勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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滅びの神託

第十章第58話 戦いのあと

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「あっ! 姉さまっ!」

 クリスさんにお姫様抱っこしてもらいながら王都のほうへと向かっていると、私たちの姿を遠くから見つけたルーちゃんが駆け寄ってきた。

「ルーちゃん、もう大丈夫です。炎龍王は倒しました」
「そんなことより、姉さまが無事でよかったですっ」
「はい。もう大丈夫ですよ」
「姉さまっ」

 ルーちゃんがお姫様抱っこされている私に引っ付いてきた。これではクリスさんもさすがに歩きづらそうだ。

「フィーネ? あなた、大丈夫ですの?」

 続いてシャルも駆け寄ってきてた。

 ああ、よかった。二人とも無事だったようだ。

「すみません。あの巨体を浄化するのにMPを使い切っちゃいました」
「はぁ? あの竜を浄化魔法で倒したんですの?」
「浄化魔法ではなくてリーチェにお願いして浄化してもらいました」
「……そう。ともかく、無事で何よりですわ。ほら、フィーネの作ったMPポーションですわ」
「あれ? どうしてシャルがそれを?」
「保管されていたものを陛下がこの討伐のために下賜してくださったんですわ」
「え? まだ使ってなかったんですか?」
「フィーネ……あなたのポーションは貴重品でしてよ? 一体誰がこんな高度なポーションを作れるって言うんですの?」
「え? ああ、言われてみたらそうかもしれませんね」
「あなたは本当に……」

 そう言ってシャルは複雑な表情を浮かべた。

「聖女様。クリスティーナ殿にシズク殿も、よくぞご無事で」
「アランさん。二人を守ってくれてありがとうございました」
「いえいえ。こちらこそ、ありがとうございました。聖女様が掛けてくださった魔法のおかげで、全ての騎士を失わずに済みました」
「え?」

 言われて顔を向けると、そこには二十人ほどの騎士たちが跪いていた。皆装備は一様にボロボロで、いかに激しい戦いだったかがよく分かる。

「あ、もしや生き残ったのは……」
「彼らだけでございます。ですが、聖女様の魔法で七名の騎士があの黒いブレスを浴びてもなんとか正気を保つことができました。おかげで、あの十三名も助かったのです。ありがとうございました」

 ん? 魔法? 私、何かしたっけ?

 そう思って【人物鑑定】をしてみると、どうやらその七人は私が【聖女の祝福】を試しにかけた騎士さんだったようだ。

 なるほど。ということはもしかすると、【聖女の祝福】は状態異常耐性を向上させるスキルなのかな?

「ええと、お役に立てたようで何よりです?」
「フィーネ、貴女どうして疑問形ですの?」
「あはは。あまり実感がないので……」
「全くもう。それより、早くこれをお飲みさない」
「あ、はい。ありがとうございます」

 それからMPポーションを飲んで元気になった私はお姫様抱っこを止めてもらい、自分の足で地面に立つ。

「さあ、帰りますわよ。民が待っていますわ」
「はい」

 こうして私たちは王都の門へと歩きだしたのだった。

◆◇◆

 私たちが王都につくと、何やら暴動が起きたような状態となっていた。

「あの黒いブレスは、王都まで届いていたんですの!?」

 あ、そうか。そういえばあのブレスを一度防ぎ損ねたんだった。

「じゃあ、王都全体に! 鎮静!」

 とりあえず鎮静魔法を展開するが、前とは違ってあまり手応えがない。

「あれ? かなりの人が無事なような?」

 疑問に思いつつもそのまましばらく展開し続け、手応えが一切なくなったところで私は鎮静魔法を止めた。

「うーん? どうなっていたんでしょうか?」
「ちょっと! フィーネ! 大丈夫なんですの? 貴女さっきまでMP切れでしたわよね!?」
「あ、はい。でも、ほとんど手応えがなかったので町の人の大半は大丈夫だったみたいです」
「え? どういうことですの?」

 私とシャルは思わず顔を見合わせていると、予想外の人物がやってきた。

「フィーネ嬢、それに勇者様も。ご無事で何よりです」
「えっ!? 教皇様?」
「はい。先ほどの強大な【聖属性魔法】はフィーネ嬢のものと思いまして、お迎えに上がりました」
「あ、ありがとうございます? でも、町の人たちは大丈夫だったんですか?」
「いえ。町の者たちは恐怖に怯え、パニックとなっていました。ですが神のお導きなのでしょう。神殿に居た者たちは無事でしたので、鎮静魔法を使える者を総動員しました。あのときミイラ病で駆け回った経験が活きた格好です」
「そうでしたか……」

 ああ、良かった。

「さあ、どうぞこちらへ」

 こうして私たちは教皇様に連れられてお城へと向かうのだった。

◆◇◆

 お城へとやってきた私たちはすぐに謁見の間へと通され、そのまま王様との謁見が始まった。

「勇者シャルロット・ドゥ・ガティルエ、ならびに聖女フィーネ・アルジェンタータよ。此度こたびはよくぞ、南方より襲来した赤き竜を打ち倒してくれた。我が国を、王都の民を代表して礼を言おう」

 王様がそのまま深々と頭を下げ、謁見の間がどよめいた。

「勇者シャルロット・ドゥ・ガティルエよ。神託を受けたばかりにもかかわらず、勇者としてその力を遺憾なく発揮し、王都を狙う邪悪な竜をよくぞ打ち倒してくれた。その功績を称え、褒美を取らせよう。何か欲しいものはあるか?」
「……国王陛下。あの巨大な竜を倒したのはわたくしではありません。ですから、わたくしには褒美を受け取る資格などございませんわ。どうかその褒美は全てフィーネにお与えくださいまし」
「なんと!? そなたの功績はないと申すのか?」
「ええ。わたくしは騎士たちに守られながら、無限に生み出される魔物を退治していただけ。わたくはあの竜相手に何もできませんでした。あの竜を倒したのは全て、フィーネたちの功績ですわ」
「……左様か。だが、それでも王都の民を守ってくれたことには変わりはない。後ほど、褒美を授けよう」
「……恐縮ですわ」

 うーん? でも一緒に戦っていたんだし、好きなものを貰ってもいいと思うんだけどなぁ。

「続いて聖女フィーネ・アルジェンタータよ。よくぞ王都を狙った邪悪な竜を打ち倒してくれた。何か欲しいものはあるか? できる限りの融通は利かせよう」
「え? あ、はい。そのあたりはまた後日、明細を出しますので……」
「む? ああ、フィーネじょ……こほん。聖女フィーネ・アルジェンタータはそうであったな」

 そう言って王様は呆れたような表情になった。

「さて、今後のことだがな。実は戦勝記念パレードをしたいと考えておる」
「パレード、ですか?」
「うむ。今回のことで王都を守っておった第一騎士団の精鋭部隊はほぼ壊滅し、竜の攻撃によって王都の民もかなりの混乱状態に陥ってしまった。そこで勇者と聖女が揃ってパレードをすれば民の気持ちも上向くと思ってな」

 ああ、なるほど。それはそうかもしれない。

「わかりました」
「もちろん、お受けいたしますわ」

 こうして私たちは戦勝パレードなるものに参加して偶像の役目をすることとなったのだった。
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