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黒き野望
第八章第5話 アイロール新名物
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# 第八章第5話 アイロール新名物
私たちはその日の夜、マリーさんのレストランへと向かった。そこは大通りから少し外れた場所にある小さな一軒家で、騎士団の詰め所にもほど近い場所にある。事前に連絡して置いてくれたらしく、今日は貸し切りにしてくれたらしい。
「ほ、ほ、本日は、よ、よ、よ、ようこそおいでくださいました。せ、聖女フィーネ様、聖女シャルロット様」
緊張でがちがちになったマリーさんが若干どもりながらもぎこちない笑顔で私たちを出迎えてくれた。
「こんばんは。マリーさん。お元気そうで何よりです」
「聖女様。その節は本当にありがとうございました!」
私が笑顔で挨拶をするとマリーさんも笑顔で答えてくれた。
ということは、シャルが初対面だから緊張しているのか。
「シャル。この人は前に私が治療した人で、今は案内してくれた騎士のアロイスさんが保護してあげているそうです」
「あら? アロイス、あなた保護民 を取っているんですの?」
シャルはそういうと蔑んだような目でアロイスさんを見る。
「はい。私は自らの騎士道に、国王陛下に、そして何よりマリーをお救い頂いた聖女フィーネ・アルジェンタータ様に誓って、マリーが笑顔で居られるように全力を尽くしております」
アロイスさんは騎士の礼を取ると真顔でシャルにそう答えた。
ええと、見事なのろけ、ということで良いのかな?
今のを聞いたマリーさんは顔を真っ赤にしているし。うん。爆発しろ。
「そう……。この娘もまともな生活を送れているようですし、バルディリビア男爵家は正しい道を理解し、実践しているようですわね。結構なことですわ」
「ははっ。お褒めいただき恐縮でございます」
うん? 何だろう、今のやり取りは。
「フィーネ様。貴族の中には保護民の制度を利用して立場の弱い者を食い物にする者が多くいるのです」
ああ、なるほど。そういう奴はたしかにいそうだもんね。
「それじゃあ挨拶も終わりましたし、早速食事にしましょう。リシャールさんとエミリエンヌさんも、今日は外で騎士団の皆さんが警備をしてくれていますから一緒に食べませんか?」
「え?」
「そ、それは……」
「リシャール、エミリエンヌ。許可しますわ」
「「はっ」」
私がそう言うと全員着席した。四人掛けのテーブルが二つとカウンターだけの小さなレストランなので私たちだけでほぼ満席状態だ。そこに警備の騎士さんもいるのでやや手狭にも感じる。
そしてカウンターに立っていそいそと準備をするマリーさんとアロイスさんを私は微笑ましい気持ちで見つめる。
うん。本当にマリーさんは元気になった。どうやら【魅了】と【闇属性魔法】を使った治療はとても上手くいっているようだ。普段はこのお店も一人で切り盛りしているんだろうし、もちろんアロイスさんというイケメンパワーも大きいのだろうけれどトラウマを乗り越えてこうして社会復帰できたのはすごいことなんじゃないだろうか?
何だか、つい笑みがこぼれてしまいそうだ。
「フィーネ様。嬉しそうですね」
おっと。もうすでに顔に出ていたようだ。
「あはは、分かりますか? マリーさんが元気になって良かったなって思いまして」
「……そうですね。フィーネ様の努力の賜物です」
「……ありがとうございます」
何だか、そうやって褒められると照れくさい気分になる。いや、まあ素直に嬉しいんだけどね。
「本日の一品目はこちらになります」
マリーさんとアロイスさんが料理を運んできた。一皿目はサラダのようだ。
ん? この白いのはもしかして?
「季節の野菜とハムのサラダでございます。フィーネ式ホワイトソースを和えてお召し上がりください」
「んなっ!?」
ちょっと待て! どうしてその名前になった?
これ、マヨネーズだよね?
「フィーネ式? ということはあなた、消毒液に続いてソースまで作ったんですの?」
「聖女シャルロット様。聖女フィーネ様に以前このソースのレシピを教えていただいたのです」
いや、レシピって。卵と油とお酢を混ぜるんだったような、みたいなことを前に適当に言ったような気はするけどさ。
「聖女フィーネ様。このソースの出来はいかがですか?」
「え? あ、はい」
私は促されてツッコミを忘れてついペロリソースを舐めてみる。
「あ、ちゃんとしてますね」
うん。普通にマヨネーズだ。美味しい。
私のそれを聞いたマリーさんとアロイスさんは笑顔になって顔を見合わせ、そして頷き合った。
ああ、うん。もうすっかりカップルになってるね。
「ホントだっ! 姉さまのソース、すごいコクがあって美味しいですっ!」
ルーちゃんのその一言で皆サラダを口に運んでいく。
「おお、不思議な味でござるが中々クセになりそうでござるな」
シズクさんも気に入ったようだ。
「フィーネ様。これはもしや、どんな料理にかけても美味しいのではないでしょうか?」
うん? クリスさん、もしかしてマヨラーへの扉を開きかけている?
「あら、このソースは美味しいですわね。あなたマリーと言ったかしら? 我がガティルエ家の専属料理人にならないかしら?」
「お嬢様! マリーさんはすでにアロイス殿の保護民なのですよ?」
「あらリシャール、冗談ですわ。ところでマリー。ガティルエ家へ遊びにいらしても良くてよ? お土産はたくさん用意いたしますわ。ああ、アロイスも一緒に来ると良いわ」
「え? え?」
「聖女シャルロット様。大変光栄ではございますがまだマリーも店をはじめて間もなく、しばらくの間はこの店に専念させていただきたく存じます。ですが落ち着きましたら必ずお伺いさせていただきます」
たじたじのマリーさんに代わってアロイスさんがシャルに跪いてそう答えた。
「……そう。では仕方ないですわね。残念」
アロイスさんはシャルに一礼するとマリーをカウンターの向こうへと下がっていった。
「ふふ。それにしてもフィーネ。あなたの名前の付いたものがまた生まれましたわね。これはきっとアイロールの新名物としてこの町の観光を支えていきますわよ?」
「え?」
いや、私が作ったわけじゃないんだけど? むしろちゃんと再現したマリーさんがすごいんじゃないかな? うん。
「ええと、私が作ったわけではないですし、マリーソースで良いんじゃないでしょうか?」
「あら。それじゃあダメですわ。バルディリビア家の手柄になってしまいますもの」
ううん。そういうものなのか。
「きっとアイロールはフィーネソース発祥の地として有名になりますわよ?」
「ええぇ」
================
※)保護民とは貴族が平民や流民を庇護するために使用する制度です。貴族の裁量で平民籍を与えることができますが、その保護民の行動に対して保護した貴族は責任を持つ必要があります。ただ、もっぱら貴族の偉い人が若い愛人を囲う目的で使われていたりもします。
なお、マヨネーズのエピソードは第六章には未収録です。もともと外伝を書こうと思って用意していたのが色々と時間がなくて結局執筆できず本編だけここまできてしまいました。外伝は時間とモチベーションのある時にでも……(汗
私たちはその日の夜、マリーさんのレストランへと向かった。そこは大通りから少し外れた場所にある小さな一軒家で、騎士団の詰め所にもほど近い場所にある。事前に連絡して置いてくれたらしく、今日は貸し切りにしてくれたらしい。
「ほ、ほ、本日は、よ、よ、よ、ようこそおいでくださいました。せ、聖女フィーネ様、聖女シャルロット様」
緊張でがちがちになったマリーさんが若干どもりながらもぎこちない笑顔で私たちを出迎えてくれた。
「こんばんは。マリーさん。お元気そうで何よりです」
「聖女様。その節は本当にありがとうございました!」
私が笑顔で挨拶をするとマリーさんも笑顔で答えてくれた。
ということは、シャルが初対面だから緊張しているのか。
「シャル。この人は前に私が治療した人で、今は案内してくれた騎士のアロイスさんが保護してあげているそうです」
「あら? アロイス、あなた保護民 を取っているんですの?」
シャルはそういうと蔑んだような目でアロイスさんを見る。
「はい。私は自らの騎士道に、国王陛下に、そして何よりマリーをお救い頂いた聖女フィーネ・アルジェンタータ様に誓って、マリーが笑顔で居られるように全力を尽くしております」
アロイスさんは騎士の礼を取ると真顔でシャルにそう答えた。
ええと、見事なのろけ、ということで良いのかな?
今のを聞いたマリーさんは顔を真っ赤にしているし。うん。爆発しろ。
「そう……。この娘もまともな生活を送れているようですし、バルディリビア男爵家は正しい道を理解し、実践しているようですわね。結構なことですわ」
「ははっ。お褒めいただき恐縮でございます」
うん? 何だろう、今のやり取りは。
「フィーネ様。貴族の中には保護民の制度を利用して立場の弱い者を食い物にする者が多くいるのです」
ああ、なるほど。そういう奴はたしかにいそうだもんね。
「それじゃあ挨拶も終わりましたし、早速食事にしましょう。リシャールさんとエミリエンヌさんも、今日は外で騎士団の皆さんが警備をしてくれていますから一緒に食べませんか?」
「え?」
「そ、それは……」
「リシャール、エミリエンヌ。許可しますわ」
「「はっ」」
私がそう言うと全員着席した。四人掛けのテーブルが二つとカウンターだけの小さなレストランなので私たちだけでほぼ満席状態だ。そこに警備の騎士さんもいるのでやや手狭にも感じる。
そしてカウンターに立っていそいそと準備をするマリーさんとアロイスさんを私は微笑ましい気持ちで見つめる。
うん。本当にマリーさんは元気になった。どうやら【魅了】と【闇属性魔法】を使った治療はとても上手くいっているようだ。普段はこのお店も一人で切り盛りしているんだろうし、もちろんアロイスさんというイケメンパワーも大きいのだろうけれどトラウマを乗り越えてこうして社会復帰できたのはすごいことなんじゃないだろうか?
何だか、つい笑みがこぼれてしまいそうだ。
「フィーネ様。嬉しそうですね」
おっと。もうすでに顔に出ていたようだ。
「あはは、分かりますか? マリーさんが元気になって良かったなって思いまして」
「……そうですね。フィーネ様の努力の賜物です」
「……ありがとうございます」
何だか、そうやって褒められると照れくさい気分になる。いや、まあ素直に嬉しいんだけどね。
「本日の一品目はこちらになります」
マリーさんとアロイスさんが料理を運んできた。一皿目はサラダのようだ。
ん? この白いのはもしかして?
「季節の野菜とハムのサラダでございます。フィーネ式ホワイトソースを和えてお召し上がりください」
「んなっ!?」
ちょっと待て! どうしてその名前になった?
これ、マヨネーズだよね?
「フィーネ式? ということはあなた、消毒液に続いてソースまで作ったんですの?」
「聖女シャルロット様。聖女フィーネ様に以前このソースのレシピを教えていただいたのです」
いや、レシピって。卵と油とお酢を混ぜるんだったような、みたいなことを前に適当に言ったような気はするけどさ。
「聖女フィーネ様。このソースの出来はいかがですか?」
「え? あ、はい」
私は促されてツッコミを忘れてついペロリソースを舐めてみる。
「あ、ちゃんとしてますね」
うん。普通にマヨネーズだ。美味しい。
私のそれを聞いたマリーさんとアロイスさんは笑顔になって顔を見合わせ、そして頷き合った。
ああ、うん。もうすっかりカップルになってるね。
「ホントだっ! 姉さまのソース、すごいコクがあって美味しいですっ!」
ルーちゃんのその一言で皆サラダを口に運んでいく。
「おお、不思議な味でござるが中々クセになりそうでござるな」
シズクさんも気に入ったようだ。
「フィーネ様。これはもしや、どんな料理にかけても美味しいのではないでしょうか?」
うん? クリスさん、もしかしてマヨラーへの扉を開きかけている?
「あら、このソースは美味しいですわね。あなたマリーと言ったかしら? 我がガティルエ家の専属料理人にならないかしら?」
「お嬢様! マリーさんはすでにアロイス殿の保護民なのですよ?」
「あらリシャール、冗談ですわ。ところでマリー。ガティルエ家へ遊びにいらしても良くてよ? お土産はたくさん用意いたしますわ。ああ、アロイスも一緒に来ると良いわ」
「え? え?」
「聖女シャルロット様。大変光栄ではございますがまだマリーも店をはじめて間もなく、しばらくの間はこの店に専念させていただきたく存じます。ですが落ち着きましたら必ずお伺いさせていただきます」
たじたじのマリーさんに代わってアロイスさんがシャルに跪いてそう答えた。
「……そう。では仕方ないですわね。残念」
アロイスさんはシャルに一礼するとマリーをカウンターの向こうへと下がっていった。
「ふふ。それにしてもフィーネ。あなたの名前の付いたものがまた生まれましたわね。これはきっとアイロールの新名物としてこの町の観光を支えていきますわよ?」
「え?」
いや、私が作ったわけじゃないんだけど? むしろちゃんと再現したマリーさんがすごいんじゃないかな? うん。
「ええと、私が作ったわけではないですし、マリーソースで良いんじゃないでしょうか?」
「あら。それじゃあダメですわ。バルディリビア家の手柄になってしまいますもの」
ううん。そういうものなのか。
「きっとアイロールはフィーネソース発祥の地として有名になりますわよ?」
「ええぇ」
================
※)保護民とは貴族が平民や流民を庇護するために使用する制度です。貴族の裁量で平民籍を与えることができますが、その保護民の行動に対して保護した貴族は責任を持つ必要があります。ただ、もっぱら貴族の偉い人が若い愛人を囲う目的で使われていたりもします。
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