338 / 625
黒き野望
第八章第7話 航海
しおりを挟む
大量の塩を買い込んだ翌日、私たちはリリエヴォの町から出航した。目指すはブラックレインボー帝国の北西の端、そこから密かに上陸して密林地帯を抜けてキトスを目指すのだ。
そして今私はデッキにやってきている。目的はもちろん日光浴をするためで、ビーチチェアを出す場所を吟味しているのだ。
そろそろ春の足音が聞こえてきてもおかしくない季節だというのに吹きすさぶ風は相変わらず冬の様相を呈していて、きっとこの優れモノのローブが無ければデッキで日光浴などできなかっただろう。
それと、みんな船酔いに強くなったのでもう誰もマーライオンしていないかと思いきや、今回はシャルがマーライオンしている。
いや、うん。まあ、いきなり外洋に出たらそれは辛いだろう。上下左右にかなり激しく揺れるしね。
残念ながら船酔いはいくら私の【回復魔法】が MAX でも治すことはできない。可哀想だが頑張って慣れてもらうしかないだろう。
私は船酔いで苦しむシャルを横目にビーチチェアを取り出すと日光浴を始めるのだった。
あー、気持ちいい。
「ちょっと、フィーネ。あなたどうして平気ですの? こんなに揺れていますのに」
「実は私、船酔いに強い体質なんです」
「強いって、そういうレベルですの?」
「シャルも副職業で漁師か船乗りになれば大丈夫になりますよ」
「え? フィーネ、あなたは魔法薬師じゃないんですの?」
「ええと、私は生まれつき船酔いに強いんです」
「どういうことですのー!? うっぷ」
そう叫んだシャルは再び魚にエサやりを再開したのだった。
ああ、うん。みんな最初はあんな感じだったなぁ。
何だか懐かしい光景だね。
****
「陸地が見えたぞー」
一週間ほどの航海の後、デッキで日光浴をしている私の耳にマストの上の見張り台からそんな声が聞こえてきた。どうやら目的地に着いたらしい。
え? もう見張り台に登らないのかって?
いやいや。あれはもう一回やって楽しかったから満足したよ?
それに毎回毎回登っていたら船員さんの邪魔になるしね。私だってそのくらいはわきまえているのだ。
私は起き上がってビーチチェアをしまうと舳先へと向かう。
「おお、確かに陸地が見えますね」
水平線の向こうに緑の茂った陸地が姿を現している。
私が陸地を眺めていると声を聞きつけたのかみんなが続々と集まってきた。
「あれがブラックレインボーの大地でござるか」
「はい。あの辺りはほとんど人の手の入っていない密林地帯なのです」
「名物料理はなんですかっ?」
「え? ええと、あのあたりですと、フルーツとそれから川魚や川エビなどがよく食されていますね」
「おーっ。楽しみですっ!」
ルーちゃんは相変わらずだね。でも私も南国フルーツは楽しみかもしれない。
「本当に大丈夫なんですの? 上陸してすぐに捕まるのはイヤですわよ?」
「あの辺りは山を越えなければ行けない密林地帯です。ですのであそこまではまだ愚兄の手も及んでいないはずです」
「それにダメでも倒せばいいだけですから。あの死なない兵は倒し方さえ分かれば強くないみたいですしね」
「はい。フィーネ様の仰るとおりです。私が白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣で全て斬り捨ててご覧に入れます」
「え? えた?」
サラさんが困惑した表情を浮かべている。
あれ? そういえばサラさんはこの恥ずかしい名前を聞くの初めてだっけ?
まあ、力を抜くと良いんじゃないかな。
「白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣です。フィーネ様に捧げし我が浄化の剣です」
クリスさんはそう言ってドヤ顔をしている。
ま、これで幽霊も倒せるからね。
「そ、そうですか。それはとても素晴らしい技ですね」
「そうなのです。フィーネ様にもこの命名を褒めていただいたのです!」
ああっと、もう。こっちにその話は振らないでほしい。私はその恥ずかしい名前とは関係ないからね。
しかしサラさんは「それはそれは」と笑顔でさらりと流してくれたのだった。
****
「それじゃあ、行ってきます」
「聖女シャルロット様、聖女フィーネ様。どうかお気をつけて」
「ええ。必ず魔の者に魂を売り渡したアルフォンソを討って、平和な国を取り戻してご覧にいれますわ」
うんうん。それにユーグさんを助けないとね。
それにシャルにはちゃんと本物の聖女になってもらわなければ困るのだ。
そうして私たちは上陸用の小舟に乗り移るとブラックレインボーの大地へと向かって漕ぎだした。
陸地が少しずつ近づいてきて、そして私たちを運んできた船が少しずつ遠ざかっていく。
上陸すればもう引き返すことなど不可能となる。
しかもそこは完全なる敵地だ。戦争を仕掛け、ユーグさんを攫っていくような奴には聖女や聖騎士などといった肩書は通用しないだろう。
私はそんな不安を覚えつつも近づいてくる緑を見つめるのだった。
そして今私はデッキにやってきている。目的はもちろん日光浴をするためで、ビーチチェアを出す場所を吟味しているのだ。
そろそろ春の足音が聞こえてきてもおかしくない季節だというのに吹きすさぶ風は相変わらず冬の様相を呈していて、きっとこの優れモノのローブが無ければデッキで日光浴などできなかっただろう。
