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動乱の故郷
第六章第3話 国境の町へ
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2020/08/09 ご指摘いただいた誤字を修正しました。ありがとうございました
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「フィーネ様、見えてきました。あれが国境の町カルヴァラです」
クリスさんの言葉に誘われて私は馬車の中から御者台のほうへと顔を出す。すると確かに遠くの方に割と高い城壁が見える。国境の町だけあって城塞都市なのかな?
その城壁の向かって右側には森が広がっており、左側には畑が広がっている。
「あの城壁ですか?」
「はい。カルヴァラは国境の町ですので、特に堅固に作られております。過去には戦渦に巻き込まれたこともございますので」
なるほど。昔はホワイトムーン王国と当時のブルースター王国が戦争したという話も聞いたし、ノヴァールブールを巡って戦争になったという話も聞いたことがある。やはり国境というのは紛争が起こりやすいのだろう。
「魔物暴走の恐れがあるって聞きましたけど、襲われている様子はありませんね」
「はい。何よりでした」
チィーティエンの時のように到着したら襲われていた、という状況でもなかったしフゥーイエ村の時のように既に手遅れというわけでもなさそうだ。道中もずっと魔物に断続的に襲われ続けていたため心配していたのだが、どうやら杞憂に終わってくれたようだ。
そうこうしているうちに城壁が徐々に大きくなっていく。城壁の上に立つ人と比較して、城壁の高さは大体 6 ~ 7 メートルくらいの高さだろう。
おや? 城壁の上に立っている人がドタバタし始めたぞ? 何かあったのかな?
そう思いながらクリスさんの隣で観察していると、町のほうから馬を走らせて騎士たちが三人、やってきた。
そして私たちの 10 メートルくらい手前で止まると大声で叫んだ。
「そこの馬車! 止まれ! 現在カルヴァラは魔物暴走の恐れがある! 今すぐ立ち去……え? 聖、騎士? く、クリスティーナ、様?」
「いかにも。私は聖女フィーネ・アルジェンタータ様の盾にして近衛騎士団特務部隊所属の聖騎士クリスティーナだ」
「ひっ」
それを聞いた騎士たちが硬直する。
「お前たちは一体何をしている? いつから我が国の騎士は名乗らずに馬車を追い返すようになった? そしてこの馬車は聖女フィーネ・アルジェンタータ様の馬車なのだぞ?」
「も、申し訳ありませんでした」
騎士たちが慌てて下馬して膝をつく。
「わ、私は第五騎士団国境警備隊カルヴァラ第十三分隊所属、騎士ジョエルであります」
「同じく、騎士マケールであります」
「同じく、騎士ティボーであります」
「ああ、それでだな。そもそも――」
何やらクリスさんのお説教が始まりそうだったので私が割って入る。
「まあまあ、クリスさん。そのくらいにしておきましょう」
「フィーネ様……かしこまりました」
「皆さん、お勤めご苦労様です。私たちは王都の神殿に行く必要があるのです。通しては頂けないでしょうか?」
私が膝をついた騎士の皆さんに声をかけると騎士の皆さんは一瞬硬直し、そして突然立ち上がる。
「おおお、聖女様! 神よ! お導きに感謝します!」
「「感謝します!」
そして随分と感激した様子でブーンからのジャンピング土下座を決めた。
おお、久しぶりに見た。懐かしい。なんだかこう、これを見ると帰ってきたって感じがするよね。
あ、ちなみに彼らの得点は 6 点といったところかな。鍛えている騎士だけあって動きは鋭かったのだが、指先がきっちり伸びておらず姿勢がイマイチだったところと、三人の息が合っておらずタイミングがバラバラだったところがマイナス評価となってしまい、残念ながら得点が伸びなかった。次回以降に向けてぜひ練習に励んでもらいたいところだ。
などと考えていることはおくびにも出さずにニッコリと営業スマイルで応える。
「神の御心のままに」
三人の騎士たちは「おおお」などと言いながら土下座を続けているが、その様子を馬車の中から見ていたシズクさんがドン引きしている。
「こ、この者たちは何故フィーネ殿に土下座をしているでござるか?」
「シズクさん、この国では土下座は謝罪ではなくお祈りのポーズでして、お祈りをする際はさっきみたいに腕を広げてからジャンプして土下座するんです」
「そ、そうでござるか。ま、まぁ、世界には色々な風習があるでござるからな」
私の説明にシズクさんは顔を引きつらせながらも納得してくれた様子だ。そんなシズクさんを他所にクリスさんは騎士たちを叱りつける。
「おい。いつまでそうしているつもりだ。フィーネ様をお待たせするな」
「は、ははっ! 聖女様、ご案内いたします」
やはり、聖騎士というのは偉い立場なのだろう。クリスさんに叱られが三人の騎士は弾かれたように立ち上がると私たちの馬車の前、そして左右を固める形で護送してくれる。
そうして守られる形でカルヴァラの門の前に辿りついた。すると上官と思しき騎士が私たちを先導してくれた騎士さんたちを怒鳴りつけた。
「おい! 騎士ジョエル、騎士マケール、騎士ティボー、近づく者は全て追い返すようにと言ったはずだ! 何故連れてきている! 貴様ら、命令違反で処刑されたいのか!」
「門兵長様! 申し訳ございません! ですがっ!」
「ええい、問答無用! その怪しげな馬車も接収し、乗っている連中も全員牢屋にぶち込んでおけ!」
門兵長と呼ばれたその騎士は居丈高にそう命じたのだった。
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新作の投稿を開始しました。
「町人Aは悪役令嬢をどうしても救いたい」
自分の、母親の、そして悪役令嬢の破滅エンドを回避するためにモブですらない貧しい少年が知識と努力で成り上がる物語です。ぜひこちらもお読みください。
ブラウザの方は下部のリンクより、アプリの方は左上の×ボタンから一度表紙にお戻りいただき、その後下部の「著者近況」→「作品」で拙作の一覧をご確認頂けますので、そちらをご利用ください。
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「フィーネ様、見えてきました。あれが国境の町カルヴァラです」
クリスさんの言葉に誘われて私は馬車の中から御者台のほうへと顔を出す。すると確かに遠くの方に割と高い城壁が見える。国境の町だけあって城塞都市なのかな?
その城壁の向かって右側には森が広がっており、左側には畑が広がっている。
「あの城壁ですか?」
「はい。カルヴァラは国境の町ですので、特に堅固に作られております。過去には戦渦に巻き込まれたこともございますので」
なるほど。昔はホワイトムーン王国と当時のブルースター王国が戦争したという話も聞いたし、ノヴァールブールを巡って戦争になったという話も聞いたことがある。やはり国境というのは紛争が起こりやすいのだろう。
「魔物暴走の恐れがあるって聞きましたけど、襲われている様子はありませんね」
「はい。何よりでした」
チィーティエンの時のように到着したら襲われていた、という状況でもなかったしフゥーイエ村の時のように既に手遅れというわけでもなさそうだ。道中もずっと魔物に断続的に襲われ続けていたため心配していたのだが、どうやら杞憂に終わってくれたようだ。
そうこうしているうちに城壁が徐々に大きくなっていく。城壁の上に立つ人と比較して、城壁の高さは大体 6 ~ 7 メートルくらいの高さだろう。
おや? 城壁の上に立っている人がドタバタし始めたぞ? 何かあったのかな?
そう思いながらクリスさんの隣で観察していると、町のほうから馬を走らせて騎士たちが三人、やってきた。
そして私たちの 10 メートルくらい手前で止まると大声で叫んだ。
「そこの馬車! 止まれ! 現在カルヴァラは魔物暴走の恐れがある! 今すぐ立ち去……え? 聖、騎士? く、クリスティーナ、様?」
「いかにも。私は聖女フィーネ・アルジェンタータ様の盾にして近衛騎士団特務部隊所属の聖騎士クリスティーナだ」
「ひっ」
それを聞いた騎士たちが硬直する。
「お前たちは一体何をしている? いつから我が国の騎士は名乗らずに馬車を追い返すようになった? そしてこの馬車は聖女フィーネ・アルジェンタータ様の馬車なのだぞ?」
「も、申し訳ありませんでした」
騎士たちが慌てて下馬して膝をつく。
「わ、私は第五騎士団国境警備隊カルヴァラ第十三分隊所属、騎士ジョエルであります」
「同じく、騎士マケールであります」
「同じく、騎士ティボーであります」
「ああ、それでだな。そもそも――」
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「まあまあ、クリスさん。そのくらいにしておきましょう」
「フィーネ様……かしこまりました」
「皆さん、お勤めご苦労様です。私たちは王都の神殿に行く必要があるのです。通しては頂けないでしょうか?」
私が膝をついた騎士の皆さんに声をかけると騎士の皆さんは一瞬硬直し、そして突然立ち上がる。
「おおお、聖女様! 神よ! お導きに感謝します!」
「「感謝します!」
そして随分と感激した様子でブーンからのジャンピング土下座を決めた。
おお、久しぶりに見た。懐かしい。なんだかこう、これを見ると帰ってきたって感じがするよね。
あ、ちなみに彼らの得点は 6 点といったところかな。鍛えている騎士だけあって動きは鋭かったのだが、指先がきっちり伸びておらず姿勢がイマイチだったところと、三人の息が合っておらずタイミングがバラバラだったところがマイナス評価となってしまい、残念ながら得点が伸びなかった。次回以降に向けてぜひ練習に励んでもらいたいところだ。
などと考えていることはおくびにも出さずにニッコリと営業スマイルで応える。
「神の御心のままに」
三人の騎士たちは「おおお」などと言いながら土下座を続けているが、その様子を馬車の中から見ていたシズクさんがドン引きしている。
「こ、この者たちは何故フィーネ殿に土下座をしているでござるか?」
「シズクさん、この国では土下座は謝罪ではなくお祈りのポーズでして、お祈りをする際はさっきみたいに腕を広げてからジャンプして土下座するんです」
「そ、そうでござるか。ま、まぁ、世界には色々な風習があるでござるからな」
私の説明にシズクさんは顔を引きつらせながらも納得してくれた様子だ。そんなシズクさんを他所にクリスさんは騎士たちを叱りつける。
「おい。いつまでそうしているつもりだ。フィーネ様をお待たせするな」
「は、ははっ! 聖女様、ご案内いたします」
やはり、聖騎士というのは偉い立場なのだろう。クリスさんに叱られが三人の騎士は弾かれたように立ち上がると私たちの馬車の前、そして左右を固める形で護送してくれる。
そうして守られる形でカルヴァラの門の前に辿りついた。すると上官と思しき騎士が私たちを先導してくれた騎士さんたちを怒鳴りつけた。
「おい! 騎士ジョエル、騎士マケール、騎士ティボー、近づく者は全て追い返すようにと言ったはずだ! 何故連れてきている! 貴様ら、命令違反で処刑されたいのか!」
「門兵長様! 申し訳ございません! ですがっ!」
「ええい、問答無用! その怪しげな馬車も接収し、乗っている連中も全員牢屋にぶち込んでおけ!」
門兵長と呼ばれたその騎士は居丈高にそう命じたのだった。
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