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黒き野望

第八章第17話 進化の秘術

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それから私たちはウルバノ将軍が落ち着くのを待ってサラさんを呼び戻し、ウルバノ将軍経由でサラさんに掛けられた呪いも解いてあげた。

「サラ様。申し訳ございません。私は……!」

ウルバノ将軍が涙ながらにサラさんに謝罪をして、サラさんもそれに安堵したような表情を浮かべている。

うん。良かった。サラさんもこの将軍のことを悪く思っていないみたいだしね。

「サラ様、私の知る限りの全てをお話いたします」

そうしてウルバノ将軍はゆっくりと内部の事情を語り始めた。

「アルフォンソ様は『進化の秘術』と呼ばれる謎の術を用いて人間をあの得体のしれない何かへと進化させているのです」
「進化? あれがですか?」
「はい。アルフォンソ様は『進化した』と仰っていました」

あんなのはとても進化したようには見えないけれど……。

「そうして兵となったあれの事を我が軍では黒兵と呼んでおります」
「黒兵……」
「アルフォンソ様は先帝陛下を弑逆しいぎゃくしたのち、サラ様をベレナンデウアへと逃したサカリアス大将軍をも殺害しました」
「そんな! サカリアスがお兄さま、いえ、愚兄に遅れを取るなど!」

顔を青くしてそう叫んだサラさんにウルバノ将軍は首を横に振った。

「サカリアス大将軍は確かに一太刀入れ、アルフォンソ様をお止めしたのです。ですが、どうやらアルフォンソ様はご自身にも『進化の秘術』を用いており、殺すことができなかったのです」
「え?」
「サカリアス大将軍は何度斬っても死なぬ黒兵とアルフォンソ様を前に力尽き、そして最後は黒兵へと改造されました」
「そんな! ではサカリアスは!」
「あの中に混ざっていたかもしれません」
「ああっ!」

サラさんはあまりのショックに顔を覆ってしまう。

「拙者からも質問があるでござる。ウルバノ将軍はどうやってあの死なない兵を従えていたのでござるか?」
「黒兵が私の命令に従うのはアルフォンソ様がその様に命じているからで、私が裏切ればすぐに私を殺しにかかっていたはずです」
「なるほど。ではもう一つ。今まで戦ってきた死なない兵にはまともな理性がある様には見えなかったでござるが、アルフォンソは国を治めているでござるな。どうしてアルフォンソには理性が残っているでござるか?」
「わかりません。なぜアルフォンソ様が正気を保ち、他の者たちが正気を無くしてアルフォンソ様の命令に従う人形のような存在に成り果てたのかは分かりません。恐らくは術者であれば問題ない、ということなのではないかと思いますが……」
「ウルバノ! その秘術を掛けられたものを元に戻すことはできないのですか!?」

サラさんの問いにウルバノ将軍は首を横に振る。

「『進化の秘術』を解除する術は存在しないとアルフォンソ様ご自身が仰っておりました。ただ……」
「ただ?」
「まだ研究途中でもある、とも」
「……そう、ですか」

そう言って顔を伏せたサラさんはすぐにハッとした表情になる。

「研究途中という事は、もしや若い男ばかりを連れ去っているのは!?」
「はい。実験材料とするためです。そして国内では数が不足してきたため友好国であったホワイトムーン王国に兵を差し向けたのです」
「え? じゃああの侵略は人体実験をするため?」
「そんな! それじゃあユーグさんは!」
「ユーグ? それはもしやホワイトムーン王国の聖騎士殿の事ですか?」
「知っているんですか!?」

私は思わず大きな声を出してしまった。

「はい。力があり聖剣に認められた意志の強い実験材料が手に入ったとアルフォンソ様が……」
「なんてことを!」

私は怒りのあまり手を強く握りこみ、そして唇を噛んだ。

「フィーネ様……」

そんな私をクリスさんがそっと労ってくれたのだった。

****

それからもウルバノ将軍に色々と話を聞いたが、どうやらブラックレインボー帝国内をほぼ手中に収めたアルフォンソの一番の興味は『進化の秘術』の完成らしい。

ホワイトムーン王国を占領して実験材料を確保する予定だったらしいのが、私たちに撃退されたことで計画が狂っているのだそうだ。

ちなみに若い男性ばかりが実験材料として選ばれているのにもいくつか理由があり、その中でも一番の理由は若い男性が兵士として戦わせたときにもっとも強力だったからなのだそうだ。

また、女性を残しているのは子供を生ませて次の実験材料を確保するためらしい。

いや、もう。何と言うか。どう考えても頭がおかしい。

アルフォンソにとって人間は単なるモルモットか何かと同じ扱いなのだろうか?

そして一体何をどうすればこんな高慢な考え方ができるようになるのだろうか?

それから何よりもまずいのはユーグさんだ。

その秘術とやらはどのくらいの期間で人間を黒兵にすることができるのかは分からないが、元に戻す方法が無いとなるともう残された時間は僅かかもしれない。

「クリスさん、シズクさん、急いでシャルと合流しましょう」
「はい」
「そうでござるな。ルミア殿を呼んでくるでござるよ」
「お待ちください。私も!」
「サラさんは伝令として連れてきた二人をホワイトムーン王国へと送ってください。港が確保できたんですから援軍を呼びましょう」
「……わかりました。すぐに軍を整えて追いかけます」
「はい。お願いします」

こうして私たちは足早にバジェスタの町を出発すると、シャルの待つ陣地へと向かうのだった。
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