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滅びの神託
第十章第27話 種と商人
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「ちょうどいい人間ですか?」
「そうでござる。サリメジから同行してきた商会の者たちでござるよ」
「ええと?」
商人さんたちがどうしたのだろうか?
「つまり、リーチェ殿のその瘴気を浄化する種を商人たちに売るでござる。そうすれば、彼らは勝手に有力者のところへ売りに行くでござるよ」
「つまり商人さんたちに商品として運んでもらうってことですか?」
「そうでござる。一部は使われないかもしれないでござるが、拙者たちが行った場所だけで種を植えるよりはよほど色々な場所で植えられるでござるよ」
「なるほど。それはいいアイデアかも知れません。リーチェ。できますか?」
するとリーチェは私のところに戻ってきて身振り手振りで伝えてくれる。
「え? 一日にそんなにたくさんは生み出せない? それから同じ場所にいくつも植えたって意味がない? なるほど。わかりました。ではコツコツと毎日種を生み出して、あちこちに植えましょう」
それにはリーチェも賛成のようで、コクコクと頷いている。
「リーチェも賛成のようですので、決まりですね。じゃあ早速――」
「待つでござるよ」
「え?」
リーチェを召喚して種をもらおうと思ったのだが、シズクさんに止められてしまった。
「まずは、市長殿のところへ行くでござるよ。そこで種の取り扱いを希望する商会を募って、公平に分配したほうがよいでござる」
「なるほど。そうすれば商会同士のいざこざが防げるな」
シズクさんの発言にクリスさんが同意する。言われてみればたしかにあげる数が違うと不公平だと不満が出るかもしれない。
「では、早速市長さんに会いに行きましょう」
「そうでござるな」
「って、あれ? ルーちゃんがいない?」
気が付くとそこにいたはずのルーちゃんがいない。
「まさか、誘拐!?」
と一瞬最悪な事態が起きたのかと不安に駆られたが、それは杞憂だった。ルーちゃんはこの中央広場に面した屋台でドゥルムをこれでもかと買って食べていたのだ。ちゃんと近くには護衛の騎士さんがついていてくれている。
私たちはルーちゃんに近づいて声をかける。
「ああ、よかった。ルーちゃーん!」
「ふぁぁい」
口の中に食べ物が入ったまま返事をしたのか、なんとも気の抜けた声だ。
「いきなり姿が見えなくなって心配しましたよ」
「あ、ごめんなさい。この人が一緒に来てくれるからいいかなって」
「はい。でも一声くらいかけてくださいね」
「はーい。あ、姉さま。このドゥルムが美味しいんですよ」
そう言ってルーちゃんは笑顔でドゥルムを差し出してきた。どうもこの笑顔をされると叱ろうという気持ちが失せてしまう。
まあ、いいか。ちゃんと騎士さんと一緒だったしね。
「はい。ありがとうございます」
私はドゥルムを受け取ると、そっと口に含んだのだった。
そういえばドゥルムを初めて食べたのは最初にノヴァールブールを訪れたときで、あのときもルーちゃんが選んでくれたんだっけね。
うん。美味しい!
◆◇◆
市長さんのところへと戻ってきた私たちは早速種のことを話した。
「なるほど。やはり魔物による被害が少なかったのは聖女様のおかげだったのですな。ありがとうございます」
「いえ。それでですね。私の契約精霊であるリーチェの生み出す種であれば、瘴気を浄化することができるんです。なので、世界中にこの種を植えて貰いたいんです」
「この私にできることでしたら、なんでもお申し付けください」
「はい。それで、ですね。ええと、シズクさん」
「おっと、拙者でござるか? わかったでござる」
だって、こういうのは発案者にちゃんと伝えてもらうほうがいいと思う。
「市長殿。この種を、商人たちに託してみようと思うでござるよ」
「ほう、なるほど。たしかに行商人であればあちこちに出向いて商売をしますから、それは良い考えですな。では、この町に滞在している者たちに声を掛けてみましょう。希望が殺到すると思いますよ」
「そうでござろうな。だから市長殿に話をしにきたでござるよ」
「そういうことでしたか。ではお任せください。きちんと調整してご覧に入れましょう」
「よろしく頼むでござる」
こうして市長さんは私たちの頼みを快く受け入れてくれたのだった。
◆◇◆
それから三日後、私たちは市長さんに呼び出されて再びお屋敷へと向かった。どうやら調整ができたのだそうだ。
ちなみに今の私たちで生み出せる種は一日に三つまでだったので、私の手元には合計九つある。
お屋敷の応接室へと通されると、そこには市長さんの他に私たちと一緒にやってきた商隊の代表者が五名集まっていた。
「すみません。遅くなりました」
「いえいえ。我々が早く着いておったのです。ささ、こちらへ」
市長さんに促されてソファーに腰かける。
「聖女様。調整をした結果、彼らの商会にそれぞれ別の方面を任せることにいたしました。ユルギュとレッドスカイ帝国の北部、レッドスカイ帝国の南部、ブルースター共和国の南部、ブルースター共和国の北部、グリーンクラウド王国をそれぞ担当いたします」
「よろしくお願いします」
「ところで、種はいくつご用意いただけますでしょうか?」
「一日に三つまでしか生み出せませんので、今手元には九つあります」
「左様でございますか。話し合いましたところ、合計で二十個の種が必要でございます。ご用意いただくことは可能でしょうか?」
「わかりました。時間はかかりますが、用意しますね」
「ありがとうございます。ではまず出発予定の近いレッドスカイ帝国半部を担当いたしますハリル商会に三つお授けください。それから――」
こうして市長さんが調整してくれたおかげで私たちが行かずとも種を各国に届けられることとなったのだった。
ちなみに、その日の夕方には中央広場に咲いているあの百合っぽい花の周りは柵で囲われて立ち入り禁止となった。そしてその前には「聖女の百合」という看板が立てられ、「聖女フィーネ・アルジェンタータによって生み出された、瘴気を浄化し魔物の被害を防ぐ奇跡の花」というご丁寧な説明文まで書かれたらしい。
いや、私がすごいんじゃなくてリーチェがすごいだけなのだけれど……。
「そうでござる。サリメジから同行してきた商会の者たちでござるよ」
「ええと?」
商人さんたちがどうしたのだろうか?
「つまり、リーチェ殿のその瘴気を浄化する種を商人たちに売るでござる。そうすれば、彼らは勝手に有力者のところへ売りに行くでござるよ」
「つまり商人さんたちに商品として運んでもらうってことですか?」
「そうでござる。一部は使われないかもしれないでござるが、拙者たちが行った場所だけで種を植えるよりはよほど色々な場所で植えられるでござるよ」
「なるほど。それはいいアイデアかも知れません。リーチェ。できますか?」
するとリーチェは私のところに戻ってきて身振り手振りで伝えてくれる。
「え? 一日にそんなにたくさんは生み出せない? それから同じ場所にいくつも植えたって意味がない? なるほど。わかりました。ではコツコツと毎日種を生み出して、あちこちに植えましょう」
それにはリーチェも賛成のようで、コクコクと頷いている。
「リーチェも賛成のようですので、決まりですね。じゃあ早速――」
「待つでござるよ」
「え?」
リーチェを召喚して種をもらおうと思ったのだが、シズクさんに止められてしまった。
「まずは、市長殿のところへ行くでござるよ。そこで種の取り扱いを希望する商会を募って、公平に分配したほうがよいでござる」
「なるほど。そうすれば商会同士のいざこざが防げるな」
シズクさんの発言にクリスさんが同意する。言われてみればたしかにあげる数が違うと不公平だと不満が出るかもしれない。
「では、早速市長さんに会いに行きましょう」
「そうでござるな」
「って、あれ? ルーちゃんがいない?」
気が付くとそこにいたはずのルーちゃんがいない。
「まさか、誘拐!?」
と一瞬最悪な事態が起きたのかと不安に駆られたが、それは杞憂だった。ルーちゃんはこの中央広場に面した屋台でドゥルムをこれでもかと買って食べていたのだ。ちゃんと近くには護衛の騎士さんがついていてくれている。
私たちはルーちゃんに近づいて声をかける。
「ああ、よかった。ルーちゃーん!」
「ふぁぁい」
口の中に食べ物が入ったまま返事をしたのか、なんとも気の抜けた声だ。
「いきなり姿が見えなくなって心配しましたよ」
「あ、ごめんなさい。この人が一緒に来てくれるからいいかなって」
「はい。でも一声くらいかけてくださいね」
「はーい。あ、姉さま。このドゥルムが美味しいんですよ」
そう言ってルーちゃんは笑顔でドゥルムを差し出してきた。どうもこの笑顔をされると叱ろうという気持ちが失せてしまう。
まあ、いいか。ちゃんと騎士さんと一緒だったしね。
「はい。ありがとうございます」
私はドゥルムを受け取ると、そっと口に含んだのだった。
そういえばドゥルムを初めて食べたのは最初にノヴァールブールを訪れたときで、あのときもルーちゃんが選んでくれたんだっけね。
うん。美味しい!
