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動乱の故郷
第六章第56話 反攻作戦
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2020/11/13 誤字を修正しました
================
「やつらはどこまで来ている?」
王様が冷静な口調で伝令の騎士に質問する。
「はっ。今頃ヴァントゥール山脈のガエリビ峠の砦にて交戦中と思われます」
王様はふむ、と顎に手をやり考える仕草をする。
「アラン、ガエリビの砦はどれくらい持ちこたえる?」
「通常であればあのような隘路を進軍されたとしてもそう簡単に落ちるとは考えられませんが……」
王様の質問に第一騎士団長のアランさんに話を振るがアランさんはそう言葉を濁す。そこに第四騎士団長のマチアスさんが答える。
「恐らくですが半日、持ったとして一日でしょう。奴らの戦い方は常軌を逸しております。一切の損耗など気にすることなく攻撃を続けてくるのです」
「ふむ。死なぬゆえ、か」
「はっ。唯一退けたのはクリエッリからの撤退戦でのみです」
「確か、聖騎士ユーグが頭を取ったのだったな」
「はい。一人で突撃し、そして敵は我々への追撃を止めたのです。確認はできておりませんが、おそらくは敵の指揮官を討ったのだと推測しております」
なるほど。そんなことがあったのか。私たちもアイロールではそれに近いことをしているから他人事ではないし、それより何よりシャルが心配でならない。
私はちらりとシャルを見遣るとシャルは私の視線に気付き、そして何を思ったのか小さく頷いた。
「わたくし達も出るべきですわ。フィーネの言う通りにやつらの再生中に浄化魔法が効くならばわたくし達でも戦えるはずですわ」
「なら私たちも!」
「フィーネはいけませんわ。この王都に【聖属性魔法】と【付与】をどちらも高いレベルで使いこなす人間はあなたしかいませんもの。あなたの仕事は騎士たちの剣に浄化魔法を付与することですわ」
「う……」
シャルに言われて私がぐうの音も出ないでいると、王様が議論を終わらせてしまう。
「よし。では決まりだ。第一騎士団はガエリビ峠の砦を目指し出撃せよ」
「はっ!」
「フィーネ嬢はまずはありったけの剣に祝福を与えてくれ」
「はい」
「そしてシャルロット嬢は神殿の司祭たちと共に第一騎士団の補佐に回ってくれ」
「陛下、かしこまりましたわ」
「お任せください」
「第四騎士団はマドゥーラ地方奪還に向けた準備をせよ。残る騎士団は第一騎士団に分析官を派遣し、戦闘の記録に務めよ」
「「「「「ははっ」」」」」
こうして私たちは居残り組となり、シャルは再び戦場へと向かうことになったのだった。
****
「はあ、シャルは大丈夫ですかね?」
「姉さま、それもう今日だけで四回目ですよ?」
そう呟いた私にルーちゃんが少し呆れた感じでそう返してきた。そう言われても心配なことには変わりはないのだから仕方がない。
今日はシャル達が出発してから二日目で、私は今お城の一室で付与のお仕事の真っ最中だ。
椅子に腰かけ、そして目の前のテーブルに置かれた剣に浄化魔法を付与する。すると左側に付与の終わった剣が引っ張られてそのままかごに入れられ、そして右側から新しい剣が私の前に移動してくる。
完全に工場のベルトコンベヤーの前でお刺身にタンポポを乗せる仕事をしている気分だ。
まあ、私はやったことないしそういう仕事があるのかも知らないけどね。
ちなみに剣を私の前に移動させるのがクリスさんの役目で、付与の終わった剣をかごに入れるのがシズクさんの役目だ。そしてある程度たまったらかごを持って行き、新しい剣を運んでくるのがルーちゃんのお役目だ。
三人は同じ作業ばかりしていると飽きるようでたまに役目を交代しているが、私は代わってもらえる人がいないのでずっと同じ作業だ。
「死なない獣と同じであれば問題ないでしょう。我が国の正規の騎士は全員レベル 20 を超えています。倒せるのであれば、帝国兵などに遅れを取ることなどあり得ません」
クリスさんは真面目に答えてくれる。
「そうですね。ユーグさんも無事だと良いんですが……」
「そうでござるな。拙者も一度手合わせしてみたいでござるしな」
シズクさんはこの辺りはブレないよね。事情はあったにせよ元々武者修行の旅をしていたくらいだし、本当に好きなんだろうなぁ。
「姉さま、早く終わらせてご飯食べに行きましょうよぉ」
ダラダラと話ながら作業をしているとルーちゃんから苦情が出る。
「そうだな、ルミア。それにフィーネ様、早く終わらせればそれだけ早くシャルロット様の援軍に行けるようになりますよ」
「たしかに! よし、急いで終わらせましょう」
俄然やる気の出てきた私はペースアップして付与を終わらせよう、そう思った時だった。
大きな鐘の音が城中に鳴り響く。
「なっ? 緊急事態!?」
クリスさんが驚いた様子でそう言う。
「クリス殿、この鐘は何でござるか?」
「敵襲などの緊急事態に鳴らされるものだ」
「敵襲? ということはシャルは?」
私がクリスさんに詰め寄りかけたその時、部屋の扉が開けられて騎士たちが私たちの作業部屋へと飛び込んできた。
「聖女様、皆様、お仕事中失礼いたします。西の森より現れた魔物の一団が王都へと強襲して来ました。危険ですので作業を一時中断し、避難なさってください!」
「え? 私たちも戦いますよ?」
「で、ですが……」
「我々は十分に戦える力を持っている。大体だ、そもそも状況はどうなっているのだ?」
「そ、それは、その……」
「では、指揮官のところへ連れて行ってほしいでござるよ」
「か、かしこまりました」
こうして私たちは作業を一時中断し、指揮官のところへと向かったのだった。
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「やつらはどこまで来ている?」
王様が冷静な口調で伝令の騎士に質問する。
「はっ。今頃ヴァントゥール山脈のガエリビ峠の砦にて交戦中と思われます」
王様はふむ、と顎に手をやり考える仕草をする。
「アラン、ガエリビの砦はどれくらい持ちこたえる?」
「通常であればあのような隘路を進軍されたとしてもそう簡単に落ちるとは考えられませんが……」
王様の質問に第一騎士団長のアランさんに話を振るがアランさんはそう言葉を濁す。そこに第四騎士団長のマチアスさんが答える。
「恐らくですが半日、持ったとして一日でしょう。奴らの戦い方は常軌を逸しております。一切の損耗など気にすることなく攻撃を続けてくるのです」
「ふむ。死なぬゆえ、か」
「はっ。唯一退けたのはクリエッリからの撤退戦でのみです」
「確か、聖騎士ユーグが頭を取ったのだったな」
「はい。一人で突撃し、そして敵は我々への追撃を止めたのです。確認はできておりませんが、おそらくは敵の指揮官を討ったのだと推測しております」
なるほど。そんなことがあったのか。私たちもアイロールではそれに近いことをしているから他人事ではないし、それより何よりシャルが心配でならない。
私はちらりとシャルを見遣るとシャルは私の視線に気付き、そして何を思ったのか小さく頷いた。
「わたくし達も出るべきですわ。フィーネの言う通りにやつらの再生中に浄化魔法が効くならばわたくし達でも戦えるはずですわ」
「なら私たちも!」
「フィーネはいけませんわ。この王都に【聖属性魔法】と【付与】をどちらも高いレベルで使いこなす人間はあなたしかいませんもの。あなたの仕事は騎士たちの剣に浄化魔法を付与することですわ」
「う……」
シャルに言われて私がぐうの音も出ないでいると、王様が議論を終わらせてしまう。
「よし。では決まりだ。第一騎士団はガエリビ峠の砦を目指し出撃せよ」
「はっ!」
「フィーネ嬢はまずはありったけの剣に祝福を与えてくれ」
「はい」
「そしてシャルロット嬢は神殿の司祭たちと共に第一騎士団の補佐に回ってくれ」
「陛下、かしこまりましたわ」
「お任せください」
「第四騎士団はマドゥーラ地方奪還に向けた準備をせよ。残る騎士団は第一騎士団に分析官を派遣し、戦闘の記録に務めよ」
「「「「「ははっ」」」」」
こうして私たちは居残り組となり、シャルは再び戦場へと向かうことになったのだった。
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「はあ、シャルは大丈夫ですかね?」
「姉さま、それもう今日だけで四回目ですよ?」
そう呟いた私にルーちゃんが少し呆れた感じでそう返してきた。そう言われても心配なことには変わりはないのだから仕方がない。
今日はシャル達が出発してから二日目で、私は今お城の一室で付与のお仕事の真っ最中だ。
椅子に腰かけ、そして目の前のテーブルに置かれた剣に浄化魔法を付与する。すると左側に付与の終わった剣が引っ張られてそのままかごに入れられ、そして右側から新しい剣が私の前に移動してくる。
完全に工場のベルトコンベヤーの前でお刺身にタンポポを乗せる仕事をしている気分だ。
まあ、私はやったことないしそういう仕事があるのかも知らないけどね。
ちなみに剣を私の前に移動させるのがクリスさんの役目で、付与の終わった剣をかごに入れるのがシズクさんの役目だ。そしてある程度たまったらかごを持って行き、新しい剣を運んでくるのがルーちゃんのお役目だ。
三人は同じ作業ばかりしていると飽きるようでたまに役目を交代しているが、私は代わってもらえる人がいないのでずっと同じ作業だ。
「死なない獣と同じであれば問題ないでしょう。我が国の正規の騎士は全員レベル 20 を超えています。倒せるのであれば、帝国兵などに遅れを取ることなどあり得ません」
クリスさんは真面目に答えてくれる。
「そうですね。ユーグさんも無事だと良いんですが……」
「そうでござるな。拙者も一度手合わせしてみたいでござるしな」
シズクさんはこの辺りはブレないよね。事情はあったにせよ元々武者修行の旅をしていたくらいだし、本当に好きなんだろうなぁ。
「姉さま、早く終わらせてご飯食べに行きましょうよぉ」
ダラダラと話ながら作業をしているとルーちゃんから苦情が出る。
「そうだな、ルミア。それにフィーネ様、早く終わらせればそれだけ早くシャルロット様の援軍に行けるようになりますよ」
「たしかに! よし、急いで終わらせましょう」
俄然やる気の出てきた私はペースアップして付与を終わらせよう、そう思った時だった。
大きな鐘の音が城中に鳴り響く。
「なっ? 緊急事態!?」
クリスさんが驚いた様子でそう言う。
「クリス殿、この鐘は何でござるか?」
「敵襲などの緊急事態に鳴らされるものだ」
「敵襲? ということはシャルは?」
私がクリスさんに詰め寄りかけたその時、部屋の扉が開けられて騎士たちが私たちの作業部屋へと飛び込んできた。
「聖女様、皆様、お仕事中失礼いたします。西の森より現れた魔物の一団が王都へと強襲して来ました。危険ですので作業を一時中断し、避難なさってください!」
「え? 私たちも戦いますよ?」
「で、ですが……」
「我々は十分に戦える力を持っている。大体だ、そもそも状況はどうなっているのだ?」
「そ、それは、その……」
「では、指揮官のところへ連れて行ってほしいでござるよ」
「か、かしこまりました」
こうして私たちは作業を一時中断し、指揮官のところへと向かったのだった。
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