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滅びの神託
第十章第35話 口付の力
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翌日、私たちは戦いがあったという東の砂漠へと歩いて向かった。歩いて移動するのは単に馬車が砂漠を移動するのに適していないというだけでない。魔物が多くいるという情報があったため、すぐに私たちが戦えるようにという狙いもあるのだ。
そうしてかなり緊張しながらしばらく歩いていくと、どうやら戦いがあったらしい場所に到着した。
キノコ雲が見えるほどの爆発があったという言葉のとおり、地面はあちこちにクレーターができている。しかも砂漠の砂がガラス状に変化しており、よほどの高温になっていたということもうかがえる。
しかもそれだけでなく、何やら剣で切られたように地面が抉れている場所がいくつもある。
「一体何をどうすればこのような状態になるでござるか?」
「わからん。だが、少なくとも今の我々ではこのような戦いはできないということはたしかだな」
うん。その点については私も同意見だ。結界が破られないので大丈夫だと思われているかもしれないが、これほどまでの火力を前に持ちこたえられるかと聞かれたら正直自信はない。
それと、この場所にはもう一つ特徴的なものがある。遠目からなのにはっきりと分かるほどに黒い靄があちこちに存在しているのだ。
そう。あれは瘴気だろう。
それこそ、ブラックレインボー帝国で見たあの最悪な黒兵製造施設と同じような濃さの瘴気が存在しているのだ。
「どうしてこれほどの瘴気が?」
しかし、私の疑問に対する答えを持っている者は誰もいない。
「とりあえず、浄化したほうがいいですかね? リーチェ」
私はリーチェを呼ぶと魔力を渡そうとしたが、リーチェがそれを拒否してきた。
「え? あ、魔物がいるから無理?」
次の瞬間、右のほうから炎の球が飛んできた。
「フィーネ様!」
「来るでござるよ!」
「結界!」
私はすぐさま全員を守る結界を張り、その炎の弾を受け止めた。
炎が飛んできた方向を見るとそこには全身に炎を纏った虎のような魔物がおり、私たちのほうを睨んでいる。
「あの魔物は?」
「いえ、存じ上げません」
「拙者も初めてみるでござるな」
ルーちゃんを見遣ると無言で首をふるふると横に振った。どうやら誰も見たことのない魔物のようだ。
「グルルルル」
虎は唸り声を上げた次の瞬間、姿を消した。
「えっ?」
「グガッ!?」
一瞬のうちに距離を詰めてきた虎は私の結界にぶつかって弾かれる。
「な、なんという……」
一歩も反応できなかったランベルトさんが驚愕の声を上げている。おそらく、あの虎の動きが全く見えていなかったのだろう。
ああ、これはダメな奴だ。結界を解いた瞬間、私たちはきっと全員殺される。
「シズクさん! クリスさん! 見えましたか?」
「速さは五分といったところでござるな」
「……申し訳ありません。私にはほとんど見えませんでした」
なるほど。ということはシズクさんに任せるしかなさそうだ。
「フィーネ殿。フィーネ殿と再会したあの日クリス殿に使ったあの口付けの魔法、拙者にも使うことができるでござるか?」
「え? ああ、あれですか? できると思いますよ。それじゃあ、跪いて貰えますか?」
「承知したでござる」
そうして跪いたシズクさんの頭を両手で支え、その額に唇を落として【聖女の口付】を発動する。
「おお、これが……! フィーネ殿、拙者に任せるでござるよ」
そう言ってシズクさんは結界の外に出ると、キリナギを一振りした。
クリスさんのときのように光の斬撃が飛んでいくかと思いきや、特に何も起きなかった。
あ、あれ? 失敗した?
「なるほど。そういうことでござるか」
だがシズクさんはなぜか納得した様子だ。
ええと?
どう声をかけるか悩んでいると、あの虎が結界の外に出たシズクさんを狙って動き出した。
シズクさんを目掛けてすさまじいスピードで虎が突進してくる。それに対してシズクさんは一歩も動かない。
あ、あれは大丈夫なの?
不安に駆られて防壁を張りたくなるが、それをしてしまうとシズクさんの攻撃を邪魔してしまう気がする。
でももしシズクさんが反応できなければ……!