◆◇◆
市長さんのところへと戻ってきた私たちは早速種のことを話した。
「なるほど。やはり魔物による被害が少なかったのは聖女様のおかげだったのですな。ありがとうございます」
「いえ。それでですね。私の契約精霊であるリーチェの生み出す種であれば、瘴気を浄化することができるんです。なので、世界中にこの種を植えて貰いたいんです」
「この私にできることでしたら、なんでもお申し付けください」
「はい。それで、ですね。ええと、シズクさん」
「おっと、拙者でござるか? わかったでござる」
だって、こういうのは発案者にちゃんと伝えてもらうほうがいいと思う。
「市長殿。この種を、商人たちに託してみようと思うでござるよ」
「ほう、なるほど。たしかに行商人であればあちこちに出向いて商売をしますから、それは良い考えですな。では、この町に滞在している者たちに声を掛けてみましょう。希望が殺到すると思いますよ」
「そうでござろうな。だから市長殿に話をしにきたでござるよ」
「そういうことでしたか。ではお任せください。きちんと調整してご覧に入れましょう」
「よろしく頼むでござる」
こうして市長さんは私たちの頼みを快く受け入れてくれたのだった。
◆◇◆
それから三日後、私たちは市長さんに呼び出されて再びお屋敷へと向かった。どうやら調整ができたのだそうだ。
ちなみに今の私たちで生み出せる種は一日に三つまでだったので、私の手元には合計九つある。
お屋敷の応接室へと通されると、そこには市長さんの他に私たちと一緒にやってきた商隊の代表者が五名集まっていた。
「すみません。遅くなりました」
「いえいえ。我々が早く着いておったのです。ささ、こちらへ」
市長さんに促されてソファーに腰かける。
「聖女様。調整をした結果、彼らの商会にそれぞれ別の方面を任せることにいたしました。ユルギュとレッドスカイ帝国の北部、レッドスカイ帝国の南部、ブルースター共和国の南部、ブルースター共和国の北部、グリーンクラウド王国をそれぞ担当いたします」
「よろしくお願いします」
「ところで、種はいくつご用意いただけますでしょうか?」
「一日に三つまでしか生み出せませんので、今手元には九つあります」
「左様でございますか。話し合いましたところ、合計で二十個の種が必要でございます。ご用意いただくことは可能でしょうか?」
「わかりました。時間はかかりますが、用意しますね」
「ありがとうございます。ではまず出発予定の近いレッドスカイ帝国半部を担当いたしますハリル商会に三つお授けください。それから――」
こうして市長さんが調整してくれたおかげで私たちが行かずとも種を各国に届けられることとなったのだった。
ちなみに、その日の夕方には中央広場に咲いているあの百合っぽい花の周りは柵で囲われて立ち入り禁止となった。そしてその前には「聖女の百合」という看板が立てられ、「聖女フィーネ・アルジェンタータによって生み出された、瘴気を浄化し魔物の被害を防ぐ奇跡の花」というご丁寧な説明文まで書かれたらしい。
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