210 / 625
武を求めし者
第五章第32話 謎の施設
しおりを挟む
将軍が蹴破った扉の向こう側からはもちろん、大量の死なない獣たちが飛び出してきた。
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
将軍は狭い通路にもかかわらず巧みに槍斧を振り回して獣たちを殲滅していく。私は浄化魔法で援護しているが、他の三人は狭い通路のためやることがない。
「ところでシズクさん」
「何でござるか?」
「シズクさん、【狐火】で灯りを作ることはできませんか? あの炎があればみんな戦いやすいと思うんですけど」
「……すまないでござる。確かにスキルはあるのでござるが、拙者は使い方がさっぱり分からないでござるよ」
「え?」
どういうことだろうか? スキルって、念じればできるんじゃないの?
「ほら、龍神洞で青白い炎を出していたじゃないですか。あ、浄化」
私は浄化魔法を放ちながらシズクさんと会話をする。
「フィーネ殿、申し訳ないでござるが拙者は――」
「あっ、そうでした。記憶がないんでしたね。ごめんなさい。でもスキルが生えているんですから、そのスキルを使うように念じれば炎が出るんじゃないですか?」
「そ、そうなのでござるか? むむむむむむ」
私がそう言うと何やら難しい顔をしてシズクさんが唸りはじめる。しかし、あの時見た青白い炎が現れることはなかった。
その様子をみたクリスさんが私に助言をしてくれる。
「フィーネ様、魔法を使う時のように正しい詠唱を覚える必要があるのではないでしょうか?」
「え? 私詠唱なんてしてませんよ?」
「それはフィーネ様だからです。普通の者は正しい詠唱を行う必要があるのです。フィーネ様に頂いた書物にもそのように書いてありました。詠唱を行わずに魔法が行使できるのは、その魔法をよほど深く理解していない限りは不可能なのだそうです。ですので、まずは詠唱を正しく覚えることが重要である、と書かれております」
「……そうだったんですね」
それは初耳だ。どうやらこんなところでもスキルレベルが MAX な弊害が出てしまったようだ。
あれ? でも別に私、他の属性魔法を使うときも別に詠唱なんてしていないよ? どういうこと?
「おい! さっさと止めを刺せ! これで最後だ!」
「あ、はいはい。浄化」
思考の途中で将軍から怒声を浴びせられ、私は浄化魔法で再生しようとする獣たちを塵へと変える。
「行くぞ」
「はいはい」
私たちは将軍の後に続いて彼が蹴破った扉の先へと進む。
すると、私たちの目に飛び込んできたのはあまりにも異様な光景だった。
元々は整然と並んでいたであろうオフィスワーク用ではない机やその残骸、割れたガラスや陶器の破片、更に小さな檻の中にある動物か何かのものと思われる骨、そういったものが雑然と散らばっていた。壁際には壊れた棚のようなものもあるが、そこに資料のようなものは見当たらない。
私はこの光景をみて何かの動物を使った実験施設という言葉が思い浮かんだ。
「酷い、光景ですね……」
シズクさんも顔をしかめている。
「おい、聖女。明かりを強くしろ。この暗さではお前にしか見えておらん」
「ああ、はい」
見えていないくせに何故ぶつからずに歩けるのか疑問でならないが、そこはもう将軍だからと自分を納得させるしかないのだろう。
私は浄化魔法の灯りを強くした。
すると動物実験室跡(仮)が白い光に照らし出され、その惨状が露わとなる。
「なっ! これはっ!」
「ひどい……」
クリスさんとルーちゃんが驚きの声を上げる。そんな二人とは対照的に将軍は眉一つ動かさずにあちこちを調べ始めた。
「これは一体何なんでしょうね?」
「姉さま、ここはとても嫌な感じがします。それに、あの谷の時から変だったんですけど、ここには精霊が一人もいないんです」
ルーちゃんが不安そうな表情で私に訴えかけてきた。
なるほど。そうだったのか。どうやらずいぶんと怖い思いをさせてしまったようだ。
精霊の見えるルーちゃんの目から見ると、森の中なのに精霊が一人もいないというのはきっとものすごく不安になることだったんだろうに、それを我慢して私たちと一緒に来てくれていたのか。
私はルーちゃんの肩をそっと抱き寄せると安心させるように優しく語り掛ける。
「大丈夫ですよ。何かあれば私がちゃんと結界で守ってあげますから」
「……はい、姉さま」
そうしてルーちゃんが落ち着くのを待ってから私も室内を調べる。しかし、手がかりになりそうな資料のようなものは一切見当たらない。
「降りる階段があるな。ここには何もない。行くぞ」
そう言って将軍はずんずんと歩いていく。
「あ、ちょっと待ってください」
私たちは急いでその後を追い階段を降りる。そして降りた先には大量のケージが積み上げられていた。そしてその中にはもちろん、動物たちの遺体が残されていた。
「……酷い」
「おい、聖女。これは一体何だ? あの妙な獣は骨は残さないはずだが?」
「おそらく、ですが、ここで動物を使って何かの実験をしていたのではないでしょうか?」
「実験、だと?」
「フィーネ殿、それはやはりあの死なない獣は何者かの手によって作られた、と?」
「はい。おそらくそうだと思います。そして何の資料も残っていないところを見ると、この施設を放棄したんだと思います」
「何故だ?」
「それは分かりません。作ったあの死なない獣が手に負えなかったのかもしれませんし、別の場所に移動したのかもしれません」
「こいつを作ったのは何者だ?」
「……将軍、それこそ私たちが知っているわけないじゃないですか」
「そうか……」
そう言うと将軍は何かないかと探し始めた。私たちもそれに倣い探すが、これといって手掛かりになりそうな何かを見つけることは出来なかった。
「ふん、どうやらこれで全てのようだな」
「そのようですね。将軍、あの動物たちがアンデッドにならないように送り、そしてここを浄化したいのですが良いですか?」
「好きにしろ」
証拠を残せ、などと言われるかと思ったが将軍はあっさりと許可してくれた。
私は許可を得たので動物たちの遺体に葬送、そして浄化魔法をかけてあげる。そしてこの施設全体を浄化するようにイメージして浄化魔法を放つ。
「浄化!」
浄化の光が大きく広がり、施設内、そして洞窟内にへばりついたドロドロした何かを浄化していく。
「う、く、結構ありますね」
そのまま私は五分ほど浄化の光を放ち続け、手応えが無くなったところで光を放つのをやめる。
そして私は努めて明るい声で語り掛けた。
「さあ、戻りましょう」
「フィーネ殿、さすがにこれは暗いでござるよ」
「えっ?」
心外だ。なるべく明るい声で言ったつもりなのに。
「姉さま、灯りがないと暗くて見えませんっ!」
「あ、そうでした」
私は気恥ずかしさから頭をかきつつ浄化魔法で灯りをつける。そして私たちは来た道を引き返すのだった。
「ふんっ! ふんっ! ふんっ!」
将軍は狭い通路にもかかわらず巧みに槍斧を振り回して獣たちを殲滅していく。私は浄化魔法で援護しているが、他の三人は狭い通路のためやることがない。
「ところでシズクさん」
「何でござるか?」
「シズクさん、【狐火】で灯りを作ることはできませんか? あの炎があればみんな戦いやすいと思うんですけど」
「……すまないでござる。確かにスキルはあるのでござるが、拙者は使い方がさっぱり分からないでござるよ」
「え?」
どういうことだろうか? スキルって、念じればできるんじゃないの?
「ほら、龍神洞で青白い炎を出していたじゃないですか。あ、浄化」
私は浄化魔法を放ちながらシズクさんと会話をする。
「フィーネ殿、申し訳ないでござるが拙者は――」
「あっ、そうでした。記憶がないんでしたね。ごめんなさい。でもスキルが生えているんですから、そのスキルを使うように念じれば炎が出るんじゃないですか?」
「そ、そうなのでござるか? むむむむむむ」
私がそう言うと何やら難しい顔をしてシズクさんが唸りはじめる。しかし、あの時見た青白い炎が現れることはなかった。
その様子をみたクリスさんが私に助言をしてくれる。
「フィーネ様、魔法を使う時のように正しい詠唱を覚える必要があるのではないでしょうか?」
「え? 私詠唱なんてしてませんよ?」
「それはフィーネ様だからです。普通の者は正しい詠唱を行う必要があるのです。フィーネ様に頂いた書物にもそのように書いてありました。詠唱を行わずに魔法が行使できるのは、その魔法をよほど深く理解していない限りは不可能なのだそうです。ですので、まずは詠唱を正しく覚えることが重要である、と書かれております」
「……そうだったんですね」
それは初耳だ。どうやらこんなところでもスキルレベルが MAX な弊害が出てしまったようだ。
あれ? でも別に私、他の属性魔法を使うときも別に詠唱なんてしていないよ? どういうこと?
