勘違いから始まる吸血姫と聖騎士の珍道中

一色孝太郎

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武を求めし者

第五章第18話 もうかりまっか?

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2020/07/02 ご指摘頂いた誤字を修正しました。ありがとうございました
2021/12/12 誤字を修正しました
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「ええと、今日の内訳は、付与が 50 回、レベル 4 相当の重傷者の治療が 1 件、レベル 3 相当の重傷者の治療が 16 件、レベル 2 相当の軽傷者の治療 62 件、それからレベル 1 相当の解呪が 79 件にレベル 2 相当の浄化が 79 件ですね」

私は今、チィーティエン太守のお屋敷で与えられた一室にいる。みんな思い思いにくつろいでいるのだが、私は今日働いた分の内容をまとめている。ちなみに太守というのは町長さんのような立場だが皇帝陛下の命令で赴任してくるらしい。

「フィーネ殿、何をしているでござるか?」
「今日、どんな仕事をしたのかを忘れないように書き留めているんです」
「それはやはり修行日誌をつける、みたいな話なのでござるか?」
「いえ、久しぶりの依頼なのできちんと料金を請求できるようにしておこうかと思いまして」
「なるほど。それもそうでござるな」

そんな私とシズクさんの会話を聞いていたイーフゥアさんが驚いた様子で会話に割り込んできた。

「えっ? 聖女様、お金を取るんですか?」
「えっ?」

イーフゥアさんが驚いた表情をしているが、私としては驚かれたことのほうが驚きだ。

「お金がなかったら私たち、飢え死にしちゃうじゃないですか。うちには育ち盛りで食べ盛りのルーちゃんもいるんですよ?」

そのルーちゃんは育ち盛りを過ぎた後の方が怖かったりするけどね!

するとルーちゃんが私の声に反応してちらりとこちらを見たので、何でもないよと私は首を振る。それを見たルーちゃんの興味は手元にあるふわふわの白い毛玉、マシロちゃんへと戻ったようだ。

ちなみにクリスさんは私のプレゼントした聖属性魔法の入門書を読んで熱心に勉強している最中だ。

「それはそうですが……」

物語に出てくるような人々に尽くす清らかで品行方正な聖女様ならば国の危機に正義感から無償で助けるものなのかもしれない。だが、私は行きがかり上何となくやっているだけで別にそんな正義感もなければ無償奉仕の心も持っていない。

「依頼主が孤児院で貧しい子供たちが困っている、みたいな話ならならまだしも、今回はこの国の皇帝陛下からの依頼ですからね。この国で一番お金も権力も持っている人なんですから、働いた分のお金はちゃんと払ってもらわないと困ります」
「う……そうですね……」

イーフゥアさんは納得してくれたようだが「予算が、財政が……」などとブツブツと独り言を呟いている。

「あ、別に法外な値段を吹っ掛けようと言っているのでなく、ちゃんとホワイトムーン王国の神殿が出している適性価格でお支払いして頂くだけですよ?」
「そ、そのようなものがあるのですね」
「それは拙者も知らなかったでござるな。聖職者のサービスに定価があるでござるか?」

シズクさんが価格の話題に食いついてきたのは何だか意外な気もする。

もしかして昔何かトラブルにでも遭ったのだろうか? あ、でも商人の副職業を持っているし、単純に興味があるのかもしれない。

ルーちゃんはというと相変わらず一切興味がないようで、相変わらずマシロちゃんを撫でてはうっとりしている。

いいなぁ、モフモフ。私も撫でたい。

そんなことを思っていると、本を読んでいたはずのクリスさんが口を挟んできた。

「かなり昔は決まっていなかったのだが、今は一律、目安の金額というのが決まっている。善意の寄付に頼るやり方やそれぞれが自由に決めるやり方でトラブルが多発した、と聞いているぞ」

すごい。集中して本を読んでいたように見えても周りの事にもちゃんと気を配ってくれている。

「そうでござるか。それでどんな値段なのでござるか?」
「これですよ」

私は収納から料金体系表を取り出してシズクさんに見せる。

「今回のだと、【回復魔法】はレベル 4 が金貨 10 枚、レベル 3 が金貨 1 枚、レベル 2 が銀貨 1 枚、レベル 1 の解呪が小銀貨 1 枚ですね。ただ浄化は要相談になっていて、付与は料金表にないんですよね。似たようなのだと、聖水 180 ml 容器代込みで銀貨 1 枚というのがありますけど、これでいいですかねぇ?」

聖水の浄化の力はあの感じだとレベル 1 相当なので厳密に言うと同じではない気もするけれど、今はそんなことを気にしても仕方ないだろう。

「なるほど。とすると浄化は他の同レベルの【聖属性魔法】と同額でよいのではござらんか?」
「そうですね。とすると、レベル 2 は銀貨 1 枚ですね。ええと、合計は、ええと……」
「小銀貨 4 枚。それから……銀貨は…… 6 枚……それに……金貨 46 枚でござるな」
「えっ?」

シズクさん、計算速すぎない?

クリスさんもイーフゥアさんも驚いた顔をしている。

「おや? 間違っているでござるか? 多分合っているはずでござるが……うん、合ってるでござるよ」
「いえ、そうではなくシズクさんの計算の速さに驚いているんですよ」
「はは、これは訓練でござるからな。フィーネ殿も練習すればできるようになるでござるよ」
「ううん、そうですねぇ」

スマホがあれば楽なんだけどなぁ。

「きょ、今日一日だけでそんなにかかるんですか!?」

シズクさんに感心している私たちの隣でイーフゥアさんが青ざめた顔をしている。

「はい。神殿にお願いするとこれくらいはかかりますね。あとは戻ったら皇帝陛下と交渉です。シズクさん、商人でもありますし一緒に交渉して貰いましょうかねぇ?」
「はは、任せるでござるよ」
「ひいっ」

シズクさんはカラッとした感じでそう言ったが、それを聞いたイーフゥアさんが悲鳴を上げて顔面蒼白になった。

あ、もしかしてイーフゥアさんの本来の担当ってこういうお金周りだったりするのかな?

だとするとそろそろこの話題はやめてあげたほうがいいだろう。

そう思った私は話題を切り替える。

「ところでイーフゥアさん、将軍には明日も出発しないと伝えてください。それと、ここの太守様ともお会いしたいです。状況の聞き取りや今後の進め方を相談できるように取り計らって頂けませんか? 将軍に相談するとこのまま山狩りを始めそうですので」
「っ! はい! かしこまりました。聖女様。お任せください」

私のお願いを聞いて突然元気になったイーフゥアさんがいかにも嬉しそうな様子で私たちの部屋をそそくさと出ていった。やはり将軍に会えるのが嬉しいのだろうか?

ちなみに、イーフゥアさんが出がけに何か独り言を呟いているので耳をすまして聞いてみた。

「ああ、ルゥー・フェィ様のお怒りになりそうな伝言だなんて……ああ、素敵。きっと睨んでもらえるわ。それに罵ってもらえるかもしれないわね」

ああ、うん、聞かなきゃよかった。

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シズクさんのやった暗算ですが特別なことはしていません。

小銀貨 79 枚 → 5 で割って余りが 4 なので小銀貨は 4 枚。残りは銀貨に換算して 15 枚
銀貨 79 + 62 + 50 + 15 = 206 枚 → 10 で割って余りが 6 なので銀貨は 6 枚。残りは金貨で 20 枚
金貨は 10 + 16 + 20 = 46 枚

筆者はもちろん電卓を使いましたけどね。

ちなみに日本円に換算すると約 233 万 4000 円です。ぼったくりかどうかはわかりませんが、某国で盲腸の手術をするよりも遥かに安いですね。
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