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黒き野望
第八章第18話 黒き騎士
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2021/12/12 誤字を修正しました
================
高地特有の薄い空気の中、シャルロット率いる部隊はユスターニとフィーネたちの背後を守るために陣を敷いていた。
「フィーネたちが向かってから一週間ですわね。上手くやってくれていると良いのですけれど」
シャルロットは天幕の中でお茶を飲みながらそう呟いた。その近くにはリシャールとエミリエンヌの二人が控えている。
「お嬢様。フィーネ様たちであれば必ずや港町を奪還してくれることでしょう。そうすれば本国に援軍を要請することができます」
「そうですわね。でも、悔しいですわね。わたくしは努力したつもりでしたのに、はっきり言ってわたくしの【聖属性魔法】はフィーネの足元にも及びませんわ。どうすればフィーネに追いつけるのかしら」
「お嬢様……」
悔しそうに唇を噛んだシャルロットを二人は心配そうに見つめている。
するとその時だった。兵士の一人が慌てた様子で天幕の中へと駆け込んできた。
「聖女様! ラヤ峠の砦より部隊が出撃しました。その数およそ 200 です!」
「そう。このまま何事もなく過ぎてくれればよかったのですけれど、そう簡単にはいかないものですわね。全軍に通達なさい。予定通りの場所で迎え撃ちますわ」
「ははっ!」
「お嬢様、どうかあまり前線には」
「わたくしは聖女ですわ。後ろで隠れているだけのお飾りになど聖女が務まるはずはありませんわ」
「……お守りいたします」
こうしてシャルロットたちも天幕を出ると戦いの場へと向かうのだった。
****
シャルロットたちは街道が見下ろせる崖の上へと布陣し、崖下を通る街道を進軍してくる敵部隊を観察している。この崖下の道の反対側は深い谷となっており、奇襲をするにはうってつけの場所だ。
「敵兵は死なない兵ばかりですのね。一騎だけ立派な黒い鎧を着ていますから、きっとあれが総大将のようですわね」
「そのようですね。お嬢様」
シャルは小さく頷くと手を振って合図を出した。するとその合図に従って兵士たちが大量の岩を投げ落とした。
投げ落とされた岩は死なない兵の部隊を襲い、押しつぶしていく。
「さあ、トドメを刺しに行きますわよ」
「はっ」
シャルロットたちは崖の上から移動し、そして移動している間に伏せてあった部隊が岩に押しつぶされた死なない兵たちを次々と刺していく。フィーネによって付与された浄化魔法が発動し、死なない兵たちは次々と塵となって消えていく。
「神よ! この世ならざる穢れを払いたまえ。浄化!」
シャルロットも瓦礫の山に向かって浄化魔法を放ち、剣では届かない位置に埋まっている死なない兵士たちを次々に浄化していく。
「ふう。すごい数ですわね」
シャルロットは額の汗を拭うと MP ポーションを飲み干した。
だが次の瞬間、シャルロットたちの投げ落とした大岩が粉々に破壊される。そして先ほどの立派な鎧を着た騎士が姿を現した。
その全身からはまるで湯気が立っているかのように黒い靄が立ち上っている。
「あれは!?」
「お嬢様! お下がりください!」
シャルロットがそう呟いたのとリシャールが叫んだのは同時だった。そしてそれと同時に黒い騎士は黒く禍々しいオーラを纏った剣を抜き放つと突撃してくる。
ギイイン、と金属同士のぶつかる音がしたかと思うと次の瞬間リシャールは横蹴りをくらって数メートル吹き飛ばされた。
そうしてバランスの崩れたところに黒い騎士が襲い掛かる!
