勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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人と魔物と魔王と聖女

第九章第6話 交渉とチート

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「お願い……します……。【雷撃】と【幸運】のスキルだけで良いので、どうかお返しください……」

 先ほどまでの威丈高な態度とは違って殊勝な様子につい Yes と答えそうになったが、精霊神様に聞いていた話と違うことに気付いてすんでのところで踏みとどまった。

「あれ? 【幸運】も、ですか?」
「はい。【幸運】は、勇者が理不尽な目に遭っても死なずに生き残るためのスキルなのです。これがなければ勇者は魔王を倒すという役目を果たすことはできません」

 なるほど。そういうことなら返したほうが、って、あれ? じゃあどうして精霊神様は【雷撃】しか返さなくていいって言ったんだろう?
 
 不審に思った私は幸運のスキルをタップしてその説明を確認する。

『非常に運が良くなり、死の危機に瀕するなどの重大な局面において通常ではありえないような幸運が舞い込む』

 ふうん? なるほど? だから【幸運】のスキルを持っている割には普段からラッキーなことが起こりまくるということがなかったのか。

 それから私は【雷撃】のスキルの説明を確認する。

『勇者専用のユニークスキル。人々の心の光を集めた雷で瘴気を滅する攻撃を行うことができる。唯一無二』

 ううん? 別に【幸運】は勇者専用のスキルじゃないような?

「あの。【幸運】って別に勇者専用のスキルじゃないですよね?」
「……チッ」

 あ、舌打ちされた。そして何故かハゲ神様は先ほどまでのしおらしい態度はどこへやら、心底残念そうな表情を浮かべている。

 そこで私は再び違和感に襲われる。

 どうして残念なんだろうか?

 ええと? 私から【幸運】取り上げたい?

 私は【幸運】スキルの説明をもう一度よく読んでみる。

『非常に運が良くなり、死の危機に瀕するなどの重大な局面において通常ではありえないような幸運が舞い込む』

 ん? 死の危機?

 そういえば私、巨大ザメのいる荒れた海に転落しなかったっけ?

「ああっ! なんてことを! 他の神の信徒をわざと殺そうとするなんて!」
「……チッ。反省してま~す」

 こいつは……。

 もう、こいつの事は神様なんて呼ばないでただのハゲでいいよね?

「ハゲさん」

 私がついそう呼び掛けると烈火の如き反応が返ってきた。

「ハゲぢゃない! ちゃんとまだ三本生えている!」

 いや、三本しか生えてないならハゲなのではないだろうか?

「ええと。じゃあハゲかどうかはさておき、あなたがそういう態度なら私は【雷撃】のスキルも返しませんよ? 精霊神様にお願いして何とかしてもらいますから」

 私がそう言うとハゲさんの顔がさっと青ざめた。

「すみません。お願いします。どうか【雷撃】を返してください。勇者を誕生させられずに困っているんです」
「返しても良いですけど、条件があります」
「条件、だと?」
「はい。前と同じように返したスキルのポイントを他のスキルに割りたいので、自分でステータスの修正をさせてください。そもそもあなたに任せたら何をされるかわかりませんから。それと、私を殺そうとしたり無理矢理書き換えようとした慰謝料としてスキルのポイントを 10 ポイント下さい」

 私の要求を聞いたハゲさんはあからさまに顔をしかめた。

「じゃあ、無かったことにしましょう。精霊神様のところに行くので、早く私を戻してください」

 そう言うとハゲさんはさらに嫌そうな顔をした。その頭にはまたしても血管が浮き出ている。

「……わかった。仕方ない。だが、10ポイントは多すぎる。1ポイントだ。それと新たなスキルを取得することは禁止だ。これで良ければその条件を飲もう。お前の神である精霊神様に誓約する」
「わかりました」
「では契約は成った」

 すると私の目の前に新たなタブレットが現れた。

「これを使えばいいんですか? ええと……」
「世界の行く末を見守る神にして人の神代理だ」
「じゃあ、長いので代理さんで良いですね」
「む? ま、まあ良いだろう。そろそろ私のタブレットを返せ」
「はい」

 私は代理さんにタブレットを返した。そして自分のタブレットを確認すると、そこにはちゃんと私のステータスが表示されている。

 私はスキルリストを開くとレベルが2の【雷撃】のスキルを返却した。するとあの時と同様に11ポイントが帰ってきて、合計ポイントは12ポイントになった。

 あとはこれをどう割り振るかだが、私は真っ先に9ポイントを消費して【魔力操作】のレベルを MAX に上げた。

 だって、リーチェの成長がかかっているんだよ?

 それなら上げられるだけ上げておいたほうが良いだろう。

 残りは3ポイントだ。

 そうだ。確か【回復魔法】をオーバードライブすれば【蘇生魔法】が得られるんじゃなかったっけ?

 そうすればもしかしたらユーグさんを蘇生できたりしないだろうか?

 いや、でももし進化の秘術で魔物へと変えられた状態で蘇生したら大変なことになるんじゃ……。

 そんな恐怖が頭をよぎるが、でも私の大事な友達のためだ。

 失敗してもダメもとでチャレンジしてみる価値はあるんじゃないだろうか?

 そう考えて私は【魔力操作】に割り振ったポイントを減らして回復魔法をオーバードライブさせる。

 するとスキルリストに【蘇生魔法】が現れたのでその説明を確認してみる。

『外的要因によって死亡した者を蘇生させる魔法。蘇生できる者は魂が残っている者に限られる。なお、寿命や病気などにより死亡した者を蘇生することはできない』

 うん。これなら何とかなるかもしれない。

 あとはここにポイントを投入して……って、あれ? レベルが上げられない?

 どうやら【蘇生魔法】にはレベルが無いようだ。

 さて、と。あとはどうしようか。

 そう思案する私の目の端に、精霊神様に役に立たないと言われた【成長限界突破】が映った。

 あれ? そもそも【雷撃】のスキルを返せって言われたし新規取得はダメって言われたけど、手持ちのスキルを返すのは禁止されてないよね?

 よし。

 私は試しに【成長限界突破】を返却してみる。すると 10 ポイントが追加された。

 やった! これで【魔力操作】を MAX にできる!

 というわけで私はいそいそと【魔力操作】のレベルを MAX まで上げる。

 さて、残りは 3 ポイントだ。

 どうしよう?

 私は自分の手持ちのスキルリストを眺めてじっくり考える。

 そして悩んだ末に【闇属性魔法】をレベル 3 に、【水属性魔法】をレベル 2 にしたのだった。

 【闇属性魔法】のレベルを上げた一番の理由は、マリーさんのようなケースでもっとしっかり治療してあげられると思ったからだ。ついでに吸血鬼のユニークスキルのレベルが上がらない原因も解消できるしね。

 それと【水属性魔法】はもちろん、職業を水属性魔術師にしようとしたのと同じ理由だ。
 
 私は変更したスキル情報を確定する。するとタブレットに『修正申告を担当神(精霊神)に送信しました』と表示された。そしてタブレットが溶けるように消えていく。

「終わりましたよ」
「……チッ」

 私がそう告げると代理さんはまた舌打ちをし、心底嫌そうな表情を浮かべた。

「ではもう会うこともあるまい。さらばだ」

 そして私の視界は再びホワイトアウトしたのだった。
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