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人と魔物と魔王と聖女

第九章第26話 謎の洞窟

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2021/08/02 誤字を修正しました
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 お芋が収穫できてからしばらくの時間が経った。この島には相変わらずゆっくりした時間が流れている。ついこの間までブラックレインボー帝国で戦争をしていたことがまるで嘘のように穏やかな日々が続いている。

 私は今海岸まで降りてきており、結界を張ったのでのんびりと干潮になるのを待っている。

 今日は魚が食べたい気分なのだ。

 特にこれといってやることもないため、のんびりと崖の中腹に腰かけながらリーチェと戯れている。

 ああ、それにしても暇だ。

 別に私は戦うことが好きなわけではないし、聖女様の奉仕活動をすることにもさして興味はない。

 だが、これほどまでに暇だというのはどうにもよろしくない。

 村長、じゃなかった町長らしいアイリスさんはいまだに姿を見せておらず、外と連絡を取ることはできていない。だが、舟を作ってこの島から脱出したところでまた漂流生活に戻るだけだ。

 だからといってこの島で骨を埋める気はさすがにない。それにクリスさんたちはものすごく心配しているだろうし、早く合流したいのだが……。

「はぁ。暇ですねぇ」

 え? なになに? 今まで忙しかったからこのくらいゆっくりしていて良い?

「でも、さすがにゆっくりしすぎじゃないですか?」

 ええと? 出られないんだから諦めてゆっくりしよう?

「あはは。それもそうですね」

 リーチェがそんなことを言っている気がするのでそれに素直に従い、ゴロンと横になった。そのままぼーっと日向ぼっこをしながら海を眺める。

 海面には白波が立っており、今日の海は少し荒れ模様だ。といっても強風が吹き荒れているわけでもなく、漁をするのに支障はない。

 あ。でも私の場合は船で沖に出るわけではないし、結界が全部防いでくれるからあまり関係ないか。

 そんなことを考えながら私は水平線の彼方に目を凝らす。

 行き交う船もなく、ただただ水平線が広がるのみだ。空には綿あめのような雲がちらほらと浮かんでおり、大空をゆっくりと漂っている。

 この空模様なら夕立はなさそうだ。

 夏の強い日差しが海を、島を、そして私をじりじりと照らしてくる。

 それとどうでもいいかもしれないが、こうしてゆっくりしていて分かったことがある。

 それはどうやら夏の日差しのほうが元気になるということだ。おそらく、【日照吸収】で回復できる分が冬よりも多いのだろう。

 とはいえ、元気になったところで特にやることもないわけだが……。

 そうこうしているうちに気付けばかなりの時間が経っていた。下を見るとかなり潮が引いている。

 うん。もう良いかもしれない。

 私は崖からひょいと飛び降りると地面から一メートルくらいの場所に防壁を作り出してそこに着地した。

 私がいた場所は高さ十メートルくらいの場所なので、高低差は九メートルくらいある。だが存在進化して一時的に弱体化しているとはいえ、私のステータスはまだまだ高い部類に入る。そのため、この程度の高さを移動することなど何の問題もなかった。

 ということはつまり、今までクリスさんに頼りきりだったせいもあって飛び降りるなんて考えたこともなかったが、前の私はもっといろいろできたということなのだろう。

 そういえば、エイブラでは鎧を着た兵士を蹴り飛ばして戦闘不能にさせてこともあったっけ。

 私だって、意外と自分で色々できるのだということが分かっただけでも良しとしよう。

 こういうのを何て言うんだっけ?

 ええと、人生西方に馬 、だったかな?

 たしかそんなようなことわざがあったような気がする。よく覚えていないけれど。

 そんなことよりも、とりあえず魚を捕まえよう。

 私は潮の引いた岩場に降り立つと、地面で跳ねる魚を捕まえる。そしてすぐに血抜きをし、片っ端から収納に放り込んでいった。

 あ、でも食べる部分がなさそうな小魚はそのまま海に帰してやった。

 私にもし料理の腕があったなら、そういった小魚だって美味しく食べられるのかもしれないけれど……。

 こうしてあらかた魚を回収した私は村に帰ろうと結界を解いた。すると、なにやら不自然な黒い影が目の端にちらりと映った。

「あれは?」

 何となく気になった私はそちらへと歩いていく。

「あれ? こんなところに洞窟があったんですね」

 ひょいと岩を飛び越えた先に、人一人が腰をかがめればギリギリ入れそうなくらいの小さな洞窟が口を開けていたのだ。

 しかもこの洞窟。中を覗いてみるとまるで人の手で掘られたかのように奥へと真っすぐ伸びているのだ。

 ここは無人島だと思っていたが、もしかしたら人が暮らしていたことがあるのかもしれない。

 だが、この島を囲む断崖絶壁は翼をもたない者をはっきりと拒絶している。

 うーん? もしかして、この洞窟は島へと上陸するための通路だったりするのではないだろうか?

 そんな突拍子もないことが思い浮かんだ私は、つい好奇心の赴くままに洞窟の中へと足を踏み入れたのだった。

 いや、だって。暇だったんだもの。

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※人間万事塞翁が馬:人生の禍福は転々として予測できないことのたとえ。(出典:デジタル大辞泉)
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