上 下
311 / 625
砂漠の国

第七章第24話 シーサーペント

しおりを挟む
私達が町に戻ると既にそこはパニック状態に陥っていた。

港の方からは時おり大きな水しぶきが上がっているのがかなり離れているはずのここからも確認できる。水が巨大な水鉄砲を撃ったかのように飛んでいるが、あれが噂に聞くシーサーペントの水のブレスなのだろう。

「フィーネ様。怪我人が!」
「はい。治癒!」

私はクリスさんに運ばれながら倒れている怪我人に片っ端から治癒魔法をかけていく。逃げる時に転んで押しつぶされた人、そして港に近づけば近づくほど瓦礫で怪我をした人が増えていく。

周囲では瓦礫に埋もれた人を助けようとする人達の姿も見受けられる。

そんな彼らを横目に私たちはまっすぐ港を目指して走っていき、そして徐々にシーサーペントの姿が大きくなってきた。

なんと言うか、大きな蛇だ。白と黒の縞模様になっていて、ええと、うん。大きい。どれくらい大きいかというと、ツィンシャの森の中の廃村で私たちが負けそうになったあの蛇と同じか、いや、それよりも大きいくらいかもしれない。

「フィーネ様。シーサーペントはその牙に毒を持っております」
「わかりました」

といっても、あの巨体に噛まれたら毒云々以前に絶対に助からない気がするけれど。

そして私たちは遂に港へと到着した。そんな私たちを目ざとく見つけたシーサーペントは水のブレスを容赦なくぶつけてきた。

だが私は落ち着いて結界を張り、水のブレスを防ぐ。

「ルミア殿! 援護を頼むでござる!」

シズクさんが結界の中にルーちゃんを降ろすと港の岸壁ギリギリから水のブレスを撃っているシーサーペントとの距離を一気に詰める。

それに負けじとクリスさんもその後に続いて飛び出して行く。
「マシロっ!」

ルーちゃんの声に応え、マシロちゃんが風の刃をシーサーペントに向けて放つ。その刃はシーサーペントの鱗を傷つけることはできなかったが、注意をこちらに向けることには成功する。

攻撃された事を認識したシーサーペントは私たちを見ると特大の水のブレスを叩き込んでくる。

「この程度ならこの結界だけで大丈夫そうですね」

私は特に何もせずにそのまま結界で水のブレスを受け止めた。もちろん、中にいる私たちは無傷だ。

「輪切りにしてやるでござるよ」

その隙に接近したシズクさんがキリナギを一閃する。

次の瞬間、まるで金属を斬ったかのような凄まじい音が響き渡る。

「はは。硬いでござるな」

そう言ってシズクさんは素早く離脱し、その次の瞬間シズクさんが先ほどまで立っていた場所をシーサーペントの巨大な牙が襲った。

「はぁっ!」

そうして下げられた頭にクリスさんが攻撃を仕掛けた。ジャンプしてからの体重を乗せた突きがシーサーペントの右目に突き刺さる!

それからクリスさんは剣をぐりっと捻ってから引き抜き、そのまま跳び退った。

目を負傷させたし、それにシズクさんの攻撃が当たった場所からも出血している。

二人のコンビネーションも完璧だし、このまま行けばシーサーペントも倒せるかな?

そう思っていたのだが、シーサーペントはそのまま海に戻ると港の中央くらいから再び鎌首をもたげた。

そしてあろうことか、水のブレスをを滅茶苦茶に乱射し始める!

「え?」
「これは、町の破壊を狙っているでござるか?」
「なんという事を! だがあそこでは手出しが……」
「マシロの風の刃は効かなかったし、多分あたしの矢も多分無理です」

うーん。困った。ここからだと 100 メートルくらいあるし、シズクさんもクリスさんもさすがに海の上を走れるわけじゃないしなぁ。

うん。ここはひとつ。

「結界」

私はシーサーペントの周りに結界を張って動けないようにする。海底からすっぽりとシーサーペントを覆う様に張ったので、とりあえず攻撃も通らないしシーサーペントが外に出てくることもできないはずだ。

「これで被害はでないでしょうから、どうやって倒すかを考えましょう」
「はは。さすがでござるな。このまま移動させることはできないでござるか?」

え? それはどうやるんだろう? できるかな?

動けって念じればいけるかな?

「やってみますね」

動けー、こっちに向かって動けー。

「う、重い……。これはちょっと無理そうです。結界自体は動かせそうですけど、中身を一緒に動かすのは無理ですね」
「そうでござるか」
「フィーネ様。あれを」
「え?」

私の結界の中に閉じ込められたシーサーペントが結界の中で思い切り水のブレスで結界を破壊しようとしている。

もちろん、あの程度のブレスでは私の結界はビクともしない。そのおかげで水が結界の中にどんどん溜まっていっている。

「ええと、シーサーペントって蛇、ですよね?」
「そのはずでござるな」
「ということは……」
「あのまま水没すれば窒息するでござるな」
「ええぇ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

【完結】薔薇の花をあなたに贈ります

彩華(あやはな)
恋愛
レティシアは階段から落ちた。 目を覚ますと、何かがおかしかった。それは婚約者である殿下を覚えていなかったのだ。 ロベルトは、レティシアとの婚約解消になり、聖女ミランダとの婚約することになる。 たが、それに違和感を抱くようになる。 ロベルト殿下視点がおもになります。 前作を多少引きずってはいますが、今回は暗くはないです!! 11話完結です。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

僕の家族は母様と母様の子供の弟妹達と使い魔達だけだよ?

闇夜の現し人(ヤミヨノウツシビト)
ファンタジー
ー 母さんは、「絶世の美女」と呼ばれるほど美しく、国の中で最も権力の強い貴族と呼ばれる公爵様の寵姫だった。 しかし、それをよく思わない正妻やその親戚たちに毒を盛られてしまった。 幸い発熱だけですんだがお腹に子が出来てしまった以上ここにいては危険だと判断し、仲の良かった侍女数名に「ここを離れる」と言い残し公爵家を後にした。 お母さん大好きっ子な主人公は、毒を盛られるという失態をおかした父親や毒を盛った親戚たちを嫌悪するがお母さんが日々、「家族で暮らしたい」と話していたため、ある出来事をきっかけに一緒に暮らし始めた。 しかし、自分が家族だと認めた者がいれば初めて見た者は跪くと言われる程の華の顔(カンバセ)を綻ばせ笑うが、家族がいなければ心底どうでもいいというような表情をしていて、人形の方がまだ表情があると言われていた。 『無能で無価値の稚拙な愚父共が僕の家族を名乗る資格なんて無いんだよ?』 さぁ、ここに超絶チートを持つ自分が認めた家族以外の生き物全てを嫌う主人公の物語が始まる。 〈念の為〉 稚拙→ちせつ 愚父→ぐふ ⚠︎注意⚠︎ 不定期更新です。作者の妄想をつぎ込んだ作品です。

巻添え召喚されたので、引きこもりスローライフを希望します!

あきづきみなと
ファンタジー
階段から女の子が降ってきた!? 資料を抱えて歩いていた紗江は、階段から飛び下りてきた転校生に巻き込まれて転倒する。気がついたらその彼女と二人、全く知らない場所にいた。 そしてその場にいた人達は、聖女を召喚したのだという。 どちらが『聖女』なのか、と問われる前に転校生の少女が声をあげる。 「私、ガンバる!」 だったら私は帰してもらえない?ダメ? 聖女の扱いを他所に、巻き込まれた紗江が『食』を元に自分の居場所を見つける話。 スローライフまでは到達しなかったよ……。 緩いざまああり。 注意 いわゆる『キラキラネーム』への苦言というか、マイナス感情の描写があります。気にされる方には申し訳ありませんが、作中人物の説明には必要と考えました。

処理中です...