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動乱の故郷
第六章第5話 カルヴァラにて
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「改めまして、ようこそカルヴァラにお越しくださいました。聖女フィーネ・アルジェンタータ様、聖騎士クリスティーナ殿、そして従者の皆さま、このウスターシュ・カポトリアス、そしてカポトリアス辺境伯爵領はそのご来訪を心より歓迎いたします。そして大変な長旅、ご苦労様でした。お二人のホワイトムーン王国へのご帰還を心よりお慶び申し上げます」
ものすごく丁寧にウスターシュさんが跪いてそう口上を述べる。
「は、はい。ありがとうございます」
久しぶりの聖女様待遇に私はたじたじだ。レッドスカイ帝国でもお客さんとしてそれなりに大事にはされていたと思うが、正直ここまでではなかった。
「ウスターシュ殿、フィーネ様はレッドスカイ帝国の帝都イェンアンよりほぼ休みなしの強行軍で大変お疲れだ。できれば宿に移らせていただきたい」
クリスさんが間に入って仕切ってくれる。いきなりあんな仕打ちを受けたせいかもしれないが、どうもホワイトムーン王国に戻ってきてからのクリスさんは昔に戻ったかのように過保護な部分が顔をのぞかせている。
「おっと、これは気が回らずに失礼を致しました。ただ、現在聖女様にお泊り頂けるようなホテルは全て休業しております。どうぞ我が屋敷にておくつろぎください」
クリスさんが私に視線を送ってきたのでありがたく申し出を受けることにした。
「ありがとうございます、ウスターシュさん。お申し出、ありがたくお受けいたします」
「ははっ。聖女様にご逗留頂けることはカポトリアス家の誉れにございます。どうぞごゆるりとおくつろぎ下さい」
こうして私たちはカポトリアス辺境伯爵家のお屋敷に泊めてもらう事となったのだった。
****
「しかし、拙者はホワイトムーン王国に来るのは初めてでござるが、不思議な国でござるな。あの頭のおかしな門番と先ほどの紳士が同じ貴族とは思えないでござるが、あの頭のおかしな貴族はなぜ貴族なのでござるか? あんな男が偉いなど、拙者には信じられないでござるよ」
シズクさんが驚き半分、呆れ半分といった感じでそう感想を漏らす。
「この国って姉さまとクリスさんの国ですけど、怖い人間も多いですからね。あたしはあんまり良い印象はないです」
うーん、確かにルーちゃんはあまり良い思い出はないだろうしね。奴隷として売られた先の国なわけだし。
「我が国ながら恥ずかしい限りだ。歴史と家柄だけで偉いと勘違いしている貴族も多い。もちろん、そうでない者もいるのだがな……」
そうクリスさんは自嘲気味に呟いた。
私としては他の国も似たようなもので、単に私たちがそういう場面を見かけていないだけのような気はするけどね。
「ただ、あの男にはきちんと裁きが下るはずですのでどうかご安心ください。これから魔王警報のレベルが上がり、魔物どもが大挙して押し寄せてくることが予想されているのですから、騎士団としても綱紀粛正のためにはあのような振る舞いをした男を野放しにはできないはずです」
「そうですか」
ただ、個人的には魔王は勇者様が何とかすると思っているし、聖女はあれだけなりたがっているシャルにやってもらえば良いと思っている。なので実はかなり他人事なわけなのだが、流石にそれを口にするような真似はしない。私にだってそれくらいの分別はあるのだ。
「そういえば、勇者ってどこにいるんでしょうね?」
そこまで考えてふと浮かんだ疑問を私は口にする。
「確かに、噂も聞かないでござるな。聖女様なら目の前にいるでござるがな……」
「そのうち会えるんじゃないですか? きっと姉さまなら道でばったり会ったりとかしそうです。あ、あと実はもう会ってるとか?」
「ううん、どうなんでしょう」
「フィーネ様、勇者というのはある日突然神託を受けると言われております。前触れなどもなく、血筋、生まれ、育ちなどは一切関係ないそうですので、私たちが探すことは困難でしょう」
「なるほど、そういうものですか」
「はい。ただ、魔王の出現に合わせて勇者に神託が下ることが多いと聞きますので、まだ魔王は出現していないということの証なのでしょう」
「魔王警報が出ていてこんなに魔物が襲ってくるのにですか?」
「まだレベル 3 の準警報です。これは魔王の卵たちが育ち、そしてその候補の数が絞られてきたことを意味しています。この段階で以前のフィーネ様がなさったように有力な候補を倒すことでレベル 2 に戻ることもあり得るのです」
うんうん、そんなこともあったね。懐かしい。
「ですがそういったことがなければ今後魔王警報はレベル 4、文字通りの警報へと引き上げられます。そうなると、大抵の場合は一時的に魔物の襲撃が落ち着きます。これは魔王の下に魔物が集い、人間を滅ぼすための準備をしているためと言われております。そしてレベル 5 の最終警報になると堰を切ったかのように大量の魔物たちが人間を滅ぼすべく町へ、村へ、そして城へと襲い掛かってくるのだそうです」
「なるほど、そういう事なんですね」
その時、私たちの部屋の扉がノックされ、声をかけられた。
「聖女様、聖騎士様、そして従者の皆さま、ディナーのご用意ができました。よろしければお部屋にお運び致しますが、いかがなさいますか?」
「あっ、ご飯っ!」
ルーちゃんがすかさず反応する。
「そうですね、少し早いですがご馳走になりましょう」
「「「はい」」」
そうして私たちはメイドさんにお願いして夕飯を部屋に運んでもらい、少し早めの夕食をとると旅の疲れを癒すべく早めに床に就いたのだった。
ものすごく丁寧にウスターシュさんが跪いてそう口上を述べる。
「は、はい。ありがとうございます」
久しぶりの聖女様待遇に私はたじたじだ。レッドスカイ帝国でもお客さんとしてそれなりに大事にはされていたと思うが、正直ここまでではなかった。
「ウスターシュ殿、フィーネ様はレッドスカイ帝国の帝都イェンアンよりほぼ休みなしの強行軍で大変お疲れだ。できれば宿に移らせていただきたい」
クリスさんが間に入って仕切ってくれる。いきなりあんな仕打ちを受けたせいかもしれないが、どうもホワイトムーン王国に戻ってきてからのクリスさんは昔に戻ったかのように過保護な部分が顔をのぞかせている。
「おっと、これは気が回らずに失礼を致しました。ただ、現在聖女様にお泊り頂けるようなホテルは全て休業しております。どうぞ我が屋敷にておくつろぎください」
クリスさんが私に視線を送ってきたのでありがたく申し出を受けることにした。
「ありがとうございます、ウスターシュさん。お申し出、ありがたくお受けいたします」
「ははっ。聖女様にご逗留頂けることはカポトリアス家の誉れにございます。どうぞごゆるりとおくつろぎ下さい」
こうして私たちはカポトリアス辺境伯爵家のお屋敷に泊めてもらう事となったのだった。
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「しかし、拙者はホワイトムーン王国に来るのは初めてでござるが、不思議な国でござるな。あの頭のおかしな門番と先ほどの紳士が同じ貴族とは思えないでござるが、あの頭のおかしな貴族はなぜ貴族なのでござるか? あんな男が偉いなど、拙者には信じられないでござるよ」
シズクさんが驚き半分、呆れ半分といった感じでそう感想を漏らす。
「この国って姉さまとクリスさんの国ですけど、怖い人間も多いですからね。あたしはあんまり良い印象はないです」
うーん、確かにルーちゃんはあまり良い思い出はないだろうしね。奴隷として売られた先の国なわけだし。
「我が国ながら恥ずかしい限りだ。歴史と家柄だけで偉いと勘違いしている貴族も多い。もちろん、そうでない者もいるのだがな……」
そうクリスさんは自嘲気味に呟いた。
私としては他の国も似たようなもので、単に私たちがそういう場面を見かけていないだけのような気はするけどね。
「ただ、あの男にはきちんと裁きが下るはずですのでどうかご安心ください。これから魔王警報のレベルが上がり、魔物どもが大挙して押し寄せてくることが予想されているのですから、騎士団としても綱紀粛正のためにはあのような振る舞いをした男を野放しにはできないはずです」
「そうですか」
ただ、個人的には魔王は勇者様が何とかすると思っているし、聖女はあれだけなりたがっているシャルにやってもらえば良いと思っている。なので実はかなり他人事なわけなのだが、流石にそれを口にするような真似はしない。私にだってそれくらいの分別はあるのだ。
「そういえば、勇者ってどこにいるんでしょうね?」
そこまで考えてふと浮かんだ疑問を私は口にする。
「確かに、噂も聞かないでござるな。聖女様なら目の前にいるでござるがな……」
「そのうち会えるんじゃないですか? きっと姉さまなら道でばったり会ったりとかしそうです。あ、あと実はもう会ってるとか?」
「ううん、どうなんでしょう」
「フィーネ様、勇者というのはある日突然神託を受けると言われております。前触れなどもなく、血筋、生まれ、育ちなどは一切関係ないそうですので、私たちが探すことは困難でしょう」
「なるほど、そういうものですか」
「はい。ただ、魔王の出現に合わせて勇者に神託が下ることが多いと聞きますので、まだ魔王は出現していないということの証なのでしょう」
「魔王警報が出ていてこんなに魔物が襲ってくるのにですか?」
「まだレベル 3 の準警報です。これは魔王の卵たちが育ち、そしてその候補の数が絞られてきたことを意味しています。この段階で以前のフィーネ様がなさったように有力な候補を倒すことでレベル 2 に戻ることもあり得るのです」
うんうん、そんなこともあったね。懐かしい。
「ですがそういったことがなければ今後魔王警報はレベル 4、文字通りの警報へと引き上げられます。そうなると、大抵の場合は一時的に魔物の襲撃が落ち着きます。これは魔王の下に魔物が集い、人間を滅ぼすための準備をしているためと言われております。そしてレベル 5 の最終警報になると堰を切ったかのように大量の魔物たちが人間を滅ぼすべく町へ、村へ、そして城へと襲い掛かってくるのだそうです」
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その時、私たちの部屋の扉がノックされ、声をかけられた。
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「そうですね、少し早いですがご馳走になりましょう」
「「「はい」」」
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