勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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滅びの神託

第十章第9話 クリエッリの歓喜(後編)

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2021/12/13 誤字を修正しました
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 あれからしばらく悩んだ末にいつもの言葉を言うと皆さんは立ち上がってくれた。どうやらそれ以上は私が何かしなければいけないということはなかったらしく、そのままお祈りは終了となった。

 かといって解散にもならないし、私はこれから何をしたらいいんだろうか?

 採点をしそびれたことが少し心残りではあるものの、わざわざ採点したいからもう一度お祈りをしてくださいなんてことは口が裂けても言えないしね。

 うーん? やっぱりここは素直に帰るしかないかな。

 そう思ったところでジョエルさんが視界の端に映った。

 あ! そういえば何か残していって欲しいと言われていたよね。それなら、リーチェの種をこの神殿の庭に植えさせてもらおう。

「あの」
「なんでしょうか? 聖女様?」

 神殿長さんが私に聞き返してきた。

「もしよかったら、瘴気を浄化する種をこの神殿の庭に植えさせてもらえませんか?」
「なっ!? そのような貴重なものを!?」
「せっかくこうしてお祭りもしていただきましたし、私も何かお礼をしたいんです。ジョエルさんにも何か残していって欲しいと言われていますから」
「「聖女様……!」」

 神殿長さんとジョエルさんの声がハモった。

「ええと、よろしいでしょうか?」
「もちろんでございます! どうぞこちらへ!」

 神殿長さんはそう言ってすぐに中庭へと案内してくれた。中庭は少し前に戦争で踏み荒らされたとは思えないほどきれいに整備されていて、色とりどりの花が咲き乱れている。

 花がある場所はリーチェも嬉しいようで、花に近づいては匂いを嗅いだり撫でたりしている。

 うん。やっぱりリーチェはかわいい。リーチェのかわいさは世界一だ。

「……様?」
「静かにしろ。今フィーネ様は花を愛でておられるのだ」
「え? あ、はい。なんでしょう?」

 しまった。リーチェに見とれていて話を聞いていなかった。

「も、申し訳ございません」
「いえ。私こそ、お話を聞いていなくてすみません。それで、なんでしょうか?」
「は、はい。聖女様。種を植えていただく場所なのですが、あちらの中心にあるスペースはいかがでしょうか? ちょうどあの場所はまだ何を植えるか決まっていなかったのです」
「そうですか。わかりました。ではそうしましょう」

 そうして私は提案された中庭のほぼ中心にある耕された場所へと向かうと、リーチェを召喚して種を貰った。

 リーチェの姿を見た皆さんが「おおっ」と歓声をあげていたが、それも無理はないだろう。だって、リーチェは世界一かわいいからね。

 そんなリーチェから貰った種を私は中心にそっと植えてあげた。特に浄化するものはないし、これだけでいいだろう。

「この子は、周囲に瘴気があればそれを浄化して成長してくれますよ」
「ありがとうございます。聖女様!」

 そういって皆さんはブーンからのジャンピング土下座を披露してくれた。うん。やはり神殿長さんはやり慣れているのだろう。きっちりと指先まで気を配ったいい演技だった。ただ、他の皆さんとの息が合っていなかったのが残念だ。それに他の皆さんの演技もキレが足りなかったように思う。

 そうだね。これは、7点……いや8点でもいいかな? 教皇様たちのような演技を目指して練習に励んでもらいたいものだ。

 別に高得点だったところで何かあるというわけではないけれど……。

◆◇◆

 それから私たちは神殿を出て、再び町中をパレードしながらジョエルさんの領主邸へと戻ってきた。

 正確には領主邸に戻ってくる前港へと立ち寄り、記念式典とやらに参加した。だが特にやることもなく、ただ座ってニコニコしていただけで終わった。

 聖女は単なる偶像だからね。なんとなく希望を持たせてあげるのが仕事だ。

 あ、でもベレナンデウアから出航して沈められた船の船長さんや船員さんに再会できたのにはホッとした。誰も犠牲になっていなくて本当に良かった。

 だが、となるとやはりあの魔物は私を狙って襲ってきたのだろう。

 しかしその目的がどうしてもわからない。魔王を目指すベルードの目的に対して、私のやっていることは相反しないということはベルード本人も言っていたことだ。

 だとすると、どうして私を始末しなければならないのだろうか?

 瘴気が減ることは魔族と魔物にとって悩みの種である衝動が減るということのはずだ。であれば私を始末することになんのメリットもないはずなのだけれど……。

「フィーネ殿。何か悩み事でござるか?」
「いえ。船が魔物に襲われたときのことを考えていました。船員さんたちが無事だったのを見て、あの魔物の目的は私だったんだろうなと」
「そうでござるな」
「ですが、ベルードは自分の指示ではないと言っていました」
「それは本当でござるか? 隠しているだけではござらんか?」
「そう、かもしれませんが……でも、そんな風には見えませんでした。それにベルードのやっていることを考えると、瘴気を浄化できる私がいたほうが都合がいいんじゃないですか?」
「そうでござるが、ベルードの話が全て事実だとは限らないでござるよ。あとは、進化の秘術に関わっている連中全員が同じことを考えているとも限らないでござるな」
「えっと? つまり?」
「ベルードの陣営も一枚岩ではないということかもしれないということでござるよ。部下の中には人間を強く恨んでいる者や、魔物だけの世界を作ろうと企んでいる者がいるかもしれないということでござるな」
「そう、かもしれませんね」

 私は一呼吸おいてからそう答えた。

 イエロープラネットのように、明らかに神の作ったシステムである聖女ですら捻じ曲げて利用しようとしている国だってあるくらいなのだ。魔族の世界でもそういったことがあっても不思議ではないだろう。

「とはいえ、これ以上はここで考えてもわからないでござるよ。それよりフィーネ殿。そろそろ休んだほうがいいでござるよ。明日は王都に向けて出発でござる」
「そうですね。そうしましょう」

 こうして私は思考を打ち切り、王都に思いをはせるのだった。

 親方と奥さんは元気にしているだろうか? それに、シャルは王都にいるのかな?
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