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滅びの神託
第十章第8話 クリエッリの歓喜(前編)
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翌日、クリエッリの町では私が帰ってきたことを祝って「聖女生還祭」なるお祭りが急遽開催された。
生還祭……。
言葉としては正しいんだろうけれど、聞いたこともないその語感のせいで妙な違和感を覚えるのは私だけだろうか?
さて。この「聖女生還祭」だが、町中を私の髪と瞳の色である白と赤の布で飾り付けをしている。正確に言えば髪の色は白ではなく白銀なのだが、銀糸は高価なので町中の人たちが参加できるようにと手に入れやすい白が使われているのだそうだ。
さらに町の大通りには名産品を売る屋台が出ていて、あちこちで陽気な音楽と共に住人たちが踊っているらしい。
と、ここまで全て伝聞なのは私が見てきたわけではないからだ。本当は私もお祭りを見てみたいとは思うものの、私の生還をお祝いするお祭りに私が出ていったらアイロールのときのような騒ぎになることは火を見るよりも明らかだ。
それにこのあと私は馬車でパレードをするそうなので、ちょっとくらいはその雰囲気を感じられると思う。あと、屋台で売られている名産品はジョエルさんの家の人が買ってきてくれることになっている。だから屋台グルメだって堪能できるのだ。
そんなことを考えていると、早速その第一便がやってきた。
「聖女様。失礼いたします。お申し付けいただいた品をお持ちいたしました。こちらが聖女様生還記念クッキー、聖女様生還記念豚の串焼き、こちらが聖女様生還記念いかの丸焼きでございます」
「はい。ありがとうございます」
なんだか、すごく普通だ。あまりにも普通すぎて特に感想がない。外見にこれといった特徴があるわけでもないし、食べてみても普通の味だ。もちろんまずいわけではなく美味しいのだが、かといって特別に美味しいというわけでもない。
ただ、物資が滞っている中でこれならがんばっているほうなのではないだろうか?
それに勝手に私の顔っぽいもので焼き印を入れられ、「フィーネクッキー」や「フィーネまんじゅう」などと称して売られるよりははるかにいい。
……売られてないよね?
◆◇◆
一通りの屋台グルメを堪能した私たちの出番がやってきた。馬車に乗ってパレードをするのだ。この領主邸から神殿――といっても神託や職業が貰えるわけではないので分殿という扱いなのだが――に向かい、そこで神様に無事を報告して感謝の祈りを捧げることになっている。
ここでいう神様というのはあのハゲ神様なわけだが、生憎私はあのハゲ神様の信徒でもなんでもない。しかも殺されそうになったくらいなのだから、私が無事を報告して感謝の祈りなんて捧げても嫌味にしかならないような気もするのだが……。
まあ、いいか。どうせ相手はあのハゲ神様だしね。
そうこうしているうちに私たちを乗せた馬車は出発した。もちろん屋根のないオープンタイプで、観衆から私たちの姿がよく見えるように少し座席の位置が少し高くなっている。つまり、完全なパレード用の馬車のようだ。
「聖女様ー!」
「フィーネ様~!」
「ばんざーい!」
「ありがたやありがたや」
私たちを一目見ようと集まった観衆は口々に私を讃え、また祈りを捧げている。私なんかに祈ってもなんのご利益もないのにね。
でも、きっとこれが聖女という偶像の役割なのだろう。こんなことで少しでも瘴気が減るならば、私はその役割を演じるにやぶさかではない。
私はニッコリと微笑むと、観衆たちに手を振ってみた。すると観衆たちは沸き立ち、歓声がより大きくなる。
「はぁはぁ。つるぺた聖じ」
誰がつるぺただ! 失礼な。少しはあるんだ! 全く……。
そんなこんなで歓喜に包まれる観衆たちと一部の不埒な観客へ笑顔で手を振っているうちに、私たちを乗せた馬車は神殿へと到着した。町の中心部にあるというのに、ずいぶんと広い敷地に建てられているようだ。そんな神殿の前には迎えの神官が私たちのことを待ち構えている。
「聖女様。クリエッリ分殿へようこそおいでくださいました」
「お招きいただきありがとうございます」
私はここでも営業スマイルで対応する。
「聖女様の無事のご帰還、我らが神もきっとお喜びのことと存じます」
「はい」
絶対にそんなことはないと思うが、ここも営業スマイルだ。
「さ、どうぞこちらへ」
そうして神殿の中に通された私たちは祭壇の前にやってきた。
さて、私はここでブーンからのジャンピング土下座をするつもりはもうない。いくらなんでもあのハゲ神様にはお祈りはしたくないからね。だから、私は私で勝手に精霊神様に祈らせてもらうとしよう。
私はすたすたと前に歩み出ると祭壇の前で手を組んで跪いた。
「……聖女様!?」
「私は思うところがありまして、私のやり方で神にお祈りをします。皆さんもどうぞ、それぞれのやり方でお祈りをしてください」
そう宣言し、私は精霊神様に心の中で無事の報告と感謝の祈りを捧げる。
しばらく祈った後に目を開け、立ち上がって振り返ると神官の皆さんや一緒について来ていたジョエルさんたちが私に対して土下座をしている。
あれ? これ、もしかして私が精霊神様にお祈りをしている間にブーンからのジャンピング土下座をやっていた?
ぐぬぬ。集中しすぎていて採点しそびれてしまった。
うーん。でも、これ私に向かってみんなでやっているってことはもしかして私が止めないとずっとやっているのかな?
いや、でも違ったら悪い気がするし……。どうしよう?
生還祭……。
言葉としては正しいんだろうけれど、聞いたこともないその語感のせいで妙な違和感を覚えるのは私だけだろうか?
さて。この「聖女生還祭」だが、町中を私の髪と瞳の色である白と赤の布で飾り付けをしている。正確に言えば髪の色は白ではなく白銀なのだが、銀糸は高価なので町中の人たちが参加できるようにと手に入れやすい白が使われているのだそうだ。
さらに町の大通りには名産品を売る屋台が出ていて、あちこちで陽気な音楽と共に住人たちが踊っているらしい。
と、ここまで全て伝聞なのは私が見てきたわけではないからだ。本当は私もお祭りを見てみたいとは思うものの、私の生還をお祝いするお祭りに私が出ていったらアイロールのときのような騒ぎになることは火を見るよりも明らかだ。
それにこのあと私は馬車でパレードをするそうなので、ちょっとくらいはその雰囲気を感じられると思う。あと、屋台で売られている名産品はジョエルさんの家の人が買ってきてくれることになっている。だから屋台グルメだって堪能できるのだ。
そんなことを考えていると、早速その第一便がやってきた。
「聖女様。失礼いたします。お申し付けいただいた品をお持ちいたしました。こちらが聖女様生還記念クッキー、聖女様生還記念豚の串焼き、こちらが聖女様生還記念いかの丸焼きでございます」
「はい。ありがとうございます」
なんだか、すごく普通だ。あまりにも普通すぎて特に感想がない。外見にこれといった特徴があるわけでもないし、食べてみても普通の味だ。もちろんまずいわけではなく美味しいのだが、かといって特別に美味しいというわけでもない。
ただ、物資が滞っている中でこれならがんばっているほうなのではないだろうか?
それに勝手に私の顔っぽいもので焼き印を入れられ、「フィーネクッキー」や「フィーネまんじゅう」などと称して売られるよりははるかにいい。
……売られてないよね?
◆◇◆
一通りの屋台グルメを堪能した私たちの出番がやってきた。馬車に乗ってパレードをするのだ。この領主邸から神殿――といっても神託や職業が貰えるわけではないので分殿という扱いなのだが――に向かい、そこで神様に無事を報告して感謝の祈りを捧げることになっている。
ここでいう神様というのはあのハゲ神様なわけだが、生憎私はあのハゲ神様の信徒でもなんでもない。しかも殺されそうになったくらいなのだから、私が無事を報告して感謝の祈りなんて捧げても嫌味にしかならないような気もするのだが……。
まあ、いいか。どうせ相手はあのハゲ神様だしね。
そうこうしているうちに私たちを乗せた馬車は出発した。もちろん屋根のないオープンタイプで、観衆から私たちの姿がよく見えるように少し座席の位置が少し高くなっている。つまり、完全なパレード用の馬車のようだ。
「聖女様ー!」
「フィーネ様~!」
「ばんざーい!」
「ありがたやありがたや」
私たちを一目見ようと集まった観衆は口々に私を讃え、また祈りを捧げている。私なんかに祈ってもなんのご利益もないのにね。
でも、きっとこれが聖女という偶像の役割なのだろう。こんなことで少しでも瘴気が減るならば、私はその役割を演じるにやぶさかではない。
私はニッコリと微笑むと、観衆たちに手を振ってみた。すると観衆たちは沸き立ち、歓声がより大きくなる。
「はぁはぁ。つるぺた聖じ」
誰がつるぺただ! 失礼な。少しはあるんだ! 全く……。
そんなこんなで歓喜に包まれる観衆たちと一部の不埒な観客へ笑顔で手を振っているうちに、私たちを乗せた馬車は神殿へと到着した。町の中心部にあるというのに、ずいぶんと広い敷地に建てられているようだ。そんな神殿の前には迎えの神官が私たちのことを待ち構えている。
「聖女様。クリエッリ分殿へようこそおいでくださいました」
「お招きいただきありがとうございます」
私はここでも営業スマイルで対応する。
「聖女様の無事のご帰還、我らが神もきっとお喜びのことと存じます」
「はい」
絶対にそんなことはないと思うが、ここも営業スマイルだ。
「さ、どうぞこちらへ」
そうして神殿の中に通された私たちは祭壇の前にやってきた。
さて、私はここでブーンからのジャンピング土下座をするつもりはもうない。いくらなんでもあのハゲ神様にはお祈りはしたくないからね。だから、私は私で勝手に精霊神様に祈らせてもらうとしよう。
私はすたすたと前に歩み出ると祭壇の前で手を組んで跪いた。
「……聖女様!?」
「私は思うところがありまして、私のやり方で神にお祈りをします。皆さんもどうぞ、それぞれのやり方でお祈りをしてください」
そう宣言し、私は精霊神様に心の中で無事の報告と感謝の祈りを捧げる。
しばらく祈った後に目を開け、立ち上がって振り返ると神官の皆さんや一緒について来ていたジョエルさんたちが私に対して土下座をしている。
あれ? これ、もしかして私が精霊神様にお祈りをしている間にブーンからのジャンピング土下座をやっていた?
ぐぬぬ。集中しすぎていて採点しそびれてしまった。
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