向こう側の壁の近くにもう一羽のコカトリスが現れ、こちらに向かって走ってくる。

「フィーネ様、今度こそ!」
「はい。お願いします」
「お任せください!」

 クリスさんはそう言ってコカトリスに向かって突っ込んでいく。

「むうっ! あたしだって!」

 私の隣でそう言ったルーちゃんが新しく現れたコカトリスに向かって狙いを定めた。

 光の矢が番えると……。

「っ!」

 私は慌てて防壁を張り、久々の誤射フレンドリーファイアを防いだのだった。

「あっ! あれ? あれれ? ご、ごめんなさい……」
「大丈夫ですよ。焦らずに、しっかり射れば最近はなかったですからね」

 私は、自分よりも少し背が高くなったルーちゃんに笑顔で微笑んだのだった。
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