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人と魔物と魔王と聖女
第九章第23話 目玉焼き
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2021/07/08 誤字を修正しました
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私がヨタヨタ鳥を飼い始めたことはすぐにみんなの知るところとなった。というのも、潰れたゆで卵の一部を食べたヴェラが大層気に入り、村のみんなに言って回ったからだ。
そこでゴンザレスのやっている養豚場とは別にヨタヨタ鳥を飼育する施設を作ることになったのだ。
施設といっても単に柵で囲っただけの簡易なもので、その中に卵を産みやすいように屋根のある場所を何か所か用意してやるだけだ。
あとはこのヨタヨタ鳥を捕まえてくるだけなのだが……なんと驚くほどあっさりと三十羽ほどのほどのヨタヨタ鳥を捕獲することに成功した。
いや、だって。このヨタヨタ鳥。私たちが来ても逃げないどころか目の前にやってくるのだ。しかもよたよたと歩いていて動きも遅く、追いかけても飛んで逃げることもないのであっさりと捕まえることができてしまった。
要するに、この島はヨタヨタ鳥の天敵となるような肉食動物のいない平和な島なのだ。だからこそ、こんなでも絶滅せずに生き残ってこられたのだろう。
こうして養鶏場、いや、養ヨタヨタ鳥場? いや。ええと、もう長いから養ヨタ場でいいかな?
こほん。ともかくアイリスタウンの養ヨタ場に集められたヨタヨタ鳥は一羽ずつ隔離して明日の朝を待つことにした。
こうしてしばらく待っても卵を産まなかった子はオスなはずだ。であればこの養ヨタ場で飼育しても仕方がないので自然に返してやるというわけだ。
「これでゴブたちもゆで卵を食べられるゴブ?」
「そうですね。ただ、その前にもう一つ何とかしないといけないことがありますね」
「何ゴブ?」
「ほら、殻を割る道具がいると思うんです。のこぎりみたいなものがあると嬉しいんですが……」
「のこぎり? それは何ゴブ?」
「……ですよね。ぎざぎざの刃がついていて、本当は木を切ったりする道具なんですが……」
「ゴブ? 木だったらアルベルトが加工できるゴブよ? 木を切るゴブか?」
「いえ、そうではなく卵の殻を割りたいんです」
「? この前みたいに叩き潰せば良いゴブ?」
「毎回それはちょっと……」
「ゴブたちは気にしないゴブよ?」
「ええぇ」
◆◇◆
翌朝、養ヨタ場では十六個の卵が収穫できた。大きさは同じようにニワトリの卵を二回り大きくしたくらいで、やはりまるで石のように硬い。
だが、今回はちゃんとこの硬い卵の殻を割るために石のトンカチを用意してみた。尖った石をアルベルトにお願いして木に括りつけてもらったのだ。
これさえあれば昨日のように思い切り叩きつける必要はないはずだ。
私はトンカチを手にコツコツと卵の上を叩いていく。それから徐々に力を強くしていくとひびが入ってきた。
あ、いけそう。
もう少し強く叩くと卵の殻の一部欠け、全体にも大きなひびが入った。
あとは素手でこの卵を割って……。
バキンッ!
ものすごい音を立てて硬い卵に大きな穴が空いた。
この音にはちょっとびっくりしたが、無事に卵の中身は用意しておいたボウルに移された。
見た目は……うん。普通の卵だね。味もニワトリの卵と変わらなかったし、今日は目玉焼きを作ってみようと思う。
同じ要領で全員分の卵を割った私はかまどで温められたフライパンに豚の脂身をつかって脂を敷くとそっと卵を注ぐ。
豚の脂身を使ったのはここで手に入る油がこれしかなかったからだ。さすがに油もなしに焼いたら卵がくっついてしまうことくらいは私でもわかる。
一度にたくさんは焼けないので一度に焼くのは三つだけ。
じゅーっと美味しそうな音と共に卵が白く固まっていく。
あとはあまり強火にせず、じっくり焼けば良いんだっけ?