「おい! さっさと止めを刺せ! これで最後だ!」
「あ、はいはい。浄化」
思考の途中で将軍から怒声を浴びせられ、私は浄化魔法で再生しようとする獣たちを塵へと変える。
「行くぞ」
「はいはい」
私たちは将軍の後に続いて彼が蹴破った扉の先へと進む。
すると、私たちの目に飛び込んできたのはあまりにも異様な光景だった。
元々は整然と並んでいたであろうオフィスワーク用ではない机やその残骸、割れたガラスや陶器の破片、更に小さな檻の中にある動物か何かのものと思われる骨、そういったものが雑然と散らばっていた。壁際には壊れた棚のようなものもあるが、そこに資料のようなものは見当たらない。
私はこの光景をみて何かの動物を使った実験施設という言葉が思い浮かんだ。
「酷い、光景ですね……」
シズクさんも顔をしかめている。
「おい、聖女。明かりを強くしろ。この暗さではお前にしか見えておらん」
「ああ、はい」
見えていないくせに何故ぶつからずに歩けるのか疑問でならないが、そこはもう将軍だからと自分を納得させるしかないのだろう。
私は浄化魔法の灯りを強くした。
すると動物実験室跡(仮)が白い光に照らし出され、その惨状が露わとなる。
「なっ! これはっ!」
「ひどい……」
クリスさんとルーちゃんが驚きの声を上げる。そんな二人とは対照的に将軍は眉一つ動かさずにあちこちを調べ始めた。
「これは一体何なんでしょうね?」
「姉さま、ここはとても嫌な感じがします。それに、あの谷の時から変だったんですけど、ここには精霊が一人もいないんです」
ルーちゃんが不安そうな表情で私に訴えかけてきた。
なるほど。そうだったのか。どうやらずいぶんと怖い思いをさせてしまったようだ。
精霊の見えるルーちゃんの目から見ると、森の中なのに精霊が一人もいないというのはきっとものすごく不安になることだったんだろうに、それを我慢して私たちと一緒に来てくれていたのか。
私はルーちゃんの肩をそっと抱き寄せると安心させるように優しく語り掛ける。
「大丈夫ですよ。何かあれば私がちゃんと結界で守ってあげますから」
「……はい、姉さま」
そうしてルーちゃんが落ち着くのを待ってから私も室内を調べる。しかし、手がかりになりそうな資料のようなものは一切見当たらない。
「降りる階段があるな。ここには何もない。行くぞ」
そう言って将軍はずんずんと歩いていく。
「あ、ちょっと待ってください」
私たちは急いでその後を追い階段を降りる。そして降りた先には大量のケージが積み上げられていた。そしてその中にはもちろん、動物たちの遺体が残されていた。
「……酷い」
「おい、聖女。これは一体何だ? あの妙な獣は骨は残さないはずだが?」
「おそらく、ですが、ここで動物を使って何かの実験をしていたのではないでしょうか?」
「実験、だと?」
「フィーネ殿、それはやはりあの死なない獣は何者かの手によって作られた、と?」
「はい。おそらくそうだと思います。そして何の資料も残っていないところを見ると、この施設を放棄したんだと思います」
「何故だ?」
「それは分かりません。作ったあの死なない獣が手に負えなかったのかもしれませんし、別の場所に移動したのかもしれません」
「こいつを作ったのは何者だ?」
「……将軍、それこそ私たちが知っているわけないじゃないですか」
「そうか……」
そう言うと将軍は何かないかと探し始めた。私たちもそれに倣い探すが、これといって手掛かりになりそうな何かを見つけることは出来なかった。
「ふん、どうやらこれで全てのようだな」
「そのようですね。将軍、あの動物たちがアンデッドにならないように送り、そしてここを浄化したいのですが良いですか?」
「好きにしろ」
証拠を残せ、などと言われるかと思ったが将軍はあっさりと許可してくれた。
私は許可を得たので動物たちの遺体に葬送、そして浄化魔法をかけてあげる。そしてこの施設全体を浄化するようにイメージして浄化魔法を放つ。
「浄化!」
浄化の光が大きく広がり、施設内、そして洞窟内にへばりついたドロドロした何かを浄化していく。
「う、く、結構ありますね」
そのまま私は五分ほど浄化の光を放ち続け、手応えが無くなったところで光を放つのをやめる。
そして私は努めて明るい声で語り掛けた。
「さあ、戻りましょう」
