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黒き野望

第八章第7話 航海

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大量の塩を買い込んだ翌日、私たちはリリエヴォの町から出航した。目指すはブラックレインボー帝国の北西の端、そこから密かに上陸して密林地帯を抜けてキトスを目指すのだ。

そして今私はデッキにやってきている。目的はもちろん日光浴をするためで、ビーチチェアを出す場所を吟味しているのだ。

そろそろ春の足音が聞こえてきてもおかしくない季節だというのに吹きすさぶ風は相変わらず冬の様相を呈していて、きっとこの優れモノのローブが無ければデッキで日光浴などできなかっただろう。

それと、みんな船酔いに強くなったのでもう誰もマーライオンしていないかと思いきや、今回はシャルがマーライオンしている。

いや、うん。まあ、いきなり外洋に出たらそれは辛いだろう。上下左右にかなり激しく揺れるしね。

残念ながら船酔いはいくら私の【回復魔法】が MAX でも治すことはできない。可哀想だが頑張って慣れてもらうしかないだろう。

私は船酔いで苦しむシャルを横目にビーチチェアを取り出すと日光浴を始めるのだった。

あー、気持ちいい。

「ちょっと、フィーネ。あなたどうして平気ですの? こんなに揺れていますのに」
「実は私、船酔いに強い体質なんです」
「強いって、そういうレベルですの?」
「シャルも副職業で漁師か船乗りになれば大丈夫になりますよ」
「え? フィーネ、あなたは魔法薬師じゃないんですの?」
「ええと、私は生まれつき船酔いに強いんです」
「どういうことですのー!? うっぷ」

そう叫んだシャルは再び魚にエサやりを再開したのだった。

ああ、うん。みんな最初はあんな感じだったなぁ。

何だか懐かしい光景だね。

****

「陸地が見えたぞー」

一週間ほどの航海の後、デッキで日光浴をしている私の耳にマストの上の見張り台からそんな声が聞こえてきた。どうやら目的地に着いたらしい。

え? もう見張り台に登らないのかって?

いやいや。あれはもう一回やって楽しかったから満足したよ?

それに毎回毎回登っていたら船員さんの邪魔になるしね。私だってそのくらいはわきまえているのだ。

私は起き上がってビーチチェアをしまうと舳先へさきへと向かう。

「おお、確かに陸地が見えますね」

水平線の向こうに緑の茂った陸地が姿を現している。

私が陸地を眺めていると声を聞きつけたのかみんなが続々と集まってきた。

「あれがブラックレインボーの大地でござるか」
「はい。あの辺りはほとんど人の手の入っていない密林地帯なのです」
「名物料理はなんですかっ?」
「え? ええと、あのあたりですと、フルーツとそれから川魚や川エビなどがよく食されていますね」
「おーっ。楽しみですっ!」

ルーちゃんは相変わらずだね。でも私も南国フルーツは楽しみかもしれない。

「本当に大丈夫なんですの? 上陸してすぐに捕まるのはイヤですわよ?」
「あの辺りは山を越えなければ行けない密林地帯です。ですのであそこまではまだ愚兄の手も及んでいないはずです」
「それにダメでも倒せばいいだけですから。あの死なない兵は倒し方さえ分かれば強くないみたいですしね」
「はい。フィーネ様の仰るとおりです。私が白銀の聖女に捧げしエターナル・フォース永遠なる浄化の剣・セント・ホワイトで全て斬り捨ててご覧に入れます」
「え? えた?」

サラさんが困惑した表情を浮かべている。

あれ? そういえばサラさんはこの恥ずかしい名前を聞くの初めてだっけ?

まあ、力を抜くと良いんじゃないかな。

白銀の聖女に捧げしエターナル・フォース永遠なる浄化の剣・セント・ホワイトです。フィーネ様に捧げし我が浄化の剣です」

クリスさんはそう言ってドヤ顔をしている。

ま、これで幽霊も倒せるからね。

「そ、そうですか。それはとても素晴らしい技ですね」
「そうなのです。フィーネ様にもこの命名を褒めていただいたのです!」

ああっと、もう。こっちにその話は振らないでほしい。私はその恥ずかしい名前とは関係ないからね。

しかしサラさんは「それはそれは」と笑顔でさらりと流してくれたのだった。

****

「それじゃあ、行ってきます」
「聖女シャルロット様、聖女フィーネ様。どうかお気をつけて」
「ええ。必ず魔の者に魂を売り渡したアルフォンソを討って、平和な国を取り戻してご覧にいれますわ」

うんうん。それにユーグさんを助けないとね。

それにシャルにはちゃんと本物の聖女になってもらわなければ困るのだ。

そうして私たちは上陸用の小舟に乗り移るとブラックレインボーの大地へと向かって漕ぎだした。

陸地が少しずつ近づいてきて、そして私たちを運んできた船が少しずつ遠ざかっていく。

上陸すればもう引き返すことなど不可能となる。

しかもそこは完全なる敵地だ。戦争を仕掛け、ユーグさんを攫っていくような奴には聖女や聖騎士などといった肩書は通用しないだろう。

私はそんな不安を覚えつつも近づいてくる緑を見つめるのだった。
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