勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
上 下
468 / 625
滅びの神託

第十章第49話 決断

しおりを挟む
 クリスさんとシズクさんは次々と魔物を倒しているが、シャルのほうはかなりまずい状況だった。結界と防壁を上手く組み合わせてなんとか戦ってはいるものの、かなりの苦戦を強いられている。

 あれは、どう考えてもあれはまずい。

「シャル! 戻ってください!」
「わ、わたくしは!」
「シャルロット様!」

 アランさんが慌ててシャルに駆け寄り、死角から襲い掛かろうとしていた猿の魔物に背中から剣を突き立てる。

「グギェッ!?」

 うめき声を上げた猿の魔物の体から炎が噴出する。

「アラン様! わたくしが!」

 アランは剣を引き抜いて下がり、そこにシャルのつたない一撃が入った。すると猿の魔物に電撃が走り、すぐに塵となって消滅する。

 え? 何それ?

 って、そうか。あれはきっと勇者専用スキルである【雷撃】の効果だろう。【雷撃】スキルは瘴気を消滅させることができるスキルだから、瘴気から生まれた魔物はその攻撃を受けるだけで文字どおり消滅するのだろう。

 私が使ったときはただの健康器具にしかならなかったが、勇者が使えばこうなるようだ。

 ただ、それを加味したとしてもシャルの戦い方はあまりにも危うい。いくら【雷撃】スキルがあるとはいえ、あれではまたやられてしまう。

「シャル! 戻ってください! 今のシャルでは!」
「わたくしは、勇者ですわ! 勇者が、逃げるようなことなどあってはならないんですわ!」
「……シャル」

 これは、ダメだ。きっとシャルはあんなことがあって、しかもその弱みに付け込むようにあのハゲから役割を与えられたせいでそれしか見えなくなっているんだ。

 でもこんな戦い方では!

「フィーネ様! 大きいのがきます!」

 どうすべきかを考えていると、クリスさんが大声で危険を知らせてくれた。

 炎龍王を確認すると、大きく息を吸い込んでいる。

 あ、これはまずいやつだ!

 そう直感した私は全力で結界を張り直し、さらに炎龍王の口が開いた瞬間に防壁を再び口の中に設置した。

 次の瞬間、真っ赤な極太のレーザー光線のようなブレスが放たれた。

 強烈なその強烈なブレスは私の設置した防壁をいとも簡単に破壊し、私たちを守る結界に命中した。

 すさまじい威力だ。結界がぎしぎしと悲鳴を上げており、その維持にぐんぐんと魔力が持っていかれる。

「う、く、ここで負けては……」

 必死に結界を維持していると、突如ブレスが飛んでこなくなった。

 不思議に思って炎龍王を確認すると、シズクさんとクリスさんが左右から攻撃を仕掛けていた。

 助かった!

 はっきりいってここまで結界が危うくなったのはスイキョウとの戦い以来かもしれない。

 だがスイキョウのときとは違い、今の私は【魔力操作】をカンストしているのだ。にもかかわらず結界が破られそうになるとは!

 スイキョウよりも強力な攻撃を放てるということは、こいつはやはり間違いなく本物の炎龍王なのだろう。

 周りを確認すると、なんと結界で守った場所以外は地面が溶けて一面真っ赤になっている。どうやら砂漠で砂がガラス状になっていたのはこのブレスが原因のようだ。

 当然ではあるが、私たちの周りにいた魔物たちもまとめてブレスで消し飛ばされたようだ。そしてその射線上で戦っていた騎士たちも……。

 だが、こうなってしまうと空でも飛べない限りどんどん不利になっていく。今のシャルたちにこの溶けた地面の上で戦う方法はない。

 これは、もやはなりふり構っていられない。一刻も早く決着を付ける必要がある。

「シャル、アレンさん。それからルーちゃんも。退避してください。ここにいられては戦いの邪魔になります」

 こんなことを言いたくはない。だが、守るためにはどうしても言わなければならない。

「な、何を言っているんですの? わたくしは勇者ですのよ?」
「勇者でも! シャルを守りながら戦うのは負担になるんです!」
「あ……」

 シャルはきゅっと唇を噛んだ。ルーちゃんも悔しそうに俯いている。

 申し訳ないとは思うけれど、仕方がない。戦いについて来られない人が前に出ても犠牲が増えるだけだ。そして先ほどMPポーションをがぶ飲みしてしまったので、もう次の蘇生魔法を成功させる自信はない。

「シズクさん! クリスさん! 早く勝負をつけましょう!」
「そうでござるな!」

 シズクさんは戦いながらそう返事をする。

 私は結界をトンネルような形で張り直し、王都へと逃げられるように退路を作り出した。

「向こうまで繋げてあります。この上を走っていけば溶けた地面の上を歩かずに済みます。さあ、早く行ってください!」
「う……姉さま。絶対に帰ってきてくださいねっ!」
「はい。約束です。私は絶対に死にませんから」

 そうしてルーちゃんは悔しそうに走っていった。あとは向こうにいる騎士さんたちと合流して、もっと王都のほうまで撤退してくれればいい。

「アランさん、シャルもです。早く行ってください!」
「わ、わたくしは……」
「シャルロット様。ここは聖女様の仰るとおりです。今のシャルロット様には経験が足りません。ここは聖女様とお二人の聖騎士に任せ、再起を図るのです」
「アラン様……」

 シャルはまたもや悔しそうに唇を噛む。

「フィーネ。わたくしの前からいなくなるなど、許しませんわよ?」
「シャル、ちゃんと私は帰ってきます。あいつに負けるつもりはありません」
「……フィーネ。その言葉、信じましたわ」

 そう言い残し、シャルはアランさんと共に王都のほうへと走っていったのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?

シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。 クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。 貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ? 魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。 ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。 私の生活を邪魔をするなら潰すわよ? 1月5日 誤字脱字修正 54話 ★━戦闘シーンや猟奇的発言あり 流血シーンあり。 魔法・魔物あり。 ざぁま薄め。 恋愛要素あり。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました

ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...