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欲と業
第十一章第8話 教会の言い分
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翌日、私たちは主教さんに会うため大聖堂へとやってきた。アポなしでの訪問にもかかわらず私たちはすぐさま応接室に通され、すぐに主教さんと会うことができた。
「はじめまして、聖女フィーネ・アルジェンタータ様。ようこそお越しくださいました。わたくしめが主教のフェリペ四世でございます」
そう言って私を出迎えてくれたのは以前会った人とは別の主教さんだ。どうやら代替わりしたらしい。
「はじめまして、フィーネ・アルジェンタータです。突然すみません」
「いえいえ。して、本日は如何なるご用件でしょうか?」
「はい。瘴気を浄化する種についてです」
「っ!」
それを聞いた瞬間、主教さんの目つきが真剣なものとなった。
「アスランさんから、ブルースター共和国内での種の流通はアスランさんのグループが全て受けもちたいと言われたんです。ただ私がトゥカットで商人さんたちに託したときの希望とは違い、使われずに高値で取引されていることを心配しています」
「おお! やはり! あれは聖女様が容認されたことではなかったのですね!」
「別に売らないでほしいとは言いませんでした。彼らだって危険を冒して物を運んでいるのですから、報酬が無ければ困ってしまいます。ですが無料で渡した種があんな値段で取引されるなんて、想像すらしていませんでした」
「やはり! それもこれも、全てはハスラングループのせいなのです」
「え?」
「国境の町であるブルガニにて、ノヴァールブールよりやってきた商隊が聖女様より授かった種の存在が明かされ、政府に対してなるべく様々な場所に植えるよう取り計らってほしいとの申し出がありました」
なるほど。彼らはきちんと私の意図したとおりのことをしてくれたようだ。
「そこでしゃしゃり出てきたのがハスラングループの連中なのです。彼らは種を全て買占め、公平な分配をすると称してオークションにかけたのです。瘴気を浄化する聖女様の種というだけでみるみるうちに高値がつけられ、種はコレクターによって金貨十万枚ほどで落札されました」
ええ? そんなことをすればそうなるに決まってるじゃないか。
「その後、アスラン・ハスランはいつか聖女様がいらっしゃったときのためと迎賓館に種を植えました。するとリルンの周辺でのみ魔物の被害が少なくなり、聖女様の種の効果が広く知れ渡ることとなりました。そこでコレクターたちは種を売りに出しましたのですが、その値段は困っている町の足元を見るようなものだったのです」
うーん。弱者の弱みに付け込んでお金儲けをしようとは……。
「どうやらあのアスランという男が提示した金額は、そのオークションで落札された価格のようでござるな」
シズクさんがそう耳打ちしてきた。
なるほど。自分が売った価格だからそれが仕入れ値としては適正価格だと言いたいのだろう。
でもリーチェの種をオークションに掛けるなんてことさえしなければもっと安くみんなが使えたし、今ごろはこんな風にハスラングループじゃないと物資が運べないなんて話にはならなかったのではないだろうか?
「聖女様! どうか、どうかハスラングループに種を渡すようなことはなさらないでください。また連中の金儲けに利用されるだけですぞ!」
「え? ああ、ええと……」
別にお金儲けを否定するつもりはない。だが、そんなことをしたアスランさんがあまり信用できないということも確かだ。
「主教殿、一つ質問しても良いでござるか?」
「ええ、もちろんですよ。従者殿」
「もしフィーネ殿が貴殿らに種を託したとして、貴殿らは種を運ぶ力はあるでござるか? 大統領閣下もアスラン殿も、アスラングループの力を借りなければ物を運ぶことすらままならないと言っていたでござるよ?」
「今までであればそうでしょう。ですが今は違います。我々教会は信徒たちを守るため、熱心な信徒を集めて小規模ではありますが騎士団を結成いたしました。彼らであれば国内の各所へ、聖女様の貴重な種をお運びすることができるでしょう」
「なるほど。それで、具体的にはどこに植えるでござるか?」
「それぞれの町には教会がありますので、その教会の中庭に植える予定です。また、植える都市の優先順位も決めております」
そういって主教さんは地図を広げると、熱心に計画の説明を始めた。
「人口の多い町から順に行います。つきましては――」
それから三十分ほど延々と話し続けた主教さんの言葉には説得力があった。
「わかりました。では、今回は主教さんにお願いします」
「おお! ありがとうございます!」
「ただ、私たちはこれから極北の地を目指してエルムデンに行きます。だから途中の町は私が自分で種を植えることができますよ」
「それでしたら――」
こうして私たちはブルースター共和国中に種を配布する計画を練るのだった。
================
次回更新は通常どおり、2022/05/15 (日) 19:00 を予定しております。
「はじめまして、聖女フィーネ・アルジェンタータ様。ようこそお越しくださいました。わたくしめが主教のフェリペ四世でございます」
そう言って私を出迎えてくれたのは以前会った人とは別の主教さんだ。どうやら代替わりしたらしい。
「はじめまして、フィーネ・アルジェンタータです。突然すみません」
「いえいえ。して、本日は如何なるご用件でしょうか?」
「はい。瘴気を浄化する種についてです」
「っ!」
それを聞いた瞬間、主教さんの目つきが真剣なものとなった。
「アスランさんから、ブルースター共和国内での種の流通はアスランさんのグループが全て受けもちたいと言われたんです。ただ私がトゥカットで商人さんたちに託したときの希望とは違い、使われずに高値で取引されていることを心配しています」
「おお! やはり! あれは聖女様が容認されたことではなかったのですね!」
「別に売らないでほしいとは言いませんでした。彼らだって危険を冒して物を運んでいるのですから、報酬が無ければ困ってしまいます。ですが無料で渡した種があんな値段で取引されるなんて、想像すらしていませんでした」
「やはり! それもこれも、全てはハスラングループのせいなのです」
「え?」
「国境の町であるブルガニにて、ノヴァールブールよりやってきた商隊が聖女様より授かった種の存在が明かされ、政府に対してなるべく様々な場所に植えるよう取り計らってほしいとの申し出がありました」
なるほど。彼らはきちんと私の意図したとおりのことをしてくれたようだ。
「そこでしゃしゃり出てきたのがハスラングループの連中なのです。彼らは種を全て買占め、公平な分配をすると称してオークションにかけたのです。瘴気を浄化する聖女様の種というだけでみるみるうちに高値がつけられ、種はコレクターによって金貨十万枚ほどで落札されました」
ええ? そんなことをすればそうなるに決まってるじゃないか。
「その後、アスラン・ハスランはいつか聖女様がいらっしゃったときのためと迎賓館に種を植えました。するとリルンの周辺でのみ魔物の被害が少なくなり、聖女様の種の効果が広く知れ渡ることとなりました。そこでコレクターたちは種を売りに出しましたのですが、その値段は困っている町の足元を見るようなものだったのです」
うーん。弱者の弱みに付け込んでお金儲けをしようとは……。
「どうやらあのアスランという男が提示した金額は、そのオークションで落札された価格のようでござるな」
シズクさんがそう耳打ちしてきた。
なるほど。自分が売った価格だからそれが仕入れ値としては適正価格だと言いたいのだろう。
でもリーチェの種をオークションに掛けるなんてことさえしなければもっと安くみんなが使えたし、今ごろはこんな風にハスラングループじゃないと物資が運べないなんて話にはならなかったのではないだろうか?
「聖女様! どうか、どうかハスラングループに種を渡すようなことはなさらないでください。また連中の金儲けに利用されるだけですぞ!」
「え? ああ、ええと……」
別にお金儲けを否定するつもりはない。だが、そんなことをしたアスランさんがあまり信用できないということも確かだ。
「主教殿、一つ質問しても良いでござるか?」
「ええ、もちろんですよ。従者殿」
「もしフィーネ殿が貴殿らに種を託したとして、貴殿らは種を運ぶ力はあるでござるか? 大統領閣下もアスラン殿も、アスラングループの力を借りなければ物を運ぶことすらままならないと言っていたでござるよ?」
「今までであればそうでしょう。ですが今は違います。我々教会は信徒たちを守るため、熱心な信徒を集めて小規模ではありますが騎士団を結成いたしました。彼らであれば国内の各所へ、聖女様の貴重な種をお運びすることができるでしょう」
「なるほど。それで、具体的にはどこに植えるでござるか?」
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そういって主教さんは地図を広げると、熱心に計画の説明を始めた。
「人口の多い町から順に行います。つきましては――」
それから三十分ほど延々と話し続けた主教さんの言葉には説得力があった。
「わかりました。では、今回は主教さんにお願いします」
「おお! ありがとうございます!」
「ただ、私たちはこれから極北の地を目指してエルムデンに行きます。だから途中の町は私が自分で種を植えることができますよ」
「それでしたら――」
こうして私たちはブルースター共和国中に種を配布する計画を練るのだった。
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