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黒き野望
第八章第34話 クリスの想い
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2021/04/15 誤字を修正しました
2021/04/18 誤字を修正しました
==============
私はシャルロット様のもとへと走った。
「ユーグ様! ユーグ様!」
シャルロット様が悲痛な声でユーグに訴えているが、止まる様子はない。ひたすらに手に持った木をフィーネ様の作り出した防壁に叩きつけている。
「リシャール殿! エミリエンヌ殿! やるしかない! 合わせろ!」
私はシャルロット様の護衛騎士の二人にそう声をかけると魔法剣を発動する。
「白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣」
フィーネ様より授かった魔法書を読み、ついに手に入れた浄化の光を宿した魔法剣だ。この力でフィーネ様のお役に立ちたいと願っていたが、このような大事な場面で私はもっとも危険な敵との戦いから遠ざけられてしまった。
頭では理解できている。これが最適な配置なのだと。
アルフォンソは明らかに一筋縄ではいかない強大な敵だ。すぐに倒すことは恐らくできない。
そしてユーグを止めなければシャルロット様は倒れ、サラ殿下も倒れてしまう。そうなってしまえばいくらその後になってアルフォンソを倒せたとしても我々の負けなのだ。
だからこそ何としてでもユーグを止めてやらなければならない。それに同じホワイトムーン王国の騎士として、そして仕える主は違えども同じ聖騎士として、剣を捧げた主君を自らの手で殺めるようなことなどさせられない。
分かっている。フィーネ様の盾として、御身を守るために常に傍らで戦いたい、というこの想いが私のわがままでしかないということは。
分かっている。私たちの中で最高のステータスと高い技量を持つシズク殿がアルフォンソを止め、その間にフィーネ様の浄化魔法で倒すということが最善だということは。
だが! 分かっているのだが! それでもやはり感情面は納得できない。
私にもっと力があれば!
「ぐっ。クリスさん! シャル! そっちはお願いします!」
フィーネ様の焦ったような声と共にシャルロット様を守る防壁が解除された。
そうだ! フィーネ様の信頼に応えて見せなければ!
私は一度頭を振って雑念を振り払うとユーグとシャルロット様の間に割って入り、ユーグの得物である木を両断する。
「ユーグ! 主を攻撃する聖騎士がどこにいる! ユーグ!」
「ガァァァァァァァ」
だがそれがユーグに届いた様子はなく、叫び声を上げたユーグは乱暴に拳を叩きつけてきた。
そこにはユーグらしい技の冴えも身のこなしも何もない。まるでただ本能のままに力を振るう魔物のようだ。
「この! 目を覚ませ!」
私はその巨大な足に一撃を加えた。私の剣は確実にその足首を捉えたが、黒いオーラを切り割き、そしてその硬い皮膚に少し傷をつけただけで止まってしまった。
「くっ」
私が慌てて飛び退るとユーグは足を上げ、そして私を踏みつぶそうと何度も何度もその足を下ろしてきた。
ドシン、ドシンという音と共に地面が揺れる。
「クリスティーナ殿!」
「リシャール殿、エミリエンヌ殿。無事だな」
「ご助力いただき感謝します。ですがお嬢様が」
「シャルロット様……」
シャルロット様はユーグを攻撃する決心がついていない様子だ。尻もちをついてはユーグを見上げている。
「リシャール殿、エミリエンヌ殿。フィーネ様の付与なさった剣は通るか?」
「いえ。我々ではとても」
「よし。では私がやってみよう。シャルロット様を頼むぞ」
「頼む」
「こちらを」
私はエミリエンヌ殿から剣を一本受け取るとセスルームニルと持ち替えた。
「いくぞ!」
私は右へ右へと円を描くように動いてユーグの攻撃を誘う。するとユーグは私をつぶそうと左足で踏みつけてきたので私はそれを躱すと軸足となっていた右足の甲を斬りつける。
ガシィン、という音と共にユーグの硬い皮膚に剣は受け止められて砕けてしまった。
「くっ。ダメか」
私は慌てて飛び退ると私を踏みつぶそうとするその足を躱す。
「クリスティーナ殿!」
「どうやらユーグ殿の皮膚は鉄よりも硬いようだ。普通の剣では傷をつけることもままならんらしい」
「ですが、先ほどのクリスティーナ殿の一撃は傷を与えていたではありませんか」
「ああ。だが私の魔力ではユーグをあんな風にした瘴気を浄化できない」
「ではどうすれば!?」
私はちらりとフィーネ様の様子を見る。だが、とてもではないがこちらを助けている余裕はなさそうだ。
「シャルロット様……」
私はへたり込んでしまい、エミリエンヌ殿に介抱されているシャルロット様を見遣る。
やはりかなり厳しそうだ。どうしても助けたかった愛する男性が魔物となって自分を襲ってきており、しかもそれを浄化するということがどのような結果になるのかを今まで痛いほど見てきているのだ。
そんなシャルロット様に手を下させるわけには……。
「いや、私が何とかしよう。フィーネ様は私にユーグを助けるようにと仰ったのだ」
「クリスティーナ殿……」
「それにシャルロット様に、ユーグをその手にかけさせるのはあまりに忍びないだろう」
私は再びセスルームニルを手に持つと白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣を発動する。
「我が名はクリスティーナ、ホワイトムーン王国の聖騎士にして聖女フィーネ・アルジェンタータ様の盾なり。さあ、参られよ!」
2021/04/18 誤字を修正しました
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私はシャルロット様のもとへと走った。
「ユーグ様! ユーグ様!」
シャルロット様が悲痛な声でユーグに訴えているが、止まる様子はない。ひたすらに手に持った木をフィーネ様の作り出した防壁に叩きつけている。
「リシャール殿! エミリエンヌ殿! やるしかない! 合わせろ!」
私はシャルロット様の護衛騎士の二人にそう声をかけると魔法剣を発動する。
「白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣」
フィーネ様より授かった魔法書を読み、ついに手に入れた浄化の光を宿した魔法剣だ。この力でフィーネ様のお役に立ちたいと願っていたが、このような大事な場面で私はもっとも危険な敵との戦いから遠ざけられてしまった。
頭では理解できている。これが最適な配置なのだと。
アルフォンソは明らかに一筋縄ではいかない強大な敵だ。すぐに倒すことは恐らくできない。
そしてユーグを止めなければシャルロット様は倒れ、サラ殿下も倒れてしまう。そうなってしまえばいくらその後になってアルフォンソを倒せたとしても我々の負けなのだ。
だからこそ何としてでもユーグを止めてやらなければならない。それに同じホワイトムーン王国の騎士として、そして仕える主は違えども同じ聖騎士として、剣を捧げた主君を自らの手で殺めるようなことなどさせられない。
分かっている。フィーネ様の盾として、御身を守るために常に傍らで戦いたい、というこの想いが私のわがままでしかないということは。
分かっている。私たちの中で最高のステータスと高い技量を持つシズク殿がアルフォンソを止め、その間にフィーネ様の浄化魔法で倒すということが最善だということは。
だが! 分かっているのだが! それでもやはり感情面は納得できない。
私にもっと力があれば!
「ぐっ。クリスさん! シャル! そっちはお願いします!」
フィーネ様の焦ったような声と共にシャルロット様を守る防壁が解除された。
そうだ! フィーネ様の信頼に応えて見せなければ!
私は一度頭を振って雑念を振り払うとユーグとシャルロット様の間に割って入り、ユーグの得物である木を両断する。
「ユーグ! 主を攻撃する聖騎士がどこにいる! ユーグ!」
「ガァァァァァァァ」
だがそれがユーグに届いた様子はなく、叫び声を上げたユーグは乱暴に拳を叩きつけてきた。
そこにはユーグらしい技の冴えも身のこなしも何もない。まるでただ本能のままに力を振るう魔物のようだ。
「この! 目を覚ませ!」
私はその巨大な足に一撃を加えた。私の剣は確実にその足首を捉えたが、黒いオーラを切り割き、そしてその硬い皮膚に少し傷をつけただけで止まってしまった。
「くっ」
私が慌てて飛び退るとユーグは足を上げ、そして私を踏みつぶそうと何度も何度もその足を下ろしてきた。
ドシン、ドシンという音と共に地面が揺れる。
「クリスティーナ殿!」
「リシャール殿、エミリエンヌ殿。無事だな」
「ご助力いただき感謝します。ですがお嬢様が」
「シャルロット様……」
シャルロット様はユーグを攻撃する決心がついていない様子だ。尻もちをついてはユーグを見上げている。
「リシャール殿、エミリエンヌ殿。フィーネ様の付与なさった剣は通るか?」
「いえ。我々ではとても」
「よし。では私がやってみよう。シャルロット様を頼むぞ」
「頼む」
「こちらを」
私はエミリエンヌ殿から剣を一本受け取るとセスルームニルと持ち替えた。
「いくぞ!」
私は右へ右へと円を描くように動いてユーグの攻撃を誘う。するとユーグは私をつぶそうと左足で踏みつけてきたので私はそれを躱すと軸足となっていた右足の甲を斬りつける。
ガシィン、という音と共にユーグの硬い皮膚に剣は受け止められて砕けてしまった。
「くっ。ダメか」
私は慌てて飛び退ると私を踏みつぶそうとするその足を躱す。
「クリスティーナ殿!」
「どうやらユーグ殿の皮膚は鉄よりも硬いようだ。普通の剣では傷をつけることもままならんらしい」
「ですが、先ほどのクリスティーナ殿の一撃は傷を与えていたではありませんか」
「ああ。だが私の魔力ではユーグをあんな風にした瘴気を浄化できない」
「ではどうすれば!?」
私はちらりとフィーネ様の様子を見る。だが、とてもではないがこちらを助けている余裕はなさそうだ。
「シャルロット様……」
私はへたり込んでしまい、エミリエンヌ殿に介抱されているシャルロット様を見遣る。
やはりかなり厳しそうだ。どうしても助けたかった愛する男性が魔物となって自分を襲ってきており、しかもそれを浄化するということがどのような結果になるのかを今まで痛いほど見てきているのだ。
そんなシャルロット様に手を下させるわけには……。
「いや、私が何とかしよう。フィーネ様は私にユーグを助けるようにと仰ったのだ」
「クリスティーナ殿……」
「それにシャルロット様に、ユーグをその手にかけさせるのはあまりに忍びないだろう」
私は再びセスルームニルを手に持つと白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣を発動する。
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