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人と魔物と魔王と聖女
第九章第12話 発見
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2021/07/08 誤字を修正しました
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温泉を堪能した翌日、私は島の探索を再開した。外輪山の尾根を転落しないようにゆっくりと時計回りに歩いていく。
昨日の温泉は上陸した場所からおよそ三分の一周ほどを歩いた場所にあり、これから残りのもう三分の一周ほどを歩けばここがどういう場所なのかがわかるはずだ。
これまでは木や藪が生い茂っているような場所はなかったが、ここから先は違う。背の高い木や藪が私の行く手を阻むことは間違いないだろう。
まあ、だからこそ私は反時計回りではなく時計回りに歩いたわけなのだが。
「さあ、行きましょうか」
すると隣を飛んでいるリーチェが拳を突き上げて同意してくれる。
うん。やっぱり私のリーチェはそんな仕草もかわいい。
リーチェに勇気づけられながら私は藪漕ぎをしながら進んでいく。
ああ。それにしても本当に早くルーちゃんに会いたい。
尾根は登っては降りを繰り返しているが、全体的に登っている時間のほうが多く少しずつその高度を上げていく。
やがて目の前に小さな崖が現れたため、蝙蝠になって崖を越えるべく空へと舞い上がる。
そして木の上に出て視界が開けた瞬間、今まで見えてなかったこの場所の全貌がついに明らかになった。
まず、ここは島だということが確定した。いわゆる絶海の孤島というやつだ。
そしてもう一つわかったことはこれまで外輪山で隠れていた側には少し平らになっている場所があり、そこにはどうやら小さな集落のようなものがあるということだ。
そう、集落があるのだ!
十軒ほどの建物が建っており、畑になっているのか開けた場所があるのも見て取れる。
よかった。ここは無人島ではなかったようだ。
あの村に行けば人がいるはずだ。そうすれば、どこかの国へと帰れるかも知れない。
そう思い至ったところで【蝙蝠化】の制限時間が来てしまったため、私は素早く防壁で足場を作りその上に立った。
それからもう一度集落の様子をよく確認してみる。
どうやら人の姿は見当たらない。それに畑らしき場所で作物が育てられている様子もないが、一応手入れ自体はされているようだ。
ということは、もしかするとすでに収穫が終わった後なのかもしれない。
うん。これは期待できそうだ。
だが、ここから【妖精化】だけであの村まで飛んでいくのは距離があるので無理だろう。
だがあの距離なら歩けば三十分で着きそうな気がする。
いや。でも木々が生い茂っているし、もっと時間はかかるかな? ずっと藪漕ぎをしてくとなると、もしかしたら数時間はかかってしまうかもしれない。
ともあれ、やっと見つけた村だ。早く行って人に会いたい。
そう考えた私は防壁を解除すると【妖精化】して地面に降り立ち、そして集落へと向かってゆっくりと歩き始めたのだった。
◆◇◆
あれから数時間歩いた私の目の前が突然開けた。明らかに獣みちではない幅で下草のない場所が続いているのだ。
「これは……道、ですよね?」
そう尋ねた私にリーチェはにっこりと微笑んでくれる。
「そう、ですよね。ああ、長かった。これでやっと……!」
これでようやく人里に戻ってこられたと思うと、そして長い長い漂流していた期間のことを思い出すと何だか涙がこぼれそうになる。
「あ……」
リーチェがいい子いい子と頭を撫でてくれた。
ああ。リーチェはかわいいだけじゃなくて気遣いもできるんだから。
ホントに、もう……!
「リーチェ。ありがとうございます」
私は目を軽くこすって気分を切り替えるとこの道らしきものをゆっくりと歩きだす。
そうしてしばらく歩いていると、木で作られた柵とそこに取り付けられた簡素な門が目に飛び込んできた。
「あ! ついに!」
私は思わずニヤケてしまい、そして駆け出した。
レベル 1 ではあるものの妙に高いステータスを持っている私はあっという間にその門の前に到着した。
柵高さはおよそ 1 メートルくらい。道を塞ぐように建てられている門の高さも同じくらいで、両開きなのだが半分は開放されている。
そして門の脇には立札が立てられおり、そこにはこう書かれていた。
『ようそこ。ァィリヌ夕ゥソへ』
ん? んんん?
ァィリヌ夕ゥソ?
これは……、アイリヌ? タウン、と読めばいいのかな?
って、ようそこ?
ええと、これはもしかして、まともに文字の読み書きをできる人がいないのかな?
そんな不安を覚えつつも、私は開いている門から集落の中に入る。
「ごめんくださーい」
私は不安からあまり大きくない声でそっと集落の中に向かって声をかけた。
返事などは期待していなかったが、高い女性の声で返事が返ってきた。
「こんにちは、だにゃん」
「はい。こんにちは」
私は思わず返事をし、それから遅れてやってきた違和感に眉をひそめた。
え? にゃん?
私は思わずキョロキョロとあたりを見回すが、それらしい女性の姿は見当たらない。
「ここだにゃん」
私の左手の足元から声が聞こえてくる。
……足元!?
疑問に思いつつ足元に目を向ける。
するとそこにはなんと!
猫、いや猫のような大きさのジャガーが丸まっており、頭を持ち上げて私をじっと見つめていた。
ちょうど、ブラックレインボー帝国で見たあのジャイアントジャガーを 30 cm くらいのサイズにした感じだ。
あ、いや。ジャイアントジャガーが大きすぎただけだが……。
いや、でもやっぱり猫かも知れない。ジャガーにしては小さすぎると思う。
って、あれ? 私、もしかして猫に喋りかけられてる?
