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滅びの神託
第十章第48話 勇者の実力
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2022/01/11:一昨日の日曜日(2022/01/09)分の更新を設定し忘れていたため、本日二話更新しております。本話はその二話目となりますので、前話を未読の方はそちらを先にお読みください。お手数をおかけして申し訳ございませんが、何卒よろしくお願いいたします。
================
「ああ、シャル。良かった! シャル!」
私は横たわるシャルに思わず抱きついた。
「フィーネ、あなた今までどこで油を売っていたんですの? 今恐ろし――」
「ああ、シャル。シャル!」
「ちょっと、フィーネ。痛いですわ」
「あ、ごめんなさい」
おっと、しまった。ちょっと力が入りすぎてしまったようだ。
私は慌ててシャルから離れる。
「あら? そういえばわたくし、一体……っ!」
シャルは飛び起きると自分の体を確認した。そして自分のお腹をペタペタと触って不思議そうに首を傾げている。
「どうして? わたくしはあの竜に踏みつぶされたはずじゃ……?」
「ええと、その、危ないところでしたが、なんとか治せました」
「……あの竜がわたくしを殺さなかったんですの?」
「ええと、まあ、その、間に合ったんです」
「そうですのね。まあ、フィーネならそのくらいできるということですわね。あら? なんですの? その空いたポーション瓶の山は?」
「え? ええと、たくさん飲んじゃいました」
「……フィーネ。あなた、何か隠していませんこと?」
「そ、そんなこと……」
「……まあいいですわ。フィーネ、ありがとう。助かりましたわ」
「はい」
疑われているようだが、なんとか【蘇生魔法】のことは隠すことができた。
シャルだけで留めておいてもらえるのであれば、なんとなく打ち明けてもいいような気はする。だがなんとなくだが、そうはならないような気がするのだ。
そうなってしまうとものすごい数の蘇生依頼が舞い込んできそうな気がする。もちろん【回復魔法】のようにサクッとできるならそれでも構わない。だがここまでMPの消費が激しいとなると、依頼を受けられるのは一日に一度が限度だろう。しかも私の今のMPでは全く足りなかったので、蘇生をするたびにすさまじい数のMPポーションを消費することになるのは間違いない。
いくら私でも、これが世に知られてはまずいということだけは理解できる。
そんな事を考えていると、シャルが真剣ではあるもののどこか嬉しそうな表情で私を真っすぐに見つめてきた。
「フィーネ」
「はい」
「わたくしは聖女にはなれませんでしたが、勇者に選ばれましたわ。フィーネ、わたくしと共にあの竜から王都を救ってくださる?」
ああ、あの門番さんが言っていたことは本当だったのか。
本当はもう戦ってほしくなどないけれど、シャルの性格であれば絶対に退くことなどないだろう。
それに勇者であるならば何か特別な力が授けられているはずだ。ならば協力して戦ったほうがいいだろう。
もちろん、私だって王都の人たちは守りたいしね。
「はい。シャル。もちろんです」
「あ、あたしもっ」
「ええ。ルミアも、共に参りましょう」
シャルは神々しい剣を手に立ち上がった。
「シャルは剣も使えたんですか?」
「ええ。ついこの間始めたばかりですわ。でも、わたくしにはこの神剣ユグドネソスがありますの」
そう言ってシャルは愛おしそうに神剣の柄を撫でた。
ん? ユグドネソス? あれ? ユーグさんの本名ってたしかそんな感じじゃなかったっけ?
一瞬だけあのハゲの顔が頭を過った。
ああ、なんだか嫌な予感がする。
「さあ、フィーネ! 行きますわよ」
シャルはそう言ってシズクさんとクリスさんが二人で抑えている炎龍王へと走り出した。
走り出したのだが……。
ものすごく遅い。いや、仕方がないのは分かる。だって、シャルはただの人間だ。しかももともと剣士ではなく聖女を目指していたのだから、剣で戦うための訓練などしてきていないのだろう。
だが、あまりにも遅すぎる。
シャルのレベルは一体いくつなのだろうか?
このまま戦わせては、また死なせてしまうのではないだろうか?
「王都はやらせませんわ!」
そう叫んだシャルは炎龍王に飛びかかろうとするが、そこに炎龍王から尻尾の一撃が飛んできた。
「危ない!」
私は防壁でその一撃を防いであげた。するとその隙にシャルは剣を尻尾に叩きつけようとしたが、やはりそれも遅すぎる。
シャルの剣が命中する前に尻尾を引っ込めた炎龍王の体から、再び黒い波動を迸り、あちこちに大量の魔物が出現する。
「う、あ……」
おや? 何やら近くでうめき声のような音が聞こえたような?
「せい、じょ、さま……」
おっと。気のせいではないようだ。
声がしたほうを振り向くと、なんと地面に倒れているアランさんが顔をこちらに向けていた。
しまった! シャルのことに必死ですっかり忘れていた。
私は治癒魔法をかけて治療してあげる。
「おお、聖女様! ありがとうございます! 流石ですな。シャルロット様のことも、ありがとうございました」
あ、あれ? もしかして【蘇生魔法】を見られた?
しかしアランさんはそのことにそれ以上は触れず、目の前の魔物たちに目を向けた。
「聖女様。まずはこの魔物どもをなんとかしましょう。あの竜の生み出す魔物はどれも強く、一匹一匹がオーガをも超える強さです。その中でも特にあの虎の魔物が――」
アランさんがそう言ったそばからシズクさんが近くに現れた虎の魔物を一刀両断した。
「……そ、それとあのイノシシの魔物も突進が――」
アランさんがそう言った瞬間、クリスさんが突進してきたイノシシの魔物を斬撃で一刀両断にした。
「強力……あ、その、はい。シズク殿とクリスティーナ殿には必要なかったですな……」
なんともバツが悪そうにアランさんはそう言ったのだった。
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「ああ、シャル。良かった! シャル!」
私は横たわるシャルに思わず抱きついた。
「フィーネ、あなた今までどこで油を売っていたんですの? 今恐ろし――」
「ああ、シャル。シャル!」
「ちょっと、フィーネ。痛いですわ」
「あ、ごめんなさい」
おっと、しまった。ちょっと力が入りすぎてしまったようだ。
私は慌ててシャルから離れる。
「あら? そういえばわたくし、一体……っ!」
シャルは飛び起きると自分の体を確認した。そして自分のお腹をペタペタと触って不思議そうに首を傾げている。
「どうして? わたくしはあの竜に踏みつぶされたはずじゃ……?」
「ええと、その、危ないところでしたが、なんとか治せました」
「……あの竜がわたくしを殺さなかったんですの?」
「ええと、まあ、その、間に合ったんです」
「そうですのね。まあ、フィーネならそのくらいできるということですわね。あら? なんですの? その空いたポーション瓶の山は?」
「え? ええと、たくさん飲んじゃいました」
「……フィーネ。あなた、何か隠していませんこと?」
「そ、そんなこと……」
「……まあいいですわ。フィーネ、ありがとう。助かりましたわ」
「はい」
疑われているようだが、なんとか【蘇生魔法】のことは隠すことができた。
シャルだけで留めておいてもらえるのであれば、なんとなく打ち明けてもいいような気はする。だがなんとなくだが、そうはならないような気がするのだ。
そうなってしまうとものすごい数の蘇生依頼が舞い込んできそうな気がする。もちろん【回復魔法】のようにサクッとできるならそれでも構わない。だがここまでMPの消費が激しいとなると、依頼を受けられるのは一日に一度が限度だろう。しかも私の今のMPでは全く足りなかったので、蘇生をするたびにすさまじい数のMPポーションを消費することになるのは間違いない。
いくら私でも、これが世に知られてはまずいということだけは理解できる。
そんな事を考えていると、シャルが真剣ではあるもののどこか嬉しそうな表情で私を真っすぐに見つめてきた。
「フィーネ」
「はい」
「わたくしは聖女にはなれませんでしたが、勇者に選ばれましたわ。フィーネ、わたくしと共にあの竜から王都を救ってくださる?」
ああ、あの門番さんが言っていたことは本当だったのか。
本当はもう戦ってほしくなどないけれど、シャルの性格であれば絶対に退くことなどないだろう。
それに勇者であるならば何か特別な力が授けられているはずだ。ならば協力して戦ったほうがいいだろう。
もちろん、私だって王都の人たちは守りたいしね。
「はい。シャル。もちろんです」
「あ、あたしもっ」
「ええ。ルミアも、共に参りましょう」
シャルは神々しい剣を手に立ち上がった。
「シャルは剣も使えたんですか?」
「ええ。ついこの間始めたばかりですわ。でも、わたくしにはこの神剣ユグドネソスがありますの」
そう言ってシャルは愛おしそうに神剣の柄を撫でた。
ん? ユグドネソス? あれ? ユーグさんの本名ってたしかそんな感じじゃなかったっけ?
一瞬だけあのハゲの顔が頭を過った。
ああ、なんだか嫌な予感がする。
「さあ、フィーネ! 行きますわよ」
シャルはそう言ってシズクさんとクリスさんが二人で抑えている炎龍王へと走り出した。
走り出したのだが……。
ものすごく遅い。いや、仕方がないのは分かる。だって、シャルはただの人間だ。しかももともと剣士ではなく聖女を目指していたのだから、剣で戦うための訓練などしてきていないのだろう。
だが、あまりにも遅すぎる。
シャルのレベルは一体いくつなのだろうか?
このまま戦わせては、また死なせてしまうのではないだろうか?
「王都はやらせませんわ!」
そう叫んだシャルは炎龍王に飛びかかろうとするが、そこに炎龍王から尻尾の一撃が飛んできた。
「危ない!」
私は防壁でその一撃を防いであげた。するとその隙にシャルは剣を尻尾に叩きつけようとしたが、やはりそれも遅すぎる。
シャルの剣が命中する前に尻尾を引っ込めた炎龍王の体から、再び黒い波動を迸り、あちこちに大量の魔物が出現する。
「う、あ……」
おや? 何やら近くでうめき声のような音が聞こえたような?
「せい、じょ、さま……」
おっと。気のせいではないようだ。
声がしたほうを振り向くと、なんと地面に倒れているアランさんが顔をこちらに向けていた。
しまった! シャルのことに必死ですっかり忘れていた。
私は治癒魔法をかけて治療してあげる。
「おお、聖女様! ありがとうございます! 流石ですな。シャルロット様のことも、ありがとうございました」
あ、あれ? もしかして【蘇生魔法】を見られた?
しかしアランさんはそのことにそれ以上は触れず、目の前の魔物たちに目を向けた。
「聖女様。まずはこの魔物どもをなんとかしましょう。あの竜の生み出す魔物はどれも強く、一匹一匹がオーガをも超える強さです。その中でも特にあの虎の魔物が――」
アランさんがそう言ったそばからシズクさんが近くに現れた虎の魔物を一刀両断した。
「……そ、それとあのイノシシの魔物も突進が――」
アランさんがそう言った瞬間、クリスさんが突進してきたイノシシの魔物を斬撃で一刀両断にした。
「強力……あ、その、はい。シズク殿とクリスティーナ殿には必要なかったですな……」
なんともバツが悪そうにアランさんはそう言ったのだった。
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