だがそこへ割り込んできたのはエミリエンヌだった。左手に持った盾で黒い騎士の一撃を受け止めると右手に持った剣で鎧の隙間を狙った突きを放つ。
しかし黒い騎士はその一撃をひらりと躱すと距離を取った。
その隙に立ち上がったリシャールはシャルロットを庇う様に前に立つ。
「くっ、手ごわい……」
「だが、お嬢様のためにも我々は負けるわけにはいかない!」
「ええ!」
リシャールとエミリエンヌは同時に駆け出すと黒い騎士の左右から同時に攻撃を加える。
ピタリと息の合った連携からの攻撃を撃ち込んでいくが黒い騎士は一言も発することなく、落ち着いた様子でそれを捌いていく。
慣れない高地という状況の中、徐々にリシャールとエミリエンヌの息が上がっていく。
そして次の瞬間、黒い騎士が二人の連携の間の隙にカウンターで二人同時に一撃を入れた。
「ば、馬鹿な……」
「これほどとは……」
リシャールとエミリエンヌはそう呟いて地面に倒れ込んだ。二人は腹を斬られており、着ていた鎧が砕けてそこから血を流している。
そんな二人にトドメを刺すべく黒い騎士は剣を振りかぶる。
「ダメェェェ」
シャルロットは悲痛な叫び声をあげると二人に駆け寄り、そして防壁の魔法を展開した。
シャルロットの作り出した防壁はガシンという音を立ててその一撃をしっかりと受け止めた。すると黒い騎士はその防壁を破壊しよう次々と防壁を斬りつけ、防壁はその攻撃に大きく軋む。
「お、嬢……様、いけま……せん」
「お逃げ……ください……」
「わたくしは逃げませんわ! ユーグ様を置いて一人で逃げ、そして今度はリシャールとエミリエンヌまで置いて逃げるなど!」
シャルはキッと眉を上げると黒い騎士を睨んだ。その瞬間、感情を一切見せなかった黒い騎士が一瞬たじろいだような様子を見せる。
「わたくしは! 負けませんわ!」
しかしたじろいだのはその一瞬だけだった。
黒い騎士は体に纏う黒い靄を濃くするとそれを剣に纏わせ、思い切り防壁を斬りつけた。
するとパリン、という音と共にシャルロットの作り出した防壁は粉々に砕け散ったのだった。
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高地特有の薄い空気の中、シャルロット率いる部隊はユスターニとフィーネたちの背後を守るために陣を敷いていた。
「フィーネたちが向かってから一週間ですわね。上手くやってくれていると良いのですけれど」
シャルロットは天幕の中でお茶を飲みながらそう呟いた。その近くにはリシャールとエミリエンヌの二人が控えている。
「お嬢様。フィーネ様たちであれば必ずや港町を奪還してくれることでしょう。そうすれば本国に援軍を要請することができます」
「そうですわね。でも、悔しいですわね。わたくしは努力したつもりでしたのに、はっきり言ってわたくしの【聖属性魔法】はフィーネの足元にも及びませんわ。どうすればフィーネに追いつけるのかしら」
「お嬢様……」
悔しそうに唇を噛んだシャルロットを二人は心配そうに見つめている。
するとその時だった。兵士の一人が慌てた様子で天幕の中へと駆け込んできた。
「聖女様! ラヤ峠の砦より部隊が出撃しました。その数およそ 200 です!」
「そう。このまま何事もなく過ぎてくれればよかったのですけれど、そう簡単にはいかないものですわね。全軍に通達なさい。予定通りの場所で迎え撃ちますわ」
「ははっ!」
「お嬢様、どうかあまり前線には」
「わたくしは聖女ですわ。後ろで隠れているだけのお飾りになど聖女が務まるはずはありませんわ」
「……お守りいたします」
こうしてシャルロットたちも天幕を出ると戦いの場へと向かうのだった。
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シャルロットたちは街道が見下ろせる崖の上へと布陣し、崖下を通る街道を進軍してくる敵部隊を観察している。この崖下の道の反対側は深い谷となっており、奇襲をするにはうってつけの場所だ。
