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砂漠の国

第七章第37話 地下の封印

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「聖女様。いや、偽聖女フィーネ・アルジェンタータ。素直にお縄についていただきます」

兵士たちの中からハーリドさんが現れると私たちにそう言った。

「ハーリドさん、あなたもこうする予定だったと知っていたのですか?」
「ええ。穢れの民を連れ出すなどあり得ない話です。彼らは穢れているのですから」
「そんな下らぬ事のためにフィーネ様に刃を向けるというのか!」
「奴らは正しく神に祈らぬ不心得者だ。そんな者たちに情けをかける聖女など真の聖女ではない!」

ええと? 結局のところ、宗派が違うからっていうのが迫害の理由ということなの?

「そうか。ならば仕方ない。私は聖女フィーネ・アルジェンタータ様の盾だ。フィーネ様に剣を向けるものは誰であろうと容赦しない」
「拙者を忘れてもらっては困るでござるよ。拙者は聖女フィーネ・アルジェンタータ様の剣でござるからな。はたして、そなた達ごときで拙者を倒せるでござるか?」

シズクさんも前に出て戦闘態勢を取る。

「シズクさん、クリスさん。ルマ人たちを守る結界を解けないので今は結界が張れません。防壁だけで何とかしましょう」
「おっと、そうでござったな。ではなるべく早く殲滅するでござるよ」

そう言ったシズクさんは兵士たちの中に飛び込んでいくとあっという間に道を作り出した。

その道を私たちは駆け抜ける。

「あっ」

サラさんが声を上げた。私が振り返るとサラさんが倒れている兵士に足を掴まれている。

「このっ。サラさんを離しな――さいっ!」

私はサラさんの手を掴んで引っ張り、そしてサラさんを掴んでいる兵士を思い切り蹴飛ばした。するとその兵士はぐえっ、と変な声を出してそのまま数十メートル吹っ飛んで行った。

「あ、あれ?」

あまりの事態に私だけでなく周りの兵士も唖然としている。ついでに蹴った私の足もじんじんと痛い。というか、ものすごく痛い。

「フィーネ様。お気をつけください。フィーネ様の STR は既に一般的な戦士のそれとは比べ物にならないほど高いのです。いくら前衛のスキルをお持ちではないとはいえ思い切りやればああなります。それに何より、正しいやり方で攻撃しなければフィーネ様ご自身もお怪我をされてしまいます」

クリスさんが周りで唖然としている兵士たちを気絶させながらそう教えてくれた。

ああ、そう言えば私の STR はもう 500 を越えていてクリスさんよりも高いんだった。

うん。恥ずかしい。それに何より心配させてごめんなさい。

「えーと、治癒」

私は遠くで他の兵士を巻き込んで倒れている兵士が死なない様に軽く治癒魔法をかけると自分の足も治療する。

「さ、さあ。脱出しましょう」

そうして私たちはシズクさんの切り開いてくれた道を再び駆け抜けるのだった。

****

兵士たちに追い回されているうちに、いつの間にか知らない場所に来てしまった。

「ここは?」
「すまないでござる。まさか行き止まりとは」
「でも、どうして部屋もないのにこんな無駄な行き止まりがあるんでしょうね?」
「あっ、もしかして実は隠し部屋があるとか、秘密の抜け道になっているとかじゃないですかっ?」
「あはは。まさかそんなに都合良いことがあるわけ――」
「聖女様。私の占いによると、この壁の向こうに聖女様にとって大切な何かがあるようです」

おお。どうやらそんなことがあったらしい。あの鳥難の相を的中させたサラさんの占いならきっと間違いないだろう。

「でも、どうやって?」
「聖女様。お任せください。私、こう見えても土属性魔術師ですからこのくらいは簡単にできます」

うん?

サラさんは自信満々にそう言ったが、何だかいやな予感がするぞ?

「はぁぁぁぁぁぁぁ!」

サラさんは自分の拳に岩の塊を纏わせると、思い切りストレートを壁にお見舞いした。

ドスン、と鈍い音と共に壁が崩れ落ちる。

あああ、やっぱり!

「あの、土属性魔術師って一体……」
「え? わたしの国の土属性魔術師は皆このようにして戦いますよ? ホワイトムーン王国の方々は違うのですか?」
「ええぇ」

って、違う! そうじゃない!

サラさんが拳で破壊した壁の奥には確かに真っ暗な空間が広がっている。

「フィーネ様。明かりを頂けませんか?」
「あ、はい」

私は浄化魔法を調節して手元に光の球を作り出す。

「中に……何か置いてあるでござるな」

シズクさんの声に誘われて部屋の中に入ると、そこには一振りの曲刀が安置されていた。先ほど見たあの聖剣ルフィカールのようにごてごてとした装飾が施されているわけではないが、シンプルでありながらもどこか神秘的な装飾が施されている。

「あ、これは……」

私はなんとなくその曲刀に手を伸ばすが、その手は見えない何かに阻まれバチンと弾かれる。だが私は全くダメージを受けていないので、これはきっとキリナギの時と同じ【闇属性魔法】によって封印されているのだろう。

ただ、あの時のように私に呪いをかけて来るようなことはないのでスイキョウのものと比べるとかなりレベルが低いのではないだろうか?

私が「封印解除」と念じて聖属性魔法を発動すると、さしたる抵抗を感じることもなくあっさりとその封印は解除された。

私は曲刀に手を伸ばすとその柄を握って持ち上げる。

うん。聖属性の魔力が流れ込んでくるしものすごく軽い。どう考えてもこっちの方が聖剣っぽいけど、どういう事なんだろうね?

「何故か闇属性の魔力で聖なる力を持つこの剣が封印されていたようです」
「なるほど。ということは、我々がこのような場所に迷い込んだのは神のお導きということなのでしょう」
「え?」
「つまり、神がその剣を託すためにフィーネ様をこの場にお導きになられたにちがいありません」
「ええと? 勝手に持って行っては泥棒なんじゃないですか?」
「今回の場合は問題ございません。世界聖女保護協定において、聖女には正当な理由なく刃を向けてきた者よりその財を没収する権利が認められています」
「ええっ?」
「聖女を害するという行為は神と全ての人類に対する敵対行為です。ですから、そのような愚かな行為を防止するためにも聖女は世界各国で敬われ、そして守られているのです」
「でも、聖女が悪いことを考えたら何でもできちゃうじゃないですか」
「そのような事を考える者は聖女になど選ばれません」

うん? いや? ええと、うん。まあいいか。良いっていうんだし、深く考えずに迷惑料として貰っておこう。

収納に入れようと思ったが何故か入らなかったので、私は仕方なくこの曲刀を腰にいた。

「聖女様。とてもお似合いですよ。その剣を振るっているお姿もきっと素敵なのでしょうね」
「え? ええと、ありがとうございます」

まあ、私が剣を振ると何故かすっぽ抜けてどこかに飛んでいくので危険だけどね。でも、刀っぽい曲刀を腰にぶら下げているなんてシズクさんぽくてオシャレかもしれない。

「さあ、脱出するでござるよ」

私たちはシズクさんの声に再び宮殿内を歩き始めたのだった。
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