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滅びの神託

第十章第36話 廃墟

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 想定以上に強い魔物が出たのでイザールから同行してくれた皆さんには帰ってもらった。というのも、シズクさんですら【聖女の口付】の効果がないと苦戦するかもしれないような魔物が出たのだ。であればそのレベルにない彼らがいても戦力どころか足手まといになるだけで、いつかは犠牲が出てしまうと考えたからだ。

 本当はランベルトさんたちにも帰って欲しい。だが彼らは私を王都まで無事に連れ帰ることが使命なので、たとえ命を落とすことになったとしても一緒に行く、と頑として聞き入れてもらえなかったので渋々諦めた。

 最悪の場合は見捨てていいとは言われたけれど、さすがにそれは寝覚めが悪い。できる範囲で守ってあげようとは思うけれど、どうにも私を守ると言っている人を私が守るのはなんとも不思議な気分だ。

 そんなこんなで四日ほど歩き、なぜか一度たりとも魔物に襲われることなく私たちはイエロープラネット首長国連邦の首都エイブラに到着した。

 いや、エイブラだった場所と表現したほうが正確かもしれない。

 巨大な城壁は無残に崩れ去り、きれいに整っていたメインストリートと沿道の建物も無残に破壊されている。

 例の赤い竜の炎による火事もあったのだろう。あちこちが焼け落ちており、一部の建物は炎の熱で溶けたのかおかしな壊れ方をしている。

 当然私たちを出迎えてくれた市民たちの姿もなく、また私たちを追い立てた兵士たちの姿もない。

 動くものなど何一つない。完全な廃墟が現在のエイブラの姿だ。

「誰も、いませんね」
「地形があそこまで変えてしまうほどの力を持った竜です。抗う術はなかったのでしょう」
「そうですね……」

 とはいえ、多くの人たちが犠牲になってしまったというのは悲しい。いくら人間が自ら生み出した瘴気が原因だとしても、関係のない子供たちだって多くいたはずだ。

 この国の人たちには酷いことをされたがそれは全員ではないし、何より私は彼らに反省してほしいとは思っていたけれど死んでほしいなどとは思っていなかった。

 それらを思うとなんともやりきれない気持ちになる。

「フィーネ殿。宮殿のほうに行ってみるでござる。あそこの地下ならば、誰か生き残っているかもしれないでござるよ」
「そうですね。行ってみましょう」

 こうして私たちは宮殿を目指して歩き始めたのだった。

◆◇◆

「いやはや、これまた見事なまでに破壊されているでござるな」

 シズクさんが呆れているような驚いているような風にそう呟いた。

 シズクさんの言うとおり、あの美しい宮殿も町の建物同じく完膚なきまでに破壊されている。大理石の建物は完全につぶれ、玉ねぎ型のドームだって跡形もない。様々な色のタイルの破片が地面に散らばっているあたりが恐らくドームのある神殿があった場所なのだろう。だが、そのタイルの破片といくつかの柱以外に神殿らしきものは何もないのだ。

「本当に、何もなくなってしまいましたね……」
「はい」

 なんの気なしにそう呟いた私にクリスさんが相槌を打ってくれた。

「姉さまっ! 来てくださいっ!」

 神殿跡を調べてくれていたルーちゃんが何か発見したようだ。

 呼ばれてルーちゃんのところへ行くと、なんとそこには地下へと続く階段があった。

「こんなところに階段が……。ルーちゃん。よく見つけましたね」
「えへへっ。実はマシロが見つけてくれたんですよ」

 そう言ってしゃがんだルーちゃんは何もない自分の膝あたりを撫でた。

 ああ、なるほど。あそこに召喚していない状態のマシロちゃんがいるのか。そう思ってよく見てみると、なんとなく気配のようなものは感じられる。

「マシロちゃん。ありがとうございます。誰か生き残りがいるかもしれませんから、行ってみましょう」
「はい」
「ランベルトさんたちはここを守っていて貰えますか?」
「お任せください!」

 それから浄化魔法で明かりを作ると階段を降り、地下通路を歩いていく。そうしてしばらくすると、私たちは見覚えのある場所に出てきた。

「あれ? これは?」
「サラ殿の開けた穴でござるな」

 ああ、うん。あの筋肉魔法ね。

 中を覗いてみるとルフィカールが封印されていた台座もそのままに残っている。

 そしてその陰にはなんと、ハーリドさんが倒れていたのだ!

「ハーリドさん!」

 私は慌てて駆け寄ったたが、すぐにハーリドさんはもう手遅れだということを悟った。

 もう、何日も前にこと切れたのだろう。その体は腐臭を放っている。

 死因は……何か鋭利なもので体中をめった刺しにされたようだ。

「これはいくらフィーネ殿と言えども無理でござるな」
「そうですね。あ、いや? ちょっと試してみますね」

 私はハーリドさんの遺体の隣で跪いて手をかざすと、【蘇生魔法】を発動した。【回復魔法】を使ったとはまた違う感覚で魔力が使われていっているのを感じる。

 私の手の平からは柔らかな優しい光があふれだし、やがてハーリドさんの遺体を包み込んだ。

 だが、その光はなんの手応えもなくすぐに消えてしまった。

 ううん。どうやらハーリドさんを蘇生させることはできないようだ。

 たしか、【蘇生魔法】で蘇生できる条件は外的要因で死んで魂が残っていることだったはずだ。

 死亡原因はこの刺し傷だろうから、効果がないということは魂がもう残っていないということなのだろう。

 ということは、ハーリドさんよりも亡くなってから時間が経ってしまったユーグさんをこの【蘇生魔法】で蘇らせるのは難しいかもしれない。

「フィーネ様?」
「ううん。やっぱり無理みたいです」
「当然です。死者を蘇生できるのは神のみなのですから」

 うーん? 【蘇生魔法】というスキルがあるのだからそんなことはない気もするのだけれど……。

「フィーネ様。それよりもハーリド殿を送ってやってください」
「え? ああ、そうですね。葬送!」

 魂がもう残っていないのであれば問題ない気もするが、私は念のためにハーリドさんを送ってやる。

 それからしばらく地下を探索したものの生存者を見つけることはできなかったため、私たちは諦めて地上へと引き返したのだった。
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