勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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砂漠の国

第七章第6話 占い師サラ

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2020/12/01 誤字を修正しました
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「聖女様、おかげさまで体調もかなり回復しました。ありがとうございます!」

サラさんが笑顔でそう言いながら筋肉を見せつけてくる。

やっぱりこの人はこの筋肉を見せつけてピクピクするのが礼儀だと思っているんだろうか?

「は、はい。それは何よりです」

私は何とか返事をするが、多分今回は顔が引きつっていたんじゃないかと思う。

「そして何より、聖女様の庇護下に置いていただけたことに心より感謝申し上げます」

そうしてまた筋肉をピクピクさせてくる。

「はあ」
「お礼と言っては何ですが、わたし占いが得意なんです。折角ですから未来を占って差し上げます」
「はあ、ありがとうございます?」

この筋肉で占い? もしかして筋肉占いとかあったりするんだろうか?

「それじゃあ、早速聖女様の未来を占わせて頂きますね」

そう言うとサラさんは懐から水晶玉を取り出した。どうやら占い自体は普通らしい。

そして両手をその水晶にかざして目を閉じる。

「……視えます。聖女様、あなたは大いなる定めのもとに生まれています。そしてその内に大いなる光を宿しています……えっ? 宿しています……が……同時に大いなる闇へと育つ小さな闇も宿しています」

占いながら「えっ」とか言うのは不安になるのでやめて欲しい。それに吸血鬼なので闇を抱えているというのはそうなんだろうと思う。でも、光を宿したのはいつだろうね?

「聖女様の周りにはあなたを慕う光がいくつもの光があります。それらはとても小さな光ですが、そのうちの幾つかはやがて大きな光となってあなたと共に歩むでしょう」

それは何のことだろう。クリスさんやルーちゃん、シズクさんにリーチェのことだといいな。

「ですが、同時に巨大な闇があなたを求めています。もし闇にあなたが飲み込まれたならば、大いなる災いとなり世界を飲み込むことでしょう」

闇っていうのは何のことだろうか? 見当もつかないね。

何のことだか分からないけど、私が吸血衝動にのまれたらヤバいことになるのは間違いないだろうからそこだけは注意しよう。

「聖女様、あなたは今後、大いなる試練に直面するでしょう。その時、正しい心を失わずにいることがそれを乗り越える鍵となることでしょう」

そう言ってサラさんは占いを終えた。何やら汗をびっしょりとかいているけれど大丈夫だろうか?

「ええと、ありがとうございます。正しい心、ですね。よく分からないですけど、がんばります」

私がそう答えると、サラさんはニッコリと微笑んで筋肉をピクピクさせた。

ううん、これさえなければ凄くそれっぽい占い師なのになぁ。

「姉さまばっかりずるいです。あたしも占ってほしいです!」

横でずっと見ていたルーちゃんが割り込んでくる。

「ええ、構いませんよ。何を占ってほしいですか?」
「はい! その、ええと、妹の居場所を……」
「ああ、そういう事ですね。分かりました。任せてください」

サラさんはそう言うと再び水晶に両手をかざして目を閉じた。

「……視えます。ルミア様、あなたとあなたの妹様の道はいずれ交わることになります。ですが、それは今ではありません。聖女様の傍らにてお支えすることが近道となることでしょう」

そう言ってサラさんは占いを終えて目を開けた。

「……はい。そうですよね! はいっ!」
「ルーちゃん、良かったですね」
「はいっ! 姉さま! がんばります!」

ルーちゃんもやっぱり不安だったのだろう。でもこうして占いで気持ちが前向きになれるのなら、占いだって良いものだと思う。

「シズクさんにクリスさんもお願いしてみてはどうですか?」
「では拙者もお願いするでござるよ。拙者は強者と手合わせしたいでござるが、イエロープラネットではその機会は訪れるでござるか?」

シズクさんは相変わらずだ。

「任せてください。……視えます。イエロープラネットではそのような相手と戦うことはできないでしょう。ですが、シズク様の歩む道の上には多くの強者との戦いが待っています、このままでは命を落とすことになるでしょう。常に怠らずに鍛錬を続け、自らの秘められし力を存分に引き出すことで新たなる道が開かれるでしょう」
「内に秘められし力、でござるか……そうでござるな。サラ殿、かたじけないでござる」
「いえ、どういたしまして」

ううん、さすが占い師だ。内に秘められし力って、きっとあの時の黒狐のことを言っているんだよね?

よくそんなことをビシバシと言い当てられるものだ。ただ、命を落とすとかいうのは勘弁してほしい。

「クリスさんは?」
「え? いえ、私は特に占ってほしいことなど……」

そう言ってクリスさんが遠慮するが、サラさんは突如厳しい目つきになった。

「クリスティーナ様、大変です。クリスティーナ様には鳥難ちょうなんの相が出ています。どうぞ鳥にはお気を付けください」
「鳥難?」

クリスさんが不思議そうに首を傾げる。

「鳥難って、なんでしょうね?」
「はは、鳥に好かれてたかられるのかも知れないでござるよ」
「うえぇ」

私の質問にシズクさんが答えたが、想像してちょっと気持ち悪くなってしまった。

なんか、前の世界で凄く昔のホラー映画にそんなようなのがあったようななかったような?

****

そして私たちが気分転換するべく船室からデッキに出たところで事件は起きた。

ぺちょ

ん? 今の音は?

「あっ」

クリスさんが悲鳴を上げた。

私が振り返るとクリスさんは頭に手を当て、そして顔の前に持ってきてはわなわなと身を震わせている。

その手には……

「あー、クリスさん汚いですっ! 早く洗ってきてくださいっ!」

鳥のフンがべっちょりとついていたのだった!

ううん。鳥難の相、恐るべし。
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