勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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砂漠の国

第七章第24話 シーサーペント

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私達が町に戻ると既にそこはパニック状態に陥っていた。

港の方からは時おり大きな水しぶきが上がっているのがかなり離れているはずのここからも確認できる。水が巨大な水鉄砲を撃ったかのように飛んでいるが、あれが噂に聞くシーサーペントの水のブレスなのだろう。

「フィーネ様。怪我人が!」
「はい。治癒!」

私はクリスさんに運ばれながら倒れている怪我人に片っ端から治癒魔法をかけていく。逃げる時に転んで押しつぶされた人、そして港に近づけば近づくほど瓦礫で怪我をした人が増えていく。

周囲では瓦礫に埋もれた人を助けようとする人達の姿も見受けられる。

そんな彼らを横目に私たちはまっすぐ港を目指して走っていき、そして徐々にシーサーペントの姿が大きくなってきた。

なんと言うか、大きな蛇だ。白と黒の縞模様になっていて、ええと、うん。大きい。どれくらい大きいかというと、ツィンシャの森の中の廃村で私たちが負けそうになったあの蛇と同じか、いや、それよりも大きいくらいかもしれない。

「フィーネ様。シーサーペントはその牙に毒を持っております」
「わかりました」

といっても、あの巨体に噛まれたら毒云々以前に絶対に助からない気がするけれど。

そして私たちは遂に港へと到着した。そんな私たちを目ざとく見つけたシーサーペントは水のブレスを容赦なくぶつけてきた。

だが私は落ち着いて結界を張り、水のブレスを防ぐ。

「ルミア殿! 援護を頼むでござる!」

シズクさんが結界の中にルーちゃんを降ろすと港の岸壁ギリギリから水のブレスを撃っているシーサーペントとの距離を一気に詰める。

それに負けじとクリスさんもその後に続いて飛び出して行く。
「マシロっ!」

ルーちゃんの声に応え、マシロちゃんが風の刃をシーサーペントに向けて放つ。その刃はシーサーペントの鱗を傷つけることはできなかったが、注意をこちらに向けることには成功する。

攻撃された事を認識したシーサーペントは私たちを見ると特大の水のブレスを叩き込んでくる。

「この程度ならこの結界だけで大丈夫そうですね」

私は特に何もせずにそのまま結界で水のブレスを受け止めた。もちろん、中にいる私たちは無傷だ。

「輪切りにしてやるでござるよ」

その隙に接近したシズクさんがキリナギを一閃する。

次の瞬間、まるで金属を斬ったかのような凄まじい音が響き渡る。

「はは。硬いでござるな」

そう言ってシズクさんは素早く離脱し、その次の瞬間シズクさんが先ほどまで立っていた場所をシーサーペントの巨大な牙が襲った。

「はぁっ!」

そうして下げられた頭にクリスさんが攻撃を仕掛けた。ジャンプしてからの体重を乗せた突きがシーサーペントの右目に突き刺さる!

それからクリスさんは剣をぐりっと捻ってから引き抜き、そのまま跳び退った。

目を負傷させたし、それにシズクさんの攻撃が当たった場所からも出血している。

二人のコンビネーションも完璧だし、このまま行けばシーサーペントも倒せるかな?

そう思っていたのだが、シーサーペントはそのまま海に戻ると港の中央くらいから再び鎌首をもたげた。

そしてあろうことか、水のブレスをを滅茶苦茶に乱射し始める!

「え?」
「これは、町の破壊を狙っているでござるか?」
「なんという事を! だがあそこでは手出しが……」
「マシロの風の刃は効かなかったし、多分あたしの矢も多分無理です」

うーん。困った。ここからだと 100 メートルくらいあるし、シズクさんもクリスさんもさすがに海の上を走れるわけじゃないしなぁ。

うん。ここはひとつ。

「結界」

私はシーサーペントの周りに結界を張って動けないようにする。海底からすっぽりとシーサーペントを覆う様に張ったので、とりあえず攻撃も通らないしシーサーペントが外に出てくることもできないはずだ。

「これで被害はでないでしょうから、どうやって倒すかを考えましょう」
「はは。さすがでござるな。このまま移動させることはできないでござるか?」

え? それはどうやるんだろう? できるかな?

動けって念じればいけるかな?

「やってみますね」

動けー、こっちに向かって動けー。

「う、重い……。これはちょっと無理そうです。結界自体は動かせそうですけど、中身を一緒に動かすのは無理ですね」
「そうでござるか」
「フィーネ様。あれを」
「え?」

私の結界の中に閉じ込められたシーサーペントが結界の中で思い切り水のブレスで結界を破壊しようとしている。

もちろん、あの程度のブレスでは私の結界はビクともしない。そのおかげで水が結界の中にどんどん溜まっていっている。

「ええと、シーサーペントって蛇、ですよね?」
「そのはずでござるな」
「ということは……」
「あのまま水没すれば窒息するでござるな」
「ええぇ」
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