上 下
341 / 625
黒き野望

第八章第10話 キトス

しおりを挟む
ポイズンティタニコンダとのリベンジマッチに完勝した私たちはリーチェの力を借りて汚染された湖を浄化した。

このまま毒に汚染された状態を放置するわけにはいかないし、瘴気の影響もあるかもしれないからね。

再び険しいジャングルの中をキトスの町を目指して向かって進む。そうして数日歩いていくと突如、木々の間から街壁に囲まれた町が現れた。

「着きました! ここがキトスです!」

サラさんが声を弾ませてそう教えてくれた。

「サラさん。やっと帰ってこられましたね」
「はい!」

そう言ってムキムキとポージングを決め始めたのでいつものやり取りをして復帰してもらう。

「さあ、サラさん。行きましょう」
「はい!」

サラさんは喜びを隠そうともせず、いそいそと町の入口へと歩きだした。

「待つでござるよ。拙者たちと一緒に行くでござる。最悪の場合もあるでござるからな」
「あ! そう、でした。すみません」

シズクさんに呼び止められたサラさんは少ししゅんとなってしまったけど、最悪の事態ってどういうこと?

「さあ、行くでござるよ」

そして私たちは町の入り口となる門の前へとやってきた。門番は二人立っており、さらに壁の上にも何人かが立ち警戒している様子だ。

「止まれ! 何者だ!」

門へと近づく私たちに気付いた門番が大声を上げて私たちを制止した。壁の上にいる人たちにも緊張が走っているようだ。

「……ま、まさか! サラ様! サラ様ではありませんか!」

門番の一人がサラさんの存在に気付いて駆け寄ってきて、すぐさまサラさんの前に跪く。

「サラ様、よくぞご無事で」

その男はそう言うと涙を流した。

「ええ。出迎えご苦労様です。通して頂ける?」
「もちろんでございます! おい! サラ様だ! サラ皇女殿下がお戻りになられたっ!」

大声でその男が叫ぶとそれはすぐに伝わり、門の周辺は上を下への大騒ぎとなったのだった。

****

その後、出迎えの兵士たちに周囲を警護されながら私たちはキトスの町長の館へと入った。

「おお! 殿下! よくぞご無事で!」

少し身なりのいい初老の男性がサラさんの前に跪いた。

「ええ。キケ。わたしが留守の間、よくぞこのキトスを守ってくれました」
「いえ。殿下のなさったご苦労を思えば私めなど」

どうやらこの二人は知り合いのようだ。

「良かったでござるな。これでこの町がすでに敵の手に渡っていたらアウトだったでござるからな」

シズクさんが私に小さく耳打ちをした。

ああ、なるほど。最悪の場合てそういう事か。言われてみれば確かにそうだった。

「ところで、殿下。そちらの方々は?」
「ああ、そうでした。紹介しましょう」

そう言ってサラさんが私たちの方へと一歩近づいた。

「聖女シャルロット様、聖女フィーネ様。この者はキトスの町長をしておりますキケ・ナバーロと申す者でございます」

その名を聞いたキケさんが目を見開いた。

「わたくしはシャルロット・ドゥ・ガティルエですわ」
「フィーネ・アルジェンタータです」
「キケ・ナバーロでございます。おお! 神のお導きに感謝いたします!」

そう言ってキケさんはマッスルポーズをした。

「「神のお導きのまま」」

私とシャルはいつものフレーズで元に戻したが、毎度毎度面倒で仕方ない。

それにしても、だ。

ブーンからのジャンピング土下座もビタンと倒れ込むのも大概だが、一応お祈りのていは保っていると思う。

だが、このマッスルポーズだけはどうしてもお祈りの仕草に見えない。

そもそもの話を言わせてもらえば、この世界にはなぜまともなお祈りの文化が存在しないのだろうか?

こればかりはどうにも謎なのだが……。

「おおお。ホワイトムーン王国のお二人の聖女様にもご協力いただけるとは! これであやつも!」
「ええ。わたくしたちの力で玉座をサラ殿下のものとして差し上げますわ」
「なんと心強い!」

キケさんは感動した様子でそう言うと再びマッスルポーズを始めたのだった。

****

それからキケさんに現在の状況を説明してもらったのだが、どうやら戦況は想像していたよりもかなり悪いらしい。

まず、これは予想通りではあるが帝国の北東部は完全に制圧されているそうだ。

軍港にして最大の貿易拠点でもあったベレナンデウアが陥落してサラさんがそこから落ち延びることになったのだから、これはもともと想定していたことだ。

だが、予想外だったのは私たちが今いるここキトスを含む北西部もほとんど制圧されていたということだ。

特に、ユスターニという町が落ちていた事はかなりまずいそうだ。このユスターニという町は高度 4,000 メートルほどの高地にある。ここへ普段は低地に住んでいる人間が行くと息切れや頭痛、吐き気などを催してまともに歩くことすらできなくなるのだそうだ。

しかも山あいにあるため大軍を一気に行軍させることは難しく、守りやすく攻めにくいのだという。つまり、天然の要塞とも言うべき場所らしい。

要するに高山病にかかるほどの高地にある難攻不落のはずの町を私たちは取り返す必要があるということだ。

「ユスターニはなぜ陥落したのですか?」
「それが、あの兵は死なないのです。高所では動きが鈍ったそうなのですが、殺しても死なない兵を倒すことができずに包囲されてしまい、三か月ほどで陥落したそうです」
「……そうでしたか」

サラさんが悲しそうに顔を伏せた。

「とりあえず武器に付与、ええと、祝福して死なない兵を倒せるようにしましょう」
「死なない兵を倒す方法をご存じなのですか!?」
「はい。その方法でホワイトムーン王国はブラックレインボー帝国を退けましたよ」
「おおお! 聖女様! 聖女様!」

キケさんはそう言って涙を流しながら再びのマッスルポーズを決めたのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

公女様は愛されたいと願うのやめました。~態度を変えた途端、家族が溺愛してくるのはなぜですか?~

朱色の谷
恋愛
公爵家の末娘として生まれた8歳のティアナ お屋敷で働いている使用人に虐げられ『公爵家の汚点』と呼ばれる始末。 お父様やお兄様は私に関心がないみたい。 ただ、愛されたいと願った。 そんな中、夢の中の本を読むと自分の正体が明らかに。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

異世界に落ちたら若返りました。

アマネ
ファンタジー
榊原 チヨ、87歳。 夫との2人暮らし。 何の変化もないけど、ゆっくりとした心安らぐ時間。 そんな普通の幸せが側にあるような生活を送ってきたのにーーー 気がついたら知らない場所!? しかもなんかやたらと若返ってない!? なんで!? そんなおばあちゃんのお話です。 更新は出来れば毎日したいのですが、物語の時間は割とゆっくり進むかもしれません。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

処理中です...