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砂漠の国
第七章第28話 謎の祭壇
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「おはようございます、聖女様」
「おはようございます」
謎の死霊術士の男を取り逃がした翌日、ホテルで朝食をとっていた私たちのところにハーリドさんがやってきた。
「朝食中に失礼いたします。突然のことで申し訳ないのですが、しばらくこのダルハに留まっては頂けませんでしょうか?」
「え? どういうことですか?」
「はい。と申しますのも実は先のシーサーペントによる襲撃の際に船が損傷をうけてしまったのです。現在急ぎ修理を行っておりますのでもう一週間ほどお時間を頂きたく思います」
あー、そういえば。港の船は全滅だったもんね。
「歩いて戻るわけにはいきませんか?」
「残念ながら、ダルハとシャリクラの主要な交通は船なのです。まともに整備された道がございません」
「なるほど」
森の中ならまだしも、道のない砂漠を私たちだけで越えるというのは少し大変かもしれない。
「分かりました。ではもうしばらくお世話になりますね」
「かしこまりました。それともう一点、ヒラール殿より言伝を頼まれております」
「ヒラールさんから、ですか?」
「はい。大事な用件があり、10 時に馬車でお迎えに上がるとのことです」
大事な用件、ね。何だろう?
「分かりました。では出られる準備をしておきますね」
「はっ」
そうして私たちに用件を伝えたハーリドさんは退出していったのだった。
****
「炎の神殿ですか?」
「はい。昨日は西の砂漠から魔物による攻撃を受けました。聖女様の仰っていた死霊術士の正体は分かりませんが、西の砂漠の向こうにはイエロープラネットを守護する火の神を祀った炎の神殿があるのです」
「火の神、ですか?」
「ああ、ホワイトムーン王国は大神のみを祀っている宗派でしたな。我々イエロープラネットでは大神がいらっしゃり、その下に多くの神々がいらっしゃるという信仰の形を取っております。その中の一柱である火の神は我が国の守り神としても広く信仰されているのです」
ふうん?
「そこで、西の砂漠の向こうにある炎の神殿の無事を確認するとともに、是非とも聖女様に祈りを捧げてきていただきたいのです」
ああ、なるほど。そういうことか。これを断るのはさすがに悪い気がするし、このままここにいても暇なだけだもんね。
「分かりました。案内はしてもらえますか?」
「もちろんでございます。出発は明日の朝でもよろしいでしょうか?」
「はい」
こうして私たちは炎の神殿へと向かうことになったのだった。
****
「うーん。これは……」
「アイロールの森にもあった祭壇ですね」
「じゃあ、あいつがやっぱりトレントを!」
「死霊術を使うためのものなのか、それとも魔物を操るためのものなのかはわからないでござるがな」
私たちは今炎の神殿に向かっている最中なのだが、その道中でアイロールの森の中にもあった例の謎の祭壇を見つけてしまったのだ。
本人もアイロールの件を認めていたことだし、昨日の死霊術士がこの祭壇を設置した犯人ということで間違いないだろう。
ただ、この祭壇とアイロールのそれには決定的な違いがある。この祭壇には黒い靄のようなものが纏わりついているのだ。
「うーん? まるで死なない獣のようですね」
「確かに似ているでござるな」
「それならば、フィーネ様の浄化魔法で払えるのではないですか?」
「それはそうなんですけど……」
果たしてこのまま浄化してよいものもなのか悩んでいた私たちの目の前で目を疑うような出来事が起こった。
祭壇上で黒い靄が集まったかと思うと、いきなり祭壇の上にイエロースコルピが現れたのだ。そして近くにいた私に向かってその尻尾の毒針を伸ばしてきた。
「フィーネ様!」
「え!?」
私は間一髪、クリスさんに背中から抱きしめられる形で横に掻っ攫われ難を逃れる。
「フィーネ殿! 大丈夫でござるか?」
シズクさんが私を心配そうに見つめてくれているが、イエロースコルピはどうなった?
「ん? イエロースコルピでござるか? それならもう」
そう言ってシズクさんが指さしたほうを見ると、いつの間にかイエロースコルピはバラバラになって息絶えていた。
い、いつの間に?
「あ、ええと。クリスさん、シズクさん。ありがとうございました。ルーちゃんもサラさんも怪我はないですか?」
「はいっ! 姉さまこそ無事でよかったです」
「はい。聖女様」
良かった。二人とも無事なようだ。それにハーリドさんも護衛の兵士の皆さんも無事なようだ。
「それにしても、一体何だったんでしょうね?」
「魔物が突然現れましたね」
「姉さま。これ、魔物を召喚する装置なんじゃないですか?」
なるほど。確かにルーちゃんの意見は一理あるかもしれない。黒い靄こそないものの私がリーチェを召喚すると大体あんな感じで出てくる。
「その可能性はあるでござるな。アイロールの時はこのような黒い靄を纏ってはいなかったでござるし、この祭壇が稼働するにはこの黒い靄が必要なのかもしれないでござるな」
「では、なぜアイロールのものは稼働していなかったのだ?」
「それには幾つか可能性が考えられるでござるな。まずはこの祭壇には限界があり、アイロールのものはあれだけの規模の魔物暴走を引き起こすだけの魔物を召喚したため役目を終えていたということが考えられるでござるな」
「なるほど。使い捨てということか」
「もしくは、魔力を注ぎ込んだ分だけ稼働する、という可能性もあるでござるな」
なるほど。さすがシズクさんだ。鋭い。
「あともう一つは、何者かによって破壊された場合でござるな」
そういってシズクさんは私の方をじっと見つめてきた。
うん? 私? 何かしたっけ?
私が首を傾げるとシズクさんは苦笑いを浮かべた。
「フィーネ殿。アイロールの町にアンデッドが押し寄せてきたあの晩、特大の浄化魔法を使ったでござるな」
「あー、そうでしたね。はい。町全体と南西、でしたっけ? そっちの方に中々浄化されない頑固なのがあったので大変でした。って、ん?」
「ああ、やはりそうだったでござるか。では、これを浄化してほしいでござるよ」
「うん? はあ。わかりました。浄化!」
私は黒い靄を纏っている祭壇に浄化魔法をかけるが、かなり頑固だ。
「う、これは……」
中々浄化されない。こんなに小さな祭壇なのに!
私は一度浄化魔法を止めた。
「え? まさかフィーネ様でも浄化できないものがあるとは……」
クリスさんが衝撃を受けている。
「いえ。ちょっとフルパワーでやろうと思いまして」
私は深呼吸をすると集中する。この祭壇の、隅々まで、完全に!
「浄化!」
私の全力の浄化魔法の眩い光が祭壇を包み込む。
その浄化魔法にも祭壇は抵抗しているが、数秒ほど思い切り照射し続けると一気に抵抗が消えて浄化される。
そしてその光が収まると、すっかり黒い靄の消えた祭壇がそこにはあった。
「ふぅ。頑固でしたね」
「フィーネ様。お疲れ様でした」
そして周りを見渡してみると……サラさんが筋肉をぴくぴくさせていて、ハーリドさんと護衛の人たちはビタンとなっている。
そしてそんな皆さんをルーちゃんとシズクさんが呆れた目で見ていたのだった。
「おはようございます」
謎の死霊術士の男を取り逃がした翌日、ホテルで朝食をとっていた私たちのところにハーリドさんがやってきた。
「朝食中に失礼いたします。突然のことで申し訳ないのですが、しばらくこのダルハに留まっては頂けませんでしょうか?」
「え? どういうことですか?」
「はい。と申しますのも実は先のシーサーペントによる襲撃の際に船が損傷をうけてしまったのです。現在急ぎ修理を行っておりますのでもう一週間ほどお時間を頂きたく思います」
あー、そういえば。港の船は全滅だったもんね。
「歩いて戻るわけにはいきませんか?」
「残念ながら、ダルハとシャリクラの主要な交通は船なのです。まともに整備された道がございません」
「なるほど」
森の中ならまだしも、道のない砂漠を私たちだけで越えるというのは少し大変かもしれない。
「分かりました。ではもうしばらくお世話になりますね」
「かしこまりました。それともう一点、ヒラール殿より言伝を頼まれております」
「ヒラールさんから、ですか?」
「はい。大事な用件があり、10 時に馬車でお迎えに上がるとのことです」
大事な用件、ね。何だろう?
「分かりました。では出られる準備をしておきますね」
「はっ」
そうして私たちに用件を伝えたハーリドさんは退出していったのだった。
****
「炎の神殿ですか?」
「はい。昨日は西の砂漠から魔物による攻撃を受けました。聖女様の仰っていた死霊術士の正体は分かりませんが、西の砂漠の向こうにはイエロープラネットを守護する火の神を祀った炎の神殿があるのです」
「火の神、ですか?」
「ああ、ホワイトムーン王国は大神のみを祀っている宗派でしたな。我々イエロープラネットでは大神がいらっしゃり、その下に多くの神々がいらっしゃるという信仰の形を取っております。その中の一柱である火の神は我が国の守り神としても広く信仰されているのです」
ふうん?
「そこで、西の砂漠の向こうにある炎の神殿の無事を確認するとともに、是非とも聖女様に祈りを捧げてきていただきたいのです」
ああ、なるほど。そういうことか。これを断るのはさすがに悪い気がするし、このままここにいても暇なだけだもんね。
「分かりました。案内はしてもらえますか?」
「もちろんでございます。出発は明日の朝でもよろしいでしょうか?」
「はい」
こうして私たちは炎の神殿へと向かうことになったのだった。
****
「うーん。これは……」
「アイロールの森にもあった祭壇ですね」
「じゃあ、あいつがやっぱりトレントを!」
「死霊術を使うためのものなのか、それとも魔物を操るためのものなのかはわからないでござるがな」
私たちは今炎の神殿に向かっている最中なのだが、その道中でアイロールの森の中にもあった例の謎の祭壇を見つけてしまったのだ。
本人もアイロールの件を認めていたことだし、昨日の死霊術士がこの祭壇を設置した犯人ということで間違いないだろう。
ただ、この祭壇とアイロールのそれには決定的な違いがある。この祭壇には黒い靄のようなものが纏わりついているのだ。
「うーん? まるで死なない獣のようですね」
「確かに似ているでござるな」
「それならば、フィーネ様の浄化魔法で払えるのではないですか?」
「それはそうなんですけど……」
果たしてこのまま浄化してよいものもなのか悩んでいた私たちの目の前で目を疑うような出来事が起こった。
祭壇上で黒い靄が集まったかと思うと、いきなり祭壇の上にイエロースコルピが現れたのだ。そして近くにいた私に向かってその尻尾の毒針を伸ばしてきた。
「フィーネ様!」
「え!?」
私は間一髪、クリスさんに背中から抱きしめられる形で横に掻っ攫われ難を逃れる。
「フィーネ殿! 大丈夫でござるか?」
シズクさんが私を心配そうに見つめてくれているが、イエロースコルピはどうなった?
「ん? イエロースコルピでござるか? それならもう」
そう言ってシズクさんが指さしたほうを見ると、いつの間にかイエロースコルピはバラバラになって息絶えていた。
い、いつの間に?
「あ、ええと。クリスさん、シズクさん。ありがとうございました。ルーちゃんもサラさんも怪我はないですか?」
「はいっ! 姉さまこそ無事でよかったです」
「はい。聖女様」
良かった。二人とも無事なようだ。それにハーリドさんも護衛の兵士の皆さんも無事なようだ。
「それにしても、一体何だったんでしょうね?」
「魔物が突然現れましたね」
「姉さま。これ、魔物を召喚する装置なんじゃないですか?」
なるほど。確かにルーちゃんの意見は一理あるかもしれない。黒い靄こそないものの私がリーチェを召喚すると大体あんな感じで出てくる。
「その可能性はあるでござるな。アイロールの時はこのような黒い靄を纏ってはいなかったでござるし、この祭壇が稼働するにはこの黒い靄が必要なのかもしれないでござるな」
「では、なぜアイロールのものは稼働していなかったのだ?」
「それには幾つか可能性が考えられるでござるな。まずはこの祭壇には限界があり、アイロールのものはあれだけの規模の魔物暴走を引き起こすだけの魔物を召喚したため役目を終えていたということが考えられるでござるな」
「なるほど。使い捨てということか」
「もしくは、魔力を注ぎ込んだ分だけ稼働する、という可能性もあるでござるな」
なるほど。さすがシズクさんだ。鋭い。
「あともう一つは、何者かによって破壊された場合でござるな」
そういってシズクさんは私の方をじっと見つめてきた。
うん? 私? 何かしたっけ?
私が首を傾げるとシズクさんは苦笑いを浮かべた。
「フィーネ殿。アイロールの町にアンデッドが押し寄せてきたあの晩、特大の浄化魔法を使ったでござるな」
「あー、そうでしたね。はい。町全体と南西、でしたっけ? そっちの方に中々浄化されない頑固なのがあったので大変でした。って、ん?」
「ああ、やはりそうだったでござるか。では、これを浄化してほしいでござるよ」
「うん? はあ。わかりました。浄化!」
私は黒い靄を纏っている祭壇に浄化魔法をかけるが、かなり頑固だ。
「う、これは……」
中々浄化されない。こんなに小さな祭壇なのに!
私は一度浄化魔法を止めた。
「え? まさかフィーネ様でも浄化できないものがあるとは……」
クリスさんが衝撃を受けている。
「いえ。ちょっとフルパワーでやろうと思いまして」
私は深呼吸をすると集中する。この祭壇の、隅々まで、完全に!
「浄化!」
私の全力の浄化魔法の眩い光が祭壇を包み込む。
その浄化魔法にも祭壇は抵抗しているが、数秒ほど思い切り照射し続けると一気に抵抗が消えて浄化される。
そしてその光が収まると、すっかり黒い靄の消えた祭壇がそこにはあった。
「ふぅ。頑固でしたね」
「フィーネ様。お疲れ様でした」
そして周りを見渡してみると……サラさんが筋肉をぴくぴくさせていて、ハーリドさんと護衛の人たちはビタンとなっている。
そしてそんな皆さんをルーちゃんとシズクさんが呆れた目で見ていたのだった。
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