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人と魔物と魔王と聖女
第九章第35話 魔族と魔物と魔王
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あれから散々に言い訳をし続けたベルードは完全に墓穴を掘り、すっかり変態覗き魔として認識されることになった。
まあ、女湯にずかずかと入ってきたんだから当然の報いだね。人だろうが魔族だろうが、悪いことをしたら素直に謝るのが一番だということを身をもって示してくれたのだ。
そんなベルードを反面教師に、アイリスタウンの子たちは素直に謝ることの大切さを再認識したのではないかと思う。
それはさておき、私はベルードに誘われてアイリスさんの家へとやってきた。他の子たちは外で待機してもらっている。なんでも、私とだけ話がしたいのだそうだ。
「それで、どうしたんですか?」
「ああ。フィーネがなぜここにいるのかを問いただしに来たのだ」
「え? そんなことのためにわざわざ来たんですか? てっきり私を元の場所に帰してくれるのだと思いました」
「アイリスから話は聞いたが、にわかには信じがたい話だったのでな」
「はぁ。でも、アイリスさんにお話したとおりですよ。巨大な鮫の魔物に襲われて船が沈没したんです。運よく船の残骸に引っかかって死なずに済んで、それでそのまま漂流してここまで流されてきました」
「……嘘ではないのだな?」
「もちろんです。こんなことで嘘を言ったって何にもならないと思いますよ」
「……巨大な鮫の魔物、か。いつごろの話だ?」
「そうですね。たしか十月ごろです」
「去年のか?」
そうか。もう年が明けていたのか。言われてみればそうだ。
「はい。一年は経っていないはずなので去年の十月です」
「なるほど。そうすると、もしかするとそれは私の部下かもしれん」
「え?」
「配下の者に言われて海の魔物を貸し与えていたのだ。邪魔者を始末する、と言われてな」
「……」
「すまなかった。それがフィーネだと知っていたならば許可は出さなかった」
「え?」
「貴様の婚約者を名乗る吸血貴族と協定を結んだ際の約定だ。何があっても『聖女フィーネ・アルジェンタータ』を害するな、とな」
「ええと?」
「アデルローゼ・フォン・シュテルネンナハト。貴様の婚約者ではないのか?」
「いえ、違います。プロポーズはされましたけど……」
「……なるほど。ということはあの面倒な女が勝手に吹聴して回っているだけか」
「はぁ」
何がなんだかさっぱりわからない状況になっているぞ。
そもそも、どうしてアーデがベルードと協定なんか結んでいるの?
「その様子だと何も知らされいないようだな」
「そうですね。何もかも初耳です。協定って、何ですか?」
「奴と争わないための協定だ。あのしぶとい女と戦うのはこちらとしても得策ではないからな」
「はぁ。でも、どうしてベルードがアーデと戦うんですか?」
するとベルードは少し呆れたような表情になった。
「ええと?」
「どうやら本当に何も知らないようだな」
「知らないものは仕方がないじゃないですか。一体どういうことなんですか?」
「どうもこうも、私があの女と戦う理由は私が魔王になるためだ」
「は?」
魔王? ということは、ベルードは魔王になって人類を滅ぼしたいってこと?
「なんだ? その表情は。お前は魔王を何だとと思っているのだ」
「え? 魔王って、魔物を率いて人類を滅ぼそうとする奴のことですよね?」
「……やはり人間の側の理解はその程度なのか」
「ええと?」
ベルードはあきれ顔だが、なんのことだかさっぱりわからない。
「魔王というのは、魔物を安んじる者だ」
「え?」
「過半数の魔物と主従を結んだ者がその代の魔王となるのだ」
「ええと? 主従? ってなんですか?」
「……そこからなのか」
またもやベルードは呆れ顔になった。
「魔族はな。魔物の瘴気を引き受ける代わりに主従を結ぶことができるのだ」
「瘴気の……衝動を引き受ける?」
「ああ、そうだ。魔物は人間の生み出した瘴気から生まれるのは知っているか?」
「はい」
「では、魔物にはその瘴気の元となった欲望を叶えようとする衝動を生まれながらにして持っていることは知っているか?」
「なんとなくは」
「ならば、それがなぜかは知っているか?」
「……いえ」
私が知っているのはアルフォンソが語っていたことだけだ。だから衝動があるというのは知っていたけれど……。
「魔物はな。人間の歪んだ欲望から生まれた瘴気による衝動に突き動かされているのだ」
「衝動に突き動かされる?」
「ああ。そうだ。その衝動のままに振る舞い、人間の欲望をそっくりそのまま人間に返してやることで元となった欲望を解消するために存在しているのだ。欲望を解消すれば衝動は治まっていき、やがて完全に衝動が無くなれば寿命を迎えて死ぬ。魔物とは、そうしてこの世界にあふれる瘴気を浄化する存在なのだ」
「え?」
「そして魔族は、その魔物を安んじるために神によって作り出された種族だ」
「それってもしかして……」
「ああ。魔物が衝動に突き動かされ、暴れまわることなく穏やかに寿命を迎えられるように瘴気を引き受け主従を結ぶ。そうすることで魔物は衝動から解放されるが、そのかわりに主となった者に絶対服従を誓うのだ」
ああ。嫌な予感がする。
「そして多くの魔物と主従を結び、世界の半分以上の瘴気を引き受けたものが魔王となる」
「じゃあ、魔王が生まれると一時的に魔物が大人しくなるのは……」
「ああ。魔王は人間を滅ぼそうなどと最初から考えているわけではないからな。だが、魔王は瘴気を通じて人間の歪んだ欲望に晒され続け、やがてその衝動に飲まれて狂うのだ」
「それが、神の言う魔王警報の……」
「ああ。最終段階ということだ」
「そんな……」
どうして、こんなことになっているのだろうか?
「そして狂った魔王を勇者が倒し、魔王の下に集まった瘴気を全て浄化する。そうすれば世界の瘴気はリセットされ、また一からやり直す。これが、この世界が連綿と繰り返してきた理だ」
まあ、女湯にずかずかと入ってきたんだから当然の報いだね。人だろうが魔族だろうが、悪いことをしたら素直に謝るのが一番だということを身をもって示してくれたのだ。
そんなベルードを反面教師に、アイリスタウンの子たちは素直に謝ることの大切さを再認識したのではないかと思う。
それはさておき、私はベルードに誘われてアイリスさんの家へとやってきた。他の子たちは外で待機してもらっている。なんでも、私とだけ話がしたいのだそうだ。
「それで、どうしたんですか?」
「ああ。フィーネがなぜここにいるのかを問いただしに来たのだ」
「え? そんなことのためにわざわざ来たんですか? てっきり私を元の場所に帰してくれるのだと思いました」
「アイリスから話は聞いたが、にわかには信じがたい話だったのでな」
「はぁ。でも、アイリスさんにお話したとおりですよ。巨大な鮫の魔物に襲われて船が沈没したんです。運よく船の残骸に引っかかって死なずに済んで、それでそのまま漂流してここまで流されてきました」
「……嘘ではないのだな?」
「もちろんです。こんなことで嘘を言ったって何にもならないと思いますよ」
「……巨大な鮫の魔物、か。いつごろの話だ?」
「そうですね。たしか十月ごろです」
「去年のか?」
そうか。もう年が明けていたのか。言われてみればそうだ。
「はい。一年は経っていないはずなので去年の十月です」
「なるほど。そうすると、もしかするとそれは私の部下かもしれん」
「え?」
「配下の者に言われて海の魔物を貸し与えていたのだ。邪魔者を始末する、と言われてな」
「……」
「すまなかった。それがフィーネだと知っていたならば許可は出さなかった」
「え?」
「貴様の婚約者を名乗る吸血貴族と協定を結んだ際の約定だ。何があっても『聖女フィーネ・アルジェンタータ』を害するな、とな」
「ええと?」
「アデルローゼ・フォン・シュテルネンナハト。貴様の婚約者ではないのか?」
「いえ、違います。プロポーズはされましたけど……」
「……なるほど。ということはあの面倒な女が勝手に吹聴して回っているだけか」
「はぁ」
何がなんだかさっぱりわからない状況になっているぞ。
そもそも、どうしてアーデがベルードと協定なんか結んでいるの?
「その様子だと何も知らされいないようだな」
「そうですね。何もかも初耳です。協定って、何ですか?」
「奴と争わないための協定だ。あのしぶとい女と戦うのはこちらとしても得策ではないからな」
「はぁ。でも、どうしてベルードがアーデと戦うんですか?」
するとベルードは少し呆れたような表情になった。
「ええと?」
「どうやら本当に何も知らないようだな」
「知らないものは仕方がないじゃないですか。一体どういうことなんですか?」
「どうもこうも、私があの女と戦う理由は私が魔王になるためだ」
「は?」
魔王? ということは、ベルードは魔王になって人類を滅ぼしたいってこと?
「なんだ? その表情は。お前は魔王を何だとと思っているのだ」
「え? 魔王って、魔物を率いて人類を滅ぼそうとする奴のことですよね?」
「……やはり人間の側の理解はその程度なのか」
「ええと?」
ベルードはあきれ顔だが、なんのことだかさっぱりわからない。
「魔王というのは、魔物を安んじる者だ」
「え?」
「過半数の魔物と主従を結んだ者がその代の魔王となるのだ」
「ええと? 主従? ってなんですか?」
「……そこからなのか」
またもやベルードは呆れ顔になった。
「魔族はな。魔物の瘴気を引き受ける代わりに主従を結ぶことができるのだ」
「瘴気の……衝動を引き受ける?」
「ああ、そうだ。魔物は人間の生み出した瘴気から生まれるのは知っているか?」
「はい」
「では、魔物にはその瘴気の元となった欲望を叶えようとする衝動を生まれながらにして持っていることは知っているか?」
「なんとなくは」
「ならば、それがなぜかは知っているか?」
「……いえ」
私が知っているのはアルフォンソが語っていたことだけだ。だから衝動があるというのは知っていたけれど……。
「魔物はな。人間の歪んだ欲望から生まれた瘴気による衝動に突き動かされているのだ」
「衝動に突き動かされる?」
「ああ。そうだ。その衝動のままに振る舞い、人間の欲望をそっくりそのまま人間に返してやることで元となった欲望を解消するために存在しているのだ。欲望を解消すれば衝動は治まっていき、やがて完全に衝動が無くなれば寿命を迎えて死ぬ。魔物とは、そうしてこの世界にあふれる瘴気を浄化する存在なのだ」
「え?」
「そして魔族は、その魔物を安んじるために神によって作り出された種族だ」
「それってもしかして……」
「ああ。魔物が衝動に突き動かされ、暴れまわることなく穏やかに寿命を迎えられるように瘴気を引き受け主従を結ぶ。そうすることで魔物は衝動から解放されるが、そのかわりに主となった者に絶対服従を誓うのだ」
ああ。嫌な予感がする。
「そして多くの魔物と主従を結び、世界の半分以上の瘴気を引き受けたものが魔王となる」
「じゃあ、魔王が生まれると一時的に魔物が大人しくなるのは……」
「ああ。魔王は人間を滅ぼそうなどと最初から考えているわけではないからな。だが、魔王は瘴気を通じて人間の歪んだ欲望に晒され続け、やがてその衝動に飲まれて狂うのだ」
「それが、神の言う魔王警報の……」
「ああ。最終段階ということだ」
「そんな……」
どうして、こんなことになっているのだろうか?
「そして狂った魔王を勇者が倒し、魔王の下に集まった瘴気を全て浄化する。そうすれば世界の瘴気はリセットされ、また一からやり直す。これが、この世界が連綿と繰り返してきた理だ」
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