そんな葛藤をしている間に勝負はついた。シズクさんが神速の抜刀術で飛びかかってきた虎を一刀両断したのだ。
「す、すごい……」
ランベルトさんが呆けたような様子でそう呟いた。
「シズクさん!」
「いやぁ。フィーネ殿の口付けの効果はすごいでござるな」
「え?」
失敗したのかと思っていたが、どうやらシズクさんなりに何か効果があったと感じているようだ。
「クリスさんのときのように斬撃が飛んでいかなかったので失敗したかと思ったんですけど……」
「いやいや。成功していたでござるよ」
「ええと?」
「フィーネ殿の口付けの効果は聖剣の力の解放だけでなく、ステータスの一時的な上昇効果もあるでござるな」
「え?」
「あのときのクリス殿もそうでござったが、今回もフィーネ殿の口付けによって拙者のステータスが上がったようでござる。そのおかげであの虎よりも拙者のほうが速くなり、余裕をもって斬れたということでござるよ。加えて、キリナギもフィーネ殿の口付けのおかげで切れ味が何倍にも上がっていたようでござるな」
「はぁ」
キリナギの切れ味が上がったと言われても私にはさっぱりわからないが、持ち主が言うのだからきっとそうなのだろう。
「ええと、お疲れ様でした。シズクさん」
「どうってことないでござるよ。この中で一番速いのは拙者でござるからな」
「そうですね。あとは魔石を……って、あれ? あの虎の死体はどこですか?」
「おや? いつの間にか消えているでござるな。魔石もないでござるな」
「姉さまっ! あの魔物、まるで砂になったみたいにサラサラと崩れて消えました」
「崩れて消えたんですか?」
そんなことがあるのだろうか? いや、でも実際に死体が無くなっているのだ。理由は分からないがそうなのだろう。
「ええと、ともかく浄化して先に進みましょう。あれ? そういえば他に魔物は?」
「姿は見えないでござるな」
どういうことだろう? 魔物がたくさんいるって言っていなかったっけ?
しかしリーチェも準備ができているからと魔力を要求してきた。
ううん? まあ、魔物がいないのなら問題ないかな?
「じゃあ、リーチェ。お願いします」
私はリーチェに魔力を渡してあたりに花びらを降らせていく。降らせていくのだが、どうやらかなり範囲が広いようで中々終わらない。
そのまま一時間ほど花びらを降らせ続けたところでようやくリーチェが戻ってきた。それから種を貰って埋めると再び魔力を渡す。そしてそのまま三十分ほど魔力を渡し続け、ようやく浄化が完了したのだった。
ああ、疲れた。これ、きっと【魔力操作】がカンストしていなかった無理だったね。
私は収納からMPポーションを取り出すと一気に呷ったのだった。
そうしてかなり緊張しながらしばらく歩いていくと、どうやら戦いがあったらしい場所に到着した。
キノコ雲が見えるほどの爆発があったという言葉のとおり、地面はあちこちにクレーターができている。しかも砂漠の砂がガラス状に変化しており、よほどの高温になっていたということもうかがえる。
しかもそれだけでなく、何やら剣で切られたように地面が抉れている場所がいくつもある。
「一体何をどうすればこのような状態になるでござるか?」
「わからん。だが、少なくとも今の我々ではこのような戦いはできないということはたしかだな」
うん。その点については私も同意見だ。結界が破られないので大丈夫だと思われているかもしれないが、これほどまでの火力を前に持ちこたえられるかと聞かれたら正直自信はない。
それと、この場所にはもう一つ特徴的なものがある。遠目からなのにはっきりと分かるほどに黒い靄があちこちに存在しているのだ。
そう。あれは瘴気だろう。
それこそ、ブラックレインボー帝国で見たあの最悪な黒兵製造施設と同じような濃さの瘴気が存在しているのだ。
「どうしてこれほどの瘴気が?」
しかし、私の疑問に対する答えを持っている者は誰もいない。
「とりあえず、浄化したほうがいいですかね? リーチェ」
私はリーチェを呼ぶと魔力を渡そうとしたが、リーチェがそれを拒否してきた。
「え? あ、魔物がいるから無理?」
次の瞬間、右のほうから炎の球が飛んできた。
「フィーネ様!」
「来るでござるよ!」
「結界!」
私はすぐさま全員を守る結界を張り、その炎の弾を受け止めた。
炎が飛んできた方向を見るとそこには全身に炎を纏った虎のような魔物がおり、私たちのほうを睨んでいる。
「あの魔物は?」
「いえ、存じ上げません」
「拙者も初めてみるでござるな」
ルーちゃんを見遣ると無言で首をふるふると横に振った。どうやら誰も見たことのない魔物のようだ。
「グルルルル」
虎は唸り声を上げた次の瞬間、姿を消した。
「えっ?」
「グガッ!?」
一瞬のうちに距離を詰めてきた虎は私の結界にぶつかって弾かれる。
「な、なんという……」
一歩も反応できなかったランベルトさんが驚愕の声を上げている。おそらく、あの虎の動きが全く見えていなかったのだろう。
ああ、これはダメな奴だ。結界を解いた瞬間、私たちはきっと全員殺される。
「シズクさん! クリスさん! 見えましたか?」
「速さは五分といったところでござるな」
「……申し訳ありません。私にはほとんど見えませんでした」
なるほど。ということはシズクさんに任せるしかなさそうだ。
「フィーネ殿。フィーネ殿と再会したあの日クリス殿に使ったあの口付けの魔法、拙者にも使うことができるでござるか?」
「え? ああ、あれですか? できると思いますよ。それじゃあ、跪いて貰えますか?」
「承知したでござる」
そうして跪いたシズクさんの頭を両手で支え、その額に唇を落として【聖女の口付】を発動する。
「おお、これが……! フィーネ殿、拙者に任せるでござるよ」
そう言ってシズクさんは結界の外に出ると、キリナギを一振りした。
クリスさんのときのように光の斬撃が飛んでいくかと思いきや、特に何も起きなかった。
あ、あれ? 失敗した?
「なるほど。そういうことでござるか」
だがシズクさんはなぜか納得した様子だ。
ええと?
どう声をかけるか悩んでいると、あの虎が結界の外に出たシズクさんを狙って動き出した。
シズクさんを目掛けてすさまじいスピードで虎が突進してくる。それに対してシズクさんは一歩も動かない。
あ、あれは大丈夫なの?
不安に駆られて防壁を張りたくなるが、それをしてしまうとシズクさんの攻撃を邪魔してしまう気がする。
でももしシズクさんが反応できなければ……!
そんな葛藤をしている間に勝負はついた。シズクさんが神速の抜刀術で飛びかかってきた虎を一刀両断したのだ。
「す、すごい……」
ランベルトさんが呆けたような様子でそう呟いた。
「シズクさん!」
「いやぁ。フィーネ殿の口付けの効果はすごいでござるな」
「え?」
失敗したのかと思っていたが、どうやらシズクさんなりに何か効果があったと感じているようだ。
「クリスさんのときのように斬撃が飛んでいかなかったので失敗したかと思ったんですけど……」
「いやいや。成功していたでござるよ」
「ええと?」
「フィーネ殿の口付けの効果は聖剣の力の解放だけでなく、ステータスの一時的な上昇効果もあるでござるな」
「え?」
「あのときのクリス殿もそうでござったが、今回もフィーネ殿の口付けによって拙者のステータスが上がったようでござる。そのおかげであの虎よりも拙者のほうが速くなり、余裕をもって斬れたということでござるよ。加えて、キリナギもフィーネ殿の口付けのおかげで切れ味が何倍にも上がっていたようでござるな」
「はぁ」
キリナギの切れ味が上がったと言われても私にはさっぱりわからないが、持ち主が言うのだからきっとそうなのだろう。
「ええと、お疲れ様でした。シズクさん」
「どうってことないでござるよ。この中で一番速いのは拙者でござるからな」
「そうですね。あとは魔石を……って、あれ? あの虎の死体はどこですか?」
「おや? いつの間にか消えているでござるな。魔石もないでござるな」
「姉さまっ! あの魔物、まるで砂になったみたいにサラサラと崩れて消えました」
「崩れて消えたんですか?」
そんなことがあるのだろうか? いや、でも実際に死体が無くなっているのだ。理由は分からないがそうなのだろう。
「ええと、ともかく浄化して先に進みましょう。あれ? そういえば他に魔物は?」
「姿は見えないでござるな」
どういうことだろう? 魔物がたくさんいるって言っていなかったっけ?
しかしリーチェも準備ができているからと魔力を要求してきた。
ううん? まあ、魔物がいないのなら問題ないかな?
「じゃあ、リーチェ。お願いします」
私はリーチェに魔力を渡してあたりに花びらを降らせていく。降らせていくのだが、どうやらかなり範囲が広いようで中々終わらない。
そのまま一時間ほど花びらを降らせ続けたところでようやくリーチェが戻ってきた。それから種を貰って埋めると再び魔力を渡す。そしてそのまま三十分ほど魔力を渡し続け、ようやく浄化が完了したのだった。
ああ、疲れた。これ、きっと【魔力操作】がカンストしていなかった無理だったね。
私は収納からMPポーションを取り出すと一気に呷ったのだった。
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