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砂漠の国
第七章第19話 聞き取り調査(後編)
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「私の言いたいことを理解していない以上赦すことはできません。ただ、質問には正直に答えてください」
「はいっ! 答えます! ですからどうかっ!」
何だか脅しているようでちょっと気分が悪いけれど仕方ない。
「ではまず、そのレイアというエルフの女性のお腹には本当に入れ墨のような紋様は無かったのですか?」
「……え? ええと、その……」
「正直に答えてください」
「そ、それは……」
男はなおも口ごもる。
「答えろ。さもなくばお前が聖女様の従者に狼藉を働こうとしたことを町中に公表するぞ」
立ち直った取調官の人が剣を突きつけてその男を脅した。
いや、そこまでしなくても。それに止めなかったあなたも悪いよね?
「ひっ。わ、わかりました。言います。確かにお腹に変な模様のような物はありました。でも私にはそれが何だかまでは……」
なるほど。やっぱり知っていてそういう行為に及んでいたのか。
うん。クズだね。
「では、次の質問です。そのレイアという女性はこの子が成長した姿に見えたという事ですか?」
私はルーちゃんの肩にそっと手を回しながらそう質問する。
「は、はい! その通りです。そちらの金髪の騎士様と同じくらいの背格好で、出るところは出て引っ込むところは引っ込む理想的な体型をしていました。それでテクもすごくて、あっ……」
どうやらこの男は本当にレイアという女性に入れ込んでいたらしい。
「そうですか。分かりました。もう結構です」
私は質問それで打ち切るとそのままルーちゃんを連れて取調室から退室したのだった。
え? この男がどうなるのかって?
知らないよ。だって、私が裁くわけじゃないし。
そもそもあの娼館では他にも隷属の呪印をされた奴隷の女性が働かされていたわけだし、この国ではそういうのは普通のようだから特に重い処罰とかは無いんじゃないのかな?
だからこそ後ろ暗いことは分かっていてもみんな通い詰めてるんだろうし。
正直、奴隷にした女性を無理矢理働かせるなんて許せないし二度と来たくないくらい不愉快な国だけどさ。でも、部外者で吸血鬼の私がごちゃごちゃ口出しするのも違うということなのだ。
はあ、まったく。
****
その後も何人かの取り調べを見せてもらってから私たちはサラさんの待つホテルへと戻ってきた。
彼らの話を総合すると、どうやら緑の髪のレイアというスタイル抜群サービス抜群でルーちゃんの何年後かのような顔のエルフの娼婦がいたこと、そしてその女性はお腹に隷属の呪印を刻まれていたことは確かのようだ。
名前が同じで顔が似ているという点がやはり気にはなるが、年齢的にルーちゃんの妹である可能性はほぼ無いと断定して良さそうだ。
ルーちゃんより年下の女の子がさすがに私より頭一つほど背が高いクリスさんと同じ背丈という事はないだろう。
それにレイアという名前は若いエルフの間ではそう珍しい名前ではないらしい。それに顔が似ているというのもエルフは皆【容姿端麗】のスキルのおかげでものすごい美人ばかりなのだから、そのせいで人間からしてみれば顔の作りが似ているように見えてそういう話になったのではないかと思う。
そして犯人についてだが、それ以上の情報は一切ないため捜査は早くも暗礁に乗り上げてしまった。だって、目撃者がいるどころか騒ぎに気付いた人すらいないまま娼館にいた人達が例外なく全員殺されてしまったんだもの。
あれだけ沢山の人が殺されているので無かったことにはできないとは思うが、このまま行けば恐らく何者かによるエルフの女性の救出作戦だった、ということで落ち着くのではないかと思う。
問題は誰がそれをやったかなのだが、今のまま行けばエルフの関係者だろう、という事になりそうだ。
だって、商売敵の娼館でもここまでやるとは思えないし、権力者がやるにはあまりにもリスクが大きすぎる。
であれば外部の犯行で、エルフの女性一人だけ行方不明になっている以上はその女性を救出するために親族などの関係者の仕業と考える方がまだ自然と言うものだ。
ただ、ルーちゃんの言う通り森のない場所でエルフたちにあんなことができるとは思えない。それにたとえ素早いシズクさんでもあそこまでの芸当は難しいのではないかと思うほどの殺され方をしていたので、恐ろしいほどの手練れが犯人であることは間違いないだろう。
一体どこの誰がこんなことをしたのだろうか?
その謎は深まるばかりだ。
さて。ホテルに戻った私たちはそのまま自室に直行したわけなのだが……。
「ええと、サラさん?」
「あ、聖女様。おかえりなさい」
軽装になったサラさんが片腕で指立て伏せをしている。
いや、うん。いいんだけどさ。
私が何と言葉をかけるか悩んでいると、サラさんが立ち上がって色々なポーズで筋肉見せつけてきた。
室内で筋トレ中ということもあってか腹筋が丸見えの服を来ているので腹筋がぴくぴく、胸筋がぴくぴく、そして力こぶがぴくぴくしている。
うーん。女性なのにこの筋肉はすごいよね。
って、あれ? これってサラさんの国のお祈りのポーズだっけ?
「神の御心のままに」
私がそう言うとサラさんはぱあっと良い笑顔を浮かべたのだった。
================
次回更新は 12/29 19:00 を予定しております。
★★★お願い★★★
新作「ガチャで破滅した男は異世界でもガチャをやめられないようです」の連載を 12/23 より開始しました(※タイトル変更しています。旧題:ガチャに人生全ツッパ)。
ぜひアプリの方は目次に戻って頂き、著者近況からの作品一覧で、ブラウザの方は下のリンクよりどうぞご覧ください。
「はいっ! 答えます! ですからどうかっ!」
何だか脅しているようでちょっと気分が悪いけれど仕方ない。
「ではまず、そのレイアというエルフの女性のお腹には本当に入れ墨のような紋様は無かったのですか?」
「……え? ええと、その……」
「正直に答えてください」
「そ、それは……」
男はなおも口ごもる。
「答えろ。さもなくばお前が聖女様の従者に狼藉を働こうとしたことを町中に公表するぞ」
立ち直った取調官の人が剣を突きつけてその男を脅した。
いや、そこまでしなくても。それに止めなかったあなたも悪いよね?
「ひっ。わ、わかりました。言います。確かにお腹に変な模様のような物はありました。でも私にはそれが何だかまでは……」
なるほど。やっぱり知っていてそういう行為に及んでいたのか。
うん。クズだね。
「では、次の質問です。そのレイアという女性はこの子が成長した姿に見えたという事ですか?」
私はルーちゃんの肩にそっと手を回しながらそう質問する。
「は、はい! その通りです。そちらの金髪の騎士様と同じくらいの背格好で、出るところは出て引っ込むところは引っ込む理想的な体型をしていました。それでテクもすごくて、あっ……」
どうやらこの男は本当にレイアという女性に入れ込んでいたらしい。
「そうですか。分かりました。もう結構です」
私は質問それで打ち切るとそのままルーちゃんを連れて取調室から退室したのだった。
え? この男がどうなるのかって?
知らないよ。だって、私が裁くわけじゃないし。
そもそもあの娼館では他にも隷属の呪印をされた奴隷の女性が働かされていたわけだし、この国ではそういうのは普通のようだから特に重い処罰とかは無いんじゃないのかな?
だからこそ後ろ暗いことは分かっていてもみんな通い詰めてるんだろうし。
正直、奴隷にした女性を無理矢理働かせるなんて許せないし二度と来たくないくらい不愉快な国だけどさ。でも、部外者で吸血鬼の私がごちゃごちゃ口出しするのも違うということなのだ。
はあ、まったく。
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その後も何人かの取り調べを見せてもらってから私たちはサラさんの待つホテルへと戻ってきた。
彼らの話を総合すると、どうやら緑の髪のレイアというスタイル抜群サービス抜群でルーちゃんの何年後かのような顔のエルフの娼婦がいたこと、そしてその女性はお腹に隷属の呪印を刻まれていたことは確かのようだ。
名前が同じで顔が似ているという点がやはり気にはなるが、年齢的にルーちゃんの妹である可能性はほぼ無いと断定して良さそうだ。
ルーちゃんより年下の女の子がさすがに私より頭一つほど背が高いクリスさんと同じ背丈という事はないだろう。
それにレイアという名前は若いエルフの間ではそう珍しい名前ではないらしい。それに顔が似ているというのもエルフは皆【容姿端麗】のスキルのおかげでものすごい美人ばかりなのだから、そのせいで人間からしてみれば顔の作りが似ているように見えてそういう話になったのではないかと思う。
そして犯人についてだが、それ以上の情報は一切ないため捜査は早くも暗礁に乗り上げてしまった。だって、目撃者がいるどころか騒ぎに気付いた人すらいないまま娼館にいた人達が例外なく全員殺されてしまったんだもの。
あれだけ沢山の人が殺されているので無かったことにはできないとは思うが、このまま行けば恐らく何者かによるエルフの女性の救出作戦だった、ということで落ち着くのではないかと思う。
問題は誰がそれをやったかなのだが、今のまま行けばエルフの関係者だろう、という事になりそうだ。
だって、商売敵の娼館でもここまでやるとは思えないし、権力者がやるにはあまりにもリスクが大きすぎる。
であれば外部の犯行で、エルフの女性一人だけ行方不明になっている以上はその女性を救出するために親族などの関係者の仕業と考える方がまだ自然と言うものだ。
ただ、ルーちゃんの言う通り森のない場所でエルフたちにあんなことができるとは思えない。それにたとえ素早いシズクさんでもあそこまでの芸当は難しいのではないかと思うほどの殺され方をしていたので、恐ろしいほどの手練れが犯人であることは間違いないだろう。
一体どこの誰がこんなことをしたのだろうか?
その謎は深まるばかりだ。
さて。ホテルに戻った私たちはそのまま自室に直行したわけなのだが……。
「ええと、サラさん?」
「あ、聖女様。おかえりなさい」
軽装になったサラさんが片腕で指立て伏せをしている。
いや、うん。いいんだけどさ。
私が何と言葉をかけるか悩んでいると、サラさんが立ち上がって色々なポーズで筋肉見せつけてきた。
室内で筋トレ中ということもあってか腹筋が丸見えの服を来ているので腹筋がぴくぴく、胸筋がぴくぴく、そして力こぶがぴくぴくしている。
うーん。女性なのにこの筋肉はすごいよね。
って、あれ? これってサラさんの国のお祈りのポーズだっけ?
「神の御心のままに」
私がそう言うとサラさんはぱあっと良い笑顔を浮かべたのだった。
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