「フィーネ殿、さすがにこれは暗いでござるよ」
「えっ?」
心外だ。なるべく明るい声で言ったつもりなのに。
「姉さま、灯りがないと暗くて見えませんっ!」
「あ、そうでした」
私は気恥ずかしさから頭をかきつつ浄化魔法で灯りをつける。そして私たちは来た道を引き返すのだった。
0
お気に入りに追加
436
あなたにおすすめの小説

大国に囲まれた小国の「魔素無し第四王子」戦記(最強部隊を率いて新王国樹立へ)
たぬころまんじゅう
ファンタジー
小国の第四王子アルス。魔素による身体強化が当たり前の時代に、王族で唯一魔素が無い王子として生まれた彼は、蔑まれる毎日だった。
しかしある日、ひょんなことから無限に湧き出る魔素を身体に取り込んでしまった。その日を境に彼の人生は劇的に変わっていく。
士官学校に入り「戦略」「戦術」「武術」を学び、仲間を集めたアルスは隊を結成。アルス隊が功績を挙げ、軍の中で大きな存在になっていくと様々なことに巻き込まれていく。
領地経営、隣国との戦争、反乱、策略、ガーネット教や3大ギルドによる陰謀にちらつく大国の影。様々な経験を経て「最強部隊」と呼ばれたアルス隊は遂に新王国樹立へ。
異能バトル×神算鬼謀の戦略・戦術バトル!
☆史実に基づいた戦史、宗教史、過去から現代の政治や思想、経済を取り入れて書いた大河ドラマをお楽しみください☆

「次点の聖女」
手嶋ゆき
恋愛
何でもかんでも中途半端。万年二番手。どんなに努力しても一位には決してなれない存在。
私は「次点の聖女」と呼ばれていた。
約一万文字強で完結します。
小説家になろう様にも掲載しています。

抽選結果は大魔王だったので、剣と魔法と平和と欲に溢れた異世界で、のんびりとスローライフしたいと思います。
蒼樹 煉
ファンタジー
抽選で、大魔王として転生したので、取り敢えず、まったりと魔物生成しながら、一応、大魔王なので、広々とした領土で、スローライフっぽいものを目指していきたいと思います。
※誹謗中傷による「感想」は、お断りです。見付け次第、削除します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
※駄文+誤字脱字+その他諸々でグダグダですが、宜しくお願いします。
ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活
天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――


黒き叛竜の輪廻戦乱《リベンジマッチ》
Siranui
ファンタジー
そこは現代であり、剣や魔法が存在する――歪みきった世界。
遥か昔、恋人のエレイナ諸共神々が住む天界を焼き尽くし、厄災竜と呼ばれたヤマタノオロチは死後天罰として記憶を持ったまま現代の人間に転生した。そこで英雄と称えられるものの、ある日突如現れた少女二人によってその命の灯火を消された。
二度の死と英雄としての屈辱を味わい、宿命に弄ばれている事の絶望を悟ったオロチは、死後の世界で謎の少女アカネとの出会いをきっかけに再び人間として生まれ変わる事を決意する。
しかしそこは本来存在しないはずの未来……英雄と呼ばれた時代に誰もオロチに殺されていない世界線、即ち『歪みきった世界』であった。
そんな嘘偽りの世界で、オロチは今度こそエレイナを……大切な存在が生き続ける未来を取り戻すため、『死の宿命』との戦いに足を踏み入れる。
全ては過去の現実を変えるために――

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)
みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。
ヒロインの意地悪な姉役だったわ。
でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。
ヒロインの邪魔をせず、
とっとと舞台から退場……の筈だったのに……
なかなか家から離れられないし、
せっかくのチートを使いたいのに、
使う暇も無い。
これどうしたらいいのかしら?

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる