400 / 625
人と魔物と魔王と聖女
第九章第26話 謎の洞窟
しおりを挟む
2021/08/02 誤字を修正しました
================
お芋が収穫できてからしばらくの時間が経った。この島には相変わらずゆっくりした時間が流れている。ついこの間までブラックレインボー帝国で戦争をしていたことがまるで嘘のように穏やかな日々が続いている。
私は今海岸まで降りてきており、結界を張ったのでのんびりと干潮になるのを待っている。
今日は魚が食べたい気分なのだ。
特にこれといってやることもないため、のんびりと崖の中腹に腰かけながらリーチェと戯れている。
ああ、それにしても暇だ。
別に私は戦うことが好きなわけではないし、聖女様の奉仕活動をすることにもさして興味はない。
だが、これほどまでに暇だというのはどうにもよろしくない。
村長、じゃなかった町長らしいアイリスさんはいまだに姿を見せておらず、外と連絡を取ることはできていない。だが、舟を作ってこの島から脱出したところでまた漂流生活に戻るだけだ。
だからといってこの島で骨を埋める気はさすがにない。それにクリスさんたちはものすごく心配しているだろうし、早く合流したいのだが……。
「はぁ。暇ですねぇ」
え? なになに? 今まで忙しかったからこのくらいゆっくりしていて良い?
「でも、さすがにゆっくりしすぎじゃないですか?」
ええと? 出られないんだから諦めてゆっくりしよう?
「あはは。それもそうですね」
リーチェがそんなことを言っている気がするのでそれに素直に従い、ゴロンと横になった。そのままぼーっと日向ぼっこをしながら海を眺める。
海面には白波が立っており、今日の海は少し荒れ模様だ。といっても強風が吹き荒れているわけでもなく、漁をするのに支障はない。
あ。でも私の場合は船で沖に出るわけではないし、結界が全部防いでくれるからあまり関係ないか。
そんなことを考えながら私は水平線の彼方に目を凝らす。
行き交う船もなく、ただただ水平線が広がるのみだ。空には綿あめのような雲がちらほらと浮かんでおり、大空をゆっくりと漂っている。
この空模様なら夕立はなさそうだ。
夏の強い日差しが海を、島を、そして私をじりじりと照らしてくる。
それとどうでもいいかもしれないが、こうしてゆっくりしていて分かったことがある。
それはどうやら夏の日差しのほうが元気になるということだ。おそらく、【日照吸収】で回復できる分が冬よりも多いのだろう。
とはいえ、元気になったところで特にやることもないわけだが……。
そうこうしているうちに気付けばかなりの時間が経っていた。下を見るとかなり潮が引いている。
うん。もう良いかもしれない。
私は崖からひょいと飛び降りると地面から一メートルくらいの場所に防壁を作り出してそこに着地した。
私がいた場所は高さ十メートルくらいの場所なので、高低差は九メートルくらいある。だが存在進化して一時的に弱体化しているとはいえ、私のステータスはまだまだ高い部類に入る。そのため、この程度の高さを移動することなど何の問題もなかった。
ということはつまり、今までクリスさんに頼りきりだったせいもあって飛び降りるなんて考えたこともなかったが、前の私はもっといろいろできたということなのだろう。
そういえば、エイブラでは鎧を着た兵士を蹴り飛ばして戦闘不能にさせてこともあったっけ。
私だって、意外と自分で色々できるのだということが分かっただけでも良しとしよう。
こういうのを何て言うんだっけ?
ええと、人生西方に馬 、だったかな?
たしかそんなようなことわざがあったような気がする。よく覚えていないけれど。
そんなことよりも、とりあえず魚を捕まえよう。
私は潮の引いた岩場に降り立つと、地面で跳ねる魚を捕まえる。そしてすぐに血抜きをし、片っ端から収納に放り込んでいった。
あ、でも食べる部分がなさそうな小魚はそのまま海に帰してやった。
私にもし料理の腕があったなら、そういった小魚だって美味しく食べられるのかもしれないけれど……。
こうしてあらかた魚を回収した私は村に帰ろうと結界を解いた。すると、なにやら不自然な黒い影が目の端にちらりと映った。
「あれは?」
何となく気になった私はそちらへと歩いていく。
「あれ? こんなところに洞窟があったんですね」
ひょいと岩を飛び越えた先に、人一人が腰をかがめればギリギリ入れそうなくらいの小さな洞窟が口を開けていたのだ。
しかもこの洞窟。中を覗いてみるとまるで人の手で掘られたかのように奥へと真っすぐ伸びているのだ。
ここは無人島だと思っていたが、もしかしたら人が暮らしていたことがあるのかもしれない。
だが、この島を囲む断崖絶壁は翼をもたない者をはっきりと拒絶している。
うーん? もしかして、この洞窟は島へと上陸するための通路だったりするのではないだろうか?
そんな突拍子もないことが思い浮かんだ私は、つい好奇心の赴くままに洞窟の中へと足を踏み入れたのだった。
いや、だって。暇だったんだもの。
=========
※人間万事塞翁が馬:人生の禍福は転々として予測できないことのたとえ。(出典:デジタル大辞泉)
================
お芋が収穫できてからしばらくの時間が経った。この島には相変わらずゆっくりした時間が流れている。ついこの間までブラックレインボー帝国で戦争をしていたことがまるで嘘のように穏やかな日々が続いている。
私は今海岸まで降りてきており、結界を張ったのでのんびりと干潮になるのを待っている。
今日は魚が食べたい気分なのだ。
特にこれといってやることもないため、のんびりと崖の中腹に腰かけながらリーチェと戯れている。
ああ、それにしても暇だ。
別に私は戦うことが好きなわけではないし、聖女様の奉仕活動をすることにもさして興味はない。
だが、これほどまでに暇だというのはどうにもよろしくない。
村長、じゃなかった町長らしいアイリスさんはいまだに姿を見せておらず、外と連絡を取ることはできていない。だが、舟を作ってこの島から脱出したところでまた漂流生活に戻るだけだ。
だからといってこの島で骨を埋める気はさすがにない。それにクリスさんたちはものすごく心配しているだろうし、早く合流したいのだが……。
「はぁ。暇ですねぇ」
え? なになに? 今まで忙しかったからこのくらいゆっくりしていて良い?
「でも、さすがにゆっくりしすぎじゃないですか?」
ええと? 出られないんだから諦めてゆっくりしよう?
「あはは。それもそうですね」
リーチェがそんなことを言っている気がするのでそれに素直に従い、ゴロンと横になった。そのままぼーっと日向ぼっこをしながら海を眺める。
海面には白波が立っており、今日の海は少し荒れ模様だ。といっても強風が吹き荒れているわけでもなく、漁をするのに支障はない。
あ。でも私の場合は船で沖に出るわけではないし、結界が全部防いでくれるからあまり関係ないか。
そんなことを考えながら私は水平線の彼方に目を凝らす。
行き交う船もなく、ただただ水平線が広がるのみだ。空には綿あめのような雲がちらほらと浮かんでおり、大空をゆっくりと漂っている。
この空模様なら夕立はなさそうだ。
夏の強い日差しが海を、島を、そして私をじりじりと照らしてくる。
それとどうでもいいかもしれないが、こうしてゆっくりしていて分かったことがある。
それはどうやら夏の日差しのほうが元気になるということだ。おそらく、【日照吸収】で回復できる分が冬よりも多いのだろう。
とはいえ、元気になったところで特にやることもないわけだが……。
そうこうしているうちに気付けばかなりの時間が経っていた。下を見るとかなり潮が引いている。
うん。もう良いかもしれない。
私は崖からひょいと飛び降りると地面から一メートルくらいの場所に防壁を作り出してそこに着地した。
私がいた場所は高さ十メートルくらいの場所なので、高低差は九メートルくらいある。だが存在進化して一時的に弱体化しているとはいえ、私のステータスはまだまだ高い部類に入る。そのため、この程度の高さを移動することなど何の問題もなかった。
ということはつまり、今までクリスさんに頼りきりだったせいもあって飛び降りるなんて考えたこともなかったが、前の私はもっといろいろできたということなのだろう。
そういえば、エイブラでは鎧を着た兵士を蹴り飛ばして戦闘不能にさせてこともあったっけ。
私だって、意外と自分で色々できるのだということが分かっただけでも良しとしよう。
こういうのを何て言うんだっけ?
ええと、人生西方に馬 、だったかな?
たしかそんなようなことわざがあったような気がする。よく覚えていないけれど。
そんなことよりも、とりあえず魚を捕まえよう。
私は潮の引いた岩場に降り立つと、地面で跳ねる魚を捕まえる。そしてすぐに血抜きをし、片っ端から収納に放り込んでいった。
あ、でも食べる部分がなさそうな小魚はそのまま海に帰してやった。
私にもし料理の腕があったなら、そういった小魚だって美味しく食べられるのかもしれないけれど……。
こうしてあらかた魚を回収した私は村に帰ろうと結界を解いた。すると、なにやら不自然な黒い影が目の端にちらりと映った。
「あれは?」
何となく気になった私はそちらへと歩いていく。
「あれ? こんなところに洞窟があったんですね」
ひょいと岩を飛び越えた先に、人一人が腰をかがめればギリギリ入れそうなくらいの小さな洞窟が口を開けていたのだ。
しかもこの洞窟。中を覗いてみるとまるで人の手で掘られたかのように奥へと真っすぐ伸びているのだ。
ここは無人島だと思っていたが、もしかしたら人が暮らしていたことがあるのかもしれない。
だが、この島を囲む断崖絶壁は翼をもたない者をはっきりと拒絶している。
うーん? もしかして、この洞窟は島へと上陸するための通路だったりするのではないだろうか?
そんな突拍子もないことが思い浮かんだ私は、つい好奇心の赴くままに洞窟の中へと足を踏み入れたのだった。
いや、だって。暇だったんだもの。
=========
※人間万事塞翁が馬:人生の禍福は転々として予測できないことのたとえ。(出典:デジタル大辞泉)
0
お気に入りに追加
436
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
絶対に間違えないから
mahiro
恋愛
あれは事故だった。
けれど、その場には彼女と仲の悪かった私がおり、日頃の行いの悪さのせいで彼女を階段から突き落とした犯人は私だと誰もが思ったーーー私の初恋であった貴方さえも。
だから、貴方は彼女を失うことになった私を許さず、私を死へ追いやった………はずだった。
何故か私はあのときの記憶を持ったまま6歳の頃の私に戻ってきたのだ。
どうして戻ってこれたのか分からないが、このチャンスを逃すわけにはいかない。
私はもう彼らとは出会わず、日頃の行いの悪さを見直し、平穏な生活を目指す!そう決めたはずなのに...……。
家庭菜園物語
コンビニ
ファンタジー
お人好しで動物好きな最上 悠(さいじょう ゆう)は肉親であった祖父が亡くなり、最後の家族であり姉のような存在でもある黒猫の杏(あんず)も静かに息を引き取ろうとする中で、助けたいなら異世界に来てくれないかと、少し残念な神様に提案される。
その転移先で秋田犬の大福を助けたことで、能力を失いそのままスローライフをおくることとなってしまう。
異世界で新しい家族や友人を作り、本人としてはほのぼのと家庭菜園を営んでいるが、小さな畑が世界には大きな影響を与えることになっていく。
公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~
朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ
お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。
ひとつ上のお姉様はとても愛らしく、皆に大切にされている。
お父様やお兄様は私に関心がないみたい。
ただ、愛されたいと願った。
そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。
異世界転生ファミリー
くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?!
辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。
アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。
アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。
長男のナイトはクールで賢い美少年。
ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。
何の不思議もない家族と思われたが……
彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
流雲青人
恋愛
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる