勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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黒き野望

第八章第38話 シズク vs. アルフォンソ

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「フハハハハハハハ。そらっ! そらっ! そらっ! どうしたっ! この程度かっ!」

アルフォンソは目にも止まらぬ速さでシズクさんに黒い剣を打ち込んでおり、シズクさんはそれを冷静にいなしている。

私としてもなんとかシズクさんのサポートをしてあげたいのだが、あまりの速さにそのタイミングを掴めない。

「ここでござるっ!」

シズクさんがアルフォンソの連撃の合間を縫って一撃を振り抜いた。その一撃はアルフォンソの右腕に大きな傷をつけるのだが……。

「ん? 何かしたか?」

アルフォンソの傷はすぐに再生して元に戻ってしまう。

「ならば!」

今度はシズクさんが攻め込んでいく。私の目では追い切れない強烈な連撃を浴びせていくがアルフォンソはそれを全て黒い剣で受け止める。

剣の腕は互角だろうか?

いや、そうではなさそうだ。技量はシズクさんのほうが上のようで、徐々にアルフォンソの体にシズクさんの攻撃が当たるようになってきている。

だが、それが有効打にならないのが問題なのだ。

シズクさんの攻撃が当たるのに合わせて浄化魔法を撃ち込んではみるが、やはりアルフォンソの再生を止めることができていない。

しかも再生を止められないどころか、あまり浄化したという手応えすらないのだ。

「ククク。効かぬと言ったであろう? 学習能力のない女だな」

アルフォンソはそう言って不敵に笑った。

次の瞬間、突如クリスさんたちのいるほうから強烈な衝撃が走る!

慌てて振り返った視線の先には、黒い靄のような何かがユーグさんらしい魔物の体に吸収されていっている様子があった。

地面に倒れていたユーグさんはゆっくりと立ち上がり、そして傷が徐々に癒えていく。

「フハハハハハハハ。見るがいい。倒したとしてもユーグが死ぬことは無いのだ。ああやって周囲の瘴気を勝手に吸収するのでなぁ。ククククク。クハハハハハハ」

だが、そう言って高笑いをしていたアルフォンソの表情はすぐに一変することになる。

シャルがユーグさんの聖剣を放り投げるとユーグさんの体が光に包まれたのだ。

やがてその光が消えると、なんと元の姿に戻ったユーグさんが現れる。

それからユーグさんはゆっくりと地面に落下していったが、シャルがそれをしっかりと抱きとめた。

「やった! ユーグさんが元に!」
「な! 何だと!? なぜ元に戻るのだ! 魔石を埋め込んでやったというのに!」

これは……アルフォンソが、動揺している?

「なるほど。そういう理屈でござるか」

シズクさんがニヤリと笑った。

「フィーネ殿の浄化魔法への対策というのは、体の中に埋め込んだ魔石を使って普通の魔物のような状態にしておく、ということでござるな?」
「なっ!? 貴様! どうしてそれを!」
「お? 正解でござるか? ははは。拙者の勘は冴えているでござるなぁ」

シズクさんはしてやったり、とでも言いたげな表情を浮かべている。

「き、貴様! よくも謀ったな!」
「ははは。形勢逆転でござるな。剣の腕は拙者の方が上でござるゆえ」

そう言うとシズクさんは瞬時にアルフォンソの背後に移動した。

気が付けばアルフォンソの手足が千切れて飛んでいる。

「もうそなたに勝機はないでござるよ。フィーネ殿!」
「浄化!」

シズクさんの声につられてそのバラバラになった体を浄化してみたが、やはり先ほどと同様に肉体が消滅するということはない。

ゆっくりとアルフォンソの体は再生しはじめるが、その再生している途中の肉体をシズクさんは何度も何度も斬りつける。

やがてアルフォンソの肉体はバラバラの肉片へと姿を変えた。

「ああ、なるほど。フィーネ殿の浄化魔法のかかりがいつもと違っていたのはそういうことでござるか」

ん? そういうことって? たしかに手応えがなくて妙だとは思っていたけれど……。

そんな私の疑問に答えることもなく、シズクさんはサラさんのもとへと一気に駆け寄った。

「サラ殿! 伏せるでござる!」
「え? はいっ!」

サラさんは条件反射で伏せ、そして伏せて空いた空間にシズクさんが神速の居合斬りを叩き込んだ。

「がっ。ぐ……なぜ……わかった……」

誰もいないと思われたその場所に突如、顔面から血を流すアルフォンソが現れた。

「あの体には魔石がなかったでござるからな。あとは勘でござるよ」
「ぐ、おのれ。おのれ! おのれ! よくもこの私の顔に傷をつけてくれたな!」
「散々、他人を傷つけたあなたが何を言いますか!」

あまりの言い分に私は思うわずそう叫んだ。

そして急いでサラさんのそばに駆け寄るとすぐに結界を張り直す。

アルフォンソの顔面の顔はすでに治っており、先ほどシズクさんが切り刻んだ肉片はいつの間にか消滅していた。

ええと、つまり私たちが戦っていたのは最初から偽者で、本物は最初からサラさんの近くに隠れていたということ?

ということはもしかして、こいつはサラさんを人質に取って私たちをあおるタイミングをうかがっていた?

わかってはいたけれど、やはりとんでもなく性格が悪いようだ。

私はアルフォンソを睨み付けるが、アルフォンソは憎悪を浮かべた表情で睨み返してくる。

「黙れ! 黙れ黙れ黙れ!」

アルフォンソは怒りのこもった声でそう叫んだ。

だが、私だってこいつには言いたいことはたくさんある。

「サラさんとこの国の人たちを傷つけ! ホワイトムーン王国の人たちを傷つけ! そしてユーグさんを攫ってシャルを悲しませて!」
「黙れぇ! この、この私が! 世界を統べるのだ! 神の用意したこの腐った世界を壊して! この私がぁ!」

私のぶつけた怒りに対するアルフォンソの返事はどうにも要領を得ない。

こいつは、一体何を言っているんだろうか?

困惑する私の横にいるサラさんは一歩前に出ると怒り狂うアルフォンソに語り掛ける。

「お兄さま。お父さまがあなたを皇位継承者になかなか指名しなかったのは、お兄さまのそのような部分を危惧してらしたからです。民を想い、民のために身を粉にして働かれていたお父さまはお兄さまのそのような部分を直して欲しいといつも仰っていました」
「黙れぇ! 私は! 人間など! やめたのだ! ひ弱で脆弱で! 思うが儘に生きられぬ人間など!」
「……」
「見ろ! これが! 私の真の力だ!」

アルフォンソがそう言うと、その体を黒いオーラが包み込んだ。

黒いオーラと共に激しい突風が吹き荒れ、黒兵もそれと戦っていた私たちの兵士もその巻き添えになって吹き飛ばされていく。

やがて黒い嵐が収まると、そこには竜人ともでも形容すべき魔物の姿があったのだった。

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次回更新は 2021/05/02 (日) 19:00 を予定しております。
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