274 / 625
動乱の故郷
第六章第47話 エビルトレントの恐怖(後編)
しおりを挟む
「フィーネ様を放せぇぇぇぇ!」
クリスさんが猛スピードで私のほうへと走ってくるのが見える。私は逆さになりながらも状況を確認してみる。
私の左足に木の枝がまるで蔓のように巻きついており、その蔓が私を吊り上げたようだ。
なるほど。発芽していなかった種が残っていたか、もしくは燃え尽きなかったトレントがいたのか。その辺りはよく分からないが、ともかく生き残ったトレントがまだいたようだ。
「ううん。結界を解くのが早かったですね」
【霧化】を使えば抜け出せるのだが、スキルレベルが低いせいで一度使うとしばらく使えないのが玉に瑕だ。
よし、ここはクリスさんに助けてもらうことにしよう。
私がクリスさんのほうをちらりと見遣る。突進してくるクリスさんを捕まえようと木の枝が襲い、クリスさんはそれをことごとく切り飛ばして進んでくる。
そしてわたしを拘束していたトレントの幹を切り倒し、そして巻きついていた木の枝を斬り飛ばして私を救出してくれる。
「ありがとうございます。助かりました」
私はクリスさんにお姫様抱っこをされ、その腕の中でお礼を言う。
「いえ。そんなことより、エビルトレントの姿がありません」
「え?」
私はその言葉に驚き周囲を見渡した。
確かに、他のトレントはいるがあれほど目立っていた巨大なエビルトレントの姿がない。
「一体どこへ?」
私の周りにはクリスさん、すぐ近くにルーちゃんとマシロちゃん、そして少し離れた場所にシズクさんが瞑想をするかのように目を閉じて座っている。
私は地面に降りると、私を拘束したトレントに火をつけて燃やした。
ゴゴゴゴゴゴゴ
すると突然何か地鳴りのような音がしたかと思うと地面が大きく揺れ私はバランスを崩して地面に手をついた。
「地震!?」
「くっ」
「な、何なんですかっ!? これ?」
私たちはとっさに地面に手をついて周りを見渡す。そして次の瞬間、シズクさんの真下から突如巨大なエビルトレントが姿を現した。
「シズクさん、下!」
「なっ!?」
私が叫び声に反応したシズクさんが慌てて飛び退ろうとするが、座って瞑想していたことが災いして動き出しが遅れ、なんとシズクさんはエビルトレントに捕まってしまった!
「シズクさん! シズクさん!」
「くっ、あああああ」
シズクさんの首にエビルトレントの太い枝が巻き付き、そしてその体にもぐるぐると巻きついていく。シズクさんの手からキリナギが零れ落ち、乾いた音を立てて地面に転がった。
「シズク殿!」
クリスさんが救出しようと走り出した。するとエビルトレントは私たちに見えるようにシズクさんを掲げ、そしてその首を絞める。
「ぐあぁ、かはっ」
シズクさんは苦しそうなうめき声を上げる。
こいつ! 木のくせに人質なんて!
「くっ、シズク殿……」
クリスさんは急ブレーキをかけて停止する。
「地下は……予想外でしたね」
私は悔しさと自分の見通しの甘さに唇を噛む。前回でトレントは一筋縄では倒せないと分かっていたのだから、せめて火属性魔術師を一人借りてくれば良かったのだ。
「フィーネ様!」
「姉さま、シズクさんがっ!」
エビルトレントは首を絞められて意識を失ったシズクさんをその太い幹に近づけると、徐々にその体を取り込んでいく。
「あ、あ、シズクさん! ど、どうにかしないと!」
でも、どうやって?
「く、ルミア! 援護しろ!」
クリスさんがエビルトレントへ向かって駆け出す。
「マシロ!」
ルーちゃんの指示でマシロちゃんが風の刃をエビルトレントの少し上のほうへと撃ち込む。シズクさんに当たらないようにだろう。
しかし、エビルトレントはその風の刃に当たるようにシズクさんの体を移動させた。
ブシュ
シズクさんの太腿に命中した風の刃はぱっくりと切り裂き、そして大量の血が流れ出る。
「あ、あ、あ、マシロ、ストップ、ストップ!」
ルーちゃんが慌ててマシロちゃんを止める。
エビルトレントは次に迫っていたクリスさんが切り付けようとしたちょうどその場所にシズクさんを移動させる。
「なっ! ぐっ!」
慌ててクリスさんは止まり、何とか剣を止める。
「クリスさん、危ない!」
私は叫ぶが遅かった。クリスさんの足にはエビルトレントの枝が絡みつきそのまま逆さ吊りにされてしまう。
そしてそのままぐるぐると枝が巻き付くとクリスさんの体を締めつけていく。
「ぐああああ」
クリスさんの絶叫が響き、そしてその手から聖剣が零れ落ちた。
「ね、姉さまっ。あのままじゃクリスさんとシズクさんがっ」
ルーちゃんが涙声で私に訴えてきている。
「こうなったら、火をつけてやります!」
私は覚悟を決めるとエビルトレントに向かって駆け出す。私が丸腰なのが分かっているようで、エビルトレントは私を捕らえようと枝を伸ばしてくる。
「防壁!」
私はその枝を防壁で防ぐと一気にエビルトレントの近くに駆け寄る。
「そこに防壁!」
クリスさんも取り込もうと幹に近づけていたその動きを邪魔するように防壁を作り出すと私は地面に転がり、そしてシズクさんの落としたキリナギを拾う。
「姉さま! 上!」
ルーちゃんの声に反応して私はとっさに防壁を上に展開する。
ガガガガガガガガガ
枝が全て弾かれるが、クリスさんを守っていた防壁は消滅してしまう。
「ああ、もう! キリナギ! あなたの主人がピンチです! 助けなさい!」
私は半ば八つ当たり気味にそう叫ぶと思い切りエビルトレントにキリナギを突き刺した。
ブシュ
木に突き刺した感触とそして柔らかいものに突き刺した感覚がある。そしてその場所から血が流れ出てきた。
こいつ! 木の中でも取り込んだ獲物の場所を移動できるのか!
「ああ、もう! やけくそで浄化!」
キリナギを媒介にして思い切りエビルトレントの体内に、そしてきっとキリナギが刺さっているであろうシズクさんに浄化魔法を叩き込む。
シズクさんには浄化魔法は何の効果もないはずだ。
それによく分からないがなんとなく手応えはある。手応えはあるのだが、ものすごく頑固だ。
「く、ううう。浄化、されろっ!」
フルパワーで浄化を叩き込み続け、そしてあっさり私の MP は枯渇した。
「姉さまっ!」
ルーちゃんの悲痛な声が聞こえる。
浄化の光が消え、そして目の前には何事もなかったかのように佇むエビルトレントの姿があった。
クリスさんが猛スピードで私のほうへと走ってくるのが見える。私は逆さになりながらも状況を確認してみる。
私の左足に木の枝がまるで蔓のように巻きついており、その蔓が私を吊り上げたようだ。
なるほど。発芽していなかった種が残っていたか、もしくは燃え尽きなかったトレントがいたのか。その辺りはよく分からないが、ともかく生き残ったトレントがまだいたようだ。
「ううん。結界を解くのが早かったですね」
【霧化】を使えば抜け出せるのだが、スキルレベルが低いせいで一度使うとしばらく使えないのが玉に瑕だ。
よし、ここはクリスさんに助けてもらうことにしよう。
私がクリスさんのほうをちらりと見遣る。突進してくるクリスさんを捕まえようと木の枝が襲い、クリスさんはそれをことごとく切り飛ばして進んでくる。
そしてわたしを拘束していたトレントの幹を切り倒し、そして巻きついていた木の枝を斬り飛ばして私を救出してくれる。
「ありがとうございます。助かりました」
私はクリスさんにお姫様抱っこをされ、その腕の中でお礼を言う。
「いえ。そんなことより、エビルトレントの姿がありません」
「え?」
私はその言葉に驚き周囲を見渡した。
確かに、他のトレントはいるがあれほど目立っていた巨大なエビルトレントの姿がない。
「一体どこへ?」
私の周りにはクリスさん、すぐ近くにルーちゃんとマシロちゃん、そして少し離れた場所にシズクさんが瞑想をするかのように目を閉じて座っている。
私は地面に降りると、私を拘束したトレントに火をつけて燃やした。
ゴゴゴゴゴゴゴ
すると突然何か地鳴りのような音がしたかと思うと地面が大きく揺れ私はバランスを崩して地面に手をついた。
「地震!?」
「くっ」
「な、何なんですかっ!? これ?」
私たちはとっさに地面に手をついて周りを見渡す。そして次の瞬間、シズクさんの真下から突如巨大なエビルトレントが姿を現した。
「シズクさん、下!」
「なっ!?」
私が叫び声に反応したシズクさんが慌てて飛び退ろうとするが、座って瞑想していたことが災いして動き出しが遅れ、なんとシズクさんはエビルトレントに捕まってしまった!
「シズクさん! シズクさん!」
「くっ、あああああ」
シズクさんの首にエビルトレントの太い枝が巻き付き、そしてその体にもぐるぐると巻きついていく。シズクさんの手からキリナギが零れ落ち、乾いた音を立てて地面に転がった。
「シズク殿!」
クリスさんが救出しようと走り出した。するとエビルトレントは私たちに見えるようにシズクさんを掲げ、そしてその首を絞める。
「ぐあぁ、かはっ」
シズクさんは苦しそうなうめき声を上げる。
こいつ! 木のくせに人質なんて!
「くっ、シズク殿……」
クリスさんは急ブレーキをかけて停止する。
「地下は……予想外でしたね」
私は悔しさと自分の見通しの甘さに唇を噛む。前回でトレントは一筋縄では倒せないと分かっていたのだから、せめて火属性魔術師を一人借りてくれば良かったのだ。
「フィーネ様!」
「姉さま、シズクさんがっ!」
エビルトレントは首を絞められて意識を失ったシズクさんをその太い幹に近づけると、徐々にその体を取り込んでいく。
「あ、あ、シズクさん! ど、どうにかしないと!」
でも、どうやって?
「く、ルミア! 援護しろ!」
クリスさんがエビルトレントへ向かって駆け出す。
「マシロ!」
ルーちゃんの指示でマシロちゃんが風の刃をエビルトレントの少し上のほうへと撃ち込む。シズクさんに当たらないようにだろう。
しかし、エビルトレントはその風の刃に当たるようにシズクさんの体を移動させた。
ブシュ
シズクさんの太腿に命中した風の刃はぱっくりと切り裂き、そして大量の血が流れ出る。
「あ、あ、あ、マシロ、ストップ、ストップ!」
ルーちゃんが慌ててマシロちゃんを止める。
エビルトレントは次に迫っていたクリスさんが切り付けようとしたちょうどその場所にシズクさんを移動させる。
「なっ! ぐっ!」
慌ててクリスさんは止まり、何とか剣を止める。
「クリスさん、危ない!」
私は叫ぶが遅かった。クリスさんの足にはエビルトレントの枝が絡みつきそのまま逆さ吊りにされてしまう。
そしてそのままぐるぐると枝が巻き付くとクリスさんの体を締めつけていく。
「ぐああああ」
クリスさんの絶叫が響き、そしてその手から聖剣が零れ落ちた。
「ね、姉さまっ。あのままじゃクリスさんとシズクさんがっ」
ルーちゃんが涙声で私に訴えてきている。
「こうなったら、火をつけてやります!」
私は覚悟を決めるとエビルトレントに向かって駆け出す。私が丸腰なのが分かっているようで、エビルトレントは私を捕らえようと枝を伸ばしてくる。
「防壁!」
私はその枝を防壁で防ぐと一気にエビルトレントの近くに駆け寄る。
「そこに防壁!」
クリスさんも取り込もうと幹に近づけていたその動きを邪魔するように防壁を作り出すと私は地面に転がり、そしてシズクさんの落としたキリナギを拾う。
「姉さま! 上!」
ルーちゃんの声に反応して私はとっさに防壁を上に展開する。
ガガガガガガガガガ
枝が全て弾かれるが、クリスさんを守っていた防壁は消滅してしまう。
「ああ、もう! キリナギ! あなたの主人がピンチです! 助けなさい!」
私は半ば八つ当たり気味にそう叫ぶと思い切りエビルトレントにキリナギを突き刺した。
ブシュ
木に突き刺した感触とそして柔らかいものに突き刺した感覚がある。そしてその場所から血が流れ出てきた。
こいつ! 木の中でも取り込んだ獲物の場所を移動できるのか!
「ああ、もう! やけくそで浄化!」
キリナギを媒介にして思い切りエビルトレントの体内に、そしてきっとキリナギが刺さっているであろうシズクさんに浄化魔法を叩き込む。
シズクさんには浄化魔法は何の効果もないはずだ。
それによく分からないがなんとなく手応えはある。手応えはあるのだが、ものすごく頑固だ。
「く、ううう。浄化、されろっ!」
フルパワーで浄化を叩き込み続け、そしてあっさり私の MP は枯渇した。
「姉さまっ!」
ルーちゃんの悲痛な声が聞こえる。
浄化の光が消え、そして目の前には何事もなかったかのように佇むエビルトレントの姿があった。
0
お気に入りに追加
436
あなたにおすすめの小説

強制力がなくなった世界に残されたものは
りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った
令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達
世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか
その世界を狂わせたものは

[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【一話完結】断罪が予定されている卒業パーティーに欠席したら、みんな死んでしまいました
ツカノ
ファンタジー
とある国の王太子が、卒業パーティーの日に最愛のスワロー・アーチェリー男爵令嬢を虐げた婚約者のロビン・クック公爵令嬢を断罪し婚約破棄をしようとしたが、何故か公爵令嬢は現れない。これでは断罪どころか婚約破棄ができないと王太子が焦り始めた時、招かれざる客が現れる。そして、招かれざる客の登場により、彼らの運命は転がる石のように急転直下し、恐怖が始まったのだった。さて彼らの運命は、如何。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。


「魔道具の燃料でしかない」と言われた聖女が追い出されたので、結界は消えます
七辻ゆゆ
ファンタジー
聖女ミュゼの仕事は魔道具に力を注ぐだけだ。そうして国を覆う大結界が発動している。
「ルーチェは魔道具に力を注げる上、癒やしの力まで持っている、まさに聖女だ。燃料でしかない平民のおまえとは比べようもない」
そう言われて、ミュゼは城を追い出された。
しかし城から出たことのなかったミュゼが外の世界に恐怖した結果、自力で結界を張れるようになっていた。
そしてミュゼが力を注がなくなった大結界は力を失い……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる