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人と魔物と魔王と聖女
第九章第15話 農業指導?
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2021/07/08 誤字を修正しました
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「ええとですね。まず、カエルのあなたですが」
「オレ? なになに? オレの水やりがすごいって話ゲコ?」
「いえ、そうではなく……」
小さなジャイアントポイズントードが私のことをキラキラした目で見上げている。
う……言いづらい。でもちゃんと言わなければ!
「ええと、その水やりがうまくいかない原因の一つです」
「ゲコっ!?」
明らかにショックを受けた表情を浮かべているが、畑に毒液を撒かれたら作物は育つわけがない。
頑張っている子にこういうことを言うのは気が引けるが、きちんと指摘してあげるのがきっと優しさなはずだ。
「作物はですね。とても繊細なんです。だから、雨水を貯めるなどして、それを少しずつ撒いてあげてください。間違ってもあなたの毒液を撒いてはいけませんよ」
「ゲ、ゲコ……」
ジャイアントポイズントードはがっくりとうなだれた。
ううん。どうにも悪いことをした気分になるが、仕方ない。これも畑を成功させるには必要なことなのだ。
それにクリスさんを丸呑みにしようとしたあのカエルは嫌いだけど、こうして一生懸命頑張るカエルさんなら好きになれるかもしれない。
うん。そうだ。この村がうまく行くようにちゃんと言ってあげよう。
「それから、バッタのあなた」
「ピョ、ピョン?」
バッタの子はビクンと体を震わせた。
「せっかく生えてきた芽を食べてはいけません。葉っぱは作物が育つために必要なものです。それを食べてしまったら作物は育てませんよ」
「ピョピョン……」
バッタの子もしゅんとなってしまった。
「それから」
私が口を開くと他の子たちがピクンと震えた。
うん。やっぱりこの子たちはちゃんと作物を育てようとしているんだ。
「トレントのあなたは、養分を吸い取ったらダメですよ。あなたが養分を吸い取って成長するのと同じように、作物も同じ養分を吸って成長するんですから」
「……っちっち……」
トレントの子がショックを受けた様子で、やはりしゅんとなってしまった。
うん。本当にこの子たちはいい子のようだ。
世の中の魔物がみんなこんな風にいい子だったら、きっと争いなんて起きないんじゃないかな?
瘴気は人間の歪んだ欲望から生み出され、魔物はその瘴気から来る衝動に突き動かされている。
人々は魔物の恐ろしい姿しか知らないから魔物を恐れ、退治しようとする。
だが、こうして畑で作物を一生懸命に育てる姿を見れば手を取り合って暮らしていけるのではないだろうか?
そう考えると、ベルードはものすごく良いことをしようとしている気がする。
よし。ここを出られたら怖くない魔物だっているということをきちんと伝えよう。
一応、聖女なんてものになってしまったしね。その程度は許されるんじゃないかな?
だが、まずはこの畑を何とかしてあげたい。
「リーチェ」
花乙女の杖を取り出して召喚すると、魔力を渡してあげる。
まずは毒で汚染されてしまったこの畑をきれいにしてあげよう。
久しぶりにリーチェと本格的な浄化をしたが、【魔力操作】のレベルが上がっているおかげかものすごく楽に力が使える。
こうして比べてみると、今まで自分の【魔力操作】のレベルが低いせいでいかに力が制限されていたのかがよくわかる。
ともあれ、大した疲労もなく全ての畑を浄化することができた。
次は毒液でダメージを受けた種芋のほうを助けてあげたいのだが……。
「リーチェ。どうにかなりますか?」
そう尋ねると、リーチェは「もちろん」とにっこりと微笑んで魔力を要求してきた。
「お願いしますね」
再び魔力を渡し、リーチェは花びらをひらひらと降らせていく。
「わぁ。きれいだワン」
「すごいバウ」
そんな歓声を横目にしっかりと花びらを降り積もらせた私はリーチェに要求され、再び魔力を渡す。
花びらが暖かい光を放ち、やがて地面に溶けるかのようにさらりと消えていく。
すると次の瞬間、畑からにょきりと芽が出てきた。
「すごいゴブ」
「育ってるズー」
「「「……」」」
歓声を上げる二匹に対して私が指摘をした三匹は気まずそうにしている。
「知らなかったのだから、仕方がないんですよ。次からはがんばりましょうね」
「「「!」」」
三匹はビクッとなり、それからお互いに顔を見合わせた。
「が、頑張るゲコ」
「やるピョン」
「やるっちやるっち」
うん。やる気になってくれたし、良いんじゃないだろうか?
