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欲と業
第十一章第30話 裏の繋がりと手掛かり
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その後、ラインス商会の会長リヒャルドさんは嫌疑不十分として無事に釈放された。また、パウルさんとヨハンさんは汚職と買収の罪で投獄されることとなった。
と、ここまでは良かったのだが、問題はシュタルクファミリーのボスの男を尋問していたときだった。
自分でやっておいてなんだが、【魅了】と【闇属性魔法】で無理やりしゃべらせるというのはいかがなものかと思うので、今後ともあまり積極的に使う気はない。
だがボスの男は尋問でも一切黙秘を貫いており、どうしてもと頼まれて私が尋問することになったのだ。
「こんにちは。シュタルクファミリーのアーヒム・シュタルクさんですね?」
牢屋の中でボスの男と対面した私はそう尋ねた。彼の名前はここに来るまでに教えてもらっている。
「……そうだ。わざわざ聖女様に来てもらえるとはなぁ。だが、俺は何を聞かれたって答えねぇぜ」
「そこをなんとか、答えてもらえませんか?」
「断る」
「そうですか」
仕方がない。
「では、私の目を見てください」
「あ?」
目と目が合った瞬間、【魅了】を発動し、素直に話したくなるようにと念じながらかなり強めに【闇属性魔法】を発動した。
するとアーヒムさんはそのままがっくりとうなだれる。
「私の質問に答えてください」
「……ああ」
「女性の水死体が発見された事件について、あなたは殺害した犯人を知っていますか?」
「……ああ」
やはりこの男が黒幕のようだ。
「その犯人は誰で、今どこにいますか?」
「……犯人はデンというモンだ。もう国を出てるはずだが、どこに行ったかは知らねぇ」
「そのデンさんはあなたの部下ですか?」
「……ああ」
「それでは、デンさんに殺害を命じたのは誰ですか?」
「……俺だ」
「なぜ殺害を命じたのですか? ヨハンさんからはラインス商会の評判を下げるように依頼されただけですよね?」
「……ラインス商会がハスラングループだからだ」
んん? やっぱり恨んでいたってこと?
「どうしてハスラングループだとそんなことをするんですか?」
「あいつらは許せねえ! ヘットナーファミリーはハスラングループとべったりだ。そんで俺らを散々利用するだけ利用して売りやがったんだ。俺らの稼ぎで散々甘い汁を吸ってきやがったくせにだ!」
アーヒムさんが急に怒りだした。
「ええと、商売とはなんでしょうか? ヘットナーファミリーに何をされたんですか?」
「奴隷だよ。俺らのアミスタット商会を使って、裏で奴隷を売って儲けてたんだよ。そんで散々美味しい思いをしてきたくせして、聖女様に媚びを売りたいアスラン・ハスランの意向で俺らを丸ごと売りやがったんだ! だから俺らはアスラン・ハスランもヘットナーファミリーも許さねぇ! 奴らに復讐できるんならなんでもやってやるよ!」
ええと、つまり私たちが来たせいで奴隷の商売をしていた商会とシュタルクファミリーがまるごと捕まったから恨んでたってことかな?
ううん。それはただの逆恨みな気がするけれど……。
「つまり、単なる嫌がらせで大事になるようにしたんですか?」
「ああ、そうだ。ラインス商会はヘットナーファミリーと懇意にしてやがるからな。そこが倒れりゃヘットナーファミリーの稼ぎも減る」
「……そんなことをしたって、アスランさんはたぶん何も気にしないと思いますよ?」
「知ったことか! 俺らはどうせ遅かれ早かれ捕まって死ぬんだ。そんなら一人でも多く道連れにしてやったほうがスカッとするだろうが」
「……」
もう後が無いから、どうなってもいいということのようだ。
「あ、あの……姉さま。レイアのことは……」
「あ、はい。そうでしたね。アーヒムさん、アミスタッド商会の人たちが売ったエルフの奴隷がどこにいるか知りませんか?」
「……知らねぇ。俺が直接売ったわけじゃねぇからな」
なるほど。それはそうだ。でも、その人たちはもうすでに処刑されてしまったと聞いている。
「では、知っている人で生きている人はいますか?」
アーヒムさんは少し考えるようなそぶりをみせ、それからおもむろに口を開く。
「たしか商会長の娘がリルンの東の森の中にある、セブニッツという村の修道院にいるはずだ」
「そうですか。ありがとうございます」
それから私は周囲を見回す。するとクリスさん、シズクさん、ルーちゃん、それに付き添いで来ていた尋問官の人も首を縦に振ったので私は【魅了】を解除する。
「……あ? お、俺はなぜ……」
そう言ってアーヒムさんはがっくりとうなだれた。
それにしても、話したくないことすらもこうして自分の意志でぺらぺらと話させてしまうなんて、やはりこの力は恐ろしい。
誰にだって人には言えない秘密があるだろうし、やっぱりこの力はけっして安易に使っていいものではない。
そう決意を固めていると、クリスさんが悩まし気に呟いた。
「リルンの東にある修道院ですか……」
「そうですね。でも……」
「姉さま! 行ってみましょう!」
「はい。そうしましょう」
もともとは精霊の島へ最短で行くために、リルンには寄らずに直接ノヴァールブールを目指す予定だった。