まあ、失敗したら失敗したで仕方がないだろう。何しろ私は目玉焼きを焼くのだって初めてだからね。
あれ? 目玉焼きってひっくり返すんだっけ?
良く知らないけれど、私がひっくり返したらひどいことになりそうだしやめておこう。
そうしてしばらく待っていると白身はしっかり固まり、黄身も大分固まってきたような気がする。
もういいかな?
そう思った私は目玉焼きをフライパンからお皿に移すと次の目玉焼きを焼いていく。
こうして全員分の目玉焼きが完成したのだった。
残った卵は……そのまま保存するのは無理だろうし、茹で玉子にでもしてしまおう。
「さあ、できましたよ」
「これが、目玉焼きゴブ?」
「おいしそうだワン」
「ちょっと熱そうだニャ」
「お、お、お、おで、た、た、たの、しみ……」
「食べいいっち?」
「食べたいワン」
「ゲコゲコ……あっついゲコ―ッ!」
「ああ、もう。そんなに焦って食べないでください。火傷しますよ」
「もうしたゲコ」
「仕方ありませんね」
私はカエサルに治癒魔法をかけてあげる。
「す、すごいゲコ。治ったゲコ」
「治癒魔法ですからね」
「あっち! アタイも火傷したズー」
「オイラもだピョン」
「ワンワンワン!」
結局全員熱い目玉焼きを飲み込んだせいで火傷し、私が治療してあげることとなった。
うーん? そんなに珍しいものでもないと思うのだけれど……。
あ、我ながら目玉焼きは美味しかったよ。しっとりしていてプリンとした白身に黄身はとろりと半熟で濃厚な味がしていた。
ただ、惜しむらくは色々と不足していたことだろう。
お醤油と白いごはんで食べても美味しかっただろうし、ベーコンにレタスやトマトなどの野菜、チーズなどと一緒にケチャップをかけ、パンと一緒に食べても美味しかっただろうと思う。
そう考えると、やっぱり元の生活が恋しい。
それにしても、クリスさんたちは元気にしているだろうか?
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私がヨタヨタ鳥を飼い始めたことはすぐにみんなの知るところとなった。というのも、潰れたゆで卵の一部を食べたヴェラが大層気に入り、村のみんなに言って回ったからだ。
そこでゴンザレスのやっている養豚場とは別にヨタヨタ鳥を飼育する施設を作ることになったのだ。
施設といっても単に柵で囲っただけの簡易なもので、その中に卵を産みやすいように屋根のある場所を何か所か用意してやるだけだ。
あとはこのヨタヨタ鳥を捕まえてくるだけなのだが……なんと驚くほどあっさりと三十羽ほどのほどのヨタヨタ鳥を捕獲することに成功した。
いや、だって。このヨタヨタ鳥。私たちが来ても逃げないどころか目の前にやってくるのだ。しかもよたよたと歩いていて動きも遅く、追いかけても飛んで逃げることもないのであっさりと捕まえることができてしまった。
要するに、この島はヨタヨタ鳥の天敵となるような肉食動物のいない平和な島なのだ。だからこそ、こんなでも絶滅せずに生き残ってこられたのだろう。
こうして養鶏場、いや、養ヨタヨタ鳥場? いや。ええと、もう長いから養ヨタ場でいいかな?