「敵兵は死なない兵ばかりですのね。一騎だけ立派な黒い鎧を着ていますから、きっとあれが総大将のようですわね」
「そのようですね。お嬢様」
シャルは小さく頷くと手を振って合図を出した。するとその合図に従って兵士たちが大量の岩を投げ落とした。
投げ落とされた岩は死なない兵の部隊を襲い、押しつぶしていく。
「さあ、トドメを刺しに行きますわよ」
「はっ」
シャルロットたちは崖の上から移動し、そして移動している間に伏せてあった部隊が岩に押しつぶされた死なない兵たちを次々と刺していく。フィーネによって付与された浄化魔法が発動し、死なない兵たちは次々と塵となって消えていく。
「神よ! この世ならざる穢れを払いたまえ。浄化!」
シャルロットも瓦礫の山に向かって浄化魔法を放ち、剣では届かない位置に埋まっている死なない兵士たちを次々に浄化していく。
「ふう。すごい数ですわね」
シャルロットは額の汗を拭うと MP ポーションを飲み干した。
だが次の瞬間、シャルロットたちの投げ落とした大岩が粉々に破壊される。そして先ほどの立派な鎧を着た騎士が姿を現した。
その全身からはまるで湯気が立っているかのように黒い靄が立ち上っている。
「あれは!?」
「お嬢様! お下がりください!」
シャルロットがそう呟いたのとリシャールが叫んだのは同時だった。そしてそれと同時に黒い騎士は黒く禍々しいオーラを纏った剣を抜き放つと突撃してくる。
ギイイン、と金属同士のぶつかる音がしたかと思うと次の瞬間リシャールは横蹴りをくらって数メートル吹き飛ばされた。
そうしてバランスの崩れたところに黒い騎士が襲い掛かる!
だがそこへ割り込んできたのはエミリエンヌだった。左手に持った盾で黒い騎士の一撃を受け止めると右手に持った剣で鎧の隙間を狙った突きを放つ。
しかし黒い騎士はその一撃をひらりと躱すと距離を取った。
その隙に立ち上がったリシャールはシャルロットを庇う様に前に立つ。
「くっ、手ごわい……」
「だが、お嬢様のためにも我々は負けるわけにはいかない!」
「ええ!」
リシャールとエミリエンヌは同時に駆け出すと黒い騎士の左右から同時に攻撃を加える。
ピタリと息の合った連携からの攻撃を撃ち込んでいくが黒い騎士は一言も発することなく、落ち着いた様子でそれを捌いていく。
慣れない高地という状況の中、徐々にリシャールとエミリエンヌの息が上がっていく。
そして次の瞬間、黒い騎士が二人の連携の間の隙にカウンターで二人同時に一撃を入れた。
「ば、馬鹿な……」
「これほどとは……」
リシャールとエミリエンヌはそう呟いて地面に倒れ込んだ。二人は腹を斬られており、着ていた鎧が砕けてそこから血を流している。
そんな二人にトドメを刺すべく黒い騎士は剣を振りかぶる。
「ダメェェェ」
シャルロットは悲痛な叫び声をあげると二人に駆け寄り、そして防壁の魔法を展開した。
シャルロットの作り出した防壁はガシンという音を立ててその一撃をしっかりと受け止めた。すると黒い騎士はその防壁を破壊しよう次々と防壁を斬りつけ、防壁はその攻撃に大きく軋む。
「お、嬢……様、いけま……せん」
「お逃げ……ください……」
「わたくしは逃げませんわ! ユーグ様を置いて一人で逃げ、そして今度はリシャールとエミリエンヌまで置いて逃げるなど!」
シャルはキッと眉を上げると黒い騎士を睨んだ。その瞬間、感情を一切見せなかった黒い騎士が一瞬たじろいだような様子を見せる。
「わたくしは! 負けませんわ!」
しかしたじろいだのはその一瞬だけだった。
黒い騎士は体に纏う黒い靄を濃くするとそれを剣に纏わせ、思い切り防壁を斬りつけた。
するとパリン、という音と共にシャルロットの作り出した防壁は粉々に砕け散ったのだった。
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