だが、ルーちゃんの妹を探すことだって同じくらい大切なことだ。ちょっと遠回りではあるけれど、この程度の寄り道は問題ないだろう。
こうして私たちは再びリルンを目指すことにしたのだった。
と、ここまでは良かったのだが、問題はシュタルクファミリーのボスの男を尋問していたときだった。
自分でやっておいてなんだが、【魅了】と【闇属性魔法】で無理やりしゃべらせるというのはいかがなものかと思うので、今後ともあまり積極的に使う気はない。
だがボスの男は尋問でも一切黙秘を貫いており、どうしてもと頼まれて私が尋問することになったのだ。
「こんにちは。シュタルクファミリーのアーヒム・シュタルクさんですね?」
牢屋の中でボスの男と対面した私はそう尋ねた。彼の名前はここに来るまでに教えてもらっている。
「……そうだ。わざわざ聖女様に来てもらえるとはなぁ。だが、俺は何を聞かれたって答えねぇぜ」
「そこをなんとか、答えてもらえませんか?」
「断る」
「そうですか」
仕方がない。
「では、私の目を見てください」
「あ?」
目と目が合った瞬間、【魅了】を発動し、素直に話したくなるようにと念じながらかなり強めに【闇属性魔法】を発動した。
するとアーヒムさんはそのままがっくりとうなだれる。
「私の質問に答えてください」
「……ああ」
「女性の水死体が発見された事件について、あなたは殺害した犯人を知っていますか?」
「……ああ」
やはりこの男が黒幕のようだ。
「その犯人は誰で、今どこにいますか?」
「……犯人はデンというモンだ。もう国を出てるはずだが、どこに行ったかは知らねぇ」
「そのデンさんはあなたの部下ですか?」
「……ああ」
「それでは、デンさんに殺害を命じたのは誰ですか?」
「……俺だ」
「なぜ殺害を命じたのですか? ヨハンさんからはラインス商会の評判を下げるように依頼されただけですよね?」
「……ラインス商会がハスラングループだからだ」
んん? やっぱり恨んでいたってこと?
「どうしてハスラングループだとそんなことをするんですか?」
「あいつらは許せねえ! ヘットナーファミリーはハスラングループとべったりだ。そんで俺らを散々利用するだけ利用して売りやがったんだ。俺らの稼ぎで散々甘い汁を吸ってきやがったくせにだ!」
アーヒムさんが急に怒りだした。
「ええと、商売とはなんでしょうか? ヘットナーファミリーに何をされたんですか?」
「奴隷だよ。俺らのアミスタット商会を使って、裏で奴隷を売って儲けてたんだよ。そんで散々美味しい思いをしてきたくせして、聖女様に媚びを売りたいアスラン・ハスランの意向で俺らを丸ごと売りやがったんだ! だから俺らはアスラン・ハスランもヘットナーファミリーも許さねぇ! 奴らに復讐できるんならなんでもやってやるよ!」
ええと、つまり私たちが来たせいで奴隷の商売をしていた商会とシュタルクファミリーがまるごと捕まったから恨んでたってことかな?
ううん。それはただの逆恨みな気がするけれど……。
「つまり、単なる嫌がらせで大事になるようにしたんですか?」
「ああ、そうだ。ラインス商会はヘットナーファミリーと懇意にしてやがるからな。そこが倒れりゃヘットナーファミリーの稼ぎも減る」
「……そんなことをしたって、アスランさんはたぶん何も気にしないと思いますよ?」
「知ったことか! 俺らはどうせ遅かれ早かれ捕まって死ぬんだ。そんなら一人でも多く道連れにしてやったほうがスカッとするだろうが」
「……」
もう後が無いから、どうなってもいいということのようだ。
「あ、あの……姉さま。レイアのことは……」
「あ、はい。そうでしたね。アーヒムさん、アミスタッド商会の人たちが売ったエルフの奴隷がどこにいるか知りませんか?」
「……知らねぇ。俺が直接売ったわけじゃねぇからな」
なるほど。それはそうだ。でも、その人たちはもうすでに処刑されてしまったと聞いている。
「では、知っている人で生きている人はいますか?」
アーヒムさんは少し考えるようなそぶりをみせ、それからおもむろに口を開く。
「たしか商会長の娘がリルンの東の森の中にある、セブニッツという村の修道院にいるはずだ」
「そうですか。ありがとうございます」
それから私は周囲を見回す。するとクリスさん、シズクさん、ルーちゃん、それに付き添いで来ていた尋問官の人も首を縦に振ったので私は【魅了】を解除する。
「……あ? お、俺はなぜ……」
そう言ってアーヒムさんはがっくりとうなだれた。
それにしても、話したくないことすらもこうして自分の意志でぺらぺらと話させてしまうなんて、やはりこの力は恐ろしい。
誰にだって人には言えない秘密があるだろうし、やっぱりこの力はけっして安易に使っていいものではない。
そう決意を固めていると、クリスさんが悩まし気に呟いた。
「リルンの東にある修道院ですか……」
「そうですね。でも……」
「姉さま! 行ってみましょう!」
「はい。そうしましょう」
もともとは精霊の島へ最短で行くために、リルンには寄らずに直接ノヴァールブールを目指す予定だった。
だが、ルーちゃんの妹を探すことだって同じくらい大切なことだ。ちょっと遠回りではあるけれど、この程度の寄り道は問題ないだろう。
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