上 下
511 / 625
欲と業

第十一章第32話 セブニッツへ旅路(前編)

しおりを挟む
「初めまして、聖女様! 私はレジスと申します! セブニッツまでご案内いたします!」

 そう元気よく挨拶してくれた彼はこの国の若い兵士だ。

 アスランさんたちが帰った後に迎賓館の職員にセブニッツがどこにあるのかを聞いてみたものの、残念ながらその場所を知っている人は誰もいなかった。

 だがどうやら職員さんが気を回してくれたらしく、なんと道案内役としてレジスさんを紹介してくれたのだ。

「フィーネ・アルジェンタータです。よろしくお願いします」
「はい! お役に立てるよう精一杯がんばります!」

 そう言ってブーンからのジャンピング土下座を決めた。

 うーん、6点かな。ちょっと焦りすぎなので、次からはもう少し落ち着いて演技することを意識したらいいんじゃないかな。

「神の御心のままに」

 いつもどおり、そんなことを考えているとはおくびにも出さずにレジスさんを起こしてあげる。

「ところでレジスさん、セブニッツの場所を皆さん知らなかったんですけどそんなに遠いんですか?」
「いえ、そういうわけではありません」

 そう答えると、レジスさんは少しバツが悪そうな表情を浮かべた。

「ここリルンから歩いて十日ほどなのですが、その、あまりにも小さな村なので知っている人がほとんどいないんです」
「歩くんですか?」
「はい。何せ、深い森の中にあるので……」

 なるほど、そういうことか。

「聖女様はまた、どうしてあんな何もない村に行かれるんですか?」
「はい。そこの修道院に用事があるんです」
「修道院?」

 レジスさんはそう聞き返すと、少し考えるような仕草を見せる。

「……ああ、きっと教会のことですね。木造の小さな教会ですけど、素朴でとてもいい教会なんですよ! あ! もしや、噂の種をセブニッツにも植えてくださるんですか!? ありがとうございます! ありがとうございます!」

 そう言ってまたもやブーンからのジャンピング土下座を決めた。

 うん、6点。すぐに改善するのは難しいのかもしれないけど、さっきと同じ演技では高得点をあげることはできない。

「神の御心のままに」

 さっさと起こして話を続ける。

「そうですね。立ち寄った場所には植えていますので、セブニッツにも植えていきますよ。それより、修道院ではなく教会なんですか?」
「え? あ、はい。そうですね。でも教会には小さな宿舎があるんです。そこでシスターが寝泊りしていますから、修道院とも言えると思います」
「ああ、なるほど」

 ということは、アミスタッド商会会長の娘さんはそこにいるんだろう。

「ところで、レジスさん。早速出発したいのですが、今からでも大丈夫ですか?」
「もちろんです! 道中には魔物も出ますからね! しっかりお守りいたしますよ!」
「え? ああ、はい。そうですね。よろしくお願いします」

 こうして私たちはレジスさんに案内され、セブニッツの村へと向かうのだった。

◆◇◆

 リルンの町を出て森の中をしばらく歩いていると、だんだんとあたりが薄暗くなってきた。

「聖女様! そろそろ野営の準備をなさいませんと危険です!」
「え?」

 私たちは特に疲れていないのでもう少し進むつもりだったのだが……。

 うん。そういえばレジスさんは普通の人なんだった。

「ああ、そういえばそうでしたね。じゃあ、今日は早めに休みましょう。あ、あそこでいいですかね?」
「はい、フィーネ様。問題ないと思います」
「わかりました」

 近くの平らになっている場所に私は結界を張ると、収納からテントを取り出してクリスさんに渡す。

 するとクリスさんは手慣れた手つきでテキパキとテントを張っていき、ものの数分でテントが完成した。

「ちょっと早いですけど、食事にしますか」
「はい」
「ごはん♪」

 続いて私は収納の中からスープの入った鍋とたき火セットを取り出してセットする。するとすぐにクリスさんが火打石で火をつけてくれた。

 暖かい炎がスープの入った鍋を加熱し、美味しそうな匂いが漂ってくる。

「え? え? え?」

 レジスさんが唖然とした表情で私たちのほうを見ている。

「どうしましたか?」
「あ、いえ……」
「レジスさん、テントは張らないんですか?」
「あ! は、はい! そうでした!」

 言われてようやく思い出したのか、テントを張り始めた。

 うーん? 何に唖然あぜんとしていたんだろうね。自分で野営の準備をしようって言い始めたのに。

「姉さま! 食べましょうよっ!」
「そうですね」

 私はスープを自分の器に盛り付けた。

 ちなみに食べる量がみんな違うため、最近はもう各自で欲しい量を自分で取っていくようになっている。

「いただきます」

 こうして私たちは一足先にちょっと早い夕食をいただく。

 そうこうしていると、なんとかテントを張り終えたレジスさんがやってきた。

「そこの鍋から欲しい量を取っていってください。パンはありますか?」
「っ! ありがとうございます! パン! あります!」

 レジスさんは自分の荷物から堅パンを取り出した。それからスープを自分の器によそい、祈りを捧げてから食べ始める。

「う、うまい! 聖女様! 滅茶苦茶美味しいです! まさか野営でこんなにうまいスープが食えるなんて!」

 レジスさんは大げさに感激しているが、ただのごった煮のスープだ。味付けだってお塩だけなので特別に美味しいというわけでもないだろうに。

 そんなことを思いつつも、私はスープをもう一口、もう一口といただくのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

追放された聖女の悠々自適な側室ライフ

白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」 平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。 そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。 そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。 「王太子殿下の仰せに従います」 (やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや) 表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。 今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。 マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃 聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

私は聖女(ヒロイン)のおまけ

音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女 100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女 しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。

神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜

星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」 「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」 (レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)  美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。  やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。 * 2023年01月15日、連載完結しました。 * ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました! * 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。 * この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。 * ブクマ、感想、ありがとうございます。

処理中です...