それと、みんな船酔いに強くなったのでもう誰もマーライオンしていないかと思いきや、今回はシャルがマーライオンしている。
いや、うん。まあ、いきなり外洋に出たらそれは辛いだろう。上下左右にかなり激しく揺れるしね。
残念ながら船酔いはいくら私の【回復魔法】が MAX でも治すことはできない。可哀想だが頑張って慣れてもらうしかないだろう。
私は船酔いで苦しむシャルを横目にビーチチェアを取り出すと日光浴を始めるのだった。
あー、気持ちいい。
「ちょっと、フィーネ。あなたどうして平気ですの? こんなに揺れていますのに」
「実は私、船酔いに強い体質なんです」
「強いって、そういうレベルですの?」
「シャルも副職業で漁師か船乗りになれば大丈夫になりますよ」
「え? フィーネ、あなたは魔法薬師じゃないんですの?」
「ええと、私は生まれつき船酔いに強いんです」
「どういうことですのー!? うっぷ」
そう叫んだシャルは再び魚にエサやりを再開したのだった。
ああ、うん。みんな最初はあんな感じだったなぁ。
何だか懐かしい光景だね。
****
「陸地が見えたぞー」
一週間ほどの航海の後、デッキで日光浴をしている私の耳にマストの上の見張り台からそんな声が聞こえてきた。どうやら目的地に着いたらしい。
え? もう見張り台に登らないのかって?
いやいや。あれはもう一回やって楽しかったから満足したよ?
それに毎回毎回登っていたら船員さんの邪魔になるしね。私だってそのくらいはわきまえているのだ。
私は起き上がってビーチチェアをしまうと舳先へと向かう。
「おお、確かに陸地が見えますね」
水平線の向こうに緑の茂った陸地が姿を現している。
私が陸地を眺めていると声を聞きつけたのかみんなが続々と集まってきた。
「あれがブラックレインボーの大地でござるか」
「はい。あの辺りはほとんど人の手の入っていない密林地帯なのです」
「名物料理はなんですかっ?」
「え? ええと、あのあたりですと、フルーツとそれから川魚や川エビなどがよく食されていますね」
「おーっ。楽しみですっ!」
ルーちゃんは相変わらずだね。でも私も南国フルーツは楽しみかもしれない。
「本当に大丈夫なんですの? 上陸してすぐに捕まるのはイヤですわよ?」
「あの辺りは山を越えなければ行けない密林地帯です。ですのであそこまではまだ愚兄の手も及んでいないはずです」
「それにダメでも倒せばいいだけですから。あの死なない兵は倒し方さえ分かれば強くないみたいですしね」
「はい。フィーネ様の仰るとおりです。私が白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣で全て斬り捨ててご覧に入れます」
「え? えた?」
サラさんが困惑した表情を浮かべている。
あれ? そういえばサラさんはこの恥ずかしい名前を聞くの初めてだっけ?
まあ、力を抜くと良いんじゃないかな。
「白銀の聖女に捧げし永遠なる浄化の剣です。フィーネ様に捧げし我が浄化の剣です」
クリスさんはそう言ってドヤ顔をしている。
ま、これで幽霊も倒せるからね。
「そ、そうですか。それはとても素晴らしい技ですね」
「そうなのです。フィーネ様にもこの命名を褒めていただいたのです!」
ああっと、もう。こっちにその話は振らないでほしい。私はその恥ずかしい名前とは関係ないからね。
しかしサラさんは「それはそれは」と笑顔でさらりと流してくれたのだった。
****
「それじゃあ、行ってきます」
「聖女シャルロット様、聖女フィーネ様。どうかお気をつけて」
「ええ。必ず魔の者に魂を売り渡したアルフォンソを討って、平和な国を取り戻してご覧にいれますわ」
うんうん。それにユーグさんを助けないとね。
それにシャルにはちゃんと本物の聖女になってもらわなければ困るのだ。
そうして私たちは上陸用の小舟に乗り移るとブラックレインボーの大地へと向かって漕ぎだした。
陸地が少しずつ近づいてきて、そして私たちを運んできた船が少しずつ遠ざかっていく。
上陸すればもう引き返すことなど不可能となる。
しかもそこは完全なる敵地だ。戦争を仕掛け、ユーグさんを攫っていくような奴には聖女や聖騎士などといった肩書は通用しないだろう。
私はそんな不安を覚えつつも近づいてくる緑を見つめるのだった。
0
お気に入りに追加
434
あなたにおすすめの小説
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
追放された聖女の悠々自適な側室ライフ
白雪の雫
ファンタジー
「聖女ともあろう者が、嫉妬に狂って我が愛しのジュリエッタを虐めるとは!貴様の所業は畜生以外の何者でもない!お前との婚約を破棄した上で国外追放とする!!」
平民でありながらゴーストやレイスだけではなくリッチを一瞬で倒したり、どんな重傷も完治してしまうマルガレーテは、幼い頃に両親と引き離され聖女として教会に引き取られていた。
そんな彼女の魔力に目を付けた女教皇と国王夫妻はマルガレーテを国に縛り付ける為、王太子であるレオナルドの婚約者に据えて、「お妃教育をこなせ」「愚民どもより我等の病を治療しろ」「瘴気を祓え」「不死王を倒せ」という風にマルガレーテをこき使っていた。
そんなある日、レオナルドは居並ぶ貴族達の前で公爵令嬢のジュリエッタ(バスト100cm以上の爆乳・KかLカップ)を妃に迎え、マルガレーテに国外追放という死刑に等しい宣言をしてしまう。
「王太子殿下の仰せに従います」
(やっと・・・アホ共から解放される。私がやっていた事が若作りのヒステリー婆・・・ではなく女教皇と何の力もない修道女共に出来る訳ないのにね~。まぁ、この国がどうなってしまっても私には関係ないからどうでもいいや)
表面は淑女の仮面を被ってレオナルドの宣言を受け入れたマルガレーテは、さっさと国を出て行く。
今までの鬱憤を晴らすかのように、着の身着のままの旅をしているマルガレーテは、故郷である幻惑の樹海へと戻っている途中で【宮女狩り】というものに遭遇してしまい、大国の後宮へと入れられてしまった。
マルガレーテが悠々自適な側室ライフを楽しんでいる頃
聖女がいなくなった王国と教会は滅亡への道を辿っていた。
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
虐待して監禁してくるクソ親がいるので、仮想現実に逃げちゃいます!
学生作家志望
ファンタジー
かつて、主人公の父親は国王だったが、謎の失踪を遂げ、現在は主人公の母親が女王となってこの国の政治を任されている
表向きは優しく美しい女王、カンナ・サンダーランド。
裏では兄を贔屓、弟の主人公を城に監禁して虐待しまくるクソ親。
子供のころから当たり前になっていた生活に、14歳にもなって飽き飽きしてきた、主人公、グラハム・サンダーランドは、いつもの通り城の掃除を任されて父親の書斎にやってくる。
そこで、録音機が勝手に鳴る、物が勝手に落ちる、などの謎の現象が起こる
そんな謎の現象を無視して部屋を出て行こうとすると、突然、いかにも壊れてそうな機械が音を出しながら動き始める
瞬間、周りが青に染まり、そこを白い閃光が駆け抜けていく──────
目が覚めると...そこは俺の知っているクルパドックではなく、まさかのゲーム世界!?
現実世界で生きる意味を無くしたグラハムは仮想現実にいるという父親と、愛を求めて、仲間と共に戦う物語。
重複投稿をしています!
この物語に登場する特殊な言葉
オーガニゼーション 組織、ギルドのこと
鳥の羽 魔法の杖のこと
婚約破棄されたら魔法が解けました
かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」
それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。
「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」
あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。
「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」
死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー!
※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です
私は聖女(ヒロイン)のおまけ
音無砂月
ファンタジー
ある日突然、異世界に召喚された二人の少女
100年前、異世界に召喚された聖女の手によって魔王を封印し、アルガシュカル国の危機は救われたが100年経った今、再び魔王の封印が解かれかけている。その為に呼ばれた二人の少女
しかし、聖女は一人。聖女と同じ色彩を持つヒナコ・ハヤカワを聖女候補として考えるアルガシュカルだが念のため、ミズキ・カナエも聖女として扱う。内気で何も自分で決められないヒナコを支えながらミズキは何とか元の世界に帰れないか方法を探す。
神のいとし子は追放された私でした〜異母妹を選んだ王太子様、今のお気持ちは如何ですか?〜
星井柚乃(旧名:星里有乃)
恋愛
「アメリアお姉様は、私達の幸せを考えて、自ら身を引いてくださいました」
「オレは……王太子としてではなく、一人の男としてアメリアの妹、聖女レティアへの真実の愛に目覚めたのだ!」
(レティアったら、何を血迷っているの……だって貴女本当は、霊感なんてこれっぽっちも無いじゃない!)
美貌の聖女レティアとは対照的に、とにかく目立たない姉のアメリア。しかし、地味に装っているアメリアこそが、この国の神のいとし子なのだが、悪魔と契約した妹レティアはついに姉を追放してしまう。
やがて、神のいとし子の祈りが届かなくなった国は災いが増え、聖女の力を隠さなくなったアメリアに救いの手を求めるが……。
* 2023年01月15日、連載完結しました。
* ヒロインアメリアの相手役が第1章は精霊ラルド、第2章からは隣国の王子アッシュに切り替わります。最終章に該当する黄昏の章で、それぞれの関係性を決着させています。お読みくださった読者様、ありがとうございました!
* 初期投稿ではショートショート作品の予定で始まった本作ですが、途中から長編版に路線を変更して完結させました。
* この作品は小説家になろうさんとアルファポリスさんに投稿しております。
* ブクマ、感想、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる