勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
上 下
467 / 625
滅びの神託

第十章第48話 勇者の実力

しおりを挟む
2022/01/11:一昨日の日曜日(2022/01/09)分の更新を設定し忘れていたため、本日二話更新しております。本話はその二話目となりますので、前話を未読の方はそちらを先にお読みください。お手数をおかけして申し訳ございませんが、何卒よろしくお願いいたします。
================

「ああ、シャル。良かった! シャル!」

 私は横たわるシャルに思わず抱きついた。

「フィーネ、あなた今までどこで油を売っていたんですの? 今恐ろし――」
「ああ、シャル。シャル!」
「ちょっと、フィーネ。痛いですわ」
「あ、ごめんなさい」

 おっと、しまった。ちょっと力が入りすぎてしまったようだ。

 私は慌ててシャルから離れる。

「あら? そういえばわたくし、一体……っ!」

 シャルは飛び起きると自分の体を確認した。そして自分のお腹をペタペタと触って不思議そうに首をかしげている。

「どうして? わたくしはあの竜に踏みつぶされたはずじゃ……?」
「ええと、その、危ないところでしたが、なんとか治せました」
「……あの竜がわたくしを殺さなかったんですの?」
「ええと、まあ、その、間に合ったんです」
「そうですのね。まあ、フィーネならそのくらいできるということですわね。あら? なんですの? その空いたポーション瓶の山は?」
「え? ええと、たくさん飲んじゃいました」
「……フィーネ。あなた、何か隠していませんこと?」
「そ、そんなこと……」
「……まあいいですわ。フィーネ、ありがとう。助かりましたわ」
「はい」

 疑われているようだが、なんとか【蘇生魔法】のことは隠すことができた。

 シャルだけで留めておいてもらえるのであれば、なんとなく打ち明けてもいいような気はする。だがなんとなくだが、そうはならないような気がするのだ。

 そうなってしまうとものすごい数の蘇生依頼が舞い込んできそうな気がする。もちろん【回復魔法】のようにサクッとできるならそれでも構わない。だがここまでMPの消費が激しいとなると、依頼を受けられるのは一日に一度が限度だろう。しかも私の今のMPでは全く足りなかったので、蘇生をするたびにすさまじい数のMPポーションを消費することになるのは間違いない。

 いくら私でも、これが世に知られてはまずいということだけは理解できる。

 そんな事を考えていると、シャルが真剣ではあるもののどこか嬉しそうな表情で私を真っすぐに見つめてきた。

「フィーネ」
「はい」
「わたくしは聖女にはなれませんでしたが、勇者に選ばれましたわ。フィーネ、わたくしと共にあの竜から王都を救ってくださる?」

 ああ、あの門番さんが言っていたことは本当だったのか。

 本当はもう戦ってほしくなどないけれど、シャルの性格であれば絶対に退くことなどないだろう。

 それに勇者であるならば何か特別な力が授けられているはずだ。ならば協力して戦ったほうがいいだろう。
 
 もちろん、私だって王都の人たちは守りたいしね。

「はい。シャル。もちろんです」
「あ、あたしもっ」
「ええ。ルミアも、共に参りましょう」

 シャルは神々しい剣を手に立ち上がった。

「シャルは剣も使えたんですか?」
「ええ。ついこの間始めたばかりですわ。でも、わたくしにはこの神剣ユグドネソスがありますの」

 そう言ってシャルは愛おしそうに神剣の柄をでた。

 ん? ユグドネソス? あれ? ユーグさんの本名ってたしかそんな感じじゃなかったっけ?

 一瞬だけあのハゲの顔が頭をよぎった。

 ああ、なんだか嫌な予感がする。

「さあ、フィーネ! 行きますわよ」

 シャルはそう言ってシズクさんとクリスさんが二人で抑えている炎龍王へと走り出した。

 走り出したのだが……。

 ものすごく遅い。いや、仕方がないのは分かる。だって、シャルはただの人間だ。しかももともと剣士ではなく聖女を目指していたのだから、剣で戦うための訓練などしてきていないのだろう。

 だが、あまりにも遅すぎる。

 シャルのレベルは一体いくつなのだろうか?

 このまま戦わせては、また死なせてしまうのではないだろうか?

「王都はやらせませんわ!」

 そう叫んだシャルは炎龍王に飛びかかろうとするが、そこに炎龍王から尻尾の一撃が飛んできた。

「危ない!」

 私は防壁でその一撃を防いであげた。するとその隙にシャルは剣を尻尾に叩きつけようとしたが、やはりそれも遅すぎる。

 シャルの剣が命中する前に尻尾を引っ込めた炎龍王の体から、再び黒い波動をほとばしり、あちこちに大量の魔物が出現する。

「う、あ……」

 おや? 何やら近くでうめき声のような音が聞こえたような?

「せい、じょ、さま……」

 おっと。気のせいではないようだ。

 声がしたほうを振り向くと、なんと地面に倒れているアランさんが顔をこちらに向けていた。

 しまった! シャルのことに必死ですっかり忘れていた。

 私は治癒魔法をかけて治療してあげる。

「おお、聖女様! ありがとうございます! 流石ですな。シャルロット様のことも、ありがとうございました」

 あ、あれ? もしかして【蘇生魔法】を見られた?

 しかしアランさんはそのことにそれ以上は触れず、目の前の魔物たちに目を向けた。

「聖女様。まずはこの魔物どもをなんとかしましょう。あの竜の生み出す魔物はどれも強く、一匹一匹がオーガをも超える強さです。その中でも特にあの虎の魔物が――」

 アランさんがそう言ったそばからシズクさんが近くに現れた虎の魔物を一刀両断した。

「……そ、それとあのイノシシの魔物も突進が――」

 アランさんがそう言った瞬間、クリスさんが突進してきたイノシシの魔物を斬撃で一刀両断にした。

「強力……あ、その、はい。シズク殿とクリスティーナ殿には必要なかったですな……」

 なんともバツが悪そうにアランさんはそう言ったのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

異世界に来ちゃったよ!?

いがむり
ファンタジー
235番……それが彼女の名前。記憶喪失の17歳で沢山の子どもたちと共にファクトリーと呼ばれるところで楽しく暮らしていた。 しかし、現在森の中。 「とにきゃく、こころこぉ?」 から始まる異世界ストーリー 。 主人公は可愛いです! もふもふだってあります!! 語彙力は………………無いかもしれない…。 とにかく、異世界ファンタジー開幕です! ※不定期投稿です…本当に。 ※誤字・脱字があればお知らせ下さい (※印は鬱表現ありです)

俺は普通の高校生なので、

雨ノ千雨
ファンタジー
普通の高校生として生きていく。その為の手段は問わない。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

独身貴族の異世界転生~ゲームの能力を引き継いで俺TUEEEチート生活

髙龍
ファンタジー
MMORPGで念願のアイテムを入手した次の瞬間大量の水に押し流され無念の中生涯を終えてしまう。 しかし神は彼を見捨てていなかった。 そんなにゲームが好きならと手にしたステータスとアイテムを持ったままゲームに似た世界に転生させてやろうと。 これは俺TUEEEしながら異世界に新しい風を巻き起こす一人の男の物語。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

おばさん、異世界転生して無双する(꜆꜄꜆˙꒳˙)꜆꜄꜆オラオラオラオラ

Crosis
ファンタジー
新たな世界で新たな人生を_(:3 」∠)_ 【残酷な描写タグ等は一応保険の為です】 後悔ばかりの人生だった高柳美里(40歳)は、ある日突然唯一の趣味と言って良いVRMMOのゲームデータを引き継いだ状態で異世界へと転移する。 目の前には心血とお金と時間を捧げて作り育てたCPUキャラクター達。 そして若返った自分の身体。 美男美女、様々な種族の|子供達《CPUキャラクター》とアイテムに天空城。 これでワクワクしない方が嘘である。 そして転移した世界が異世界であると気付いた高柳美里は今度こそ後悔しない人生を謳歌すると決意するのであった。

処理中です...