勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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動乱の故郷

第六章第44話 突撃

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「クリスさん、シズクさん、ルーちゃん。私たちだけで突っ込みましょう」
「なっ!? 聖女様っ!」
「了解です」「やはりそうでござるな」「はいっ」

戦い始めて数十分が経過したところで、私はそう提案した。ラザレ隊長は驚きの声を上げたが、三人は同じことを考えていたのかすんなりと了承してくれた。

というのも、私たちと騎士団の皆さんとでは実力が違いすぎて、こう言っては申し訳ないが騎士団の皆さんは足手まといなのだ。

私たちが彼らと一緒に戦っていると常にフォローに追われてしまい、チィーティェンでゴブリンの王(自称)と戦った時のように伸び伸びと三人を戦わせてあげることができないのだ。

それに、私たちと騎士団の皆さんとでは戦い方も違いすぎる。騎士団の皆さんはしっかり密集して陣形を組んで戦っているが、私たちはそうではない。

もちろん騎士団の皆さんだって弱いわけではないし、どうやらオーガやゴブリンロードといった魔物でなければ問題なく倒せるレベルの騎士たちが揃っている。そんな彼らがきっちりと陣形を組んで戦っているため、ほとんど被害は出ていない。

しかしその分制圧力には欠けており、これは良くも悪くも戦争で負けないための戦い方なのだろう。

それに対して私たちの戦い方は少ない人数で多数の敵を倒すための特殊な戦い方だ。私が中心で結界を張り、その中からルーちゃんの遠隔攻撃で敵を崩し、そこにクリスさんとシズクさんという二人の前衛が切り込んで倒す。これが私たちの戦い方で、それぞれの個性を最大限に活かすやり方だと思っている。

だが、そんな私たちがこのような騎士団の戦い方の中に組み込まれると途端にその力を十分に発揮できなくなってしまうのだ。

「聖女様がただけで突出するなどっ!」
「ラザレ殿、申し訳ないが貴殿たちは足手まといでござる。前線に出て大半を潰してくる故、この場は任せるでござるよ」
「なっ!?」

私が言う前にシズクさんが言いたいことを全て言ってくれた。

「行きます! ルーちゃん!」
「はいっ。マシロ!」

マシロちゃんが風の刃を飛ばして道を切り開き、そこをクリスさんとシズクさんを前に押し出して全員で駆け抜けていく。

「せ、聖女様っ! お待ちください!」

後ろからラザレ隊長の声が聞こえてくるが、私は防壁を作り出して彼らが後を追ってこられないように足止めする。そのため、切り開いた道はすぐに魔物たちによって埋められその姿を消した。

「ええい、聖女様をお助けするんだ!」

魔物たちのうめき声に紛れて遠くの方でラザレ隊長の声が聞こえるが、正直やめて欲しい。

あれだけはっきりシズクさんが足手まといと言ってくれたのに。

とは言え、そろそろ 100 メートルくらいは離れただろう。そろそろだろう。

「「フィーネ様(殿)そろそろ――」」

クリスさんとシズクさんの声が完全に被って見事にハモった。

「結界」

私は魔物を引きつけて戦うためのベースとして結界を張る。ここからはいつもの作戦だ。

「マシロ!」

ルーちゃんとマシロちゃんが矢と風の刃で敵を攻撃し、クリスさんとシズクさんが近づいてきた敵を、そして遠隔攻撃では倒し切れない敵を斬り捨てていく。

私のやることは基本的に結界の維持だ。そこに防壁や目くらましによる二人のサポート、そしてルーちゃんの誤射フレンドリーファイア対策が加わる。

「はは、これで思う存分動けるでござるよ!」

シズクさんは昨日と今日の戦いで、いや森狩りをした時もそうだったのかもしれないが随分とストレスが溜まっていたようでいつもに増してキレがあるように見える。というか、キレがありすぎて私では何をやっているのか分からない。しかし、確実にあっという間に魔物の数を減らしている。

対するクリスさんも伸び伸びと魔物を倒している。そして瞬く間に周囲の数十メートルにいた魔物たちは全て動かぬ死体へと変わったのだった。

「フィーネ様、片付きました」
「お疲れ様です。それじゃ奥に、っと、そうでした。浄化」

私は魔物死体を浄化する。

「フィーネ様?」
「昨日の夜、魔物がゾンビになって出たそうじゃないですか。なので念のため浄化しておこうかと思いまして」
「なるほど。流石フィーネ様です」
「さあ、行くでござるよ」

シズクさんがウキウキな様子でそう言ってくる。

「はい。思いっきり暴れてください」
「任せるでござるよ! 拙者はフィーネ殿の剣でござるからな。敵は全て斬ってやるでござるよ」
「ふふ。期待していますよ」

こうして私たちは森の奥へ奥へと魔物を殲滅しながら進んでいくのであった。

****

一方、残されたラザレ隊長ははっきりと分かるほどの焦りの色を浮かべている。

万が一にもフィーネを失うようなことがあれば自身の立場はおろか実家であるマンテーニ家が他の貴族たちからどんな難癖をつけられるか分かったものではない。

誰にも手を付けられていないハイエルフの血筋の聖女だ。国中の貴族や有力者が狙いを定めている。

それにそもそも、魔物暴走スタンピードのど真ん中に少人数で自分から突撃していく聖女など前代未聞である。

ラザレ隊長は苛立った様子でアロイスに命令をする。

「ええい、アロイス! 聖女様を救出するのだ。何かあってからでは遅いのだ!」

ここまで冷静に指揮を取っていたラザレ隊長であったが、事ここに至って冷静な判断ができなくなっている様子だ。

「ラザレ隊長、落ち着いてください。あれほど突出してしまってはもはや不可能です。ここで私の小隊を動かせばここを抜かれて魔物どもがアイロールの町に向かってしまいます」

アロイスは冷静にラザレ隊長を宥めている。

「ええい。だからと言って聖女様を見殺しになどできるか! そもそも、治癒をお願いするためにおいでいただいたのだ。それが何故突撃しているのだ!」

ラザレ隊長は顔を真っ赤にしてアロイスに詰め寄る。

「は。我々騎士団の実力が足りないためであります。はっきりと申し上げますと、我々アイロールの騎士は全員でかかったとしてもシズク・ミエシロ殿お一人に敗れるでしょう。それほどの実力差がございます」
「なっ」

アロイスの冷静な指摘にラザレ隊長は先ほどシズクに言われた言葉を思い出して絶句する。

「聖女様のパーティーとご一緒させていただきましたが、その実力差は明らかです。クリスティーナ殿はわが国でも屈指の実力を持つ騎士です。そこに恐ろしいほどのスピードと剣の冴えで敵を切り裂くシズク殿、そして世界一強力で自在な結界と治癒魔法を操る聖女様、そして精霊を使役し自在に風を操るエルフのルミア殿。そんな四人がそれぞれの役割を把握してチームとして動いているのです」

ラザレ隊長も徐々に冷静さを取り戻し、今は静かにアロイスの言葉に耳を傾けている。

「ですので、聖女様がただけで森の中で大半の魔物を片づけるおつもりなのでしょう。その証拠に、あちらをご覧ください」

そう言ってアロイスは森の奥を指差す。その示す先ではたまに白い光がチカり、チカリと瞬く。

「あの光は恐らく聖女様が倒した後の魔物を浄化してらっしゃるのでしょう。昨晩の魔物のアンデッド化は聖女様のお耳にも入っていることでしょうし、その予防だと思われます」
「ぐ、う、うむ。そうだな。アロイスの言う通りだ。ここは聖女様がたを信じることにしよう」

こうしてラザレ隊長はフィーネの救出命令を撤回し、当初の作戦通りに魔物たちを押し込むことにしたのだった。
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