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欲と業

第十一章第34話 セブニッツの村

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 リルンを出発してから一週間ほどで、私たちはセブニッツの村に到着した。

 ここは本当に小さな村のようで、簡易な木の柵に囲まれた村の敷地内には木造平屋の素朴な家々が並んでいる。

「聖女様、教会はあちらです」
「ありがとうございます」

 レジスさんに案内され、私たちは村の中を歩いていく。するとすぐに村人のおじさんに声を掛けられた。

「おや? レジス君じゃないか。お客さん? 珍しいね」
「そうなんですよ。教会に用事があって」
「ああ、教会の方か」

 そう言っておじさんはこちらを見てきたので、私はにっこりと営業スマイルを返しておいた。

 するとおじさんは何を勘違いしたのか、ニヤついたいやらしい表情で私のほうへと近寄ってきた。

「なあ、嬢ちゃん。今ば――」

 次の瞬間、おじさんの喉元にクリスさんの聖剣が突きつけられていた。

「フィーネ様を侮辱するつもりか?」
「ひっ! し、し、失礼、し、しまし、た……」

 おじさんは顔面蒼白になり、カタカタと小刻みに震えている。

「聖女様! 申し訳ありません! 村の者が失礼しました!」

 レジスさんも顔を真っ青にして謝ってくる。

「え? せ、せい、じょ……?」

 顔面蒼白だったおじさんはさらに血の気が引いて真っ白になり、それから慌ててブーンからのジャンピング土下座を決めた。

 ええと、5点かな。まあ、さすがにあの状態からじゃまともな演技は無理だよね。

「神の御心のままに」

 そう言って起こしてあげるが、おじさんは震えたまま起き上がろうとしない。

「ええと……」
「フィーネ様、放っておいてよろしいかと思います」
「はあ、そうですか」
「聖女様、本当に申し訳ございません」
「いえ、レジスさんが悪いわけじゃないですからね」

 そうして私たちは再び村の中を歩いていく。すると再び村人から声を掛けられた。今度はおばさんだ。

「あれ? レジスじゃないか。この季節に来るなんて珍しいね。おや? とんでもない別嬪さんをたくさん連れてるねぇ」

 そう言われたレジスさんは、少し困った表情を浮かべている。

「ロラちゃんなら教会にいるよ」
「あ、はい。ありがとうございます」
「ロラさん?」

 私の問いにレジスさんは少し恥ずかしそうに口を開く。

「あ、はい。その、恋人でして……」

 なんと! レジスさんはリア充だったとは!

「だから誰も知らないこの村の場所を知っていたんですね」
「は、はい。そうなんですよ」
「でも、どうやって知り合ったんですか?」
「実はですね。前にこの村の近くに魔物が住み着いたことがあったんです。そのときリルンから派遣されたんですけど、討伐で怪我をしちゃいまして。でも彼女が優しく看病してくれたおかげで、その……」

 レジスさんは気恥ずかしそうにそう答える。

「なるほど。それで恋が芽生えたんですか」
「そうなんですよ」

 そういう事情なら、ぜひとも末永く爆発してもらいたいものだ。

「あ! 聖女様、着きました。ここが教会です」

 そうこうしているうちに教会に着いたようだ。一見すると少し大きいだけで他の家と変わらないが、しっかり教会のシンボルマークが掲げられている。

「こんにちは~」

 レジスさんは扉を開けると、中に向かってそう声をかけた。

「あら? あ! レジスさん!」

 中からとても嬉しそうな表情を浮かべたシスターさんがぱたぱたと駆け寄ってきた。

「やあ、ロラ」
「こんな時期にどうしたんですか? あ! もしかして、私に会いに来てくれたんですか?」
「え? あ、うん」
「レジスさん」

 いきなり目の前で二人が抱き合うと、熱烈なキスをし始めたではないか!

 ええと、これはどうしようか?

 なんだか久しぶりに会えた恋人たちの仲を邪魔するのも悪いしな……。

 そう思っていたのだが、クリスさんがものすごく不機嫌そうな様子で声を掛ける。

「レジス殿、いつまでフィーネ様を外に立たせているつもりだ?」
「え?」
「あ……」

 パッと二人は離れ、それからレジスさんは慌てた様子でブーンからのジャンピング土下座を決めた。

「も、申し訳ありませんでした!」

 ええと、5点だね。なんというか、前よりもひどい演技になっている。

 最近思うのだけれど、この国の人たちってもしかしてなんでもかんでもお祈りすればいいと思っているのではないだろうか?

「え? レジス? え? あ、まさか……!? か、神に感謝を!」

 ロラさんはどうやら私の正体に思い至ったようで、ブーンからのジャンピング土下座を決めた。

 そうだね。ロラさんの演技には将来性に対する期待込みで7点をあげていいかもしれないね。きちんと演技になっていたと思う。次回は指先を伸ばすのを意識して、さらに流れを大切にすればより高得点が狙えることだろう。

「神の御心のままに」

 こうして二人を立たせると、私たちは教会の中へと入るのだった。
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