勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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砂漠の国

第七章第27話 謎の死霊術士

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私たちが西門に到着すると、そこには既にアンデッド達が押し寄せてきていた。私は兵士の皆さんが暗い中懸命に戦っているのを城壁の上から観察する。

どうやら敵は昼間に倒した魔物たちのアンデッドのようだ。やはり、何者かが魔物のアンデッドを作り上げたということだろう。

兵士たちが盾になって守る形で聖職者がアンデッドを浄化しているが、明らかに多勢に無勢だ。

「とりあえず、この辺り一帯を浄化しますね。浄化!」

私は見える範囲のアンデッド達をさくっとまとめて浄化する。

確か昼間のモンスターの群れは 2,000 匹位だったかな?

多分アイロールでやった時の方が数も多かったし範囲も広かったはずなので、この程度ならどうと言うことは無い。

あっさりと魔物のアンデッド達を浄化すると、兵士たちからは歓声が上がった。

だが喜ぶにはまだ早い。今度は砂漠の向こうからゾンビやスケルトン、それにレイスらしき影が見えてきた。

「うーん。向こうからゾンビとスケルトン、それにレイスが来ますね」
「という事は術者はあっちでござるな。行くでござるよ!」
「フィーネ様!」
「はい。クリスさん、よろしくお願いいたします」
「あ、あたしもっ!」

こうして昼間の再現のように私たちは城門から飛び降りると西へと駆け出したのだった。

****

「浄化!」

繰り返し迫りくるアンデッドの群れをまとめて浄化した私たちは、砂漠の向こう側に人影を見つけた。

すっぽりと全身を包み込むようなローブを着ており、そのフードを目深に被ったその格好のせいで表情を読み取ることはできない。だが、雰囲気からしてどうやら焦っている様子なのは見て取れる。

「あいつがそうですかね?」
「そのようですね」
「じゃあ、浄化!」

私はその人影の周囲のアンデッドごとまとめて浄化する。そして私の浄化の光が消えるころ、私たちはその男の前へと辿りついた。

「そこまででござるよ!」
「くっ。貴様らは!」

この声はどうやら男のものようだ。

「ダルハの町を攻撃する邪悪な死霊術士よ! 貴様の邪悪な術は聖女フィーネ・アルジェンタータ様の前には無力だ! 潔く投降しろ!」

クリスさんはそう告げると私を庇う様に前に立った。ルーちゃんも弓を構えており、シズクさんも臨戦態勢だ。

「聖女、フィーネ・アルジェンタータ、だと?」

その男は驚いたような声を上げ、そして不敵に笑い始めた。

「ふ、ふふふふふ。ふははははは。まさか二度も私の計画を邪魔してくれるとはな。はははは」
「二度も? ということはアイロールでの襲撃もお前の仕業でござるか!?」
「その通りだ。ついでに魔物をけしかけてやったのもこの私だ」
「な、何故そんなことを!? 邪悪な死霊術士め! そうまでして死体が欲しいか!」
「なるほど。聖騎士のクリスティーナか。ふ。私がそのような下らん事のために動くはずが無かろう」
「何だと!?」
「全ての元凶は人間なのだ。だからこうして私が間引いてやっているのだよ」
「何っ!」

クリスさんは怒りで今にも斬りかかりそうな勢いだ。

「元凶? それはどういうことですか?」

私がそう聞き返すとその男はニヤリと笑ったようだ。

「やはり聖女は何も知らないのだな。所詮は聖女もただの駒にすぎぬという事か」
「……どういうことですか?」
「その意味が分からないという事はつまりそういう事だ」

ええと? 全くわけが分からないのだけれど?

「どのような事情があるのかは知らんが、死霊術は禁忌だ。それを犯した貴様を神はお許しにならない。そして、アイロールの、そしてダルハの罪なき民を傷つけた貴様をフィーネ様は決してお許しにならないだろう。何者かは知らぬが、ここで討たせてもらう」

クリスさんはそう言って剣を構える。

「勇ましい事だ。ここで殺してやることもできるが、今聖女に消えてもらっては困るのでな。今日のところはこれで失礼させてもらおう」

そして次の瞬間、突然強烈な風が吹きつけてきた。風と共に砂が激しく舞い上がり私たちの視界を瞬く間に黄色く塞ぐ。

「また会おう、聖女よ」

激しい砂嵐の中、あの男のそんな声が遠ざかっていくのを感じる。そして砂嵐が収まった時、私たちの前にあの男の姿は無かった。

「フィーネ様!」
「はい。大丈夫です」

そうクリスさんに答えた私は周囲を確認する。

良かった。シズクさんもルーちゃんも無事だ。

「あいつ、私のことをただの駒って言っていましたね」
「フィーネ様。人は皆、等しく神のしもべではあります。ですが駒などという話は聞いたことがありません」
「意味は分からないでござるが、少なくともあれは人間ではないように見えたでござるよ」
「でも、姉さまに死んで欲しくないって言っていましたよ」
「……死霊術を操る人でない者が聖女であるフィーネ様を必要としている? 一体どういうことだ?」
「うーん?」

私たちはあまりに意味不明な状況に思わず顔を見合わせたのだった。
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