439 / 625
滅びの神託
第十章第20話 騎士団の伝統
しおりを挟む
しばらく森の中を走っていくと、少し開けた場所で大量の狼の魔物が血を流してボロボロのニコラくんたちをぐるりと取り囲んでいた。
これは、五十頭くらいはいるだろうか?
どうやらかなりの怪我人が出ているらしく、ここまで血の匂いが漂ってきている。これは、ちょっと危ないかもしれない。
「フォレストウルフの群れでござるな。いくら新人とはいえ、これに遅れを取るのは少々厳しいでござろう」
んん? どういうこと?
「フィーネ様! 早く助けてやりましょう!」
「そうですね。私とルーちゃんは大丈夫ですから、彼らを助けてあげてください」
「かしこまりました」
「行くでござるよ」
そうして飛び出していった二人は、文字通り一瞬でフォレストウルフたちを斬り伏せた。
「姉さまっ。精霊たちが、近くにもう魔物はいないって言っています」
「そうですか。ありがとうございます」
「フィーネ殿。怪我人を頼むでござるよ」
精霊の助けを借りられるのは便利だな、などと思っているとシズクさんが遠くから声をかけてきた。
「はい。今行きます」
そう短く返事をすると、シズクさんのところへと小走りに駆け寄った。
するとそこにはニコラくんを含む多くの若い騎士たちがあちこちから血を流して倒れている。
「ではまとめて治しますね。治癒!」
軽く発動した治癒魔法によって彼らの傷は、一瞬で何もなかったかのように塞がった。
うん。やはり【回復魔法】も前と比べてかなり強化されている。これもきっと【魔力操作】のスキルレベルをカンストしたおかげだろう。
さて。怪我人もいなくなったし、あとは瘴気を浄化してあげないとね。
私はさっとリーチェを召喚すると、いつもどおりにフォレストウルフたちの遺体を浄化してあげる。
「聖女様、ありがとうございます」
ん? 後ろで誰かの声がしたような?
いや。今は瘴気をなんとかすることのほうが先決だ。
私はその声を無視してリーチェに魔力を渡してあげる。するとリーチェはいつもどおりに花びらを降らせてくれ、それから私は種をそっと放り投げた。最後に魔力を再びリーチェに渡すと花びらは光り輝き、フォレストウルフたちの遺体は小さな魔石だけを残して消滅したのだった。
後はわずかに芽吹いた種をきちんと地面に植えてやり、魔石を回収して仕事は完了だ。
「あ、あの、その……せ、聖女様……」
遠慮がちな声が聞こえてきたので振り返ると、そこには尻もちをついて驚くニコラくんの姿があった。
「ああ、はい。無事で何よりです。それよりも、危険ですから戻りましょう」
「は、はい……」
私はニコラくんたちを促して歩き始める。彼らは随分としょげた様子だが、私たちが駆けつけていなければ命を落としていたかもしれないのだ。
やはり、ニコラくんに実戦はまだ早かったのではないかと思う。
「クリスさん。さすがに人選ミスだったんじゃないでしょうか?」
「……そうですね。いくら見習いとはいえ、まさかフォレストウルフごときに遅れを取るとは思いませんでした」
ああ、なるほど。そういう強さの魔物ということか。
「ですが、第五騎士団の方針ですので……」
「はあ。そうですか」
とはいえ、戦力にならないレベルの人を前に出すのはどうなのだろうか?
って、あれ? そもそも騎士団の皆さん、何もしていないような?
「……クリスさん。もしかしてこれ、私たちだけで勝手に森に入って浄化してあげたほうが手っ取り早かったのではないでしょうか?」
「……申し訳ございません」
「ええぇ」
◆◇◆
あれから何度か見習いたちの救助をしところで今日の魔物退治は終了となり、サマルカへと戻ってきた。
「聖女様。本日はご助力を賜りまして、誠にありがとうございました」
「はぁ。あの、団長さん」
「なんでしょうか?」
「どうして団長さんたちではなく見習いの子たちばかりが戦っていたのでしょうか?」
「それは……見習いたちがどうしても志願して参ったのです。本日のようなことは騎士であればいつかは必ず通る道ですので、本人たちがもっともやる気のあるときにやらせてやろうと考えた次第でございます。その結果として聖女様のお手を煩わせてしまったのは大変申し訳ございません」
「はぁ。それはいいんですが、どうして経験のある騎士の方が一緒に行って指導してあげないのでしょうか?」
「えっ?」
「えっ?」
私の抱いた疑問があまりにも意外だったようで、エンゾさんは驚きの声を上げた。そしてそんな風に驚きの声を上げられたことが意外で私は思わず同じような驚きの声を上げてしまう。
「あの、そんなにおかしいですか? 経験のある騎士の方が引率していればあんなことにはならないと思うんですけど……」
「……考えたこともありませんでした。代々ずっとこのやり方をしておりましたので、これが正しいのだとばかり……」
私がちらりとクリスさんを横目でみると、なんとクリスさんまで感動したかのような表情で私のことを見ている。
ええっ!? クリスさんもまさかこのやり方が正しいって思い込んでいたわけ?
最近はそうでもないのですっかり忘れていたが、よく考えたらクリスさんはもともと脳筋なのだった。
いわゆる体育会系の伝統みたいな感じで、これまでのやり方に疑問を抱かなかったのだろう。
「ええと、ではぜひとも見習いの皆さんの犠牲がなるべく少なくなるようなやり方を考えてみてください」
「ははっ!」
エンゾさんはそう言ってブーンからのジャンピング土下座を決めた。
まあ、悪くない演技だったけど7点かな。理由は、そうだね。なんとなく私がうんざりした気分になっていたからということで許してほしい。次回はもうちょっと普通の気分のときに採点させてほしいと思う。
これは、五十頭くらいはいるだろうか?
どうやらかなりの怪我人が出ているらしく、ここまで血の匂いが漂ってきている。これは、ちょっと危ないかもしれない。
「フォレストウルフの群れでござるな。いくら新人とはいえ、これに遅れを取るのは少々厳しいでござろう」
んん? どういうこと?
「フィーネ様! 早く助けてやりましょう!」
「そうですね。私とルーちゃんは大丈夫ですから、彼らを助けてあげてください」
「かしこまりました」
「行くでござるよ」
そうして飛び出していった二人は、文字通り一瞬でフォレストウルフたちを斬り伏せた。
「姉さまっ。精霊たちが、近くにもう魔物はいないって言っています」
「そうですか。ありがとうございます」
「フィーネ殿。怪我人を頼むでござるよ」
精霊の助けを借りられるのは便利だな、などと思っているとシズクさんが遠くから声をかけてきた。
「はい。今行きます」
そう短く返事をすると、シズクさんのところへと小走りに駆け寄った。
するとそこにはニコラくんを含む多くの若い騎士たちがあちこちから血を流して倒れている。
「ではまとめて治しますね。治癒!」
軽く発動した治癒魔法によって彼らの傷は、一瞬で何もなかったかのように塞がった。
うん。やはり【回復魔法】も前と比べてかなり強化されている。これもきっと【魔力操作】のスキルレベルをカンストしたおかげだろう。
さて。怪我人もいなくなったし、あとは瘴気を浄化してあげないとね。
私はさっとリーチェを召喚すると、いつもどおりにフォレストウルフたちの遺体を浄化してあげる。
「聖女様、ありがとうございます」
ん? 後ろで誰かの声がしたような?
いや。今は瘴気をなんとかすることのほうが先決だ。
私はその声を無視してリーチェに魔力を渡してあげる。するとリーチェはいつもどおりに花びらを降らせてくれ、それから私は種をそっと放り投げた。最後に魔力を再びリーチェに渡すと花びらは光り輝き、フォレストウルフたちの遺体は小さな魔石だけを残して消滅したのだった。
後はわずかに芽吹いた種をきちんと地面に植えてやり、魔石を回収して仕事は完了だ。
「あ、あの、その……せ、聖女様……」
遠慮がちな声が聞こえてきたので振り返ると、そこには尻もちをついて驚くニコラくんの姿があった。
「ああ、はい。無事で何よりです。それよりも、危険ですから戻りましょう」
「は、はい……」
私はニコラくんたちを促して歩き始める。彼らは随分としょげた様子だが、私たちが駆けつけていなければ命を落としていたかもしれないのだ。
やはり、ニコラくんに実戦はまだ早かったのではないかと思う。
「クリスさん。さすがに人選ミスだったんじゃないでしょうか?」
「……そうですね。いくら見習いとはいえ、まさかフォレストウルフごときに遅れを取るとは思いませんでした」
ああ、なるほど。そういう強さの魔物ということか。
「ですが、第五騎士団の方針ですので……」
「はあ。そうですか」
とはいえ、戦力にならないレベルの人を前に出すのはどうなのだろうか?
って、あれ? そもそも騎士団の皆さん、何もしていないような?
「……クリスさん。もしかしてこれ、私たちだけで勝手に森に入って浄化してあげたほうが手っ取り早かったのではないでしょうか?」
「……申し訳ございません」
「ええぇ」
◆◇◆
あれから何度か見習いたちの救助をしところで今日の魔物退治は終了となり、サマルカへと戻ってきた。
「聖女様。本日はご助力を賜りまして、誠にありがとうございました」
「はぁ。あの、団長さん」
「なんでしょうか?」
「どうして団長さんたちではなく見習いの子たちばかりが戦っていたのでしょうか?」
「それは……見習いたちがどうしても志願して参ったのです。本日のようなことは騎士であればいつかは必ず通る道ですので、本人たちがもっともやる気のあるときにやらせてやろうと考えた次第でございます。その結果として聖女様のお手を煩わせてしまったのは大変申し訳ございません」
「はぁ。それはいいんですが、どうして経験のある騎士の方が一緒に行って指導してあげないのでしょうか?」
「えっ?」
「えっ?」
私の抱いた疑問があまりにも意外だったようで、エンゾさんは驚きの声を上げた。そしてそんな風に驚きの声を上げられたことが意外で私は思わず同じような驚きの声を上げてしまう。
「あの、そんなにおかしいですか? 経験のある騎士の方が引率していればあんなことにはならないと思うんですけど……」
「……考えたこともありませんでした。代々ずっとこのやり方をしておりましたので、これが正しいのだとばかり……」
私がちらりとクリスさんを横目でみると、なんとクリスさんまで感動したかのような表情で私のことを見ている。
ええっ!? クリスさんもまさかこのやり方が正しいって思い込んでいたわけ?
最近はそうでもないのですっかり忘れていたが、よく考えたらクリスさんはもともと脳筋なのだった。
いわゆる体育会系の伝統みたいな感じで、これまでのやり方に疑問を抱かなかったのだろう。
「ええと、ではぜひとも見習いの皆さんの犠牲がなるべく少なくなるようなやり方を考えてみてください」
「ははっ!」
エンゾさんはそう言ってブーンからのジャンピング土下座を決めた。
まあ、悪くない演技だったけど7点かな。理由は、そうだね。なんとなく私がうんざりした気分になっていたからということで許してほしい。次回はもうちょっと普通の気分のときに採点させてほしいと思う。
0
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーヤのお気楽異世界転移
暇野無学
ファンタジー
死因は神様の当て逃げです! 地震による事故で死亡したのだが、原因は神社の扁額が当たっての即死。問題の神様は気まずさから俺を輪廻の輪から外し、異世界の神に俺をゆだねた。異世界への移住を渋る俺に、神様特典付きで異世界へ招待されたが・・・ この神様が超適当な健忘症タイプときた。
冤罪で殺された聖女、生まれ変わって自由に生きる
みおな
恋愛
聖女。
女神から選ばれし、世界にたった一人の存在。
本来なら、誰からも尊ばれ大切に扱われる存在である聖女ルディアは、婚約者である王太子から冤罪をかけられ処刑されてしまう。
愛し子の死に、女神はルディアの時間を巻き戻す。
記憶を持ったまま聖女認定の前に戻ったルディアは、聖女にならず自由に生きる道を選択する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる