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動乱の故郷
第六章第21話 友情の証
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2021/12/12 誤字を修正しました
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「ふふ、久しぶりですね? こうして王都のメインストリートを二人でゆっくり歩くのは」
「そうですわね。まったく、わたくしも待ちわびましたわ。せっかく薬師修行が終わったかと思ったらすぐに旅立ってしまうんですもの。今日はしっかり責任を取ってもらいますわよ?」
何の責任なのかはよく分からないが、とりあえず楽しみにしてくれていたようだ。私はシャルに笑顔で答える。
「はい。今日は一日ゆっくり楽しみましょう」
王立薔薇園を後にした私たちはランチを頂いたあとそのままメインストリートを二人で並んで散歩している。トラブルを避けるために騎士や衛兵の皆さんが私たちに他人が近づかないように警備してくれているが、遠巻きに眺めている群衆の声は私にも届いてくる。
「おお、お二人の聖女様が並んで歩かれるとは……」
「金と銀、なんと神々しい」
「ありがたやありがたや」
まあ、宗教的にはそうなるのかな?
「きゃあ、ユーグ様、カッコイイ」
「イケメンって素敵だわ」
うん、イケメンは爆発すべし。
「クリスティーナ様も凛々しくて素敵よね」
「ホント、お姉さまって呼びたいわぁ~」
あれ? クリスさんも意外と女性人気があるらしい。
「お、俺はシャルロット様が……、ああ、踏まれたい、罵ってほしい」
リエラさん、一名様ご案内です。
「ぼ、ぼ、ぼくはつ、つ、つるぺた聖じ――」
やかましいわ! どうして行く先々でそんな事言われなきゃいけないんだ!
「フィーネ、どうしたんですの?」
一人で憤っていた私の様子を心配してかシャルが心配そうに私を覗き込む。
「あ、いえ、ちょっと群衆の会話を聞いてしまって……」
「あら、そんなものは気にする必要はありませんわ。わたくし達のように持つ者は常に何か言われる宿命ですもの。気にするだけ時間の無駄ですわ」
「は、はぁ」
こうやって割り切れるあたりが貴族令嬢なんだろうな。私には無理な気がする。
「ねぇ、フィーネ。ちょっとあのお店でアクセサリーでも見ていきませんこと?」
そう言ったシャルは私の返答を待たずにお店へと吸い込まれていく。私は慌ててその後を追った。
「いらっしゃいませ」
ビシッとスーツを着こなしたナイスミドルなおじさまが私たちを出迎えてくれる。
「シャルロット様、本日はどのようなものをお探しでしょうか?」
「今日はわたくしの大切な友人であるフィーネとのデートですの。記念になるようなものがあると良いのですけれど」
「左様でございますか。フィーネ・アルジェンタータ様、本日はご来店いただき誠にありがとうございます。お二人の記念との事ですが、何かご希望などございますか?」
「え? え? ええと、そうですね……」
ううん、どうしよう。何も思いつかない。
「少し見て回ってもいいでしょうか?」
「はい。どうぞ心行くまでご覧ください」
そう言って難を逃れた私だが、キラキラと輝くいかにも高そうな宝飾品を前に気後れしてしまう。
「そうですわね。フィーネはどういったものが好みですの? こういう感じ? それともこういう感じのはどうですの?」
シャルが指さすのはものすごく煌びやかなネックレスや耳飾り、そして髪飾りだ。
「あ、いえ、その、そんなにすごいものじゃなくて……」
「そうですの? その髪もきちんと結って整えれば今よりももっと素敵になりますわよ?」
「わ、私は、そんな、ええと」
「わかりましたわ。もう少しシンプルなものが良いんですのね? じゃあ、このピアスはどうですの?」
「あ、ええと、私はピアスは……その……」
「まあ、まだ穴を空けていなかったんですのね。じゃあ、イヤーカフ、いえ、ブレスレットも良いかもしれませんわね」
シャルは勝手知ったる様子で店内を歩き私はそれについていく。そしてあれやこれやと試してみた結果、私たちの友情の証としてピアスの穴が無くてもつけられるタイプのシンプルで小さなイヤリングを購入することになった。石の大きさも控えめで、ちょうどシャルの耳たぶの大きさの半分くらいなのでそれほど主張が強くなくさり気ない感じが中々にオシャレだ。
私の物はシャルの髪と瞳の色であるゴールドの素材にエメラルドが、シャルは私の色である白銀――ただし素材はプラチナだ――とルビーというお互いの色を購入することとなった。しかし私が自分の分を支払おうとしたところ、
「ここはガティルエ公爵家の娘であるわたくしがお支払いいたしますわ。それで、そういうことで」
と、言われてしまった。
「承知いたしました。いつもお買い上げいただきありがとうございます」
そして店員のおじさまもいつものこととばかりにそれだけ言うと会計は終了した。これがどうやら貴族の買い物のやり方らしい。ニコニコ現金払いじゃないのね。
「あ、あの、シャル」
