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人と魔物と魔王と聖女
第九章第5話 再会
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「目覚めたな。フィーネ・アルジェンタータよ」
どこかで聞いたことのある声に目を開けると、目の前には何とも懐かしいハゲたおっさんの姿がそこにあった。
「えーと、お久しぶりです?」
「ふむ。久しいな。あの時はよくも滅茶苦茶なことをしてくれたものだ」
「あはは、すみません。まさか本当に神様だなんて思いませんでしたので」
私がそう言うとこの神様のハゲ頭に血管が浮き出た。
「あの、あまり怒ると健康に良くないですよ?」
「ええい! 誰のせいだと思っておるのだ! お前があんなことをしてくれたせいでこっちの計画が台無しだ! それをいけしゃあしゃあと!」
「はあ。でもあなたも私が転職したいと言ったときに勝手に別の職業にしたじゃないですか。それでお互い様、じゃダメですかね?」
「ダメに決まっておろう!」
ちょっと可愛らしく小首を傾げながら言ってみたのだが、どうやらこのハゲ頭の神様の怒りに油を注いでしまったらしい。
「じゃあ、なんなら良いんですか?」
「まずは、お主が勝手に持っていったスキルを返してもらおう。そして、今すぐに吸血鬼をやめて救血聖霊へと存在進化してもらう」
「救血聖霊?」
「うむ」
鷹揚に頷いたハゲ神様は自慢気な表情を浮かべる。そしてなぜかその背後に光の球が浮かび上がり、まるで後光が差しているような状態になった。
だがその光が私の目線からだとちょうどハゲ神様の頭の部分に被っており、さながら頭がピカーっと光っているように見える。
う、うん。ええと、その、アレだ。いや、言うまい。
それを具体的に言葉にすると噴き出してしまい、延々と腹筋が試されることになる気がする。
それにこのハゲ神様は精霊神様と違って神経質そうだしね。もし噴き出してしまったら何をされるか分かったものではない。
私は腹筋に力を入れて笑いを抑える。
「救血聖霊とはな。吸血鬼としての全ての性質が反転して存在進化した聖なる存在じゃ。そして吸血衝動は救血衝動となり、おのれの血を分け与えて人々を癒さずには居られなくなるのじゃ。どうじゃ? 素晴らしかろう?」
ええと? いきなり口調まで変えて、このハゲ神様は一体何を言っているんだろうか?
大体私をこのハゲ神様だって最初から私を吸血鬼の魔王にしようとしていたじゃないないか。それが今になって突然スキルを返せだのそんな面倒くさそうな衝動を持つ生き物になれだの、一体何様のつもりだろうか?
あ、一応神様だったね。
「お断りします」
「そうじゃろう。そなたもその様な素晴らしい存在になれてさぞ嬉しかろうって、何!?」
断られるなどと思っていなかったのか、大げさな反応を示した。
「だから、お断りします」
口をあんぐり開けて目玉を飛び出させてこちらを見ている。
うん。マンガとかでこういうのってあるよね。
「な、なぜだ! なぜ断るのだ! 神の命令が聞けないというのか!?」
「え? だって、そんなのになる理由はどこにもないじゃないですか。吸血衝動なんてたまにしかないですし、それにコップ一杯で簡単に収まるんですから」
「はあっ!? こっちは困るのだ! 吸血鬼が聖女になるなどあってたまるか!」
唾がたくさん飛び散っていそうな感じの早口で捲し立ててきた。
「はあ。だったら別の聖女候補を立てればいいじゃないですか」
「それが出来れば苦労はないッ!」
ハゲ神様の怒号が鳴り響く。
「ええい。そちらがその気なら仕方ない。人の神代理として権限を行使し、貴様を強制的に書き換えてやる」
そういって懐かしいタブレットを取り出すと画面を弄り始めた。
勝手にそんなことをされてはたまらない!
私は再びタブレットを奪うべく走り出したがハゲ神様はすでに設定を終えたのか、勝ち誇った表情で私に言い放った。
「同じ手は二度と食わんぞ。それにもう遅い。貴様の種族を救血聖霊に、そして全てのスキルレベルを半分にしてやったわ!」
だが次の瞬間、タブレットから「ビーッビーッビーッ」という警告音のようなものが鳴り響く。
「なっ! なんだとっ!? 精霊神様っ!?」
ハゲ神様がまたまた目を見開いてたじろいだので、私はその隙にタブレットをむしり取った。
「ふう。確保です。勝手なことはやめてくださいね」
久しぶりにタブレットを見ると、そこにはこんなメッセージが表示されていた。
『【警告】対象者の設定を変更する権限がありません。設定変更の必要がある場合は、担当神(精霊神)へと連絡してください』
おお! 精霊神様、ありがとうございます。
私が[OK]ボタンを押すと今度は別のメッセージが表示された。
『【出頭命令】聖女認定遅延の件について
二振りの聖剣により選ばれ、三振りの聖剣による推薦を受けた聖女候補の認定遅延について、査問委員会を開催する。本日 15:00 に神界第三法廷へ出廷すること』
ええと? このハゲ神様、何してるの?
それにさっきの口ぶりからしてこれ、私のことだよね?
二本の聖剣はクリスさんのやつとキリナギだろう。残りの三本ってことはレッドスカイ帝国のやつとルフィカールと、あとはどれのことだろう?
ユーグさんの聖剣はシャルを選んだはずだし……。
それはさておき、なんだかまずそうだしハゲ神様には教えておいたほうがいいだろう。
「あの、何だか出頭命令とか来てますよ?」
「ええい! 知っておる! だからさっさとこの問題を始末しなければならんのだ!」
私がタブレットの画面を見せながらそう伝えると、ハゲ神様はまたもや唾をまき散らしそうな勢いで怒鳴ってきた。
「いえ、ですから。無理矢理そういうことをやるのはダメだと思うんですけど」
「ならば救血聖霊になるな?」
「お断りします」
「結局ダメじゃないか!」
また怒鳴られた。
でもさ。それはいくらなんでもあり得ないでしょ?
どうしてもっとまともなものを用意してくれなかったのか。
「まあよい。どのみち、貴様は救血聖霊になるのだからな」
「救血聖霊の進化条件は『覚醒前の吸血鬼が聖女の職を得る』だ。あのやかましい聖剣たちが四六時中上げてくる聖女認定要請を受諾すれば貴様は聖女になり、そして自動的に救血聖霊へと存在進化するのだ」
げっ。それは勘弁してほしい。どうにかならないかな?
私はどうにかそれを変更できないかと出頭命令のメッセージウィンドウを閉じ、そしてそれが杞憂であったことに安堵した。
今タブレットで開いているのはいつか見たあの設定画面だ。その画面には私のステータスが詳細に表示されているのだが、その中の私の種族の項目がいつの間にか「吸血鬼(笑)」から「妖精吸血鬼」へと変化していたのだ。
しかも嬉しいことに、どうしても取れなかった忌まわしいあの「(笑)」が取れているではないか!
これでやっと……いや、まだ油断はできない。前回はこのタブレットでは何ともなかったのに治癒師になってステータスを確認したら「(笑)」がついていたのだ。戻ってステータスを確認するまではまだ安心できないだろう。
それはそうと、この「妖精吸血鬼」というのはどのような種族なのだろうか?
種族欄を長押ししてみると、種族の説明が表示された。
『覚醒前の吸血鬼が精霊神の加護を得ることで存在進化した種族。精霊との親和性が高まり、固有スキル【妖精化】を取得する』
おお! 精霊神様さすが! ありがとうございます!
私は心の中で感謝の祈りを精霊神様に捧げるとハゲ神様に向き直る。
「あの、どうやら私はもう吸血鬼ではないみたいなので、その救血聖霊とやらにはなりませんよ」
「はあっ!?」
「大体、何なんですかあなたは。神様なのにこんな勝手なことをして。そんなことをするくらいなら隷属の呪印とか瘴気とか、もっとやることあるんじゃないですか?」
「う、う、う、うるさいっ! お前がッ! お前が滅茶苦茶なことをするから悪いんだ!」
うーん。これ、本当に神様なんですかね?
「それで、私に何をしてほしいんですか?」
「救血聖――」
「お断りします」
「結局ダメなんじゃないか!」
「じゃあ、もう帰らせてもらいますね」
「……待て。スキルを返せ。お前が奪っていったスキルを返せ!」
奪ったとは人聞きが悪い。このスキルは他のスキルのレベルを対価に交換したものであって奪ったのではない。
「お断りします。精霊神様は、今持っているスキルは全て私のものだと言っていました。私は精霊神様の信徒ですから、精霊神様のお言葉を優先します」
するとハゲ神様は頭をがっくりと垂れた。その全身はわなないている。
それからしばらくするとハゲ神様は絞り出すように要求を伝えてきた。
どこかで聞いたことのある声に目を開けると、目の前には何とも懐かしいハゲたおっさんの姿がそこにあった。
「えーと、お久しぶりです?」
「ふむ。久しいな。あの時はよくも滅茶苦茶なことをしてくれたものだ」
「あはは、すみません。まさか本当に神様だなんて思いませんでしたので」
私がそう言うとこの神様のハゲ頭に血管が浮き出た。
「あの、あまり怒ると健康に良くないですよ?」
「ええい! 誰のせいだと思っておるのだ! お前があんなことをしてくれたせいでこっちの計画が台無しだ! それをいけしゃあしゃあと!」
「はあ。でもあなたも私が転職したいと言ったときに勝手に別の職業にしたじゃないですか。それでお互い様、じゃダメですかね?」
「ダメに決まっておろう!」
ちょっと可愛らしく小首を傾げながら言ってみたのだが、どうやらこのハゲ頭の神様の怒りに油を注いでしまったらしい。
「じゃあ、なんなら良いんですか?」
「まずは、お主が勝手に持っていったスキルを返してもらおう。そして、今すぐに吸血鬼をやめて救血聖霊へと存在進化してもらう」
「救血聖霊?」
「うむ」
鷹揚に頷いたハゲ神様は自慢気な表情を浮かべる。そしてなぜかその背後に光の球が浮かび上がり、まるで後光が差しているような状態になった。
だがその光が私の目線からだとちょうどハゲ神様の頭の部分に被っており、さながら頭がピカーっと光っているように見える。
う、うん。ええと、その、アレだ。いや、言うまい。
それを具体的に言葉にすると噴き出してしまい、延々と腹筋が試されることになる気がする。
それにこのハゲ神様は精霊神様と違って神経質そうだしね。もし噴き出してしまったら何をされるか分かったものではない。
私は腹筋に力を入れて笑いを抑える。
「救血聖霊とはな。吸血鬼としての全ての性質が反転して存在進化した聖なる存在じゃ。そして吸血衝動は救血衝動となり、おのれの血を分け与えて人々を癒さずには居られなくなるのじゃ。どうじゃ? 素晴らしかろう?」
ええと? いきなり口調まで変えて、このハゲ神様は一体何を言っているんだろうか?
大体私をこのハゲ神様だって最初から私を吸血鬼の魔王にしようとしていたじゃないないか。それが今になって突然スキルを返せだのそんな面倒くさそうな衝動を持つ生き物になれだの、一体何様のつもりだろうか?
あ、一応神様だったね。
「お断りします」
「そうじゃろう。そなたもその様な素晴らしい存在になれてさぞ嬉しかろうって、何!?」
断られるなどと思っていなかったのか、大げさな反応を示した。
「だから、お断りします」
口をあんぐり開けて目玉を飛び出させてこちらを見ている。
うん。マンガとかでこういうのってあるよね。
「な、なぜだ! なぜ断るのだ! 神の命令が聞けないというのか!?」
「え? だって、そんなのになる理由はどこにもないじゃないですか。吸血衝動なんてたまにしかないですし、それにコップ一杯で簡単に収まるんですから」
「はあっ!? こっちは困るのだ! 吸血鬼が聖女になるなどあってたまるか!」
唾がたくさん飛び散っていそうな感じの早口で捲し立ててきた。
「はあ。だったら別の聖女候補を立てればいいじゃないですか」
「それが出来れば苦労はないッ!」
ハゲ神様の怒号が鳴り響く。
「ええい。そちらがその気なら仕方ない。人の神代理として権限を行使し、貴様を強制的に書き換えてやる」
そういって懐かしいタブレットを取り出すと画面を弄り始めた。
勝手にそんなことをされてはたまらない!
私は再びタブレットを奪うべく走り出したがハゲ神様はすでに設定を終えたのか、勝ち誇った表情で私に言い放った。
「同じ手は二度と食わんぞ。それにもう遅い。貴様の種族を救血聖霊に、そして全てのスキルレベルを半分にしてやったわ!」
だが次の瞬間、タブレットから「ビーッビーッビーッ」という警告音のようなものが鳴り響く。
「なっ! なんだとっ!? 精霊神様っ!?」
ハゲ神様がまたまた目を見開いてたじろいだので、私はその隙にタブレットをむしり取った。
「ふう。確保です。勝手なことはやめてくださいね」
久しぶりにタブレットを見ると、そこにはこんなメッセージが表示されていた。
『【警告】対象者の設定を変更する権限がありません。設定変更の必要がある場合は、担当神(精霊神)へと連絡してください』
おお! 精霊神様、ありがとうございます。
私が[OK]ボタンを押すと今度は別のメッセージが表示された。
『【出頭命令】聖女認定遅延の件について
二振りの聖剣により選ばれ、三振りの聖剣による推薦を受けた聖女候補の認定遅延について、査問委員会を開催する。本日 15:00 に神界第三法廷へ出廷すること』
ええと? このハゲ神様、何してるの?
それにさっきの口ぶりからしてこれ、私のことだよね?
二本の聖剣はクリスさんのやつとキリナギだろう。残りの三本ってことはレッドスカイ帝国のやつとルフィカールと、あとはどれのことだろう?
ユーグさんの聖剣はシャルを選んだはずだし……。
それはさておき、なんだかまずそうだしハゲ神様には教えておいたほうがいいだろう。
「あの、何だか出頭命令とか来てますよ?」
「ええい! 知っておる! だからさっさとこの問題を始末しなければならんのだ!」
私がタブレットの画面を見せながらそう伝えると、ハゲ神様はまたもや唾をまき散らしそうな勢いで怒鳴ってきた。
「いえ、ですから。無理矢理そういうことをやるのはダメだと思うんですけど」
「ならば救血聖霊になるな?」
「お断りします」
「結局ダメじゃないか!」
また怒鳴られた。
でもさ。それはいくらなんでもあり得ないでしょ?
どうしてもっとまともなものを用意してくれなかったのか。
「まあよい。どのみち、貴様は救血聖霊になるのだからな」
「救血聖霊の進化条件は『覚醒前の吸血鬼が聖女の職を得る』だ。あのやかましい聖剣たちが四六時中上げてくる聖女認定要請を受諾すれば貴様は聖女になり、そして自動的に救血聖霊へと存在進化するのだ」
げっ。それは勘弁してほしい。どうにかならないかな?
私はどうにかそれを変更できないかと出頭命令のメッセージウィンドウを閉じ、そしてそれが杞憂であったことに安堵した。
今タブレットで開いているのはいつか見たあの設定画面だ。その画面には私のステータスが詳細に表示されているのだが、その中の私の種族の項目がいつの間にか「吸血鬼(笑)」から「妖精吸血鬼」へと変化していたのだ。
しかも嬉しいことに、どうしても取れなかった忌まわしいあの「(笑)」が取れているではないか!
これでやっと……いや、まだ油断はできない。前回はこのタブレットでは何ともなかったのに治癒師になってステータスを確認したら「(笑)」がついていたのだ。戻ってステータスを確認するまではまだ安心できないだろう。
それはそうと、この「妖精吸血鬼」というのはどのような種族なのだろうか?
種族欄を長押ししてみると、種族の説明が表示された。
『覚醒前の吸血鬼が精霊神の加護を得ることで存在進化した種族。精霊との親和性が高まり、固有スキル【妖精化】を取得する』
おお! 精霊神様さすが! ありがとうございます!
私は心の中で感謝の祈りを精霊神様に捧げるとハゲ神様に向き直る。
「あの、どうやら私はもう吸血鬼ではないみたいなので、その救血聖霊とやらにはなりませんよ」
「はあっ!?」
「大体、何なんですかあなたは。神様なのにこんな勝手なことをして。そんなことをするくらいなら隷属の呪印とか瘴気とか、もっとやることあるんじゃないですか?」
「う、う、う、うるさいっ! お前がッ! お前が滅茶苦茶なことをするから悪いんだ!」
うーん。これ、本当に神様なんですかね?
「それで、私に何をしてほしいんですか?」
「救血聖――」
「お断りします」
「結局ダメなんじゃないか!」
「じゃあ、もう帰らせてもらいますね」
「……待て。スキルを返せ。お前が奪っていったスキルを返せ!」
奪ったとは人聞きが悪い。このスキルは他のスキルのレベルを対価に交換したものであって奪ったのではない。
「お断りします。精霊神様は、今持っているスキルは全て私のものだと言っていました。私は精霊神様の信徒ですから、精霊神様のお言葉を優先します」
するとハゲ神様は頭をがっくりと垂れた。その全身はわなないている。
それからしばらくするとハゲ神様は絞り出すように要求を伝えてきた。
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