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欲と業
第十一章第49話 隷属の宝珠
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「フ、フフフ、フハハハハハ。ついに聖女が、ク、ククク」
私とルーちゃんを縄で縛ったフロランは喜びが押さえきれないといった様子で妙な笑い声を上げている。
一方のクリスさんとシズクさんは私たちを人質に取られているせいか、覆面の男たちの集団と睨み合いを続けている。
フロランはクリスさんたちに対して降伏を促す様子はなく、スーツの内ポケットから小さな黒い宝玉を取り出した。
何かこう、呪われているような禍々しい気配が漂ってくる。
「聖女よ。抵抗したらそこのエルフがどうなるか、分かるな?」
「……」
私はフロランを睨みつけるが、フロランは意に介していない様子で私のことを相変わらずの冷たい目で見下ろしている。
「さあ、お前は今日から私の奴隷だ。隷属の宝珠よ! この者を縛り、我が物とせよ!」
フロランが高らかにそう宣言するとフロランの持っている黒い宝玉が黒い光を放ち、その光は私を包み込む。
結界を纏っていない私はたちどころにしてその黒い光に包まれ、周りが一切見えなくなってしまった。
「フィーネ殿!」
「姉さま!」
「フィーネ様! 貴様! 聖女であるフィーネ様になんということを!」
暗闇の向こうから三人の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
「フ、フハハハハ! 私は歴史上で初めて聖女を支配下に置いたのだ! これでもう誰一人、私に逆らえる者などいない! よもや聖女のほうから転がり込んでくるとはな! ああ、そうだ。母さんの言うように、神に祈ってもいいかもなぁ。クハハハハハ」
勝利を確信しているのだろう。フロランは勝ち誇ったように高笑いをしているが、実のところ私には全く影響はない。
そもそも私は【呪い耐性】がMAXなので、隷属の呪印など効かないということは分かっていた。だがそれ以前にこの優れモノのローブが黒い宝玉の放つ光をブロックしてくれている。
なんというか、そう。まるで大したことがないのだ。
そうこうしているうちに黒い光が消えた。
「さあ、聖女よ。命令だ。立ち上がれ」
特に従う理由もないが、私はとりあえず立ち上がってみる。
「ああっ」
クリスさんが絶望の表情を浮かべ、シズクさんは憤怒の表情を浮かべている。
ルーちゃんは顔面蒼白になっている。
「フ、フハハハハ。ああ、ついに! ついに! さあ、聖女よ。命令だ。お前の騎士二人に剣を置くように命令しろ」
「お断りします」
私がそう答えると、フロランはポカンとした表情を浮かべた。
あまりに予想外の返事に事態が呑み込めていない様子だ。
あれ? これってチャンスなのでは?
そう判断した私は影に潜って縄を抜け、そのまま影を伸ばしてフロランを拘束した。
「え? な? あ? こ、これは?」
先ほどまでの勝ち誇った表情が崩れ、焦りが浮かんでいる。
「私に隷属の呪印なんて効くわけないじゃないですか。形勢逆転ですね」
「ぐっ、こ、こんなもの!」
フロランは全身に力を込めると、拘束していた影を引きちぎった。
「秘薬で力を手に入れたのはこいつらだけはないのだ! この程度で私を止められると思うなよ?」
フロランは再び自信満々な様子に戻った。
「はい。思っていませんよ」
「は?」
私はそのまま間髪入れずにフロランを結界の中に閉じ込めた。
この結界は、空気は中から外への一方通行で水は外から中への一方通行となっている。これはダルハでシーサーペントを捕まえたときに使ったのと同じ結界だ。
「私にあなたを倒す力はありませんが、こうすればあなたは動けません」
「結界なんぞ!」
フロランは必死に結界を殴っているが、いくら秘薬とやらで強化されているとはいえ武器なしで私の結界を破れるほど強くはなっていないようだ。
ドシン、ドシンと重たい音はするものの結界が破れる気配はない。
私は【水属性魔法】を使って結界に向けて水を放水を始める。
結界内には徐々に水が貯まっていき、その水位はついにフロランの首まで浸かる状態となった。
「お、おい! お前ら! 聖女を止めろ!」
その命令に覆面の男たちが一斉に動き出すが、今度はその動きをクリスさんたちが止めてくれた。
「行かせはしない」
「拙者たちが相手でござるよ」
二人に背を向けた覆面の男たちのうち三人が背中から斬られて倒れる。
「防壁」
残る覆面の男たちを私は結界を背にし、防壁を作り出すことでやり過ごす。
突如現れた防壁に覆面の男たちは顔面を強かに打ち、もんどりを打って倒れた。
そこを逃さずシズクさんとクリスさんがとどめを刺していく。
鮮血が飛び散り、覆面の男たちは動かなくなった。
「な……あ、ば、ばか、な……」
結界の中で首まで水に浸かったフロランは目を見開いている。きっと自慢の部下たちがやられたことが信じられないのだろう。
「お、おい! 何をしている! 命令だ! 私を助けろ!」
その言葉に、地面に倒れた覆面の男の一人が立ち上がろうとするが、どうやらもうそんな力は残っていないようだ。
しばらくもがいていたものの、その男はそのまま地面に突っ伏して動かなくなったのだった。
私とルーちゃんを縄で縛ったフロランは喜びが押さえきれないといった様子で妙な笑い声を上げている。
一方のクリスさんとシズクさんは私たちを人質に取られているせいか、覆面の男たちの集団と睨み合いを続けている。
フロランはクリスさんたちに対して降伏を促す様子はなく、スーツの内ポケットから小さな黒い宝玉を取り出した。
何かこう、呪われているような禍々しい気配が漂ってくる。
「聖女よ。抵抗したらそこのエルフがどうなるか、分かるな?」
「……」
私はフロランを睨みつけるが、フロランは意に介していない様子で私のことを相変わらずの冷たい目で見下ろしている。
「さあ、お前は今日から私の奴隷だ。隷属の宝珠よ! この者を縛り、我が物とせよ!」
フロランが高らかにそう宣言するとフロランの持っている黒い宝玉が黒い光を放ち、その光は私を包み込む。
結界を纏っていない私はたちどころにしてその黒い光に包まれ、周りが一切見えなくなってしまった。
「フィーネ殿!」
「姉さま!」
「フィーネ様! 貴様! 聖女であるフィーネ様になんということを!」
暗闇の向こうから三人の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
「フ、フハハハハ! 私は歴史上で初めて聖女を支配下に置いたのだ! これでもう誰一人、私に逆らえる者などいない! よもや聖女のほうから転がり込んでくるとはな! ああ、そうだ。母さんの言うように、神に祈ってもいいかもなぁ。クハハハハハ」
勝利を確信しているのだろう。フロランは勝ち誇ったように高笑いをしているが、実のところ私には全く影響はない。
そもそも私は【呪い耐性】がMAXなので、隷属の呪印など効かないということは分かっていた。だがそれ以前にこの優れモノのローブが黒い宝玉の放つ光をブロックしてくれている。
なんというか、そう。まるで大したことがないのだ。
そうこうしているうちに黒い光が消えた。
「さあ、聖女よ。命令だ。立ち上がれ」
特に従う理由もないが、私はとりあえず立ち上がってみる。
「ああっ」
クリスさんが絶望の表情を浮かべ、シズクさんは憤怒の表情を浮かべている。
ルーちゃんは顔面蒼白になっている。
「フ、フハハハハ。ああ、ついに! ついに! さあ、聖女よ。命令だ。お前の騎士二人に剣を置くように命令しろ」
「お断りします」
私がそう答えると、フロランはポカンとした表情を浮かべた。
あまりに予想外の返事に事態が呑み込めていない様子だ。
あれ? これってチャンスなのでは?
そう判断した私は影に潜って縄を抜け、そのまま影を伸ばしてフロランを拘束した。
「え? な? あ? こ、これは?」
先ほどまでの勝ち誇った表情が崩れ、焦りが浮かんでいる。
「私に隷属の呪印なんて効くわけないじゃないですか。形勢逆転ですね」
「ぐっ、こ、こんなもの!」
フロランは全身に力を込めると、拘束していた影を引きちぎった。
「秘薬で力を手に入れたのはこいつらだけはないのだ! この程度で私を止められると思うなよ?」
フロランは再び自信満々な様子に戻った。
「はい。思っていませんよ」
「は?」
私はそのまま間髪入れずにフロランを結界の中に閉じ込めた。
この結界は、空気は中から外への一方通行で水は外から中への一方通行となっている。これはダルハでシーサーペントを捕まえたときに使ったのと同じ結界だ。
「私にあなたを倒す力はありませんが、こうすればあなたは動けません」
「結界なんぞ!」
フロランは必死に結界を殴っているが、いくら秘薬とやらで強化されているとはいえ武器なしで私の結界を破れるほど強くはなっていないようだ。
ドシン、ドシンと重たい音はするものの結界が破れる気配はない。
私は【水属性魔法】を使って結界に向けて水を放水を始める。
結界内には徐々に水が貯まっていき、その水位はついにフロランの首まで浸かる状態となった。
「お、おい! お前ら! 聖女を止めろ!」
その命令に覆面の男たちが一斉に動き出すが、今度はその動きをクリスさんたちが止めてくれた。
「行かせはしない」
「拙者たちが相手でござるよ」
二人に背を向けた覆面の男たちのうち三人が背中から斬られて倒れる。
「防壁」
残る覆面の男たちを私は結界を背にし、防壁を作り出すことでやり過ごす。
突如現れた防壁に覆面の男たちは顔面を強かに打ち、もんどりを打って倒れた。
そこを逃さずシズクさんとクリスさんがとどめを刺していく。
鮮血が飛び散り、覆面の男たちは動かなくなった。
「な……あ、ば、ばか、な……」
結界の中で首まで水に浸かったフロランは目を見開いている。きっと自慢の部下たちがやられたことが信じられないのだろう。
「お、おい! 何をしている! 命令だ! 私を助けろ!」
その言葉に、地面に倒れた覆面の男の一人が立ち上がろうとするが、どうやらもうそんな力は残っていないようだ。
しばらくもがいていたものの、その男はそのまま地面に突っ伏して動かなくなったのだった。
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