「何ですの? お金は受け取りませんわよ?」
「う……でも友達なのに一方的にお金を貰うのはおかしいですよね?」
「そんなこと、気にすることありませんわよ? わたくしがやりたくてやっているんですわ」
「ええと、じゃあシャルの耳飾りに私が付与をします。これでどうですか?」
「フィーネ、あなた薬師だけじゃなくて付与師もしていましたの?」
「はい。もう魔法薬師になりましたよ。だから薬師も付与師も一人前です。しかも転職したばかりなので私が魔法薬師になってから初めての付与です。その記念となる最初の付与は友達のシャルにしてあげたいんですけど、どうですか?」
「そ、そうですのね。じゃ、じゃあ、そういうことなら付与させてあげてもよろしいですわよ」
そう言いながらもシャルの顔は嬉しそうににやけており、顔は少し赤くなっている。
まったく、シャルは相変わらずでかわいい。
私はシャルのイヤリングを受け取ると、シャルの安全と健康を祈りながら一対のイヤリングに付与をしていく。
「それじゃあ、付与しますね。まず一つ目のルビーにはシャルを悪しき力から守るように浄化を、そして二つ目のルビーにはシャルを呪いから守るように解呪を、そしてこちらのプラチナの部分には解毒を、そしてこちらのプラチナの部分には病気治療を、付与!」
私はフルパワーで一気に付与をする。ルビーもプラチナも最高品質なのですごく付与をしやすい上に大量の魔力を込められる。
そして私は大量の MP を消費して付与を完成させた。
「はい、出来上がりです。これで世界に一つだけ、シャルのためのイヤリングです」
「そ、そう。う、受け取ってあげるわ。ふ、ふふん」
なんだか強気な態度をしているものの、その顔はものすごく嬉しそうににやけている。素直にありがとうって言えばいいのに、と思わなくもないがそのツンデレっぷりがなんともかわいくて仕方がない。
それに付き合ってみれば分かるが、シャルの根は本当に善人なのだ。
最初に出会ったときは私たちを平民と見下してきたりと散々な感じだったが、体の弱いアンジェリカさんを治すために治癒魔法を必死に練習していたし、それに足しげくアンジェリカさんのところに通って励ましたりもしていた。
それにミイラ病の時だって、自分が直接の戦力にならないことを理解したうえで王都を救うためにはどうしたらいいかを考え、そして他の貴族たちを説得して金を出させるという離れ業をやってのけたのだ。後で聞いた話だが、当時の貴族たちの間では燃やして殺してしまえ、という意見のほうが多かったと聞く。
それにもし失敗していればシャルの家だって揺らぐことになっていたかもしれない。横から私の手柄をかっさらったなどと言う人もいたが、私はその指摘は間違っていると思う。シャルがいなかったら王都は壊滅していた、私はそう思っている。
きっとシャルは貴族令嬢として見栄を張らなければいけない生活を送ってきたせいでこんなややこしい性格になっているだけで、やはり聖女候補に選ばれるだけのことはあると思うのだ。
「フィーネ、どうです? わたくしに似合っているかしら?」
シャルが早速イヤリングをつけて私に見せてくる。
「はい。とっても似合っていますよ。シャルの豪華な雰囲気に少し控えめなアクセントが加わってより美人になりました」
「そ、そうですのね? ふ、ふん。まあ、わたくしであれば当然ですわね」
シャルは更に顔を真っ赤にしている。
「フィーネ、貴女のイヤリングはわたくしがつけて差し上げますわ」
「ありがとうございます」
そういってシャルがやってくると私の耳たぶにイヤリングをつけてくれた。
「フィーネのイヤリングも、なかなか似合っていますわよ。少し豪華な感じになりましたわね」
「シャル、ありがとうございます。とっても嬉しいです」
私がそう言うとますますシャルは顔を真っ赤にした。もう以前のようなツンデレで言うところのツンは見られないのかと思うと少し寂しい気がしなくもないが、こんな素敵なシャルが見られるのも嬉しいものだ。
こうしてお揃いのイヤリングを買った私たちはお店を出る。そんな私たちを店員のおじさまが見送ってくれたのだった。
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「ふふ、久しぶりですね? こうして王都のメインストリートを二人でゆっくり歩くのは」
「そうですわね。まったく、わたくしも待ちわびましたわ。せっかく薬師修行が終わったかと思ったらすぐに旅立ってしまうんですもの。今日はしっかり責任を取ってもらいますわよ?」
何の責任なのかはよく分からないが、とりあえず楽しみにしてくれていたようだ。私はシャルに笑顔で答える。
「はい。今日は一日ゆっくり楽しみましょう」
王立薔薇園を後にした私たちはランチを頂いたあとそのままメインストリートを二人で並んで散歩している。トラブルを避けるために騎士や衛兵の皆さんが私たちに他人が近づかないように警備してくれているが、遠巻きに眺めている群衆の声は私にも届いてくる。
「おお、お二人の聖女様が並んで歩かれるとは……」
「金と銀、なんと神々しい」
「ありがたやありがたや」
まあ、宗教的にはそうなるのかな?