こほん。ともかくアイリスタウンの養ヨタ場に集められたヨタヨタ鳥は一羽ずつ隔離して明日の朝を待つことにした。
こうしてしばらく待っても卵を産まなかった子はオスなはずだ。であればこの養ヨタ場で飼育しても仕方がないので自然に返してやるというわけだ。
「これでゴブたちもゆで卵を食べられるゴブ?」
「そうですね。ただ、その前にもう一つ何とかしないといけないことがありますね」
「何ゴブ?」
「ほら、殻を割る道具がいると思うんです。のこぎりみたいなものがあると嬉しいんですが……」
「のこぎり? それは何ゴブ?」
「……ですよね。ぎざぎざの刃がついていて、本当は木を切ったりする道具なんですが……」
「ゴブ? 木だったらアルベルトが加工できるゴブよ? 木を切るゴブか?」
「いえ、そうではなく卵の殻を割りたいんです」
「? この前みたいに叩き潰せば良いゴブ?」
「毎回それはちょっと……」
「ゴブたちは気にしないゴブよ?」
「ええぇ」
◆◇◆
翌朝、養ヨタ場では十六個の卵が収穫できた。大きさは同じようにニワトリの卵を二回り大きくしたくらいで、やはりまるで石のように硬い。
だが、今回はちゃんとこの硬い卵の殻を割るために石のトンカチを用意してみた。尖った石をアルベルトにお願いして木に括りつけてもらったのだ。
これさえあれば昨日のように思い切り叩きつける必要はないはずだ。
私はトンカチを手にコツコツと卵の上を叩いていく。それから徐々に力を強くしていくとひびが入ってきた。
あ、いけそう。
もう少し強く叩くと卵の殻の一部欠け、全体にも大きなひびが入った。
あとは素手でこの卵を割って……。
バキンッ!
ものすごい音を立てて硬い卵に大きな穴が空いた。
この音にはちょっとびっくりしたが、無事に卵の中身は用意しておいたボウルに移された。
見た目は……うん。普通の卵だね。味もニワトリの卵と変わらなかったし、今日は目玉焼きを作ってみようと思う。
同じ要領で全員分の卵を割った私はかまどで温められたフライパンに豚の脂身をつかって脂を敷くとそっと卵を注ぐ。
豚の脂身を使ったのはここで手に入る油がこれしかなかったからだ。さすがに油もなしに焼いたら卵がくっついてしまうことくらいは私でもわかる。
一度にたくさんは焼けないので一度に焼くのは三つだけ。
じゅーっと美味しそうな音と共に卵が白く固まっていく。
あとはあまり強火にせず、じっくり焼けば良いんだっけ?
まあ、失敗したら失敗したで仕方がないだろう。何しろ私は目玉焼きを焼くのだって初めてだからね。
あれ? 目玉焼きってひっくり返すんだっけ?
良く知らないけれど、私がひっくり返したらひどいことになりそうだしやめておこう。
そうしてしばらく待っていると白身はしっかり固まり、黄身も大分固まってきたような気がする。
もういいかな?
そう思った私は目玉焼きをフライパンからお皿に移すと次の目玉焼きを焼いていく。
こうして全員分の目玉焼きが完成したのだった。
残った卵は……そのまま保存するのは無理だろうし、茹で玉子にでもしてしまおう。
「さあ、できましたよ」
「これが、目玉焼きゴブ?」
「おいしそうだワン」
「ちょっと熱そうだニャ」
「お、お、お、おで、た、た、たの、しみ……」
「食べいいっち?」
「食べたいワン」
「ゲコゲコ……あっついゲコ―ッ!」
「ああ、もう。そんなに焦って食べないでください。火傷しますよ」
「もうしたゲコ」
「仕方ありませんね」
私はカエサルに治癒魔法をかけてあげる。
「す、すごいゲコ。治ったゲコ」
「治癒魔法ですからね」
「あっち! アタイも火傷したズー」
「オイラもだピョン」
「ワンワンワン!」
結局全員熱い目玉焼きを飲み込んだせいで火傷し、私が治療してあげることとなった。
うーん? そんなに珍しいものでもないと思うのだけれど……。
あ、我ながら目玉焼きは美味しかったよ。しっとりしていてプリンとした白身に黄身はとろりと半熟で濃厚な味がしていた。
ただ、惜しむらくは色々と不足していたことだろう。
お醤油と白いごはんで食べても美味しかっただろうし、ベーコンにレタスやトマトなどの野菜、チーズなどと一緒にケチャップをかけ、パンと一緒に食べても美味しかっただろうと思う。
そう考えると、やっぱり元の生活が恋しい。
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