528 / 625
欲と業
第十一章第49話 隷属の宝珠
しおりを挟む
「フ、フフフ、フハハハハハ。ついに聖女が、ク、ククク」
私とルーちゃんを縄で縛ったフロランは喜びが押さえきれないといった様子で妙な笑い声を上げている。
一方のクリスさんとシズクさんは私たちを人質に取られているせいか、覆面の男たちの集団と睨み合いを続けている。
フロランはクリスさんたちに対して降伏を促す様子はなく、スーツの内ポケットから小さな黒い宝玉を取り出した。
何かこう、呪われているような禍々しい気配が漂ってくる。
「聖女よ。抵抗したらそこのエルフがどうなるか、分かるな?」
「……」
私はフロランを睨みつけるが、フロランは意に介していない様子で私のことを相変わらずの冷たい目で見下ろしている。
「さあ、お前は今日から私の奴隷だ。隷属の宝珠よ! この者を縛り、我が物とせよ!」
フロランが高らかにそう宣言するとフロランの持っている黒い宝玉が黒い光を放ち、その光は私を包み込む。
結界を纏っていない私はたちどころにしてその黒い光に包まれ、周りが一切見えなくなってしまった。
「フィーネ殿!」
「姉さま!」
「フィーネ様! 貴様! 聖女であるフィーネ様になんということを!」
暗闇の向こうから三人の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
「フ、フハハハハ! 私は歴史上で初めて聖女を支配下に置いたのだ! これでもう誰一人、私に逆らえる者などいない! よもや聖女のほうから転がり込んでくるとはな! ああ、そうだ。母さんの言うように、神に祈ってもいいかもなぁ。クハハハハハ」
勝利を確信しているのだろう。フロランは勝ち誇ったように高笑いをしているが、実のところ私には全く影響はない。
そもそも私は【呪い耐性】がMAXなので、隷属の呪印など効かないということは分かっていた。だがそれ以前にこの優れモノのローブが黒い宝玉の放つ光をブロックしてくれている。
なんというか、そう。まるで大したことがないのだ。
そうこうしているうちに黒い光が消えた。
「さあ、聖女よ。命令だ。立ち上がれ」
特に従う理由もないが、私はとりあえず立ち上がってみる。
「ああっ」
クリスさんが絶望の表情を浮かべ、シズクさんは憤怒の表情を浮かべている。
ルーちゃんは顔面蒼白になっている。
「フ、フハハハハ。ああ、ついに! ついに! さあ、聖女よ。命令だ。お前の騎士二人に剣を置くように命令しろ」
「お断りします」
私がそう答えると、フロランはポカンとした表情を浮かべた。
あまりに予想外の返事に事態が呑み込めていない様子だ。
あれ? これってチャンスなのでは?
そう判断した私は影に潜って縄を抜け、そのまま影を伸ばしてフロランを拘束した。
「え? な? あ? こ、これは?」
先ほどまでの勝ち誇った表情が崩れ、焦りが浮かんでいる。
「私に隷属の呪印なんて効くわけないじゃないですか。形勢逆転ですね」
「ぐっ、こ、こんなもの!」
フロランは全身に力を込めると、拘束していた影を引きちぎった。
「秘薬で力を手に入れたのはこいつらだけはないのだ! この程度で私を止められると思うなよ?」
フロランは再び自信満々な様子に戻った。
「はい。思っていませんよ」
「は?」
私はそのまま間髪入れずにフロランを結界の中に閉じ込めた。
この結界は、空気は中から外への一方通行で水は外から中への一方通行となっている。これはダルハでシーサーペントを捕まえたときに使ったのと同じ結界だ。
「私にあなたを倒す力はありませんが、こうすればあなたは動けません」
「結界なんぞ!」
フロランは必死に結界を殴っているが、いくら秘薬とやらで強化されているとはいえ武器なしで私の結界を破れるほど強くはなっていないようだ。
ドシン、ドシンと重たい音はするものの結界が破れる気配はない。
私は【水属性魔法】を使って結界に向けて水を放水を始める。
結界内には徐々に水が貯まっていき、その水位はついにフロランの首まで浸かる状態となった。
「お、おい! お前ら! 聖女を止めろ!」
その命令に覆面の男たちが一斉に動き出すが、今度はその動きをクリスさんたちが止めてくれた。
「行かせはしない」
「拙者たちが相手でござるよ」
二人に背を向けた覆面の男たちのうち三人が背中から斬られて倒れる。
「防壁」
残る覆面の男たちを私は結界を背にし、防壁を作り出すことでやり過ごす。
突如現れた防壁に覆面の男たちは顔面を強かに打ち、もんどりを打って倒れた。
そこを逃さずシズクさんとクリスさんがとどめを刺していく。
鮮血が飛び散り、覆面の男たちは動かなくなった。
「な……あ、ば、ばか、な……」
結界の中で首まで水に浸かったフロランは目を見開いている。きっと自慢の部下たちがやられたことが信じられないのだろう。
「お、おい! 何をしている! 命令だ! 私を助けろ!」
その言葉に、地面に倒れた覆面の男の一人が立ち上がろうとするが、どうやらもうそんな力は残っていないようだ。
しばらくもがいていたものの、その男はそのまま地面に突っ伏して動かなくなったのだった。
私とルーちゃんを縄で縛ったフロランは喜びが押さえきれないといった様子で妙な笑い声を上げている。
一方のクリスさんとシズクさんは私たちを人質に取られているせいか、覆面の男たちの集団と睨み合いを続けている。
フロランはクリスさんたちに対して降伏を促す様子はなく、スーツの内ポケットから小さな黒い宝玉を取り出した。
何かこう、呪われているような禍々しい気配が漂ってくる。
「聖女よ。抵抗したらそこのエルフがどうなるか、分かるな?」
「……」
私はフロランを睨みつけるが、フロランは意に介していない様子で私のことを相変わらずの冷たい目で見下ろしている。
「さあ、お前は今日から私の奴隷だ。隷属の宝珠よ! この者を縛り、我が物とせよ!」
フロランが高らかにそう宣言するとフロランの持っている黒い宝玉が黒い光を放ち、その光は私を包み込む。
結界を纏っていない私はたちどころにしてその黒い光に包まれ、周りが一切見えなくなってしまった。
「フィーネ殿!」
「姉さま!」
「フィーネ様! 貴様! 聖女であるフィーネ様になんということを!」
暗闇の向こうから三人の悲痛な叫び声が聞こえてくる。
「フ、フハハハハ! 私は歴史上で初めて聖女を支配下に置いたのだ! これでもう誰一人、私に逆らえる者などいない! よもや聖女のほうから転がり込んでくるとはな! ああ、そうだ。母さんの言うように、神に祈ってもいいかもなぁ。クハハハハハ」
勝利を確信しているのだろう。フロランは勝ち誇ったように高笑いをしているが、実のところ私には全く影響はない。
そもそも私は【呪い耐性】がMAXなので、隷属の呪印など効かないということは分かっていた。だがそれ以前にこの優れモノのローブが黒い宝玉の放つ光をブロックしてくれている。
なんというか、そう。まるで大したことがないのだ。
そうこうしているうちに黒い光が消えた。
「さあ、聖女よ。命令だ。立ち上がれ」
特に従う理由もないが、私はとりあえず立ち上がってみる。
「ああっ」
クリスさんが絶望の表情を浮かべ、シズクさんは憤怒の表情を浮かべている。
ルーちゃんは顔面蒼白になっている。
「フ、フハハハハ。ああ、ついに! ついに! さあ、聖女よ。命令だ。お前の騎士二人に剣を置くように命令しろ」
「お断りします」
私がそう答えると、フロランはポカンとした表情を浮かべた。
あまりに予想外の返事に事態が呑み込めていない様子だ。
あれ? これってチャンスなのでは?
そう判断した私は影に潜って縄を抜け、そのまま影を伸ばしてフロランを拘束した。
「え? な? あ? こ、これは?」
先ほどまでの勝ち誇った表情が崩れ、焦りが浮かんでいる。
「私に隷属の呪印なんて効くわけないじゃないですか。形勢逆転ですね」
「ぐっ、こ、こんなもの!」
フロランは全身に力を込めると、拘束していた影を引きちぎった。
「秘薬で力を手に入れたのはこいつらだけはないのだ! この程度で私を止められると思うなよ?」
フロランは再び自信満々な様子に戻った。
「はい。思っていませんよ」
「は?」
私はそのまま間髪入れずにフロランを結界の中に閉じ込めた。
この結界は、空気は中から外への一方通行で水は外から中への一方通行となっている。これはダルハでシーサーペントを捕まえたときに使ったのと同じ結界だ。
「私にあなたを倒す力はありませんが、こうすればあなたは動けません」
「結界なんぞ!」
フロランは必死に結界を殴っているが、いくら秘薬とやらで強化されているとはいえ武器なしで私の結界を破れるほど強くはなっていないようだ。
ドシン、ドシンと重たい音はするものの結界が破れる気配はない。
私は【水属性魔法】を使って結界に向けて水を放水を始める。
結界内には徐々に水が貯まっていき、その水位はついにフロランの首まで浸かる状態となった。
「お、おい! お前ら! 聖女を止めろ!」
その命令に覆面の男たちが一斉に動き出すが、今度はその動きをクリスさんたちが止めてくれた。
「行かせはしない」
「拙者たちが相手でござるよ」
二人に背を向けた覆面の男たちのうち三人が背中から斬られて倒れる。
「防壁」
残る覆面の男たちを私は結界を背にし、防壁を作り出すことでやり過ごす。
突如現れた防壁に覆面の男たちは顔面を強かに打ち、もんどりを打って倒れた。
そこを逃さずシズクさんとクリスさんがとどめを刺していく。
鮮血が飛び散り、覆面の男たちは動かなくなった。
「な……あ、ば、ばか、な……」
結界の中で首まで水に浸かったフロランは目を見開いている。きっと自慢の部下たちがやられたことが信じられないのだろう。
「お、おい! 何をしている! 命令だ! 私を助けろ!」
その言葉に、地面に倒れた覆面の男の一人が立ち上がろうとするが、どうやらもうそんな力は残っていないようだ。
しばらくもがいていたものの、その男はそのまま地面に突っ伏して動かなくなったのだった。
0
お気に入りに追加
434
あなたにおすすめの小説
美しい姉と痩せこけた妹
サイコちゃん
ファンタジー
若き公爵は虐待を受けた姉妹を引き取ることにした。やがて訪れたのは美しい姉と痩せこけた妹だった。姉が夢中でケーキを食べる中、妹はそれがケーキだと分からない。姉がドレスのプレゼントに喜ぶ中、妹はそれがドレスだと分からない。公爵はあまりに差のある姉妹に疑念を抱いた――
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた
佐藤醤油
ファンタジー
貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。
僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。
魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。
言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。
この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。
小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。
------------------------------------------------------------------
お知らせ
「転生者はめぐりあう」 始めました。
------------------------------------------------------------------
注意
作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。
感想は受け付けていません。
誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――
屋台飯! いらない子認定されたので、旅に出たいと思います。
彩世幻夜
ファンタジー
母が死にました。
父が連れてきた継母と異母弟に家を追い出されました。
わー、凄いテンプレ展開ですね!
ふふふ、私はこの時を待っていた!
いざ行かん、正義の旅へ!
え? 魔王? 知りませんよ、私は勇者でも聖女でも賢者でもありませんから。
でも……美味しいは正義、ですよね?
2021/02/19 第一部完結
2021/02/21 第二部連載開始
2021/05/05 第二部完結
あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。
▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ......
どうしようΣ( ̄□ ̄;)
とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!!
R指定は念のためです。
マイペースに更新していきます。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる