勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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黒き野望

第八章第2話 会議

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ルマ人の皆さんのことはザッカーラ侯爵に任せ、一足早く王都に戻ってきた私たちはその足でお城へとやってきた。

「聖女フィーネ・アルジェンタータ様ご一行、ご到着!」

そうして通された場所はいつもの会議室だった。

今回は王様、第一、第二、第四騎士団の団長さん、それにシャルの姿があった。シャルは見知らぬ騎士二人を連れている。

「ただいま戻りました」
「うむ。フィーネ嬢。よくぞ無事に戻ってくれた。そして危険な目に遭わせてしまったようだな」
「いえ。私が放っておけなかっただけですから。ルマ人の皆さんを一時的に保護してくださってありがとうございます」
「気にするでない。聖女による救済の手助けをできるのだ。これほど名誉なことはあるまい」
「ありがとうございます」
「さて」


王様はそう言ってサラさんに視線を向ける。

「お久しぶりでございます。陛下。ブラックレインボー帝国第一皇女サラ・ブラックレインボーがご挨拶申し上げます」

サラさんがものすごく優雅に淑女の礼を取った。

うわぁ、すごい。やっぱりこの人、筋肉ぴくぴくさせるだけじゃなくて本当に皇女様な振る舞いができたんだ。

「うむ。サラ皇女も久しいな。先帝陛下の件、残念であった。よもやあのアルフォンソ皇子がその様なことをするとは……」
「いえ。全ては魔の者の誘惑に負けた愚兄の弱さが原因です。ましてや侵略をするなど何とお詫びをすればよいか」
「なに、気にするでない。先帝陛下の時代は我が国と貴国は友好国であったのだ。魔王警報の件もある。これを機に我が国は貴国と再び国交を結びたいと考えておる」
「寛大なお言葉に感謝いたします」
「しかし、いくら魔の者が原因であるとはいえ侵略を受けた以上、我が国は貴国に反撃せざるを得ない」
「はい。そうせねば民が納得しないでしょう」
「うむ。だからといって我が国は貴国を征服しようとは考えていない」
「はい」
「そこでだ。サラ皇女には我が国からは兵をお貸ししよう。その兵を率いて魔の者と結んだ偽帝アルフォンソを討ち、国を取り戻してみせるがよい。それに我が国が誇るもう一人の聖女シャルロットも協力を申し出ておる」
「まぁ!」

サラさんは心底驚いたという様子でシャルを見た。

あれ? 知り合いだったりするの?

「聖女シャルロット様。お目にかかれて光栄でございます。ブラックレインボー帝国第一皇女サラ・ブラックレインボーがご挨拶申し上げます」

て、そうか。知り合いなわけじゃなくてローブがあるから一発で分かるのか。それで聖女候補の二人が協力してくれるから喜んでいたという事なのかな?

「サラ皇女殿下。シャルロット・ドゥ・ガティルエですわ。聖女であるこのわたくしが、必ず殿下の国を取り戻してさしあげますわ」

それにユーグ様も、と小さな声でシャルが呟いたのを私の耳は聞き洩らさなかった。

そうだよね。きっと、後ろの騎士たちもそのための護衛として連れてきたんだよね?

「ありがとうございます。聖女シャルロット様」
「ええ。お任せなさい。それにフィーネ、あなたも来るんですわね?」
「はい。もちろんですよ」

それからサラさんは王様に一礼する。そして、「聖女様。ありがとうございます」と言って私とシャルに向かって筋肉をぴくぴくさせながら見せつけてきた。

「神の御心のままに」

シャルは取り乱した様子もなくさらりとそう言った。

うん、さすがはシャルだ。やっぱり私とは違っていろんな国のお祈りのやり方を熟知しているから、いちいちびっくりしたりしないんだろうな。

うん? 何でまだ筋肉ぴくぴくやってるんだ?

「フィーネ、あなたの許可を待っているんですわよ?」
「ええ?」

私もやらなきゃいけないのか。仕方ないな。

「神の御心のままに」

私がそう言うとようやくサラさんはようやくポージングを止めたのだった。

****

王様は私たちと騎士団長の皆さんに任せると言って退出していったので、残る私たちで作戦会議をしている。

「さて。我々がブラックレインボー帝国に行くためには船が必要なわけですが……。皇女殿下、ベレニンデウアの港は既に奴らの手に渡っているのですね?」

そうサラさんに質問したのは第四騎士団長のマチアスさんだ。

「はい。残念ながら。元々わたし達はベレニンデウアを拠点に反攻を考えていたのですが、彼ら相手には成すすべなく敗れてしまい、わたしの乗った脱出船も撃沈されてしまいました。ベレニンデウアは今や完全に愚兄の手中にあるとお考えください」

ちなみに、このベレニンデウアというのはブラックレインボー帝国の玄関口ともいうべき大きな港町だそうだ。ホワイトムーン王国がブラックレインボー帝国と国交があった時はクリエッリからベレニンデウアに船で渡るというのが一般的だったらしい。

「とすると、他に上陸できる場所は……」
「港町はもう難しいでしょうから、北西の密林地帯に小舟で上陸するのが良いでしょう」
「密林地帯、ですか?」
「はい。ベレニンデウアが陥落した際、バジェスタの港から北西部の高山地帯へ逃れ、そこも落とされた場合は密林地帯へと後退する計画でした。それに密林地帯へは視察で行ったことがありますのである程度の地理が分かります。まずはその密林地帯にあるキトスという小さな町に向かいましょう」
「となると、クリエッリから船を出しますかな?」
「いや、マチアス殿。船は我々第二騎士団のリリエヴォから出したほうが良いだろう。クリエッリは奴らも警戒しているはずだ。そちらではベレニンデウアを攻める部隊を用意して頂きたい」

そう言ったのは第二騎士団長のクレマンさんだ。

「ふむ。では兵員はどうするのだ?」
「それも第二騎士団で用意しよう」
「ならばその人数は――」

騎士団長達が話し合いを始めてしまったため、私はサラさんに話を振った。

「サラさん。そのキトスというところにはどのくらいの兵士がいるんですか?」
「そうですね。わたしがベレニンデウアにいた時で既に 300 人ほどはいたはずです。他の町が落ちていれば撤退した兵たちで少なくとも 500 人、多ければ 2,000 人くらいになっていると思います」
「え? そんなにいるんですか? じゃあ、潜入は私たちと最低限の人数で行って、向こうの兵士の皆さんに頑張ってもらった方が良いんじゃないですか?」
「それは、そうかもしれませんが……」

サラさんはいい淀むと私たちをそっちのけで議論を続ける騎士団長達をちらりと見た。

「あの、ちょっと良いですか?」

私が声をかけるが議論が白熱していて聞いていない。

「あのー、もしもし?」
「いや、やはりここは第一騎士団から人員を!」
「いや。第一騎士団は第四騎士団と共にベレニンデウアを攻める役目をお願いしたい」

どうやら第一騎士団長のアランさんが私たちについてくる兵を出したくてクレマンさんと揉めている感じのようだ。

あ、マチアスさんが少しうんざりした表情を見せ始めた。

「あの、マチアスさん?」
「ん? 何ですかな? 聖女様」
「ええと、向こうにサラさんを支持してくれている兵士がたくさんいるそうなので、潜入は最低限の人数で行った方が良さそうなんですけど……」
「おお、左様ですか」
「マチアス様。まずわたし達とキトスを目指すのは連絡要員のみでお願いできませんか? ベレニンデウアを奪還する兵を後ほど送って頂けると助かります」
「……なるほど。畏まりました。おい、アラン。皇女殿下がキトスを目指す部隊は連絡要員だけで良いとのことだ。第一騎士団はやはり俺たち第四騎士団を手伝ってくれ」
「何? ……ちっ。仕方ない。ではそうしよう」

こうして意味不明で不毛な争いはあっさりと終了したのだった。
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