397 / 625
人と魔物と魔王と聖女
第九章第23話 目玉焼き
しおりを挟む
2021/07/08 誤字を修正しました
=========
私がヨタヨタ鳥を飼い始めたことはすぐにみんなの知るところとなった。というのも、潰れたゆで卵の一部を食べたヴェラが大層気に入り、村のみんなに言って回ったからだ。
そこでゴンザレスのやっている養豚場とは別にヨタヨタ鳥を飼育する施設を作ることになったのだ。
施設といっても単に柵で囲っただけの簡易なもので、その中に卵を産みやすいように屋根のある場所を何か所か用意してやるだけだ。
あとはこのヨタヨタ鳥を捕まえてくるだけなのだが……なんと驚くほどあっさりと三十羽ほどのほどのヨタヨタ鳥を捕獲することに成功した。
いや、だって。このヨタヨタ鳥。私たちが来ても逃げないどころか目の前にやってくるのだ。しかもよたよたと歩いていて動きも遅く、追いかけても飛んで逃げることもないのであっさりと捕まえることができてしまった。
要するに、この島はヨタヨタ鳥の天敵となるような肉食動物のいない平和な島なのだ。だからこそ、こんなでも絶滅せずに生き残ってこられたのだろう。
こうして養鶏場、いや、養ヨタヨタ鳥場? いや。ええと、もう長いから養ヨタ場でいいかな?
こほん。ともかくアイリスタウンの養ヨタ場に集められたヨタヨタ鳥は一羽ずつ隔離して明日の朝を待つことにした。
こうしてしばらく待っても卵を産まなかった子はオスなはずだ。であればこの養ヨタ場で飼育しても仕方がないので自然に返してやるというわけだ。
「これでゴブたちもゆで卵を食べられるゴブ?」
「そうですね。ただ、その前にもう一つ何とかしないといけないことがありますね」
「何ゴブ?」
「ほら、殻を割る道具がいると思うんです。のこぎりみたいなものがあると嬉しいんですが……」
「のこぎり? それは何ゴブ?」
「……ですよね。ぎざぎざの刃がついていて、本当は木を切ったりする道具なんですが……」
「ゴブ? 木だったらアルベルトが加工できるゴブよ? 木を切るゴブか?」
「いえ、そうではなく卵の殻を割りたいんです」
「? この前みたいに叩き潰せば良いゴブ?」
「毎回それはちょっと……」
「ゴブたちは気にしないゴブよ?」
「ええぇ」
◆◇◆
翌朝、養ヨタ場では十六個の卵が収穫できた。大きさは同じようにニワトリの卵を二回り大きくしたくらいで、やはりまるで石のように硬い。
だが、今回はちゃんとこの硬い卵の殻を割るために石のトンカチを用意してみた。尖った石をアルベルトにお願いして木に括りつけてもらったのだ。
これさえあれば昨日のように思い切り叩きつける必要はないはずだ。
私はトンカチを手にコツコツと卵の上を叩いていく。それから徐々に力を強くしていくとひびが入ってきた。
あ、いけそう。
もう少し強く叩くと卵の殻の一部欠け、全体にも大きなひびが入った。
あとは素手でこの卵を割って……。
バキンッ!
ものすごい音を立てて硬い卵に大きな穴が空いた。
この音にはちょっとびっくりしたが、無事に卵の中身は用意しておいたボウルに移された。
見た目は……うん。普通の卵だね。味もニワトリの卵と変わらなかったし、今日は目玉焼きを作ってみようと思う。
同じ要領で全員分の卵を割った私はかまどで温められたフライパンに豚の脂身をつかって脂を敷くとそっと卵を注ぐ。
豚の脂身を使ったのはここで手に入る油がこれしかなかったからだ。さすがに油もなしに焼いたら卵がくっついてしまうことくらいは私でもわかる。
一度にたくさんは焼けないので一度に焼くのは三つだけ。
じゅーっと美味しそうな音と共に卵が白く固まっていく。
あとはあまり強火にせず、じっくり焼けば良いんだっけ?
