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砂漠の国
第七章第29話 平穏な神殿
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ダルハの町を出発して五日、私たちは遂に炎の神殿へと到着した。炎の神殿というからもっと真っ赤だったりあちこちにかがり火が焚かれていたりするのかと思っていたが実際はそんなことは全くなかった。
白亜の巨大な建物で左右に一対の尖塔がそびえ、真ん中にはドームがあり屋根など建物の一部には青が使われている。とても美しい建物だがこの外観では言われなければ炎の神殿とは思わないのではないだろうか?
「これが炎の神殿、ですか」
「はい。ここが我らがイエロープラネット首長国連邦の聖地、炎の神殿でございます」
なるほど。聖地と言うだけあって掃除もしっかりされているようだし、建物もきちんと手入されているようだ。
「この神殿にはどれくらいの人が住んでいるんですか?」
「いえ。この神殿には誰も住んでいません」
そう答えてくれたのはハーリドさんだ。
「え?」
「この神殿には結界が張られており、その敷地内には誰も立ち入ることができないのです」
「ええと? じゃあ、どこでお祈りすれば良いんですか?」
「大統領も首長も皆、入り口の門にて祈りを捧げております」
なるほど?
「ええと、じゃあ誰が綺麗に掃除をしているんですか?」
「誰もしておりません。火の神の力により神殿は常に綺麗な状態に保たれております」
なるほど。そういうものなのか。
「さ、ご案内いたします」
私たちはそのまま案内されて神殿の入り口の門の前にやってきた。門と言っても扉があるわけではなく、一対の柱があって扉が付いていればいかにも門といった感じの場所だ。
「聖女様。ここから先は結界が張られており誰も入ることができないのです。入ろうとしてもこの通り」
ハーリドさんが手を伸ばすと、そこには確かに何か見えない壁のようなものがあり門の向こう側へは手を入れられずにいるようだ。
「本当だっ! 姉さまの結界みたいですっ」
ルーちゃんがそう言いながらペタペタと結界のある場所を触っている。
「どうやら神殿というのは本当のようですね」
クリスさんとシズクさんも興味深そうに結界を触っている。
どれどれ、私も触ってみよう。
私もみんなが触っているあたりに手を伸ばしてみる。
お? おおお? なんだかどんどん元気が湧いてくるぞ?
「フィーネ様……」
「そうなる気はしていたでござるが……」
「はい?」
「姉さま。手が結界の向こう側に入ってますっ!」
「え?」
「さすが聖女様ですね」
おお、本当だ。元気が湧てきたってことは結界は聖属性で、【聖属性吸収】があるから私には効果がないってことかな。
あ、ということはまさか……。
イヤな予感のした私は後ろを振り返る。
ああ、やっぱり。
私たちの後ろでその様子を見守っていたハーリドさんと兵士の皆さんがビタンとなっている。
「「「神は偉大なり! 神は偉大なり! 聖女は神の使徒なり! 聖女の救済に感謝を!」」」
いや。うん。もういいや。
「神はあなた方を赦します」
そして何とかビタンなイエロープラネットの皆さんをなだめた後、私は教えてもらったやり方で祈りを捧げたのだった。
****
お祈りを終えた私たちは少し神殿から離れた場所でお昼休憩を取っている。今日のお昼は奥さん特製のベシャメルシチューだ。私たち四人とサラさん、そしてハーリドさんが私たちの食卓に加わっている。他の皆さんはイエロープラネット料理が好きだというので向こうで串焼きを作って食べている。
私にはちょっとこの国の料理はあの煮込み以外は合わなかったけど、やはりその土地に暮らす人たちにとってはソウルフードということなのだろう。
まあ、単に遠慮しているだけかもしれないけどね。
「聖女様。このベシャメルシチューという料理はとても美味しいですね。これはホワイトムーン王国の料理なのですか?」
「はい。これは主に庶民の家庭料理ですね。それぞれの家庭で味が違うと言われています」
「そうなのですか。とても庶民の料理とは思えないほどの味ですね」
そう言ったサラさんは美味しそうにシチューを口に運ぶ。
そうだろうとも。だって、この奥さん特製のベシャメルシチューは世界一美味しいベシャメルシチューだからね。
「家庭料理でこれほどの味が出せるのは素晴らしいですね。私もこのシチューは素晴らしいと思います」
そう言いながらハーリドさんもシチューを口に運ぶ。
「そういえば、サラ殿下の国ではどのような料理がこういった家庭料理にあたるのですか?」
ここからさらっと意中の女性に話を振るのはさすがだ。
「そうですね。我が国は広いですので地域によって異なりますが、帝都ですと肉をトマトと玉ねぎで煮込んで炊いたお米と食べる料理は庶民の味ではないでしょうか」
「それは我が国のサルーナと似たような料理でしょうか?」
「いえ。あのように香辛料は沢山使われているわけではありません。もっと柔らかい味わいの食べ物です」
「それ、あたしも食べてみたいですっ!」
折角頑張ってハーリドさんが口説いていたのにルーちゃんが割り込んできてしまった。
うん、残念だったね。食事の話を振ったらルーちゃんが出てきてしまうのは仕方ないよね。
「まあ、ルミア様。ではこのサラ・ブラックレインボーがお約束します。魔の者どもより国を取り返しましたら必ず、ブラックレインボー帝国各地の美味しい料理をルミア様をお召し上がり頂くと」
「やったー。ありがとうございますっ! 姉さまも、シズクさんもクリスさんも一緒ですよ?」
「はい。もちろんです。聖女様にも必ずお召し上がり頂けるよう手配いたします」
ルーちゃんが久しぶりに嬉しそうな笑顔を見せている。
うん。なんと言うか、ルーちゃんも食事が合わなそうだったものね。仕方ない。
それとハーリドさん。次は食事以外の話題で頑張ると良いんじゃないかな?
白亜の巨大な建物で左右に一対の尖塔がそびえ、真ん中にはドームがあり屋根など建物の一部には青が使われている。とても美しい建物だがこの外観では言われなければ炎の神殿とは思わないのではないだろうか?
「これが炎の神殿、ですか」
「はい。ここが我らがイエロープラネット首長国連邦の聖地、炎の神殿でございます」
なるほど。聖地と言うだけあって掃除もしっかりされているようだし、建物もきちんと手入されているようだ。
「この神殿にはどれくらいの人が住んでいるんですか?」
「いえ。この神殿には誰も住んでいません」
そう答えてくれたのはハーリドさんだ。
「え?」
「この神殿には結界が張られており、その敷地内には誰も立ち入ることができないのです」
「ええと? じゃあ、どこでお祈りすれば良いんですか?」
「大統領も首長も皆、入り口の門にて祈りを捧げております」
なるほど?
「ええと、じゃあ誰が綺麗に掃除をしているんですか?」
「誰もしておりません。火の神の力により神殿は常に綺麗な状態に保たれております」
なるほど。そういうものなのか。
「さ、ご案内いたします」
私たちはそのまま案内されて神殿の入り口の門の前にやってきた。門と言っても扉があるわけではなく、一対の柱があって扉が付いていればいかにも門といった感じの場所だ。
「聖女様。ここから先は結界が張られており誰も入ることができないのです。入ろうとしてもこの通り」
ハーリドさんが手を伸ばすと、そこには確かに何か見えない壁のようなものがあり門の向こう側へは手を入れられずにいるようだ。
「本当だっ! 姉さまの結界みたいですっ」
ルーちゃんがそう言いながらペタペタと結界のある場所を触っている。
「どうやら神殿というのは本当のようですね」
クリスさんとシズクさんも興味深そうに結界を触っている。
どれどれ、私も触ってみよう。
私もみんなが触っているあたりに手を伸ばしてみる。
お? おおお? なんだかどんどん元気が湧いてくるぞ?
「フィーネ様……」
「そうなる気はしていたでござるが……」
「はい?」
「姉さま。手が結界の向こう側に入ってますっ!」
「え?」
「さすが聖女様ですね」
おお、本当だ。元気が湧てきたってことは結界は聖属性で、【聖属性吸収】があるから私には効果がないってことかな。
あ、ということはまさか……。
イヤな予感のした私は後ろを振り返る。
ああ、やっぱり。
私たちの後ろでその様子を見守っていたハーリドさんと兵士の皆さんがビタンとなっている。
「「「神は偉大なり! 神は偉大なり! 聖女は神の使徒なり! 聖女の救済に感謝を!」」」
いや。うん。もういいや。
「神はあなた方を赦します」
そして何とかビタンなイエロープラネットの皆さんをなだめた後、私は教えてもらったやり方で祈りを捧げたのだった。
****
お祈りを終えた私たちは少し神殿から離れた場所でお昼休憩を取っている。今日のお昼は奥さん特製のベシャメルシチューだ。私たち四人とサラさん、そしてハーリドさんが私たちの食卓に加わっている。他の皆さんはイエロープラネット料理が好きだというので向こうで串焼きを作って食べている。
私にはちょっとこの国の料理はあの煮込み以外は合わなかったけど、やはりその土地に暮らす人たちにとってはソウルフードということなのだろう。
まあ、単に遠慮しているだけかもしれないけどね。
「聖女様。このベシャメルシチューという料理はとても美味しいですね。これはホワイトムーン王国の料理なのですか?」
「はい。これは主に庶民の家庭料理ですね。それぞれの家庭で味が違うと言われています」
「そうなのですか。とても庶民の料理とは思えないほどの味ですね」
そう言ったサラさんは美味しそうにシチューを口に運ぶ。
そうだろうとも。だって、この奥さん特製のベシャメルシチューは世界一美味しいベシャメルシチューだからね。
「家庭料理でこれほどの味が出せるのは素晴らしいですね。私もこのシチューは素晴らしいと思います」
そう言いながらハーリドさんもシチューを口に運ぶ。
「そういえば、サラ殿下の国ではどのような料理がこういった家庭料理にあたるのですか?」
ここからさらっと意中の女性に話を振るのはさすがだ。
「そうですね。我が国は広いですので地域によって異なりますが、帝都ですと肉をトマトと玉ねぎで煮込んで炊いたお米と食べる料理は庶民の味ではないでしょうか」
「それは我が国のサルーナと似たような料理でしょうか?」
「いえ。あのように香辛料は沢山使われているわけではありません。もっと柔らかい味わいの食べ物です」
「それ、あたしも食べてみたいですっ!」
折角頑張ってハーリドさんが口説いていたのにルーちゃんが割り込んできてしまった。
うん、残念だったね。食事の話を振ったらルーちゃんが出てきてしまうのは仕方ないよね。
「まあ、ルミア様。ではこのサラ・ブラックレインボーがお約束します。魔の者どもより国を取り返しましたら必ず、ブラックレインボー帝国各地の美味しい料理をルミア様をお召し上がり頂くと」
「やったー。ありがとうございますっ! 姉さまも、シズクさんもクリスさんも一緒ですよ?」
「はい。もちろんです。聖女様にも必ずお召し上がり頂けるよう手配いたします」
ルーちゃんが久しぶりに嬉しそうな笑顔を見せている。
うん。なんと言うか、ルーちゃんも食事が合わなそうだったものね。仕方ない。
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