勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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砂漠の国

第七章第22話 襲撃

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私たちがスパイスをたくさん買い込み、その後ドライフルーツ屋さんでドライイチジクとドライデーツ、それから名産品だというピスタチオを買い込み、そして串焼肉を買って頬張っていると、突然護衛の人たちの動きが慌ただしくなった。

「あれ? 何かあったんですかね?」
「近くから殺気は感じませんが……」
「姉さまっ。このドライイチジク美味しいですよっ! はいっ」
「あ、本当ですね。美味しいです」

私はルーちゃんから差し出されたドライイチジクを頬張ると、噛んでいるうちに甘さとほんのわずかな酸っぱさが口に広がる。これはおやつに丁度いいかもしれない。

「フィーネ殿……」

シズクさんがそんな私をジト目で見ている。

ええ? いやだって美味しいもの。

「聖女様、お買い物をお楽しみの最中に申し訳ありませんが、この町に魔物の群れが迫ってきているとの報せが入りました。申し訳ございませんが避難をお願いします」
「え? でも魔物なら私たちも――」
「フィーネ様。我々はサラ様も連れております。ここは一度避難されたほうがよろしいかと思います」
「いえ、私も聖女様程ではありませんが、自分の身は自分で守れる程度には戦えます! どうか聖女様の御心のままになさってください」
「サラさん……では、私たちも城壁に行きましょう。そこからなら治癒魔法は飛ばせるはずです。案内してください!」

私は報告に来た警備の人にお願いをしてみる。

「いえ、しかし……」
「はは。ここは聖女様のやりたいようになさって頂くのが良いでしょう」
「ハーリド殿まで! ああ、もう。仕方ありません。ご案内します。いいですね? 決して城壁の外には出ないで下さいよ?」
「ありがとうございます」

こうして私たちは襲撃があったという町の西側、つまり砂漠の方へと向かったのだった。

****

「うーん。かなりの数ですね」
「そうでござるな。あの規模だと前触れ無しの魔物暴走スタンピードでござるか?」
「それにしては、いろんな種類の魔物が混ざっていませんか?」
「そうでござるな」

私とシズクさんは城壁の上から西に広がる砂漠の向こうを見ている。私の目視では例のイエロースコルピに加えてトカゲっぽいやつとネズミっぽいやつが向かってきていて、それとサボテンが走ってきている。

あ、このサボテンが走ってきているというのは比喩でもなんでもなく、本当に二本の足が生えたサボテンがまるで 100 メートル走の選手のように綺麗なフォームでシャキシャキと走ってきているのだ。

何ともシュールな光景である。

「聖女様。この距離から見えるのですか?」

そんな私にサラさんが驚いた様子で尋ねてきた。

「そうなんです。私、目の良さには自信があるんです」
「は、はぁ。さすがは聖女様です」

うん。私は吸血鬼だからね。

「ハーリドさん、この国の魔物暴走は色々な魔物がまとまって襲って来るんですか?」
「いえ。普通は同系統の上位種が指揮しているのですが……」
「うーん。とすると、アイロールと同じパターンですかね。魔物が増えていたとかはありませんか?」
「そのような話は警備隊からは聞いておりません」

とするとアイロールとも違うパターンか。じゃあ、今度こそ魔族が裏で手を引いているか、それともブラックレインボー帝国が攻めてきたとかもあり得るのかな?

そんなことを考えているうちに、徐々に魔物たちの姿が大きくなってきた。

「ただ、報告によるとイエロースコルピが 700、デザートマウスが 600、ポイズンリザードが 400、しびれカクタスが 300 とのことでございます」

うーん、じゃあ 2,000 匹ほどの大軍なわけか。これはこの町の守備隊だけじゃ辛いんじゃないかな?

この町もそこまで大きいわけじゃないし、町を守る兵士だってそう多くはないだろう。

そう思いながら見ていると、城門が開いて兵士たちが魔物たちの群れに突撃を開始した。

さて、どうなるかな?

さすがに私の護衛というわけでもないんだから自爆戦法はしないと思うけれど。







と、思っていた時期が私にもありました。

ああ、もう!

どうしてあんなにイエロースコルピがいるのに突撃してるんだよ!

盾を構えてはいるものの、その盾に上手くイエロースコルピの尻尾が刺されば儲けもの、そうでないなら体で受け止めるって何考えてるのさ!

「あれはダメですね」
「そうでござるな」
「では行きましょう。フィーネ様」

そう言ってクリスさんが私を横抱きにすると城壁から飛び降りるとシズクさんもルーちゃんを背負って城壁から飛び降りた。

「サラさんはそこにいてください!」
「え? 聖女様!?」
「お待ちください! 聖女様! 前線に出られては!」

サラさんとハーリドさんの呼び止める声が聞こえるが既に私たちは城壁の前に着地している。

「さあ、行きましょう」
「「「はい」」」

こうして私たちは最前線へと向かったのだった。
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