え? え? 一体どういうこと!?
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温泉を堪能した翌日、私は島の探索を再開した。外輪山の尾根を転落しないようにゆっくりと時計回りに歩いていく。
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これまでは木や藪が生い茂っているような場所はなかったが、ここから先は違う。背の高い木や藪が私の行く手を阻むことは間違いないだろう。
まあ、だからこそ私は反時計回りではなく時計回りに歩いたわけなのだが。
「さあ、行きましょうか」
すると隣を飛んでいるリーチェが拳を突き上げて同意してくれる。
うん。やっぱり私のリーチェはそんな仕草もかわいい。
リーチェに勇気づけられながら私は藪漕ぎをしながら進んでいく。
ああ。それにしても本当に早くルーちゃんに会いたい。
尾根は登っては降りを繰り返しているが、全体的に登っている時間のほうが多く少しずつその高度を上げていく。
やがて目の前に小さな崖が現れたため、蝙蝠になって崖を越えるべく空へと舞い上がる。
そして木の上に出て視界が開けた瞬間、今まで見えてなかったこの場所の全貌がついに明らかになった。
まず、ここは島だということが確定した。いわゆる絶海の孤島というやつだ。
そしてもう一つわかったことはこれまで外輪山で隠れていた側には少し平らになっている場所があり、そこにはどうやら小さな集落のようなものがあるということだ。
そう、集落があるのだ!
十軒ほどの建物が建っており、畑になっているのか開けた場所があるのも見て取れる。
よかった。ここは無人島ではなかったようだ。
あの村に行けば人がいるはずだ。そうすれば、どこかの国へと帰れるかも知れない。
そう思い至ったところで【蝙蝠化】の制限時間が来てしまったため、私は素早く防壁で足場を作りその上に立った。
それからもう一度集落の様子をよく確認してみる。
どうやら人の姿は見当たらない。それに畑らしき場所で作物が育てられている様子もないが、一応手入れ自体はされているようだ。
ということは、もしかするとすでに収穫が終わった後なのかもしれない。
うん。これは期待できそうだ。
だが、ここから【妖精化】だけであの村まで飛んでいくのは距離があるので無理だろう。
だがあの距離なら歩けば三十分で着きそうな気がする。
いや。でも木々が生い茂っているし、もっと時間はかかるかな? ずっと藪漕ぎをしてくとなると、もしかしたら数時間はかかってしまうかもしれない。
ともあれ、やっと見つけた村だ。早く行って人に会いたい。
そう考えた私は防壁を解除すると【妖精化】して地面に降り立ち、そして集落へと向かってゆっくりと歩き始めたのだった。
◆◇◆
あれから数時間歩いた私の目の前が突然開けた。明らかに獣みちではない幅で下草のない場所が続いているのだ。
「これは……道、ですよね?」
そう尋ねた私にリーチェはにっこりと微笑んでくれる。
「そう、ですよね。ああ、長かった。これでやっと……!」
これでようやく人里に戻ってこられたと思うと、そして長い長い漂流していた期間のことを思い出すと何だか涙がこぼれそうになる。
「あ……」
リーチェがいい子いい子と頭を撫でてくれた。
ああ。リーチェはかわいいだけじゃなくて気遣いもできるんだから。
ホントに、もう……!
「リーチェ。ありがとうございます」
私は目を軽くこすって気分を切り替えるとこの道らしきものをゆっくりと歩きだす。
そうしてしばらく歩いていると、木で作られた柵とそこに取り付けられた簡素な門が目に飛び込んできた。
「あ! ついに!」
私は思わずニヤケてしまい、そして駆け出した。
レベル 1 ではあるものの妙に高いステータスを持っている私はあっという間にその門の前に到着した。
柵高さはおよそ 1 メートルくらい。道を塞ぐように建てられている門の高さも同じくらいで、両開きなのだが半分は開放されている。
そして門の脇には立札が立てられおり、そこにはこう書かれていた。
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ん? んんん?
ァィリヌ夕ゥソ?
これは……、アイリヌ? タウン、と読めばいいのかな?
って、ようそこ?
ええと、これはもしかして、まともに文字の読み書きをできる人がいないのかな?
そんな不安を覚えつつも、私は開いている門から集落の中に入る。
「ごめんくださーい」
私は不安からあまり大きくない声でそっと集落の中に向かって声をかけた。
返事などは期待していなかったが、高い女性の声で返事が返ってきた。
「こんにちは、だにゃん」
「はい。こんにちは」
私は思わず返事をし、それから遅れてやってきた違和感に眉をひそめた。
え? にゃん?
私は思わずキョロキョロとあたりを見回すが、それらしい女性の姿は見当たらない。
「ここだにゃん」
私の左手の足元から声が聞こえてくる。
……足元!?
疑問に思いつつ足元に目を向ける。
するとそこにはなんと!
猫、いや猫のような大きさのジャガーが丸まっており、頭を持ち上げて私をじっと見つめていた。
ちょうど、ブラックレインボー帝国で見たあのジャイアントジャガーを 30 cm くらいのサイズにした感じだ。
あ、いや。ジャイアントジャガーが大きすぎただけだが……。
いや、でもやっぱり猫かも知れない。ジャガーにしては小さすぎると思う。
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え? え? 一体どういうこと!?
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