「きゃあ、ユーグ様、カッコイイ」
「イケメンって素敵だわ」
うん、イケメンは爆発すべし。
「クリスティーナ様も凛々しくて素敵よね」
「ホント、お姉さまって呼びたいわぁ~」
あれ? クリスさんも意外と女性人気があるらしい。
「お、俺はシャルロット様が……、ああ、踏まれたい、罵ってほしい」
リエラさん、一名様ご案内です。
「ぼ、ぼ、ぼくはつ、つ、つるぺた聖じ――」
やかましいわ! どうして行く先々でそんな事言われなきゃいけないんだ!
「フィーネ、どうしたんですの?」
一人で憤っていた私の様子を心配してかシャルが心配そうに私を覗き込む。
「あ、いえ、ちょっと群衆の会話を聞いてしまって……」
「あら、そんなものは気にする必要はありませんわ。わたくし達のように持つ者は常に何か言われる宿命ですもの。気にするだけ時間の無駄ですわ」
「は、はぁ」
こうやって割り切れるあたりが貴族令嬢なんだろうな。私には無理な気がする。
「ねぇ、フィーネ。ちょっとあのお店でアクセサリーでも見ていきませんこと?」
そう言ったシャルは私の返答を待たずにお店へと吸い込まれていく。私は慌ててその後を追った。
「いらっしゃいませ」
ビシッとスーツを着こなしたナイスミドルなおじさまが私たちを出迎えてくれる。
「シャルロット様、本日はどのようなものをお探しでしょうか?」
「今日はわたくしの大切な友人であるフィーネとのデートですの。記念になるようなものがあると良いのですけれど」
「左様でございますか。フィーネ・アルジェンタータ様、本日はご来店いただき誠にありがとうございます。お二人の記念との事ですが、何かご希望などございますか?」
「え? え? ええと、そうですね……」
ううん、どうしよう。何も思いつかない。
「少し見て回ってもいいでしょうか?」
「はい。どうぞ心行くまでご覧ください」
そう言って難を逃れた私だが、キラキラと輝くいかにも高そうな宝飾品を前に気後れしてしまう。
「そうですわね。フィーネはどういったものが好みですの? こういう感じ? それともこういう感じのはどうですの?」
シャルが指さすのはものすごく煌びやかなネックレスや耳飾り、そして髪飾りだ。
「あ、いえ、その、そんなにすごいものじゃなくて……」
「そうですの? その髪もきちんと結って整えれば今よりももっと素敵になりますわよ?」
「わ、私は、そんな、ええと」
「わかりましたわ。もう少しシンプルなものが良いんですのね? じゃあ、このピアスはどうですの?」
「あ、ええと、私はピアスは……その……」
「まあ、まだ穴を空けていなかったんですのね。じゃあ、イヤーカフ、いえ、ブレスレットも良いかもしれませんわね」
シャルは勝手知ったる様子で店内を歩き私はそれについていく。そしてあれやこれやと試してみた結果、私たちの友情の証としてピアスの穴が無くてもつけられるタイプのシンプルで小さなイヤリングを購入することになった。石の大きさも控えめで、ちょうどシャルの耳たぶの大きさの半分くらいなのでそれほど主張が強くなくさり気ない感じが中々にオシャレだ。
私の物はシャルの髪と瞳の色であるゴールドの素材にエメラルドが、シャルは私の色である白銀――ただし素材はプラチナだ――とルビーというお互いの色を購入することとなった。しかし私が自分の分を支払おうとしたところ、
「ここはガティルエ公爵家の娘であるわたくしがお支払いいたしますわ。それで、そういうことで」
と、言われてしまった。
「承知いたしました。いつもお買い上げいただきありがとうございます」
そして店員のおじさまもいつものこととばかりにそれだけ言うと会計は終了した。これがどうやら貴族の買い物のやり方らしい。ニコニコ現金払いじゃないのね。
「あ、あの、シャル」
「何ですの? お金は受け取りませんわよ?」
「う……でも友達なのに一方的にお金を貰うのはおかしいですよね?」
「そんなこと、気にすることありませんわよ? わたくしがやりたくてやっているんですわ」
「ええと、じゃあシャルの耳飾りに私が付与をします。これでどうですか?」
「フィーネ、あなた薬師だけじゃなくて付与師もしていましたの?」
「はい。もう魔法薬師になりましたよ。だから薬師も付与師も一人前です。しかも転職したばかりなので私が魔法薬師になってから初めての付与です。その記念となる最初の付与は友達のシャルにしてあげたいんですけど、どうですか?」
「そ、そうですのね。じゃ、じゃあ、そういうことなら付与させてあげてもよろしいですわよ」
そう言いながらもシャルの顔は嬉しそうににやけており、顔は少し赤くなっている。
まったく、シャルは相変わらずでかわいい。
私はシャルのイヤリングを受け取ると、シャルの安全と健康を祈りながら一対のイヤリングに付与をしていく。
「それじゃあ、付与しますね。まず一つ目のルビーにはシャルを悪しき力から守るように浄化を、そして二つ目のルビーにはシャルを呪いから守るように解呪を、そしてこちらのプラチナの部分には解毒を、そしてこちらのプラチナの部分には病気治療を、付与!」
私はフルパワーで一気に付与をする。ルビーもプラチナも最高品質なのですごく付与をしやすい上に大量の魔力を込められる。
そして私は大量の MP を消費して付与を完成させた。
「はい、出来上がりです。これで世界に一つだけ、シャルのためのイヤリングです」
「そ、そう。う、受け取ってあげるわ。ふ、ふふん」
なんだか強気な態度をしているものの、その顔はものすごく嬉しそうににやけている。素直にありがとうって言えばいいのに、と思わなくもないがそのツンデレっぷりがなんともかわいくて仕方がない。
それに付き合ってみれば分かるが、シャルの根は本当に善人なのだ。
最初に出会ったときは私たちを平民と見下してきたりと散々な感じだったが、体の弱いアンジェリカさんを治すために治癒魔法を必死に練習していたし、それに足しげくアンジェリカさんのところに通って励ましたりもしていた。
それにミイラ病の時だって、自分が直接の戦力にならないことを理解したうえで王都を救うためにはどうしたらいいかを考え、そして他の貴族たちを説得して金を出させるという離れ業をやってのけたのだ。後で聞いた話だが、当時の貴族たちの間では燃やして殺してしまえ、という意見のほうが多かったと聞く。
それにもし失敗していればシャルの家だって揺らぐことになっていたかもしれない。横から私の手柄をかっさらったなどと言う人もいたが、私はその指摘は間違っていると思う。シャルがいなかったら王都は壊滅していた、私はそう思っている。
きっとシャルは貴族令嬢として見栄を張らなければいけない生活を送ってきたせいでこんなややこしい性格になっているだけで、やはり聖女候補に選ばれるだけのことはあると思うのだ。
「フィーネ、どうです? わたくしに似合っているかしら?」
シャルが早速イヤリングをつけて私に見せてくる。
「はい。とっても似合っていますよ。シャルの豪華な雰囲気に少し控えめなアクセントが加わってより美人になりました」
「そ、そうですのね? ふ、ふん。まあ、わたくしであれば当然ですわね」
シャルは更に顔を真っ赤にしている。
「フィーネ、貴女のイヤリングはわたくしがつけて差し上げますわ」
「ありがとうございます」
そういってシャルがやってくると私の耳たぶにイヤリングをつけてくれた。
「フィーネのイヤリングも、なかなか似合っていますわよ。少し豪華な感じになりましたわね」
「シャル、ありがとうございます。とっても嬉しいです」
私がそう言うとますますシャルは顔を真っ赤にした。もう以前のようなツンデレで言うところのツンは見られないのかと思うと少し寂しい気がしなくもないが、こんな素敵なシャルが見られるのも嬉しいものだ。
こうしてお揃いのイヤリングを買った私たちはお店を出る。そんな私たちを店員のおじさまが見送ってくれたのだった。
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