まあ、失敗したら失敗したで仕方がないだろう。何しろ私は目玉焼きを焼くのだって初めてだからね。
あれ? 目玉焼きってひっくり返すんだっけ?
良く知らないけれど、私がひっくり返したらひどいことになりそうだしやめておこう。
そうしてしばらく待っていると白身はしっかり固まり、黄身も大分固まってきたような気がする。
もういいかな?
そう思った私は目玉焼きをフライパンからお皿に移すと次の目玉焼きを焼いていく。
こうして全員分の目玉焼きが完成したのだった。
残った卵は……そのまま保存するのは無理だろうし、茹で玉子にでもしてしまおう。
「さあ、できましたよ」
「これが、目玉焼きゴブ?」
「おいしそうだワン」
「ちょっと熱そうだニャ」
「お、お、お、おで、た、た、たの、しみ……」
「食べいいっち?」
「食べたいワン」
「ゲコゲコ……あっついゲコ―ッ!」
「ああ、もう。そんなに焦って食べないでください。火傷しますよ」
「もうしたゲコ」
「仕方ありませんね」
私はカエサルに治癒魔法をかけてあげる。
「す、すごいゲコ。治ったゲコ」
「治癒魔法ですからね」
「あっち! アタイも火傷したズー」
「オイラもだピョン」
「ワンワンワン!」
結局全員熱い目玉焼きを飲み込んだせいで火傷し、私が治療してあげることとなった。
うーん? そんなに珍しいものでもないと思うのだけれど……。
あ、我ながら目玉焼きは美味しかったよ。しっとりしていてプリンとした白身に黄身はとろりと半熟で濃厚な味がしていた。
ただ、惜しむらくは色々と不足していたことだろう。
お醤油と白いごはんで食べても美味しかっただろうし、ベーコンにレタスやトマトなどの野菜、チーズなどと一緒にケチャップをかけ、パンと一緒に食べても美味しかっただろうと思う。
そう考えると、やっぱり元の生活が恋しい。
それにしても、クリスさんたちは元気にしているだろうか?
=========
私がヨタヨタ鳥を飼い始めたことはすぐにみんなの知るところとなった。というのも、潰れたゆで卵の一部を食べたヴェラが大層気に入り、村のみんなに言って回ったからだ。
そこでゴンザレスのやっている養豚場とは別にヨタヨタ鳥を飼育する施設を作ることになったのだ。
施設といっても単に柵で囲っただけの簡易なもので、その中に卵を産みやすいように屋根のある場所を何か所か用意してやるだけだ。
あとはこのヨタヨタ鳥を捕まえてくるだけなのだが……なんと驚くほどあっさりと三十羽ほどのほどのヨタヨタ鳥を捕獲することに成功した。
いや、だって。このヨタヨタ鳥。私たちが来ても逃げないどころか目の前にやってくるのだ。しかもよたよたと歩いていて動きも遅く、追いかけても飛んで逃げることもないのであっさりと捕まえることができてしまった。
要するに、この島はヨタヨタ鳥の天敵となるような肉食動物のいない平和な島なのだ。だからこそ、こんなでも絶滅せずに生き残ってこられたのだろう。
こうして養鶏場、いや、養ヨタヨタ鳥場? いや。ええと、もう長いから養ヨタ場でいいかな?
こほん。ともかくアイリスタウンの養ヨタ場に集められたヨタヨタ鳥は一羽ずつ隔離して明日の朝を待つことにした。
こうしてしばらく待っても卵を産まなかった子はオスなはずだ。であればこの養ヨタ場で飼育しても仕方がないので自然に返してやるというわけだ。
「これでゴブたちもゆで卵を食べられるゴブ?」
「そうですね。ただ、その前にもう一つ何とかしないといけないことがありますね」
「何ゴブ?」
「ほら、殻を割る道具がいると思うんです。のこぎりみたいなものがあると嬉しいんですが……」
「のこぎり? それは何ゴブ?」
「……ですよね。ぎざぎざの刃がついていて、本当は木を切ったりする道具なんですが……」
「ゴブ? 木だったらアルベルトが加工できるゴブよ? 木を切るゴブか?」
「いえ、そうではなく卵の殻を割りたいんです」
「? この前みたいに叩き潰せば良いゴブ?」
「毎回それはちょっと……」
「ゴブたちは気にしないゴブよ?」
「ええぇ」
◆◇◆
翌朝、養ヨタ場では十六個の卵が収穫できた。大きさは同じようにニワトリの卵を二回り大きくしたくらいで、やはりまるで石のように硬い。
だが、今回はちゃんとこの硬い卵の殻を割るために石のトンカチを用意してみた。尖った石をアルベルトにお願いして木に括りつけてもらったのだ。
これさえあれば昨日のように思い切り叩きつける必要はないはずだ。
私はトンカチを手にコツコツと卵の上を叩いていく。それから徐々に力を強くしていくとひびが入ってきた。
あ、いけそう。
もう少し強く叩くと卵の殻の一部欠け、全体にも大きなひびが入った。
あとは素手でこの卵を割って……。
バキンッ!
ものすごい音を立てて硬い卵に大きな穴が空いた。
この音にはちょっとびっくりしたが、無事に卵の中身は用意しておいたボウルに移された。
見た目は……うん。普通の卵だね。味もニワトリの卵と変わらなかったし、今日は目玉焼きを作ってみようと思う。
同じ要領で全員分の卵を割った私はかまどで温められたフライパンに豚の脂身をつかって脂を敷くとそっと卵を注ぐ。
豚の脂身を使ったのはここで手に入る油がこれしかなかったからだ。さすがに油もなしに焼いたら卵がくっついてしまうことくらいは私でもわかる。
一度にたくさんは焼けないので一度に焼くのは三つだけ。
じゅーっと美味しそうな音と共に卵が白く固まっていく。
あとはあまり強火にせず、じっくり焼けば良いんだっけ?
まあ、失敗したら失敗したで仕方がないだろう。何しろ私は目玉焼きを焼くのだって初めてだからね。
あれ? 目玉焼きってひっくり返すんだっけ?
良く知らないけれど、私がひっくり返したらひどいことになりそうだしやめておこう。
そうしてしばらく待っていると白身はしっかり固まり、黄身も大分固まってきたような気がする。
もういいかな?
そう思った私は目玉焼きをフライパンからお皿に移すと次の目玉焼きを焼いていく。
こうして全員分の目玉焼きが完成したのだった。
残った卵は……そのまま保存するのは無理だろうし、茹で玉子にでもしてしまおう。
「さあ、できましたよ」
「これが、目玉焼きゴブ?」
「おいしそうだワン」
「ちょっと熱そうだニャ」
「お、お、お、おで、た、た、たの、しみ……」
「食べいいっち?」
「食べたいワン」
「ゲコゲコ……あっついゲコ―ッ!」
「ああ、もう。そんなに焦って食べないでください。火傷しますよ」
「もうしたゲコ」
「仕方ありませんね」
私はカエサルに治癒魔法をかけてあげる。
「す、すごいゲコ。治ったゲコ」
「治癒魔法ですからね」
「あっち! アタイも火傷したズー」
「オイラもだピョン」
「ワンワンワン!」
結局全員熱い目玉焼きを飲み込んだせいで火傷し、私が治療してあげることとなった。
うーん? そんなに珍しいものでもないと思うのだけれど……。
あ、我ながら目玉焼きは美味しかったよ。しっとりしていてプリンとした白身に黄身はとろりと半熟で濃厚な味がしていた。
ただ、惜しむらくは色々と不足していたことだろう。
お醤油と白いごはんで食べても美味しかっただろうし、ベーコンにレタスやトマトなどの野菜、チーズなどと一緒にケチャップをかけ、パンと一緒に食べても美味しかっただろうと思う。
そう考えると、やっぱり元の生活が恋しい。
それにしても、クリスさんたちは元気にしているだろうか?
0
お気に入りに追加
434
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜
犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。
馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。
大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。
精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。
人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。
美少女に転生して料理して生きてくことになりました。
ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。
飲めないお酒を飲んでぶったおれた。
気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。
その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。
またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。
朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。
婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。
だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。
リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。
「なろう」「カクヨム」に投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる