上 下
248 / 625
動乱の故郷

第六章第21話 友情の証

しおりを挟む
2021/12/12 誤字を修正しました
================

「ふふ、久しぶりですね? こうして王都のメインストリートを二人でゆっくり歩くのは」
「そうですわね。まったく、わたくしも待ちわびましたわ。せっかく薬師修行が終わったかと思ったらすぐに旅立ってしまうんですもの。今日はしっかり責任を取ってもらいますわよ?」

何の責任なのかはよく分からないが、とりあえず楽しみにしてくれていたようだ。私はシャルに笑顔で答える。

「はい。今日は一日ゆっくり楽しみましょう」

王立薔薇園を後にした私たちはランチを頂いたあとそのままメインストリートを二人で並んで散歩している。トラブルを避けるために騎士や衛兵の皆さんが私たちに他人が近づかないように警備してくれているが、遠巻きに眺めている群衆の声は私にも届いてくる。

「おお、お二人の聖女様が並んで歩かれるとは……」
「金と銀、なんと神々しい」
「ありがたやありがたや」

まあ、宗教的にはそうなるのかな?

「きゃあ、ユーグ様、カッコイイ」
「イケメンって素敵だわ」

うん、イケメンは爆発すべし。

「クリスティーナ様も凛々しくて素敵よね」
「ホント、お姉さまって呼びたいわぁ~」

あれ? クリスさんも意外と女性人気があるらしい。

「お、俺はシャルロット様が……、ああ、踏まれたい、罵ってほしい」

リエラさん、一名様ご案内です。

「ぼ、ぼ、ぼくはつ、つ、つるぺた聖じ――」

やかましいわ! どうして行く先々でそんな事言われなきゃいけないんだ!

「フィーネ、どうしたんですの?」

一人で憤っていた私の様子を心配してかシャルが心配そうに私を覗き込む。

「あ、いえ、ちょっと群衆の会話を聞いてしまって……」
「あら、そんなものは気にする必要はありませんわ。わたくし達のように持つ者は常に何か言われる宿命ですもの。気にするだけ時間の無駄ですわ」
「は、はぁ」

こうやって割り切れるあたりが貴族令嬢なんだろうな。私には無理な気がする。

「ねぇ、フィーネ。ちょっとあのお店でアクセサリーでも見ていきませんこと?」

そう言ったシャルは私の返答を待たずにお店へと吸い込まれていく。私は慌ててその後を追った。

「いらっしゃいませ」

ビシッとスーツを着こなしたナイスミドルなおじさまが私たちを出迎えてくれる。

「シャルロット様、本日はどのようなものをお探しでしょうか?」
「今日はわたくしの大切な友人であるフィーネとのデートですの。記念になるようなものがあると良いのですけれど」
「左様でございますか。フィーネ・アルジェンタータ様、本日はご来店いただき誠にありがとうございます。お二人の記念との事ですが、何かご希望などございますか?」
「え? え? ええと、そうですね……」

ううん、どうしよう。何も思いつかない。

「少し見て回ってもいいでしょうか?」
「はい。どうぞ心行くまでご覧ください」

そう言って難を逃れた私だが、キラキラと輝くいかにも高そうな宝飾品を前に気後れしてしまう。

「そうですわね。フィーネはどういったものが好みですの? こういう感じ? それともこういう感じのはどうですの?」

シャルが指さすのはものすごく煌びやかなネックレスや耳飾り、そして髪飾りだ。

「あ、いえ、その、そんなにすごいものじゃなくて……」
「そうですの? その髪もきちんと結って整えれば今よりももっと素敵になりますわよ?」
「わ、私は、そんな、ええと」
「わかりましたわ。もう少しシンプルなものが良いんですのね? じゃあ、このピアスはどうですの?」
「あ、ええと、私はピアスは……その……」
「まあ、まだ穴を空けていなかったんですのね。じゃあ、イヤーカフ、いえ、ブレスレットも良いかもしれませんわね」

シャルは勝手知ったる様子で店内を歩き私はそれについていく。そしてあれやこれやと試してみた結果、私たちの友情の証としてピアスの穴が無くてもつけられるタイプのシンプルで小さなイヤリングを購入することになった。石の大きさも控えめで、ちょうどシャルの耳たぶの大きさの半分くらいなのでそれほど主張が強くなくさり気ない感じが中々にオシャレだ。

私の物はシャルの髪と瞳の色であるゴールドの素材にエメラルドが、シャルは私の色である白銀――ただし素材はプラチナだ――とルビーというお互いの色を購入することとなった。しかし私が自分の分を支払おうとしたところ、

「ここはガティルエ公爵家の娘であるわたくしがお支払いいたしますわ。それで、そういうことで」

と、言われてしまった。

「承知いたしました。いつもお買い上げいただきありがとうございます」

そして店員のおじさまもいつものこととばかりにそれだけ言うと会計は終了した。これがどうやら貴族の買い物のやり方らしい。ニコニコ現金払いじゃないのね。

「あ、あの、シャル」
「何ですの? お金は受け取りませんわよ?」
「う……でも友達なのに一方的にお金を貰うのはおかしいですよね?」
「そんなこと、気にすることありませんわよ? わたくしがやりたくてやっているんですわ」
「ええと、じゃあシャルの耳飾りに私が付与をします。これでどうですか?」
「フィーネ、あなた薬師だけじゃなくて付与師もしていましたの?」
「はい。もう魔法薬師になりましたよ。だから薬師も付与師も一人前です。しかも転職したばかりなので私が魔法薬師になってから初めての付与です。その記念となる最初の付与は友達のシャルにしてあげたいんですけど、どうですか?」
「そ、そうですのね。じゃ、じゃあ、そういうことなら付与させてあげてもよろしいですわよ」

そう言いながらもシャルの顔は嬉しそうににやけており、顔は少し赤くなっている。

まったく、シャルは相変わらずでかわいい。

私はシャルのイヤリングを受け取ると、シャルの安全と健康を祈りながら一対のイヤリングに付与をしていく。

「それじゃあ、付与しますね。まず一つ目のルビーにはシャルを悪しき力から守るように浄化を、そして二つ目のルビーにはシャルを呪いから守るように解呪を、そしてこちらのプラチナの部分には解毒を、そしてこちらのプラチナの部分には病気治療を、付与!」

私はフルパワーで一気に付与をする。ルビーもプラチナも最高品質なのですごく付与をしやすい上に大量の魔力を込められる。

そして私は大量の MP を消費して付与を完成させた。

「はい、出来上がりです。これで世界に一つだけ、シャルのためのイヤリングです」
「そ、そう。う、受け取ってあげるわ。ふ、ふふん」

なんだか強気な態度をしているものの、その顔はものすごく嬉しそうににやけている。素直にありがとうって言えばいいのに、と思わなくもないがそのツンデレっぷりがなんともかわいくて仕方がない。

それに付き合ってみれば分かるが、シャルの根は本当に善人なのだ。

最初に出会ったときは私たちを平民と見下してきたりと散々な感じだったが、体の弱いアンジェリカさんを治すために治癒魔法を必死に練習していたし、それに足しげくアンジェリカさんのところに通って励ましたりもしていた。

それにミイラ病の時だって、自分が直接の戦力にならないことを理解したうえで王都を救うためにはどうしたらいいかを考え、そして他の貴族たちを説得して金を出させるという離れ業をやってのけたのだ。後で聞いた話だが、当時の貴族たちの間では燃やして殺してしまえ、という意見のほうが多かったと聞く。

それにもし失敗していればシャルの家だって揺らぐことになっていたかもしれない。横から私の手柄をかっさらったなどと言う人もいたが、私はその指摘は間違っていると思う。シャルがいなかったら王都は壊滅していた、私はそう思っている。

きっとシャルは貴族令嬢として見栄を張らなければいけない生活を送ってきたせいでこんなややこしい性格になっているだけで、やはり聖女候補に選ばれるだけのことはあると思うのだ。

「フィーネ、どうです? わたくしに似合っているかしら?」

シャルが早速イヤリングをつけて私に見せてくる。

「はい。とっても似合っていますよ。シャルの豪華な雰囲気に少し控えめなアクセントが加わってより美人になりました」
「そ、そうですのね? ふ、ふん。まあ、わたくしであれば当然ですわね」

シャルは更に顔を真っ赤にしている。

「フィーネ、貴女のイヤリングはわたくしがつけて差し上げますわ」
「ありがとうございます」

そういってシャルがやってくると私の耳たぶにイヤリングをつけてくれた。

「フィーネのイヤリングも、なかなか似合っていますわよ。少し豪華な感じになりましたわね」
「シャル、ありがとうございます。とっても嬉しいです」

私がそう言うとますますシャルは顔を真っ赤にした。もう以前のようなツンデレで言うところのツンは見られないのかと思うと少し寂しい気がしなくもないが、こんな素敵なシャルが見られるのも嬉しいものだ。

こうしてお揃いのイヤリングを買った私たちはお店を出る。そんな私たちを店員のおじさまが見送ってくれたのだった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

転生幼女のチートな悠々自適生活〜伝統魔法を使い続けていたら気づけば賢者になっていた〜

犬社護
ファンタジー
ユミル(4歳)は気がついたら、崖下にある森の中にいた。 馬車が崖下に落下した影響で、前世の記憶を思い出す。周囲には散乱した荷物だけでなく、さっきまで会話していた家族が横たわっており、自分だけ助かっていることにショックを受ける。 大雨の中を泣き叫んでいる時、1体の小さな精霊カーバンクルが現れる。前世もふもふ好きだったユミルは、もふもふ精霊と会話することで悲しみも和らぎ、互いに打ち解けることに成功する。 精霊カーバンクルと仲良くなったことで、彼女は日本古来の伝統に関わる魔法を習得するのだが、チート魔法のせいで色々やらかしていく。まわりの精霊や街に住む平民や貴族達もそれに振り回されるものの、愛くるしく天真爛漫な彼女を見ることで、皆がほっこり心を癒されていく。 人々や精霊に愛されていくユミルは、伝統魔法で仲間たちと悠々自適な生活を目指します。

最強幼女のお助け道中〜聖女ですが、自己強化の秘法の副作用で幼女化してしまいました。神器破城槌を振り回しながら、もふもふと一緒に旅を続けます〜

黄舞
ファンタジー
 勇者パーティの支援職だった私は、自己を超々強化する秘法と言われた魔法を使い、幼女になってしまった。  そんな私の姿を見て、パーティメンバーが決めたのは…… 「アリシアちゃん。いい子だからお留守番しててね」  見た目は幼女でも、最強の肉体を手に入れた私は、付いてくるなと言われた手前、こっそりひっそりと陰から元仲間を支援することに決めた。  戦神の愛用していたという神器破城槌を振り回し、神の乗り物だと言うもふもふ神獣と旅を続ける珍道中! 主人公は元は立派な大人ですが、心も体も知能も子供です 基本的にコメディ色が強いです

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

またね。次ね。今度ね。聞き飽きました。お断りです。

朝山みどり
ファンタジー
ミシガン伯爵家のリリーは、いつも後回しにされていた。転んで怪我をしても、熱を出しても誰もなにもしてくれない。わたしは家族じゃないんだとリリーは思っていた。 婚約者こそいるけど、相手も自分と同じ境遇の侯爵家の二男。だから、リリーは彼と家族を作りたいと願っていた。 だけど、彼は妹のアナベルとの結婚を望み、婚約は解消された。 リリーは失望に負けずに自身の才能を武器に道を切り開いて行った。 「なろう」「カクヨム」に投稿しています。

無一文で追放される悪女に転生したので特技を活かしてお金儲けを始めたら、聖女様と呼ばれるようになりました

結城芙由奈 
恋愛
スーパームーンの美しい夜。仕事帰り、トラックに撥ねらてしまった私。気づけば草の生えた地面の上に倒れていた。目の前に見える城に入れば、盛大なパーティーの真っ最中。目の前にある豪華な食事を口にしていると見知らぬ男性にいきなり名前を呼ばれて、次期王妃候補の資格を失ったことを聞かされた。理由も分からないまま、家に帰宅すると「お前のような恥さらしは今日限り、出ていけ」と追い出されてしまう。途方に暮れる私についてきてくれたのは、私の専属メイドと御者の青年。そこで私は2人を連れて新天地目指して旅立つことにした。無一文だけど大丈夫。私は前世の特技を活かしてお金を稼ぐことが出来るのだから―― ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...