これだけ狭い島の小さなコミュニティだからね。
きっと後ろめたい気持ちで生きていくことになったらつらいと思うのだ。だからこうして前向きになってくれたようでなによりだ。
「すごいゴブ」
「さすが、ベルード様の友達だピョン」
「え? ええと、別に友達なわけでは……」
「じゃあ、恋人だワン?」
「いえいえ。まさかそんなわけないじゃないですか」
会ったのは一度だけだし、恋人だなんてあり得ないだろう。
それと、なぜかはわからないがアーデが大暴れしている様子が脳裏に浮かんだ。
いや、うん。アーデは関係ないから。たしかに暴れそうではあるけれど……。
「そうバウ。ベルード様にはアイリス様がいるバウ」
「アイリス様? 村ちょ……町長さんでしたっけ?」
「そうバウ。アイリス様を助けるためにベルード様は悪い奴らをたくさんやっつけたって聞いたバウ」
「はあ」
「だから、ベルード様はアイリス様が大好きバウ。ここの島も、自然が好きなアイリス様のためにベルード様が用意したバウ」
ええと? アイリスという女性はどこかのお姫様で、悪者に攫われたお姫様を助けるためにベルードが頑張ったとか、そんな感じかな?
うん。もしそうならベルードはさしずめ王子様ってところだね。
ホントかどうかは知らないけれど。
「きっと畑の作物が育ったって聞いたらアイリス様は喜ぶワン。ありがとうだワン」
「いいえ。どういたしまして」
嬉しそうに話す魔物たちに思わず私も笑みをこぼしたのだった。
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「ええとですね。まず、カエルのあなたですが」
「オレ? なになに? オレの水やりがすごいって話ゲコ?」
「いえ、そうではなく……」
小さなジャイアントポイズントードが私のことをキラキラした目で見上げている。
う……言いづらい。でもちゃんと言わなければ!
「ええと、その水やりがうまくいかない原因の一つです」
「ゲコっ!?」
明らかにショックを受けた表情を浮かべているが、畑に毒液を撒かれたら作物は育つわけがない。
頑張っている子にこういうことを言うのは気が引けるが、きちんと指摘してあげるのがきっと優しさなはずだ。
「作物はですね。とても繊細なんです。だから、雨水を貯めるなどして、それを少しずつ撒いてあげてください。間違ってもあなたの毒液を撒いてはいけませんよ」
「ゲ、ゲコ……」
ジャイアントポイズントードはがっくりとうなだれた。
ううん。どうにも悪いことをした気分になるが、仕方ない。これも畑を成功させるには必要なことなのだ。
それにクリスさんを丸呑みにしようとしたあのカエルは嫌いだけど、こうして一生懸命頑張るカエルさんなら好きになれるかもしれない。
うん。そうだ。この村がうまく行くようにちゃんと言ってあげよう。
「それから、バッタのあなた」
「ピョ、ピョン?」
バッタの子はビクンと体を震わせた。
「せっかく生えてきた芽を食べてはいけません。葉っぱは作物が育つために必要なものです。それを食べてしまったら作物は育てませんよ」
「ピョピョン……」
バッタの子もしゅんとなってしまった。
「それから」
私が口を開くと他の子たちがピクンと震えた。
うん。やっぱりこの子たちはちゃんと作物を育てようとしているんだ。
「トレントのあなたは、養分を吸い取ったらダメですよ。あなたが養分を吸い取って成長するのと同じように、作物も同じ養分を吸って成長するんですから」
「……っちっち……」
トレントの子がショックを受けた様子で、やはりしゅんとなってしまった。
うん。本当にこの子たちはいい子のようだ。
世の中の魔物がみんなこんな風にいい子だったら、きっと争いなんて起きないんじゃないかな?
瘴気は人間の歪んだ欲望から生み出され、魔物はその瘴気から来る衝動に突き動かされている。
人々は魔物の恐ろしい姿しか知らないから魔物を恐れ、退治しようとする。
だが、こうして畑で作物を一生懸命に育てる姿を見れば手を取り合って暮らしていけるのではないだろうか?
そう考えると、ベルードはものすごく良いことをしようとしている気がする。
よし。ここを出られたら怖くない魔物だっているということをきちんと伝えよう。
一応、聖女なんてものになってしまったしね。その程度は許されるんじゃないかな?
だが、まずはこの畑を何とかしてあげたい。
「リーチェ」
花乙女の杖を取り出して召喚すると、魔力を渡してあげる。
まずは毒で汚染されてしまったこの畑をきれいにしてあげよう。
久しぶりにリーチェと本格的な浄化をしたが、【魔力操作】のレベルが上がっているおかげかものすごく楽に力が使える。
こうして比べてみると、今まで自分の【魔力操作】のレベルが低いせいでいかに力が制限されていたのかがよくわかる。
ともあれ、大した疲労もなく全ての畑を浄化することができた。
次は毒液でダメージを受けた種芋のほうを助けてあげたいのだが……。
「リーチェ。どうにかなりますか?」
そう尋ねると、リーチェは「もちろん」とにっこりと微笑んで魔力を要求してきた。
「お願いしますね」
再び魔力を渡し、リーチェは花びらをひらひらと降らせていく。
「わぁ。きれいだワン」
「すごいバウ」
そんな歓声を横目にしっかりと花びらを降り積もらせた私はリーチェに要求され、再び魔力を渡す。
花びらが暖かい光を放ち、やがて地面に溶けるかのようにさらりと消えていく。
すると次の瞬間、畑からにょきりと芽が出てきた。
「すごいゴブ」
「育ってるズー」
「「「……」」」
歓声を上げる二匹に対して私が指摘をした三匹は気まずそうにしている。
「知らなかったのだから、仕方がないんですよ。次からはがんばりましょうね」
「「「!」」」
三匹はビクッとなり、それからお互いに顔を見合わせた。
「が、頑張るゲコ」
「やるピョン」
「やるっちやるっち」
うん。やる気になってくれたし、良いんじゃないだろうか?
これだけ狭い島の小さなコミュニティだからね。
きっと後ろめたい気持ちで生きていくことになったらつらいと思うのだ。だからこうして前向きになってくれたようでなによりだ。
「すごいゴブ」
「さすが、ベルード様の友達だピョン」
「え? ええと、別に友達なわけでは……」
「じゃあ、恋人だワン?」
「いえいえ。まさかそんなわけないじゃないですか」
会ったのは一度だけだし、恋人だなんてあり得ないだろう。
それと、なぜかはわからないがアーデが大暴れしている様子が脳裏に浮かんだ。
いや、うん。アーデは関係ないから。たしかに暴れそうではあるけれど……。
「そうバウ。ベルード様にはアイリス様がいるバウ」
「アイリス様? 村ちょ……町長さんでしたっけ?」
「そうバウ。アイリス様を助けるためにベルード様は悪い奴らをたくさんやっつけたって聞いたバウ」
「はあ」
「だから、ベルード様はアイリス様が大好きバウ。ここの島も、自然が好きなアイリス様のためにベルード様が用意したバウ」
ええと? アイリスという女性はどこかのお姫様で、悪者に攫われたお姫様を助けるためにベルードが頑張ったとか、そんな感じかな?
うん。もしそうならベルードはさしずめ王子様ってところだね。
ホントかどうかは知らないけれど。
「きっと畑の作物が育ったって聞いたらアイリス様は喜ぶワン。ありがとうだワン」
「いいえ。どういたしまして」
嬉しそうに話す魔物たちに思わず私も笑みをこぼしたのだった。
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