勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

文字の大きさ
上 下
246 / 625
動乱の故郷

第六章第20話 薔薇の花園と花乙女(前編)

しおりを挟む
2020/11/13 誤字を修正しました
================

昨日はそのまま王都の実家ことジェズ薬草店の元々私が使っていた部屋に泊まった。なんと、私が使っていた部屋は未だに使われておらず、いつ私が帰ってきても良いようにと掃除までしてくれていたのだ。おかげで寝袋を駆使することで何とか四人とも泊まることができたのだった。

そして今日は朝からシャルと一緒に一日過ごすことになっている。シャルは朝早くからジェズ薬草店に馬車で乗りつけると私を連れだしてくれた。一応、最低限の警備という事でクリスさんとユーグさんが少し離れた場所で後ろに控えているが、ホワイトムーン王国を象徴する聖女候補二人だ。よほどおかしな連中でなければ手を出そうと思わないだろうし、仮に手を出したとしても返り討ちにあうだけだろう。

ちなみにシズクさんとルーちゃんはフリータイムだが、ルーちゃんは誘拐の恐れもあるため必ずシズクさんと一緒に行動するようにお願いしておいた。ああ見えてルーちゃんとシズクさんは仲良しなのできっと食べ歩きにでも出掛けていることだろう。

「さ、まずは王立薔薇園へ行きますわよ。今なら秋の薔薇が見事に咲き誇っているはずですわ」
「それは楽しみですね。薔薇園に行くなんて初めてかもしれません」

なるほど、今日の最初の目的地は薔薇園らしい。そういえば王都にいる時にこういった観光的なことはほとんどした覚えがない。精々、シャルにお呼ばれしてカフェやホテルでお茶をしたくらいだ。

「さ、着きましたわよ」

馬車が止まるとシャルがそう言い、そしてユーグさんとクリスさんが馬車の扉を開けると私たちの下車をエスコートしてくれる。

さすが、シャルは貴族令嬢なだけあってエスコートされ慣れている。私はいつも通りだがシャルのように優雅には降りられない。

下車すると薔薇園の前にはしっかりした身なりの男性が私たちを出迎えてくれた。

「聖女シャルロット様、聖女フィーネ様、お待ちしておりました。名高きお二人の聖女様に揃ってご来園頂けたこと、光栄の至りにございます」
「園長。早速案内してくださる?」
「ははっ」

シャルはさも当然といった感じで出迎えを受けるが私は何となく恐縮してしまう。よく見ると警備の騎士もあちこちに配置されているようで、私たちを受け入れるためにそれはそれは、沢山の人たちが準備してくれたのだろう。

私たちは園長さんの案内で薔薇園の見学をスタートした。壁に囲まれた薔薇園の内部は入り口の門からまっすぐに伸びた道の左右に薔薇が植えられている。そして突き当たりに小さな噴水がある。左右の薔薇の植わっている場所はそれぞれ同心円状に道があり、そこを歩いて薔薇を楽しめるような構造になっている。そして噴水の向こうには一軒の建物が建っていて、これは管理用の建物だそうだ。

私たちはまず右側の薔薇を案内される。赤やピンクなど色とりどりの花を咲かせた薔薇が適度な間隔を空けて植えられている。

園長さんがそれぞれの薔薇について説明してくれている。しかしそこまで花に興味があるわけでもない私は確かに香りが違うなぁ、くらいの感想だがシャルは熱心にその説明を聞いては質問をしている。この香りであればオイルがどうしたとか、よくわからない会話を繰り返している。

さすがは貴族のご令嬢だ。薔薇油なんて聞いたことがないけど、椿油的な奴なのかな? 

ということは、シャンプーにでもするのかな? あ、もしかして薔薇の香りのする天ぷらとか豚カツをも作れるんだろうか?

特に薔薇の花に興味がない私としては、リーチェが興味深そうにくるくると飛び回っている方が気になる。

「何を見ているんですの?」
「あ、シャル。ええと、私の精霊が楽しそうに飛び回っているのを見ているんです」
「あら? あなた精霊との絆が得られたんですのね? それは良かったですわ。でもどうして紹介してくれないんですの?」
「あ、そうでしたね。でも、あまり人には興味がないみたいですから、そっけない態度を取られても怒らないでくださいね?」
「ええ、当然ですわ。わたくしが精霊になど怒るはずがありませんわ」
「わかりました。それじゃあタイミングを見計らって、って、ちょうどこっちに来ましたね」

リーチェが私に何かを伝えたいのか私のほうへと飛んで来るのが見える。ちょうどよいので私は召喚してあげる。

「リーチェ、どうしましたか?」

そう尋ねる私をリーチェは引っ張って連れていこうとする。

「ああ、はい。分かりました。行くのでちょっと落ち着いてください。園長さん、その……」

私は園長さんに許可を取ろうとするが園長さんは目をまん丸にして驚いている。完全にフリーズ状態だ。

「それがフィーネの精霊ですのね。さ、紹介なさい?」
「え? あ、はい。シャル、私の契約精霊のリーチェです。リーチェ、私のお友達のシャルロットさんです」

リーチェは私を引っ張るのをやめてシャルのほうをちらりと見る。

「ふふん、わたくしはシャルロット・ドゥ・ガティルエですわ。栄光ある誇り高きガティ――」

シャルが自己紹介を終える前にリーチェはぷいと顔を背けるとふわりと飛び立ち、そして私に来てほしいと手招きをする。

「ちょっと! どういうことですの! わたくしがせっかく自己紹介して差し上げているというのにっ!」
「だから怒らないでって言ったじゃないですか。リーチェは精霊なので人間とは違うんです」

プリプリと怒りだすシャルにそう言うと、私はリーチェを追って駆け出すのだった。

================
※)椿油は種を圧搾して油を絞り出しますが、ローズオイルは大量の花弁を蒸し器のような釜に入れてゆっくりと加熱し、香りの成分を蒸発させて集める水蒸気蒸留法という方法で抽出されます。5,000 g の薔薇の花弁から僅か 1 g ほどしか取れないというとんでもなく希少な油ですので、揚げ油はおろかシャンプーに使うのも大変だと思われます。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

強制力がなくなった世界に残されたものは

りりん
ファンタジー
一人の令嬢が処刑によってこの世を去った 令嬢を虐げていた者達、処刑に狂喜乱舞した者達、そして最愛の娘であったはずの令嬢を冷たく切り捨てた家族達 世界の強制力が解けたその瞬間、その世界はどうなるのか その世界を狂わせたものは

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

プラス的 異世界の過ごし方

seo
ファンタジー
 日本で普通に働いていたわたしは、気がつくと異世界のもうすぐ5歳の幼女だった。田舎の山小屋みたいなところに引っ越してきた。そこがおさめる領地らしい。伯爵令嬢らしいのだが、わたしの多少の知識で知る貴族とはかなり違う。あれ、ひょっとして、うちって貧乏なの? まあ、家族が仲良しみたいだし、楽しければいっか。  呑気で細かいことは気にしない、めんどくさがりズボラ女子が、神様から授けられるギフト「+」に助けられながら、楽しんで生活していきます。  乙女ゲーの脇役家族ということには気づかずに……。 #不定期更新 #物語の進み具合のんびり #カクヨムさんでも掲載しています

食堂の大聖女様〜転生大聖女は実家の食堂を手伝ってただけなのに、なぜか常連客たちが鬼神のような集団になってるんですが?〜

にゃん小春
ファンタジー
魔獣の影響で陸の孤島と化した村に住む少女、ティリスティアーナ・フリューネス。父は左遷された錬金術師で村の治療薬を作り、母は唯一の食堂を営んでいた。代わり映えのしない毎日だが、いずれこの寒村は終わりを迎えるだろう。そんな危機的状況の中、十五歳になったばかりのティリスティアーナはある不思議な夢を見る。それは、前世の記憶とも思える大聖女の処刑の場面だった。夢を見た後、村に奇跡的な現象が起き始める。ティリスティアーナが作る料理を食べた村の老人たちは若返り、強靭な肉体を取り戻していたのだ。 そして、鬼神のごとく強くなってしまった村人たちは狩られるものから狩るものへと代わり危機的状況を脱して行くことに!? 滅びかけた村は復活の兆しを見せ、ティリスティアーナも自らの正体を少しずつ思い出していく。 しかし、村で始まった異変はやがて自称常識人である今世は静かに暮らしたいと宣うティリスティアーナによって世界全体を巻き込む大きな波となって広がっていくのであった。 2025/1/25(土)HOTランキング1位ありがとうございます!

【完結】ポーションが不味すぎるので、美味しいポーションを作ったら

七鳳
ファンタジー
※毎日8時と18時に更新中! ※いいねやお気に入り登録して頂けると励みになります! 気付いたら異世界に転生していた主人公。 赤ん坊から15歳まで成長する中で、異世界の常識を学んでいくが、その中で気付いたことがひとつ。 「ポーションが不味すぎる」 必需品だが、みんなが嫌な顔をして買っていく姿を見て、「美味しいポーションを作ったらバカ売れするのでは?」 と考え、試行錯誤をしていく…

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

女神様の使い、5歳からやってます

めのめむし
ファンタジー
小桜美羽は5歳の幼女。辛い境遇の中でも、最愛の母親と妹と共に明るく生きていたが、ある日母を事故で失い、父親に放置されてしまう。絶望の淵で餓死寸前だった美羽は、異世界の女神レスフィーナに救われる。 「あなたには私の世界で生きる力を身につけやすくするから、それを使って楽しく生きなさい。それで……私のお友達になってちょうだい」 女神から神気の力を授かった美羽は、女神と同じ色の桜色の髪と瞳を手に入れ、魔法生物のきんちゃんと共に新たな世界での冒険に旅立つ。しかし、転移先で男性が襲われているのを目の当たりにし、街がゴブリンの集団に襲われていることに気づく。「大人の男……怖い」と呟きながらも、ゴブリンと戦うか、逃げるか——。いきなり厳しい世界に送られた美羽の運命はいかに? 優しさと試練が待ち受ける、幼い少女の異世界ファンタジー、開幕! 基本、ほのぼの系ですので進行は遅いですが、着実に進んでいきます。 戦闘描写ばかり望む方はご注意ください。

処理中です...